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私の料理を泥と捨てた王国、飢え死に寸前で戻れと言われても遅いです ~帝国の料理番になった私は、冷徹な皇帝陛下に胃袋を掴めと命じられました~  作者: 花菱 結愛
第3章:美食皇妃の戴冠――世界から「満足」が消えても、私の食卓は不滅です

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第40話:ガストロノミアの歓迎会:銀のナイフと、味のしない奇跡

「……まあ。お掃除が行き届きすぎていて、息をするのも躊躇われますわね」


 上陸したガストロノミアの王都『アイボリー』は、その名の通り、隙のない純白の磁器で塗り固められたような街でした。

 石畳の一枚一枚に至るまで魔導で磨き上げられ、道行く人々は皆、汚れ一つない絹の服を纏い、まるで精巧に作られた人形のように静かに、優雅に歩いています。


 けれど、その光景を眺める私の隣で、ゼフィロス様が不快そうに鼻を鳴らしました。


「エリアナ。……この街、風が吹いても『生活の臭い』が一切せん。……死体安置所に招かれた気分だぞ」


「同感ですわ、陛下。……パンを焼く香ばしさも、路地裏のシチューの湯気もないなんて。……おーっほっほっほ! 料理人としては、今すぐこの街のど真ん中で、ニンニクをたっぷり炒めて差し上げたくなりますわ!」


 私の冗談に、陛下が微かに唇を端を上げ、私の肩を抱く手に力を込めました。

 そんな私たちの前に、白銀の回廊を抜けて一人の少女が軽やかに現れました。


『ようこそ、帝国の美食家さんたち。……さあ、ここからは「本物の美食」の時間よ』


 前話で砂の像越しに語りかけてきた、聖女ミラベル。

 実物の彼女は、透き通るような白い肌と、感情の抜け落ちた紅い瞳を持つ、あまりにも「美しすぎる」少女でした。

 彼女に導かれ、私たちは白銀の円卓が並ぶ晩餐会場へと通されました。


 そこに用意されていたのは、見たこともないほど「完璧」な料理たちでした。

 宝石のようにカッティングされた果実、一分の狂いもなく成形された肉料理。そして、ミラベルが自ら注いだ、水晶のように透き通ったスープ。


『これは「神域のしずく」。余計な雑味も、不純な感情もすべて削ぎ落とした、ガストロノミアの至宝。……これを一口飲めば、貴女のその「泥臭い祝福」なんて、恥ずかしくて使えなくなるわよ?』


 ミラベルが、銀のナイフを皿の上でチリン、と鳴らしました。

 周囲にいたガストロノミアの貴族たちが、うっとりとその「透明な料理」を口に運んでいきます。

 

 ――けれど、おかしいのです。

 彼らは食べている。確かに咀嚼し、嚥下している。

 なのに、その瞳には「美味しい」という歓喜の火が灯りません。

 ただ、機械的に「完璧な栄養を摂取している」という、義務的な満足感だけが漂っている。


「……陛下、一口も召し上がってはなりませんわ」


 私は、ゼフィロス様が手を伸ばそうとしたスープの皿を、黄金の扇でそっと遮りました。


「おーっほっほっほ! ミラベル様。……貴女、これを『料理』と呼ぶなんて、本気かしら? ……私には、美しく飾られただけの『ただの薬』にしか見えませんわよ」


『……なんですって?』


「雑味を削ぎ落とす、ですって? ……笑わせないで。料理の深みとは、素材の苦しみ、土の香り、そして作る者の執念……そういった『不純物』の中にこそ宿るものですわ。……貴女が作ったのは、満足を奪い去った後の『残骸』。……こんなもの、帝国の家畜にだって食べさせられませんわ!」


 私は、テーブルに置かれていた煤けた木ベラを――いいえ、今や私の意志で黄金に輝く「聖なる調理器具」を、ミラベルのスープに一刺ししました。


「見ていなさい。……凍りついた貴女の食卓に、私が『生命の熱』を思い出させて差し上げますわ! ――豊穣の再定義リシェイプ・ザ・グレイス!!」


 木ベラから放たれた黄金の奔流が、透明だったスープを、一瞬にして濃厚な琥珀色へと変質させました。

 スープの中から、あふれんばかりの肉の旨味、野菜の甘み、そして大地を焼くような力強い香りが爆発的に立ち上ります。


「あ……っ、……温かい……。なに、これ……」


 周囲の貴族たちが、思わず立ち上がりました。

 彼らが一口そのスープを口に含んだ瞬間、人形のようだった瞳に、ポロポロと涙が溢れ出しました。


「美味しい……。ああ、忘れていた。……食べるということは、こんなに胸が熱くなることだったのか……!」


『馬鹿な……! 私の完璧な調律を、たった一振りで汚したというの!?』


 ミラベルが銀のナイフを握りしめ、顔を真っ赤に染めて立ち上がりました。

 彼女の背後から、不気味な白い霧――あの「五感を奪う無」のオーラが溢れ出します。


「汚れではありませんわ。……これが『満足』という名のスパイスです。……おーっほっほ! ミラベル様。貴女、本当は……何も食べていらっしゃらないのでしょう?」


 私の指摘に、ミラベルの身体がビクリと震えました。


「貴女の胃袋にあるのは、ただの虚無。……だからこそ、世界から味を奪わなければ気が済まない。……でも残念でしたわ。……私の料理は、奪おうとするほどに『熱く』なるのですから」


 ゼフィロス様が、立ち上がったミラベルを、漆黒の右手の威圧だけで椅子へと押し戻しました。


「……聞こえたか、小娘。……エリアナの料理の半分も理解できぬ貴様に、美食を語る資格はない。……次は、この国そのものを美味しく焼き上げてもらうが、構わんか?」


 陛下の冷酷な宣言に、晩餐会場は静まり返りました。

 ミラベルは唇を噛み切り、狂ったような笑みを浮かべて私たちを睨み据えました。


『……いいわ。……私のスープが気に入らないなら、見せてあげる。……この国の「美味しさ」を支えている、本当の調理場を。……そこで貴女も、一番の「具材」として煮込まれるがいいわ!』


 ミラベルが指を鳴らすと、私たちの足元の床が、音もなく巨大な奈落へと開き始めました。

 純白の都の地下に隠された、凄惨な「美食の代償」――。

 エリアナの木ベラが、いよいよこの国の根幹に触れる、最深部へと誘われたのでした。

最後まで読んでくださって、ありがとうございますわ!


「完璧だけど味がない」……。

ミラベル様のスープを「家畜の餌以下」と言い切るエリアナ様、最高に格好良くてわたくし痺れましたわ!

おーっほっほっほ! 見た目だけを整えた「薬」なんて、美食皇妃の口には合いませんもの。


けれど、ミラベル様の最後の言葉。

この国の美食を支える「本当の調理場」ですって?

地下から漂ってくる、あの不穏な魔力の臭い……。

どうやらガストロノミアの繁栄には、語るも恐ろしい「隠し味」が隠されているようですわ。


次回、第41話。

「地下迷宮の『生贄の釜』。エリアナ、魂の飢えを癒やすフルコースを振る舞う」。

地下に捕らわれていたのは、まさかの人物!?

エリアナ様の木ベラが、ガストロノミアの真の闇を暴き立てますわよ!


続きが気になる!と思ってくださったら、ぜひ【ブックマーク】と【評価(★★★★★)】で、エリアナ様への声援を届けてくださいませね!

あなたの応援が、地下の闇を照らす黄金の灯火になるのですから!

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