表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私の料理を泥と捨てた王国、飢え死に寸前で戻れと言われても遅いです ~帝国の料理番になった私は、冷徹な皇帝陛下に胃袋を掴めと命じられました~  作者: 花菱 結愛
第2章:復讐は黄金の焼き加減で――腐敗した王国を焼き尽くす断罪のフルコース

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/42

第30話:陛下の右手の包帯が解ける時――『神殺しの罪』の全貌

――ズブ、ズブ。


 魔導馬車の車輪が、不気味に脈打つ「肉の地面」に飲み込まれ、不快な音を立てて停止しました。

 窓の外を見れば、そこにはもはや土も石も存在しません。血管が網目のように走り、生暖かい蒸気が立ち上る漆黒の肉塊が、地平線の果てまでうごめいています。


「……気持ち悪い。お嬢様、窓を閉めてくださいまし。……これはもはや、生き物の腐敗臭ですらありません。……理そのものが、内側から腐り落ちた臭いですわ」


 セリーナさんが吐き捨てるように言い、鋼線を指先に絡ませて周囲を警戒します。

 私は、ゼフィロス様の胸の中で、ガタガタと震え続ける木ベラを強く握りしめました。

 木ベラは、かつてないほどの『拒絶』を示しています。……目の前の光景は、料理人が慈しむべき「生命」への最大の冒涜なのだと。


「エリアナ。……ここからは、お前の『祝福』すら届かぬ虚無の領域だ」


 ゼフィロス様が、私の肩を抱く手をそっと離し、立ち上がりました。

 彼の瞳は、暗く、底知れない「虚道きょどう」の光を湛えています。


「……陛下、何をなさるおつもりですの?」


「包帯が、もう限界だと言っている。……この沼を喰らい尽くすには、私の『汚れ』をすべて外に吐き出さねばならん」


 ゼフィロス様は、自らの右手を縛っていた最後の黒い包帯に手をかけました。

 その瞬間、馬車全体が、物理的な重圧でミシリと悲鳴を上げました。


「陛下! それは……まだ早いのでは!」

 セリーナさんの制止も聞かず、ゼフィロス様は一気に包帯を解き放ちました。


 ――刹那。

 馬車の中から、光をすべて吸い込むような「漆黒の奔流」が溢れ出しました。

 露わになった彼の右手は、もはや人間のそれではありませんでした。

 肘から先は、形を持たない「闇の渦」となり、そこから絶えず赤黒い火花が散っています。その腕に触れるだけで、空気さえも消滅し、存在そのものが『無』へと削り取られていく。


「……これが、私の『神殺しの罪』の正体だ」


 ゼフィロス様の声が、どこか遠く、何千もの亡霊が重なったような響きを帯びました。


「かつてこの大陸には、すべてを飲み込み、記憶すら消し去る『虚無の神』が降臨した。……私はその心臓を、この右腕で握り潰したのだ。……神を殺した代償として、私の右腕は永遠に『無』を生成し続ける穴となった。……私が私である限り、この腕は世界を喰らい続け、最後に私自身を飲み干すまで止まらん」


 彼はその異形の腕を見つめ、自嘲気味に笑いました。

 かつて、帝国の民が、そして王国の者たちが彼を「怪物」と恐れ、忌み嫌った理由。

 それはただの呪いではなく、世界を救った際に植え付けられた、治癒不能の『欠落』。


「エリアナ……。これを見てもまだ、私を愛おしいと言えるか? ……私のこの腕は、お前の丹精込めたスープも、お前の柔らかな肌も、触れるだけですべて『無』に変えてしまう毒だぞ」


 彼の言葉に、私は言葉よりも先に、体が動いていました。

 私は馬車を飛び降り、沈み込む肉の沼を木ベラの光で焼きながら、彼の隣へと立ちました。


 そして、その「闇の渦」と化した右手に、自分の手を迷わず重ねたのです。


「……なっ!? エリアナ、離れろ! 消えるぞ!!」


「消えませんわ。……おーっほっほっほ! 陛下、私の『祝福』を、そんな安物の呪いと一緒にしないでくださる?」


 私の木ベラが、黄金色の猛火を放ちました。

 私の指先から溢れ出す、無限の『生成いのち』。

 陛下の右腕が放つ『消滅』。

 二つの相反する力がぶつかり合い、私の腕を焼くような熱痛が走ります。けれど、私は笑い続けました。


「陛下が『虚無』なら、私は『豊穣』ですわ。……陛下が世界を削り取るなら、私がその端から、新しい『彩り』を煮込んで差し上げます。……この腕、怪物だなんて仰らないで。……私にとっては、世界で一番頼もしい『特等席』にしか見えませんわ!」


「……お前という女は……」


 ゼフィロス様の闇の渦が、私の祝福を食べて、次第に安定した「漆黒の刃」へと形を変えていきました。

 彼は私の手を握り締め、そのまま、目の前に広がる巨大な肉の沼へと、その右腕を振り抜きました。


「――失せろ。私のエリアナが、歩く場所ではない」


 轟音すらありませんでした。

 右腕から放たれた『無』の波導が、触れるものすべてを存在ごと消し飛ばし、肉の沼を、瘴気を、蠢く血管を、一瞬で「ただの更地」へと変えてしまいました。

 王都へと続く道が、一閃の下に切り拓かれたのです。


 その浄化された道を進む私たちの前に。

 王都の門が、まるでおぞましい生物の「口」のように開き、姿を現しました。


 門の頂。肉の壁に埋もれるようにして、一人の老人が、虚ろな目を剥いてこちらを見下ろしていました。


「……エリ、アナ……。お前が……お前が、この国を……捨てたから……っ」


 それは、かつて私を厨房の灰として扱い、ジュリアンに私を差し出した、ヴェスタ公爵――私の「父」の、変わり果てた姿でした。

 彼はもはや人ではなく、城壁の一部として、絶え間ない苦痛の叫びを上げ続けていたのでした。

最後まで読んでくださって、ありがとうございますわ!


陛下……なんて重い過去を背負っていらしたの。

世界を救った代償が「永遠の虚無」だなんて、あまりにも不憫で……。

でも、それを「特等席」と言い切るエリアナ様、最高に格好良すぎますわ!

「生成」と「消滅」の共同作業、これぞ究極の夫婦の形ですわね。


さて、王都の入口で待ち構えていた、肉の壁と化した「父上」。

かつてエリアナ様を虐げた者たちが、魔王に飲み込まれてどんな無惨な姿になっているのか……。

おーっほっほっほ! 同情なんていたしませんわよ。


次回、第31話。

「ジュリアン王太子、狂気の果てに『魔王』の契約を交わす」。

父を、民を、国を捧げたジュリアン殿下。

彼が用意した「最悪のメインディッシュ」が、ついに私たちの前に供されますわ!


続きが気になる!と思ってくださったら、ぜひ【ブックマーク】と【評価(★★★★★)】で、エリアナ様たちの逆侵攻にエールを送ってくださいませね!

あなたの応援が、陛下の右腕の闇を、愛の光へと変えるのですから!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ