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私の料理を泥と捨てた王国、飢え死に寸前で戻れと言われても遅いです ~帝国の料理番になった私は、冷徹な皇帝陛下に胃袋を掴めと命じられました~  作者: 花菱 結愛
第3章:美食皇妃の戴冠――世界から「満足」が消えても、私の食卓は不滅です

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第37話:砂に変わった晩餐と、美食大国の「飢えた聖女」

ザリッ、と。

 私の靴が、白銀の甲板に積もった「不自然な砂」を踏みしめました。

 

 そこは、本来であれば贅を尽くした晩餐の場であったはずです。

 大皿には立派な七面鳥が鎮座し、クリスタルのグラスには深紅の葡萄酒が満たされている。……見かけだけは。

 けれど、私が指先でその肉に触れた瞬間、それは音もなく崩れ落ち、ただの灰色の砂へと姿を変えました。


「……おーっほっほっほ! まあ、なんてお粗末な魔法。これでは、どんなに胃袋に詰め込んでも、心は石を噛んでいるのと同じではありませんか」


 私は扇を広げ、目の前で事切れている乗員たちを見つめました。

 彼らの表情には、激しい苦悶はありません。ただ、どれほど食べても消えない「虚無」に絶望し、魂が内側から枯れ果てたような、空虚な虚脱感だけが刻まれていました。


「エリアナ、下がるんだ。……この砂には、『味』という概念そのものを消滅させる呪いが染み付いている」


 ゼフィロス様が、私の腰を抱き寄せながら、右手の闇を僅かに解放しました。

 彼の「虚無」の魔力は、この船を満たす「偽りの豊穣」を明確に敵として認識し、激しく脈動しています。彼が手をかざすたび、不気味な砂が黒い炎に焼かれ、消滅していく――。


「陛下、お待ちになって。……この者たちは、最後に何を食べたかったのか。……それを知るのが、料理人としての私の務めですわ」


 私はゼフィロス様の制止を優雅にすり抜け、木ベラを構えました。

 黄金の光が、死に絶えた晩餐の席を優しく照らし出します。


「冷え切った砂に、かつての記憶を。……消えた味に、一瞬の彩りを。……昇天なさい、哀れな美食家たち。――残響の祝祭レゾナンス・フェスタ!!」


 木ベラを一振りすると、甲板に積もった砂が黄金の粒子となって舞い上がりました。

 それは砂に戻る前の、料理たちが持っていた「最高の瞬間」の記憶。

 

 ――ふわり。

 

 船内に、芳醇なバターの香りと、熟成したチーズの吐息、そして太陽をたっぷり浴びた葡萄の香りが爆発的に広がりました。

 実体はありません。けれど、その「香り」だけで、空気に色が戻り、死者たちのこけ落ちた頬が、一瞬だけ安らかな赤みを帯びたように見えました。


「……信じられん。……概念を喰らわれた後の死体にまで、お前の祝福は『満足』を与えるというのか」


 ゼフィロス様が、驚愕に瞳を揺らしました。

 死者たちの魂が、黄金の香りに包まれて、光の雫となって天へと昇っていきます。

 それは、ただの浄化ではありません。エリアナの「祝福」が、敵の奪い去った「満足」という理を、無理やり再定義して奪い返した瞬間でした。


 しかし、その光が消えかかる寸前。

 昇天しきれなかった最後の「黒い砂」が、うぞうぞと蠢き、一つの形を成しました。


『……ふふ、見つけたわ……。私の「味のない世界」に、こんなに美味しそうな火種を投げ込むのは誰……?』


 それは、砂で作られた少女の像でした。

 目は虚ろで、口元だけが三日月のように裂けて笑っている。


「ガストロノミアの使者かしら? おーっほっほっほ! 随分と不細工なご挨拶ですこと」


『私の名前は、ミラベル。……ガストロノミアの「飢えた聖女」。……貴女、とってもいい匂いがするわね。……その祝福、私の干からびた喉に流し込んだら、どんなに素敵な味がするかしら……?』


 砂の像が、ガチガチと音を立てて崩れ落ちました。

 と同時に、遥か西の水平線――海の向こう側で、巨大な魔力の波動が爆発するのを、私たちは肌で感じました。


「陛下。……どうやら、向こうの聖女様は、私のことをメインディッシュに指名されたようですわ」


「……フン。不遜な。……エリアナ、準備をしろ。……この船が辿ってきた航路を逆に辿り、その『飢えた聖女』とやらを、永遠に何も喰えぬ虚無の底へ叩き落としてやる」


 ゼフィロス様の右手が、怒りで赤黒く発光しました。

 それは、帝国が誇る「最強の食卓」を護るための、全大陸規模の宣戦布告。


「ええ、陛下。……砂しか噛めない可哀想な方々に、帝国の『火加減』というものを、骨の髄まで教えて差し上げますわ!」


 エリアナの宣言と共に、帝国の軍港に、かつてない規模の魔導艦隊が集結を開始しました。

 美食大国ガストロノミア。

 「味」を奪う聖女と、「味」を与える皇妃。

 世界の胃袋を賭けた、最も贅沢な戦争が、今、静かに帆を上げたのでした。

第37話、お楽しみいただけたかしら?


砂に変わった料理に「香り」を取り戻し、魂を救うエリアナ様。

おーっほっほっほ! これぞ「美食皇妃」の格の違いというものですわ。

どんなに理不尽な飢餓が襲おうとも、彼女の木ベラ一本で、世界は再び色を取り戻しますの。


けれど、現れた新たな敵「飢えた聖女ミラベル」。

食べ物ではなく「祝福(エリアナ様)」そのものを食べたいだなんて、

あまりにも不躾で、食い意地が張りすぎていますわね!

そんな悪い子には、陛下がたっぷり「虚無」をお見舞いしてくださるはずですわ。


次回、第38話。

「新大陸への出航。海を焼く魔獣と、エリアナの特製パエリア」。

いよいよ帝国艦隊が西へ!

道中、二人の仲を邪魔する海の怪物を、エリアナ様がどう「美味しい前菜」に変えてしまうのか!?


続きが気になる!と思ってくださったら、ぜひ【ブックマーク】と【評価(★★★★★)】で、エリアナ様の航海を応援してくださいませね!

あなたの応援が、艦隊の追い風になるのですから!

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