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私の料理を泥と捨てた王国、飢え死に寸前で戻れと言われても遅いです ~帝国の料理番になった私は、冷徹な皇帝陛下に胃袋を掴めと命じられました~  作者: 花菱 結愛
第3章:美食皇妃の戴冠――世界から「満足」が消えても、私の食卓は不滅です

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第38話:新大陸への出航。海を焼く魔獣と、エリアナの特製パエリア

「――おーっほっほっほ! 見てご覧なさい、セリーナさん。この海、まるでお塩が足りないスープのように味気ない色をしていますわ!」


 帝国の誇る巨大魔導戦艦『アピシウス号』の甲板。

 私は、飛沫を上げる波頭を見下ろしながら、大きく扇を広げました。

 帝都を発って三日。艦隊が西へ進むにつれ、青かったはずの海は次第に生気を失い、今や不気味な灰色へと澱んでいました。波の音さえ、どこかカサカサと乾いた砂を擦り合わせるような音に変わっています。


「お嬢様、あまり身を乗り出さないでくださいませ。この海域の海水は、すでにガストロノミアの呪いに侵食されていますわ。……触れれば、お肌の潤いまで奪い去られかねません」


 背後に控えるセリーナさんが、鋭い手つきで私の髪を整えながら告げました。

 すると、船室から重厚な足音が響き、私の腰に熱い腕が回されました。


「エリアナ。……海風を浴びるなら、私の腕の中にいろ。この霧の向こうには、食欲を忘れた亡霊どもが蠢いている」


 ゼフィロス様です。

 彼は私の肩に顎を乗せ、不機嫌そうに水平線を睨みつけました。彼の右腕――包帯を捨て、私の祝福を食べて漆黒の輝きを増したその手は、常に私を世界から隔離し、独占しようとする強欲な愛を湛えています。


「陛下、そんなに怖がっていては、美味しいお魚も逃げてしまいますわ」


「魚だと? ……あんな泥のような生き物、お前の手で調理させる価値もない」


 陛下が指差した先。

 灰色の波間から、巨大な、あまりにも巨大な『何か』が姿を現しました。

 それは、数千年の時を生きたとされる伝説の海獣『リヴァイアサン』。……の、成れの果て。


 かつては美しい鱗に覆われていたであろうその体躯は、今や半分が石のように乾いた『砂の肉』に変わっており、空腹と呪いの苦痛からか、天を割くような咆哮を上げました。


「ギィィィィアアアアア!!」


 海獣の咆哮と共に、艦隊を囲む波が鋭い『砂の礫』となって降り注ぎます。

 帝国の精鋭騎士たちが盾を構えますが、その砂が触れた箇所から、鉄の盾さえもボロボロと錆び落ちていく。


「報告! 海獣リヴァイアサン、呪いにより狂暴化! 魔導砲が効きません、装甲が砂化しています!」


「ふん……。私のエリアナに砂を浴びせた罪、その魂ごと消滅させてやろう」


 ゼフィロス様が右手を突き出し、虚無の魔力を収束させようとしたその時――。

 私は彼の掌を、自分の掌でそっと包み込みました。


「お待ちなさい、陛下。……あんなに身の詰まった、立派な食材。……ただ消してしまうなんて、お料理に対する冒涜ですわ」


「エリアナ? あれは呪いの塊だぞ」


「ええ。……だからこそ、私の『火加減』が必要なのですわ!」


 私は木ベラを抜き放ち、甲板を蹴りました。

 『祝福』の光がドレスを黄金に染め、私は宙に舞い上がります。

 巨大な海獣が、その裂けた口を広げ、私を飲み込もうと迫る――。


「おーっほっほっほ! 味気ない身体のまま、世界を呪うのはお辞めなさい! 私の祝福で、最高にスパイシーな一生を終えさせて差し上げますわ! ――海天の黄金炊き(レガロ・デ・パエリア)!!」


 私が木ベラを海獣の眉間に叩きつけた瞬間、黄金の爆発が海面を覆い尽くしました。

 それは破壊の炎ではありません。……素材の旨味を一滴も逃さず閉じ込める、究極の『蒸らし』の熱!


 ジュゥゥゥッ!! という、芳醇な魚介の香りが、灰色の海域全体に爆発的に広がりました。

 砂に変わっていた海獣の肉が、私の祝福という火を通されたことで、瞬時に真っ赤な極上のエビのような、あるいは弾力のある最高級の白身魚のような、艶やかな質感へと再構成されていく。


 そして――。


 ドォォォォォン!!


 リヴァイアサンの巨体が、甲板の上に用意されていた巨大な魔導大鍋(もはや平らな鉄板に近いもの)の上に、綺麗に切り分けられた状態で「着地」しました。

 ハンス料理長率いる料理番たちが、待っていましたとばかりに、帝都から持ち込んだ最高級のサフランと黄金米を投入します。


「さあ、焼きなさい! 海獣の脂を米に吸わせ、呪いさえも香ばしいお焦げに変えてしまうのですわ!」


 木ベラを一振りするたび、甲板に満ちる香りは、もはや神々の祝宴のそれへと変わりました。

 灰色の霧は晴れ、呪いに怯えていた騎士たちの胃袋が、猛烈な空腹を訴えて鳴り響きます。


「……信じられん。伝説の海獣を、船の上でパエリアにしおった……」


 ゼフィロス様が、呆れたように、けれど誰よりも愛おしそうに笑いました。

 彼は出来上がったばかりの黄金の米を一口掬い、私の口元へと運びます。


「エリアナ。……お前の作る毒は、本当に世界で一番甘いな」


「毒だなんて、失礼ですわ。……これは『愛』という名の隠し味ですわよ、陛下」


 パエリアの熱気と、陛下の熱い視線。

 甲板で繰り広げられる、最高に贅沢な前夜祭。

 しかし、その宴の真っ最中。

 見張りの騎士が、震える声で叫びました。


「……前方に、白い壁! いえ……、匂いも音も消えた、『真っ白な霧』が接近しています!」


 水平線の向こう側。

 そこには、私の祝福の香りさえも吸い込もうとする、絶対的な「無」の領域が広がっていました。

 美食大国ガストロノミアの国境――。

 本当の地獄、本当の飢えが、ついに私たちの前にその口を開こうとしていたのでした。

最後まで読んでくださって、ありがとうございますわ!


伝説の海獣リヴァイアサンを、甲板で巨大パエリアに変えてしまうエリアナ様……。

おーっほっほっほ! まさに「歩く最高級レストラン」ですわね!

陛下の「あーん」も、海風のおかげでいつもより開放的で素敵でしたわ。


でも、前方に現れた「無の霧」。

エリアナ様の香ばしいパエリアの香りさえ消そうとするなんて、

ガストロノミアの「飢え」は、想像以上に深刻なようですわね。


次回、第39話。

「五感を奪う白銀の牢獄。エリアナ、瞳を閉じて『心』で味付けをする」。

音も匂いも消えた霧の中で、エリアナ様が絶体絶命の危機に!?

それでも彼女の木ベラは、暗闇の中にこそ最高の隠し味を見つけ出しますわよ!


続きが気になる!と思ってくださったら、ぜひ【ブックマーク】と【評価(★★★★★)】で、エリアナ様のパエリアをお裾分けさせてくださいませね!

あなたの応援が、霧を晴らす黄金の魔力になるのですから!

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