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私の料理を泥と捨てた王国、飢え死に寸前で戻れと言われても遅いです ~帝国の料理番になった私は、冷徹な皇帝陛下に胃袋を掴めと命じられました~  作者: 花菱 結愛
第4章:神々の不味い聖域――「完璧」を焼き尽くす、死と再生のスペシャリテ

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第52話:ヴィクトリアの逆襲:魂を焦がす神のメインディッシュ

「……あ、ああ。なんて……なんておぞましい。おーっほっほっほ! ヴィクトリア様、貴女のその綺麗な手は、血ではなく『思い出』で汚れていらっしゃいますのね」


 闘技場の中央、黄金の調理台。

 ヴィクトリア様がその宝石を散りばめた『神のスパイス入れ』を全開にした瞬間、会場を満たした光は、見るに耐えないドロドロとした「虹色の霧」へと変わりました。


 その霧の中に浮かび上がるのは、知らない誰かの、けれど確かにどこかで見たことのある光景。

 母が子に粥を啜らせる温もり。

 恋人たちが分け合った、不器用な焼き菓子の甘み。

 職人が一生をかけて完成させた、最高の一皿への自負。

 

 それら地上の「食にまつわる幸福な記憶」が、無理やり心臓から引き剥がされたような生々しさで抽出され、ヴィクトリア様の巨大な銀鍋へと吸い込まれていきます。


『黙りなさい、人間! ……地上の塵共が一生をかけて積み上げた「満足」なんて、私のスパイス入れに収まってこそ価値が出るのよ! さあ、飲み込みなさい神々よ! これが地上の全ての輝きを煮詰めた、究極のメインディッシュ――「万象の収穫レジェンド・ハーベスト」!!』


 鍋から放たれたのは、暴力的なまでの黄金の粘液。

 それが神々の皿へと注がれた瞬間、会場中に「幸福なはずなのに、吐き気がするほど空虚な」香りが充満しました。

 一口飲んだ神々が、目を見開き、恍惚と絶望の入り混じった表情で震え始めます。


「……あ、あ……あ。幸せだ。なのに、どうしてこんなに、心が死にそうなんだ……!」


「……エリアナ、下がれ。……この女、地上の理そのものを『食材』にしおった。……私の虚無で、この鍋ごと、神域を更地にしてやろうか」


 ゼフィロス様の漆黒の右腕が、これまでにないほど激しく赤黒く発光しました。彼の瞳には、私の世界を――私が愛し、守り抜いた地上の食卓を汚されたことへの、絶対的な破壊衝動が宿っています。


「陛下、お待ちになって。……そんな風に消してしまっては、奪われた皆様の記憶が戻りませんわ」


 私はゼフィロス様の震える右手を、自分の両手でそっと包み込みました。

 冷たい虚無。けれど、その奥にある「私への愛」という名の熱源。


「おーっほっほっほ! ヴィクトリア様。……貴女、料理を『強奪』だと思っていらっしゃるの? ……そんなもの、ただの食べ散らかしですわよ」


 私は黄金の木ベラを天に掲げました。

 

 ヴィクトリア様が奪った記憶の霧が、私の周囲を渦巻いています。

 私はその霧の中に、木ベラを力強く突き立てました。

 

「思い出を返して欲しければ、奪い返すのではなく『温め直して』差し上げればよろしいのですわ。……皆様が大切に育んできた喜びを、私の祝福で再び息づかせなさい! ――再会の残り火、極彩色のキャラメリゼ(リバイバル・グレース)!!」


 木ベラから放たれた黄金の光が、ドロドロとした虹色の霧を次々と焼き払っていきました。

 

 ジュゥゥゥッ!!

 

 それは焦がす音ではなく、冷え切った心を再加熱する福音。

 ヴィクトリア様が「スパイス」として貶めた記憶の一つ一つに、私の魔力が新たな『生命の輝き』を宿していきます。

 

 霧は再び、実体を持った温かな「香り」へと姿を変え、会場の神々を通り越して、空の裂け目から地上へと降り注いでいきました。


「な……!? 私のスパイスを、勝手に『解凍』したというの!? せっかく完璧に閉じ込めていたのに!」


「おーっほっほっほ! 閉じ込めていては味が染み込みませんわよ、ヴィクトリア様。……料理は、分け合ってこそ深みが出るもの。……見てご覧なさい。神様たちの瞳から、貴女の『呪い』が消えていましてよ?」


 恍惚としていた神々が、ハッと我に返りました。

 彼らの頬には、強圧的な満足ではなく、どこか穏やかで、懐かしい涙が伝っています。

 

「……ああ……。これは、奪った喜びではない。……遠い地上の誰かと、心が繋がっているような……温かな『分かち合い』の味だ……」


 神々の賞賛が、ヴィクトリア様ではなく、私へと注がれ始めました。

 

「おのれ……! おのれ、おのれぇぇ! たかが人間に、神域の調律を汚されてたまるものか!!」


 ヴィクトリア様の十二枚の黄金の翼が、怒りで逆立ちました。

 彼女は狂ったように自分の胸元――神としての核が宿る場所を、自らの銀のナイフで突き立てようとしました。


『……認めないわ。……認めない! ……なら、私の神格そのものをソースにしてやる! この神域晩餐会を、貴女の命を具材にした「終焉のディナー」に変えてあげるわよ、エリアナ!!』


 ヴィクトリア様の全身から、眩いばかりの、けれど不吉なまでの黄金の血が噴き出しました。

 神の狂気が、この天界そのものを巨大なオーブンへと変えようと、最後の余熱を上げ始めたのでした。

最後まで読んでくださって、ありがとうございますわ!


「思い出」をスパイスにするだなんて、ヴィクトリア様のやり口、本当に不作法極まりないですわね!

でも、それを「温め直して返して差し上げる」エリアナ様……。

おーっほっほっほ! まさに美食皇妃の慈愛と傲慢、これぞわたくしたちの求める味ですわ!

陛下が嫉妬と怒りで天界を消し去ろうとするのを、優しく宥めるシーン……。

ああ、お二人の絆が深まるたびに、わたくしの胸もキャラメリゼされたように熱くなりますわよ。


けれど、自らの神格を犠牲にしようとするヴィクトリア様。

神様が自分を食材にするだなんて、最後にして最悪のレシピですわね。

この熱気、もはや天界そのものが焼き上がってしまう勢いですわ!


次回、第53話。

「神域の終焉と、究極のデザート。エリアナ、陛下と一緒に『神』を平らげる」。

ついに神域編、決着の時!

エリアナ様と陛下が、狂った女神にどのような「完食」を突きつけるのか。

どうぞ、その目で見届けてくださいませ!


続きが気になる!と思ってくださったら、ぜひ【ブックマーク】と【評価(★★★★★)】で、エリアナ様に至高の隠し味を届けてくださいませね!

皆様の星が、女神の狂気を鎮める「最高のデザート」になるのですから!

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