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私の料理を泥と捨てた王国、飢え死に寸前で戻れと言われても遅いです ~帝国の料理番になった私は、冷徹な皇帝陛下に胃袋を掴めと命じられました~  作者: 花菱 結愛
第4章:神々の不味い聖域――「完璧」を焼き尽くす、死と再生のスペシャリテ

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第47話:星の輝きを隠し味に。エリアナ、天界で鍋を振るう

「……まあ。これが『神の食卓』ですの? まるでお掃除が行き届きすぎて、魂まで漂白されてしまいそうですわ」


 眩いばかりの純白の雲の上に建つ、水晶の宮殿。

 天界の給仕長ラグエルに導かれた先には、どこまでも続く長いテーブルと、そこに並ぶ「完璧な造形」をした神々が座していました。

 けれど、彼らの前に並んでいるのは、湯気もなければ香りもない、ただ淡く発光するだけの「色とりどりの立方体」でした。


「エリアナ。……これは食い物ではないな。ただの魔力の塊だ。……不愉快だ、吸い込むだけで腹が膨れて、心が全く動かん」


 ゼフィロス様が、私の腰を抱き寄せながら不快そうに目を細めました。

 彼の「虚無」の右腕が、神域のあまりにも純粋すぎる魔力に反応し、火花を散らしています。


「おーっほっほっほ! 陛下、仰る通りですわ。……ラグエルさん、貴方たちは数千年もこんな『味のしない積み木』を食べていらしたの? ……憐れすぎて、涙も出ませんわ」


「無礼な! これこそが不純物を一切排した至高の神糧『アンブロシア』だ! 地上の、ドロドロと腐敗していく肉や野菜などとは次元が違うのだよ!」


 ラグエルが錫杖を鳴らし、誇らしげにその立方体を掲げました。

 神々はそれを、儀式的に口へと運びます。

 咀嚼そしゃくの音もしない。ただ、光が身体に溶け込んでいくだけ。

 そこに「美味しい」という歓喜も、「もっと食べたい」という渇望もありません。ただ、システムとして栄養が充填されているだけの、虚無の光景。


「……いいえ。料理人として、こんな『静止画』のような食卓は許せませんわ」


 私は、ゼフィロス様の手をそっと離し、会場の端にある調理場――とは名ばかりの、ただの水晶の台へと歩み寄りました。

 そこには、天界の食材とされる『星の欠片』や『月の雫』、そして『雲の胞子』が、これまた無機質に並んでいました。


「エリアナ様、よろしいのですか? 神域の素材は、地上の火では燃えず、地上の水では洗えませんわ」

 セリーナさんが眼鏡を光らせ、周囲を警戒しながらも懸念を口にしました。


「ええ。……だからこそ、私の『火加減』の出番ではありませんか」


 私は、黄金の木ベラを抜き放ちました。

 

 まずは『星の欠片』を手に取ります。

 それはダイヤモンドよりも硬く、冷たい光。……けれど、私の祝福を注ぎ込めば、それは完熟した果実よりも柔らかく、熱い情熱を宿し始めます。


「冷たい星々に、夜明けの熱を。……透き通る雲に、大地の重みを。……思い出させなさい、神の舌に『焼ける』という悦楽を! ――天界のロースト・スター(アストラル・フランベ)!!」


 木ベラを一振りした瞬間、調理場から爆発的な黄金の炎が立ち上りました。

 

 ジュゥゥゥッ!!

 

 神域の歴史が始まって以来、一度も響いたことのない「焼ける音」。

 そして――。

 

 ふわり、と。

 

 水晶の宮殿全体を包み込むように、香ばしいキャラメルと、焦がしたバター、そして深紅のスパイスが混ざり合ったような、暴力的なまでに芳醇な「香り」が吹き抜けました。


「な……っ!? なんだ、この、鼻を突くような……しかし、抗いがたい刺激は!」

 ラグエルが錫杖を落とし、鼻を抑えてよろめきました。


 神糧を食べていた神々が、一斉に首を巡らせました。

 立方体を口に運ぶ手が止まり、彼らの美しい、けれど空虚だった瞳に、初めて「飢え」という名の光が灯りました。


「おーっほっほっほ! 皆様、驚くのはまだ早くてよ? ……これが、地上の知恵と神の素材がマリアージュした、最高に不遜な一皿ですわ!」


 皿の上に現れたのは、星の欠片を薄くスライスし、月の雫で煮詰め、仕上げに雲の胞子をカリッと焼き上げた『銀河のキャラメリゼ』。

 

 私はそれを、最も近くで呆然としていた女神の一人に差し出しました。

 彼女は震える指でそれを口にし――。

 

 ――刹那。

 

 彼女の全身から、眩いばかりの虹色の光が噴き出しました。

 それは、ただの魔力の充填ではありません。

 数千年の停滞を焼き切り、細胞ひとつひとつが「歓喜」に震える、魂の絶頂。


「……あ、ああ……! ……何、これ……。……身体が、溶ける……。……私、……今、生きている……っ!」


 女神がその場に崩れ落ち、涙を流しながらお代わりを求めて手を伸ばしました。

 

 静かだった晩餐会は、一瞬にして阿鼻叫喚の――いいえ、至福の争奪戦へと変わりました。

 

「フン。……やはりお前の料理は、神さえも堕落させる毒だな。……エリアナ、最高だ」

 ゼフィロス様が、熱狂する神々を冷ややかに見下ろし、私の首筋に深く、独占欲に満ちた口づけを落としました。


 しかし。

 その熱狂を切り裂くように、頭上の空座から、冷徹で高貴な「鈴の音」のような声が響きました。


『……騒がしいわね。……私の庭で、こんなに下品で、魅力的な匂いをさせているのは誰かしら?』


 神々の群れが割れ、一人の女性が降りてきました。

 十二枚の黄金の翼を背負い、その手には宝石を散りばめた『神の調味料スパイス入れ』を握った、美食の女神ヴィクトリア。

 

 彼女は、エリアナが作った皿をじっと見つめ、不敵な、そして残酷な笑みを浮かべました。


「おーっほっほっほ! ヴィクトリア様。……ようやく、まともに『空腹』なお客様が現れましたわね」


 地上の皇妃と、天界の女神。

 神域の調理場を賭けた、究極の「おもてなし」バトルが、今まさに火を噴こうとしていたのでした。

最後まで読んでくださって、本当にありがとうございますわ!


神域の「味のしない積み木」を、一瞬で「銀河のキャラメリゼ」に変えてしまうエリアナ様……。

おーっほっほっほ! 神域に初めて「焼ける匂い」を届けただなんて、

まさに歴史を塗り替える一皿ですわね!

女神様が泣き崩れるシーン、わたくしも書いていて最高の気分でしたわ。


でも、現れた美食の女神ヴィクトリア様。

神様のスパイス入れ……一体、どんな非常識な調味料が入っているのかしら?

エリアナ様の木ベラと、女神様のスパイス。

どちらが神々の胃袋を支配するのか、目が離せませんわ!


次回、第48話。

「陛下、神様相手に嫉妬して世界を壊さないでくださいまし!」。

ヴィクトリア様の誘惑(?)に、ゼフィロス様の独占欲が爆発!?

さらに過激に、さらに甘美な神域編をお届けいたしますわよ!


続きが気になる!と思ってくださったら、ぜひ【ブックマーク】と【評価(★★★★★)】で、エリアナ様の次の火加減を応援してくださいませね!

あなたの応援が、天界を焼き尽くす「至高の隠し味」になるのですから!

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