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私の料理を泥と捨てた王国、飢え死に寸前で戻れと言われても遅いです ~帝国の料理番になった私は、冷徹な皇帝陛下に胃袋を掴めと命じられました~  作者: 花菱 結愛
第4章:神々の不味い聖域――「完璧」を焼き尽くす、死と再生のスペシャリテ

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第54話:黄金の木ベラはもういらない。エリアナ・ヴェスタが捧げる『最初の一皿』

――ただいま。

 その一言が、これほどまでに熱く、喉の奥を震わせるものだとは思いもしませんでしたわ。


 神域から降り注ぐ黄金の粉雪が消え、視界が開けた先。

 そこには、私を信じて待ち続けていた帝国の民たちと、ボロボロになりながらも誇らしげに胸を張る騎士たちの姿がありました。

 ガストロノミアの街には、私がかつて「味付け」したあの香ばしいソースの匂いと、人々の温かな涙の味が混ざり合って満ちていました。


「……おーっほっほっほ! 皆様、随分とお腹を空かせた顔をしていらっしゃいますわね! 美食皇妃の帰還を祝うなら、もっと景気よく胃袋を鳴らしてくださらないかしら?」


 私の高笑いに、地上のすべてが揺れんばかりの歓声で応えました。

 

「エリアナ様! おかえりなさいませ!」

「お嬢様……! ああ、お髪に神域のホコリがついておりますわ、今すぐお整えを!」

 セリーナさんが眼鏡を曇らせて駆け寄り、ハンス料理長が熱い目をして深く頭を垂れました。


 そんな中、私の腰を抱き寄せるゼフィロス様の腕に、より一層の力がこもりました。


「……ようやく、二人きりの晩餐ができるな。……エリアナ。世界も神も、お前の前ではただのスパイスに過ぎなかった」


「ええ、陛下。……ですが、まだ最後の一仕上げが残っておりますわ」


 私は、手元で黄金に輝く木ベラを見つめました。

 

 この木ベラがあったから、私は救われた。

 この木ベラがあったから、私は無双し、陛下と出会い、世界を救えた。

 けれど……。

 

『――あら、捨てるつもり? 私がいなければ、貴女はただの「料理が得意な女の子」に戻るだけよ?』


 木ベラに宿る初代聖女リヴィア様の、あるいは神の意志とも呼べる声が脳内に響きました。

 私はそれに、最高に優雅な微笑みで答えました。


「おーっほっほ! ええ、その通りですわ。……ですが、リヴィア様。……料理人というものは、いつまでも『秘伝のタレ』の瓶にしがみついているようでは、それ以上の味は創り出せませんの」


 私は、帝都の中央広場に据えられた、巨大な『建国の大釜』へと歩み寄りました。

 そこには、帝国の不滅の火が赤々と燃えています。


「見ていなさい。……私の本当の祝福チートは、道具でも神の加護でもなく……。……この、陛下と皆様に愛された『記憶』そのものなのですから! ――さらば、運命の象徴マスター・スパイス!!」


 ガランッ!!

 

 私は、全世界が息を呑む中、あの黄金の木ベラを……迷うことなく燃え盛る大釜の火の中へと投げ入れました。

 

「な……っ!? エリアナ様!?」

「木ベラを、捨てた……!?」


 ざわめく群衆。絶句する神々の使い。

 けれど、火の中で黄金の木ベラが溶け、その純粋な魔力が「最高の薪」となって炎を極彩色に染めた時。

 私は、ただの使い古された「鉄のフライパン」を手に取りました。


 加護はない。チートもない。

 あるのは、泥水を啜らされた絶望、陛下に愛された熱、そして毎日必死に鍋を振ってきた、私のタコだらけの手のひらだけ。


「さあ、召し上がれ! これこそが、道具かみから自立した、一人の女としての『最初の一皿』ですわよ!」


 私が作ったのは、何の変哲もない、けれど最高に香ばしい「具沢山の野菜スープ」でした。

 

 一口食べたゼフィロス様が、目を見開き、そして……。

 これまでに一度も見せたことのないような、少年のような無邪気な笑顔で笑いました。


「……ああ、美味い。……今まで食べたどれよりも、お前の味がする」


 世界中に、本当の意味での「幸せな満腹感」が広がっていきました。

 神域の冷たさも、王国の怨念も、すべてはこの一杯のスープの中に溶け込み、豊かな栄養となって未来へと繋がっていく。


 私は、夕焼けに染まる空を見上げました。

 木ベラは消えても、私の手の中には、確かに新しい時代の「レシピ」が刻まれています。


「おーっほっほっほ! 皆様、お代わりはいくらでもありますわよ! ……ただし、私の愛する陛下の分は、一滴も残しませんけれど!」


 笑い声が世界を包み、黄金の光が降り注ぐ。

 追放から始まった物語は、今、自らの足で立つ「美食皇妃」の伝説として、輝かしい第一章の幕を閉じたのでした。


【第一部・美食皇妃戴冠編 ――完】

あとがき


愛しの読者の皆様!

「私の料理を泥と捨てた王国、飢え死に寸前で戻れと言われても遅いです。」

第一部――美食皇妃戴冠編、ついに、ついに完結ですわ!


泥水を啜らされたエリアナ様が、最後には自分の意志で「黄金の木ベラ」を捨て、

一人の女性として、陛下と笑い合う……。

この結末を描けたのは、ひとえに毎日お代わり(閲覧)をしてくださった、

皆様という名の「最高のお客様」がいたからですわ。


「おーっほっほっほ!」……エリアナ様の笑い声が、皆様の心に少しでも

「元気が出る隠し味」として残ったなら、わたくし、これ以上の幸せはございません。


……さて、物語はここで一度お休みをいただきますが、

木ベラを捨てた彼女が、この先「道具に頼らず」どうやって世界を、

そしてさらなる強敵を調理していくのか……。

そして、ゼフィロス様との「甘すぎるその後」は……?


その続きを綴るための準備、わたくし、もう始めておりますの!

第二部「起源・新世界編」でまた皆様にお会いできるよう、

ぜひ【ブックマーク】はこのままに、そして【評価(★★★★★)】で

彼女の新しい門出に「ご祝儀」を添えてくださると嬉しいですわ!


それでは、皆様の毎日が、最高に美味しいもので満たされますように。

また次の食卓でお会いいたしましょう! おーっほっほっほ!

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