第5話 亡霊の機体
地下シェルターに、
重い静寂が落ちていた。
◆
崩壊した地下鉄跡。
薄暗い照明。
湿った空気。
そこにいた全員の視線が、
一人の男へ集まっていた。
◆
カイは荒く息を吐く。
全身を覆う黒いリンクスーツ――零式。
装甲は焼け、
左腕部は半壊していた。
裂けた装甲の隙間から、
青白い火花が漏れている。
それでも。
誰も目を逸らせなかった。
◆
「……嘘だろ」
奥にいた男が呟く。
短髪。
油で汚れた作業服。
工具を片手に、
呆然とカイを見る。
「なんでまだ動けんだよ、そのガラクタで……」
◆
カイは壁へ手をつく。
頭が痛い。
視界も少し赤い。
戦闘は終わったはずなのに、
まだ神経が焼けるみたいだった。
◆
《SYNC RATE:41.3%》
数字が、
視界の端で点滅する。
リンクが切れていない。
◆
「おい」
作業服の男が近づいてくる。
「まだ同期してんのか?」
「……分からない」
「普通は戦闘終わったら解除される」
男の顔が険しくなる。
「長時間リンクなんかしたら、
脳が持たねぇぞ」
◆
レオが苦笑した。
「だから言ったろ」
「こいつ普通じゃねぇんだよ」
男は返事をせず、
零式の損傷した装甲へ触れる。
そして、
息を呑んだ。
「……本当に零式か」
◆
「知ってんのか?」
レオが聞く。
男はゆっくり頷いた。
「帝国初期のリンクスーツだ」
「最初期型」
「だが欠陥品だった」
◆
シェルター内がざわつく。
「欠陥品?」
「神経接続の負荷が高すぎた」
男は低く言う。
「零式は、
操縦者の神経信号をほぼ直接使う」
「だから理論上は、
現行機を超える反応速度が出せる」
「ただし――」
◆
男の視線が、
カイへ向く。
「人間が耐えられない」
静かな声だった。
だが、
その場の空気を凍らせるには十分だった。
◆
カイの脳裏に、
戦闘中の感覚が蘇る。
焼けるような頭痛。
赤く染まる視界。
身体が、
自分じゃなくなる感覚。
同期率がもっと上がったら、
どうなるのか。
想像したくなかった。
◆
一方その頃。
アストロ帝国中央軍事管理区。
◆
巨大な円卓。
白い照明。
静まり返った会議室。
その中央に、
一枚の映像が投影されていた。
◆
黒いリンクスーツ。
旧式。
識別コード――零式。
そして。
現行機を破壊した瞬間の映像。
◆
「……馬鹿な」
幹部の一人が呟く。
「零式は廃棄されたはずだ」
「なぜ今更起動している」
◆
上座の男が静かに口を開く。
白髪。
鋭い眼光。
軍服の胸には、
複数の勲章が並んでいた。
「問題は機体ではない」
男の指が、
映像のカイを示す。
「この適合者だ」
◆
会議室の空気が変わる。
「解析結果では、
戦闘中の同期率は74%を超えている」
若い士官が顔を上げる。
「ありえません」
「零式でその数値は、
脳神経が耐えられない」
◆
上座の男は静かに言った。
「だが生きている」
その一言で、
誰も反論できなくなる。
◆
男は映像を見つめる。
傷だらけの黒い装甲。
ボロボロの旧式。
なのに。
映像の中の男は、
まるで戦場そのものを支配していた。
◆
「危険だ」
低い声が響く。
「機体ではなく…」
男の視線が、
映像のカイを捉える。
「適合者を、特級殲滅認定対象に指定する」
「この件を全軍へ通達し───。」
「対象を見つけ次第、即刻排除しろ。」
会議室の空気が凍った。
◆
沈黙。
そして。
会議室奥の扉が開く。
重い足音。
そこへ現れたのは――
白いリンクスーツを装着した男だった。




