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私の料理を泥と捨てた王国、飢え死に寸前で戻れと言われても遅いです ~帝国の料理番になった私は、冷徹な皇帝陛下に胃袋を掴めと命じられました~  作者: 花菱 結愛
第3章:美食皇妃の戴冠――世界から「満足」が消えても、私の食卓は不滅です

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第41話:地下迷宮の『生贄の釜』。エリアナ、魂の飢えを癒やすフルコースを振る舞う

「……おーっほっほっほ! 随分と長い滑り台でしたわね。ドレスが汚れなくて良かったですわ」


 真っ暗闇の底。

 私は、ゼフィロス様の漆黒の魔力によって作られた柔らかなクッションに抱かれ、優雅に地を踏みしめました。

 上空からは、私たちが落ちてきた穴が、まるではるか遠くの星のように小さく見えています。


「……エリアナ、怪我はないか。……ここは、酷い臭いだ。腐敗の臭いではない。……『虚無』が腐り落ちたような、最悪の臭いがする」


 ゼフィロス様が私を守るように前に立ち、右手の包帯を剥ぎ取りました。

 彼の闇が周囲を照らし出すと、そこには地上の「純白の都」とは正反対の、錆び付いた鉄と粘膜がうごめく異様な迷宮が広がっていました。


 壁には無数の透明な管が走り、そこを『虹色の液体』が流れています。

 そして、その管が繋がっている先を見て、私は持っていた扇を強く握り締めました。


「……なんですの、これは。……料理に対する、これ以上の冒涜がありまして?」


 管の先には、数え切れないほどの人々が、巨大な円筒形のカプセルの中に閉じ込められていました。

 彼らは苦しんでいるのではありません。

 ただ、夢を見ているかのような、あるいは魂が抜けたような空虚な表情で浮かんでいる。

 カプセルには『初恋の甘み』『母の温もり』『成功の輝き』といった不気味なラベルが貼られ、人々の脳や心臓から、その「幸せな記憶」が直接抽出され、抽出された記憶が、あの虹色の液体となって地上へ送られているのです。


「……あ、ああ……」


 足元で、弱々しい声がしました。

 カプセルから放り出されたばかりの、一人の少年。

 彼の瞳には光がなく、自分が誰なのか、何が好きだったのかさえも、すべて『食材』として奪い去られた後の、ただの「抜け殻」でした。


「お嬢様……。この子、魂の味をすべて吸い取られて、心が餓死しかけておりますわ」


 セリーナさんが少年の脈をとり、忌々しそうに眼鏡を光らせました。

 地上の完璧な料理の正体は、これだったのです。

 他者の人生のハイライトを凝縮し、エッセンスとして抽出した「記憶の調味料」。

 

「ミラベル様。……おーっほっほっほ! 貴女、本当に救いようのない三流料理人ですわね」


 私は、震える少年の手をそっと取りました。

 氷のように冷たい肌。

 私は迷わず、腰の木ベラを抜き放ちました。


「セリーナさん、ハンスさん! この不潔な実験場にある『廃棄物』を集めてきなさい! 抽出された後のカスカスの抜け殻、泥のような残りかす……それらすべて、私が『最高の隠し味』に変えて差し上げますわ!」


「エリアナ様、しかし材料が……!」


「材料ならありますわ。……ここにあるのは、奪い取られた『悲しみ』や『絶望』でしょう? ……料理人なら、苦味を旨味に変えてこそ一人前ですわよ!」


 私は、抽出器から漏れ出していた「記憶の残渣」――人々が捨て去った、あるいは奪われた後のドロドロとした黒い液体を、魔法の鍋に集めました。

 それは本来、食べられるものではありません。

 けれど、私は木ベラをその中に突き立て、黄金の魔力を一気に流し込みました。


「煮えなさい、祝福の炎。……苦しみを深みに、悲しみをコクに。……貴方たちが忘れてしまった『自分』を、この一杯に再構成して差し上げますわ! ――魂の還流スープ(リコンストラクト・コンソメ)!!」


 真っ黒だった液体が、木ベラの一振りで、一瞬にして夕焼けのような温かい黄金色へと変質しました。

 立ち上るのは、どこか懐かしい、雨上がりの土の匂いや、誰かに抱きしめられた時の体温を思い出させるような、切なくて力強い香り。


 私はそのスープを、少年の唇にそっと運びました。


「召し上がれ。……貴方の欠片は、まだここ(スープ)にありますわよ」


 少年が、一口、震える喉を鳴らしました。

 

 ――その瞬間。

 

 光のなかった彼の瞳に、ポロリと一粒の涙が流れ落ちました。

 

「……ぼく……。ぼくは、パン屋の、息子……だ……。お父さんの焼いた、丸いパンが……大好き、だったんだ……!」


 少年の肌に温かな赤みが戻り、奪い去られたはずの「自分」という輪郭が、スープの魔力によって強引に繋ぎ合わされていく。

 周囲で動かなくなっていた人々も、その香りに誘われるように、一人、また一人と目を覚まし始めました。


「……素晴らしいな、エリアナ。……お前は、奪われた過去さえも、新しい『糧』として焼き直すというのか」


 ゼフィロス様が、私の腰を抱き寄せ、その首筋に熱い吐息を落としました。

 彼の「虚無」の右手が、周囲の実験器具を次々と粉砕し、救済の道を切り拓いていきます。


「おーっほっほっほ! 当然ですわ、陛下。……食材を無駄にするのは、私の辞書にはございませんもの。……さて、ミラベル様。……大切なお客様(犠牲者)の胃袋を、私が完全に掴んでしまいましたわよ?」


 真っ暗な地下迷宮に、かつてないほど気高い私の高笑いが響き渡りました。

 

 けれど、その笑い声をかき消すように。

 迷宮の最深部、さらに巨大な『心臓の釜』がある方角から、ズシン、ズシンと重々しい足音が近づいてきました。

 

 暗闇の中から現れたのは、真っ白なコックコートを纏いながらも、その手には巨大な、人の背丈ほどもある『断頭台の包丁』を握りしめた三人の大男。


「……神の食卓を汚す、不浄なる『味』の侵入者よ。……その肉を、神の沈黙に捧げる時が来た」


 ガストロノミアの裏の支配者――『処刑調理師エクスキューショナー・コック』。

 彼らが掲げる包丁が、私の黄金のスープを、そして陛下の闇をも断ち切らんとする鋭い輝きを放ちました。

最後まで読んでくださって、ありがとうございますわ!


「記憶を食材にする」だなんて、ガストロノミアのやり口、本当に吐き気がしますわね。

でも、そんな絶望の残りかすから「魂を癒やすスープ」を創り出してしまうエリアナ様……。

おーっほっほっほ! まさに「美食皇妃」の真骨頂、わたくしも書いていて胸が熱くなりましたわ!

少年の瞳に光が戻るシーン、皆様の心にも温かいスープが届きましたでしょうか?


けれど、現れた最悪の料理人たち「処刑調理師」。

せっかくの感動の時間を、あんな大きな包丁でぶち壊そうとするなんて不作法ですわ!

そんな無骨な道具、エリアナ様の木ベラ一本で、ただの「バターナイフ」に変えて差し上げなくては。


次回、第42話。

「断頭台の包丁対、黄金の木ベラ。ゼフィロス、怒りの『フルコース』を予約する」。

陛下の右腕が、ついに地下のすべてを更地にする!?

エリアナ様の「おもてなし」も、いよいよ牙を剥きますわよ!


続きが気になる!と思ってくださったら、ぜひ【ブックマーク】と【評価(★★★★★)】で、地下の犠牲者たちに光を届けてくださいませね!

あなたの応援が、エリアナ様の木ベラにさらなる「再生の隠し味」を宿すのですから!

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