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私の料理を泥と捨てた王国、飢え死に寸前で戻れと言われても遅いです ~帝国の料理番になった私は、冷徹な皇帝陛下に胃袋を掴めと命じられました~  作者: 花菱 結愛
第4章:神々の不味い聖域――「完璧」を焼き尽くす、死と再生のスペシャリテ

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第53話:神域の終焉と、究極のデザート。エリアナ、陛下と一緒に『神』を平らげる

「――熱いですわね。まるで、誰かさんの『焼かれた嫉妬』が充満しているようですわ」


 天界の空が、真っ赤に焼けただれています。

 黄金の翼を自ら引き裂き、神としての核を鍋に投げ込んだヴィクトリア様。彼女を中心にして、天界そのものが「巨大なオーブン」と化し、石床は飴細工のように溶け出し、空気は吸い込むだけで肺を焦がす熱気を帯びていました。


『あは……あはははは! 見て、エリアナ! 私の命、私の記憶、私の神格……すべてが溶け合って、最高のソースになったわ! これを口にすれば、神も人間も、永遠に私の「虜」になるのよ!』


 ヴィクトリア様だった「光の塊」が、咆哮とともに会場全体へ溢れ出しました。

 それは、嗅ぐだけで思考が白濁するような、あまりにも重すぎる「執着」の香り。


「エリアナ、私の背に隠れていろ。……この女、もはや味ではない。ただの『毒』だ。……我が虚無でお前の前から一滴残らず消してやろう」


 ゼフィロス様が前に踏み出し、右腕を解き放ちました。

 彼の闇が熱風を切り裂き、私を守る防壁となります。ですが、私はその背中にそっと手を添え、ふふ、と喉を鳴らしました。


「陛下。……消してしまっては、お片付けになりませんわ。……おーっほっほっほ! ヴィクトリア様、一つだけ教えて差し上げますわ。……『自己犠牲』という隠し味は、料理を最も不味く、重たく、後味を悪くする『最悪の不純物』ですわよ!」


 私は黄金の木ベラを掲げました。

 陛下の「虚無」を木ベラに巻き付け、暴走する女神の光の中へと、真っ向から飛び込みました。


「自分を犠牲にした料理を食べて、誰が幸せになるとお思い? そんなもの、ただの『押し付けがましい独りよがり』ですわ! ……貴女のその溢れすぎた自意識、私が綺麗に『アク取り』して差し上げますわよ! ――神域の終焉、冷製魂のシャーベット(ラグナロク・グラニテ)!!」


 私は木ベラを、煮えたぎる女神の核へと一突きしました。

 

 ジュゥゥゥゥッ!!

 

 空間が凍りつくような音とともに、私の「祝福」がヴィクトリア様の熱を吸い取り、陛下の「虚無」が彼女の執着を削ぎ落としていきました。

 真っ赤に焼けていた天界の空が、一瞬で透き通るような紺碧へと塗り替えられ、猛烈な熱気は、頬を優しく撫でる「心地よい涼風」へと変わりました。


 光の塊は弾け飛び、無数の小さな「氷の結晶」となって、会場の神々のもとへと降り注ぎました。


「な……っ!? 熱気が、消えた……? 冷たい……なのに、なんて力強い甘みなんだ……!」


 一口その「結晶」を口にした神々が、目を見開きました。

 それは、ヴィクトリア様の命から『狂気』だけを抜き取り、純粋な『神の慈愛』だけを、陛下の闇でキュッと引き締めた究極のデザート。


「……おーっほっほっほ! ヴィクトリア様。……貴女の命、お口直しとしては少し『酸っぱすぎ』ましたわね。……でも、これで皆様、ようやく目が覚めたようですわよ?」


 光の渦が収まった中心。

 そこには、翼を失い、ボロボロの法衣を纏って座り込む、一人の「ただの少女」に戻ったヴィクトリア様がいました。

 彼女の瞳には、もはや傲慢な光はありません。ただ、お腹がいっぱいになって、すべてを出し切った後のような、憑き物が落ちた虚脱感だけが漂っていました。


『……負けたわ。……完璧な神の味より……、不完全な、貴女の「熱」の方が……ずっと、……ずっと美味しかった……』


 彼女が静かに涙を流し、その場に伏しました。

 

 会場の神々が、一人、また一人と立ち上がり、私に向かって深く、深く頭を垂れました。

 それは恐怖による服従ではありません。

 自分たちが忘れていた「変化する喜び」を教えてくれた料理人への、心からの敬意。


「……終わったな、エリアナ」


 ゼフィロス様が私を抱き寄せ、その首筋に顔を埋めました。

 

「……ああ。……私の右腕が、お前以外の味を拒絶している。……この天界の神々をすべて殺してでも、お前を連れて帰るところだったぞ」


「陛下ったら。……おーっほっほ! 大丈夫ですわ。……私の最高の一皿を予約できるのは、世界で……いえ、全宇宙で、貴方一人だけですもの」


 私たちは、静まり返った天界を見渡しました。

 ガストロノミアの「飢え」も、天界の「停滞」も、すべては私の木ベラが、陛下の愛とともに平らげました。

 

 けれど。

 勝利の余韻に浸る私の手の中で、黄金の木ベラが、消え入るような小さな「声」を発しました。

 

『――おめでとう。……でも、忘れないで。……この木ベラが生まれたのは、神を救うためじゃない。……いつか現れる「真の食卓」を、ひっくり返すためなのだから……』


 その声は、かつて大図書館で聞いたリヴィア様の声よりも、もっと古く、もっと根源的な「何か」の響き。

 

「……エリアナ、どうした」


「……いいえ。……陛下、どうやら私、まだ『メインディッシュ』を食べていなかったようですわ」


 空の裂け目が閉じ、私たちは再び、黄金の光に包まれて地上への帰還を開始しました。

 追放から始まった物語は、今や神域さえも「完食」し。

 美食皇妃エリアナの木ベラは、ついにこの世界の「創造の秘密」が隠された、最後のページへと手を伸ばそうとしていたのでした。

最後まで読んでくださって、本当に、本当にありがとうございますわ!


神域編、ついに決着!

自らを食材にした女神を「不味い!アクが強すぎますわ!」と一蹴して、

最後は美味しいシャーベットにしてしまうエリアナ様……。

おーっほっほっほ! これぞわたくしたちの美食皇妃、

神様相手でも「火加減のお説教」を忘れない姿に、しびれましたわ!


そして、いよいよ物語は一つの大きな節目を迎えます。

次回、第54話――「美食皇妃エリアナ」の物語、第一部。堂々の完結ですわ!


泥を啜らされたあの日から、神々を跪かせる今日まで。

彼女が最後に下す「ある決断」とは……?

皆様、ハンカチと、そして「一番好きなおやつ」を用意して、

彼女の旅立ちを、最高の笑顔で見届けてくださいませ!

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