#91
『完食者』は、一人佇む―――本来であれば、魔界侵略側の『副本陣』として成るはずだった、その地にて……。
そして、消化し終えた頃合を見計らい…………
「―――ヘレナ、いるね。」
「主上のお側に。」
「私は、“食後”の一休みをする。 程度の抵抗があるかもしれないが、凌いでくれ。」
「(……)とは言え、ルベリウスの旦那レベルの奴らが“ワンサ”とくるんでしょう? そいつを“オレ”一人でどうしろと?」
「君は多彩な個性を保有している。 今こそ、その個性を個別に発揮させる機会だと思うのだが?」
「(あ゛~~)しかし、アレやると―――」
「頼んだよ。」
「(ヤレヤレ、我ながらとんでもないお方の下についたもんだw なあ? 公爵サン?w)」
「(でもさ、でもさ、“あたし”は賛成だな~~☆)」
「(ふん……ここに来て、ようやく大仕事を任せてもらえるってか?w 強者冥利に尽きるというものよ!)」
「(ま―――“うち”は、ロクに身体を動かせて貰えへんかったからなあ? やったろやないか。)」
「(フ……皆好きなように宣いおるが、“余”を蔑ろにするでないぞ。)」
「フフッ―――仕方がないねえ……全く。 それじゃあ、大盤振る舞いと行こうか!」
〖我が影に組まれし者共よ、我が言の葉、我が命に依りて履行せよ〗―――〖シャドウ・サーヴァント〗
ヴァンパイアの公爵―――ヘレナがこれまで喰らってきた血は、主だる5つの人格だけではありませんでした。
これまでに喰らい尽してきた総数―――凡そ100万……
その数100万が、ヴァンパイアの固有魔法により現出する……
この場所は、魔界侵略軍の『副本陣』―――『本陣』はまだ更に奥まった場所にある……。
そこには今回の侵略軍を預かる、総大将『ルキフグス』がおり、彼の者が擁する配下も要所に配属させてある……。
そして本来なら、このまま本陣まで押しかけ、これまでにもしてきたように済ませてしまえばいいだけ―――
けれどカルブンクリスは、そうはしなかった。
“食後”の一休み―――と、その場から動くことをせず、後から到着する“彼ら”を待ち侘びたのです。
* * * * * * * * * * * *
そして―――ようやく中陣だった場所に辿り着いた者達は……。
「それで……これからどうします?」
「うむ、取り敢えずはこちらの前線はここまで押し上げた、だが、やるべき事は沢山残されている。 ヴァーミリオン、君達は更に前へと進み、侵略軍の『副本陣』となっている場所に赴いてもらいたい。 そして……総ての安全が担保された時、君達の出番となるだろう。」
「私達―――がですか……」
「そうだ。 もう既に『グリマー』として覚醒している君には、“ある権能”が使える様になっている。 だがそれは飽くまで魔界側の“切り札”と思ってくれたまえ、いいね。」
今までは、『グリマー』である事でしか持て囃されてはきませんでしたが。
実は『グリマー』には、一つだけ……ある権能が秘されていたのです。
しかし、前代のグリマーであるローリエは、その権能を行使することなく生を終えてしまった……では―――グリマーに備わると言う、たった一つの権能とは……?
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それはそうと―――ウリエルの偵察により、副本陣までの行程で阻む者がないと判ると、ヴァーミリオン達のPTが先行し……
「カルブンクリス―――無事か!」
「やあ、ニル……待っていたよ。」
「全く―――心配させんなよ。」
「しかし……今の今まで待っていたのですか? 敵側からの襲撃は?」
「以前まで、前代の魔王軍の総参謀を務めた者がいるのだ。 圧倒的な武は保有するものの、知略にかけてはからっきしな連中だ―――だがそこをルベリウスが回すことにより程好く機能している。 だから君達が到着するまで“茶”を愉しむ余裕も生まれて来ようと言うモノだよ。」
「私達の心配―――無駄だった……と、言うのですか?」
「そうとまでは言っていないよ、ノエル。 さて……それではまた、いかばかりか待たせて頂くとしよう。」
陽当たりの好い場所で、大き目の日傘―――卓上には一脚のティーカップセットを置き、“食後”の一服を愉しんでいると見られる貴婦人こそ、副本陣にいた総勢20万もの“生命”を喰らい尽した『完食者』なのでありました。
それに、ヴァーミリオン達が到着するまでに、既に“闇の衣”は収納されていたものと見られ、
今となっては“そう”だとは見られなかったのですが……
「カルブンクリス……正直に答えてもらいたい。 “アレ”は―――……」
「(……)安心したまえ、私は私の子らをも喰らおうとまでは思わない。」
『その言葉が聞きたかった』―――と、安堵でもしたか、緋鮮の覇王は護るべき者に背を向けると……
“主上”を守護する為、降りかかる火の粉障害を祓い除けてきた者達に向かって……
#91;“新”“旧”交代劇
「ヘレナ―――交代だ。」
「はあン? 何言うてけつかんねん―――今お愉しみや~言う時に。」
「言う事聞いといた方がいいと思うぜえ~?w レベッカ―――」
「はン! お前も何言いくさっとんねん、この半端者がぁ……」
「そっれにさあ~☆ 前に来たモン勝ちだよッ―――☆」
「それでも尚、横取りをする……と言うなら、示してもらおうか―――素人。」
「フッ……リリアは気遣って下さっているのですよ? ご老体には少々荷が重かろう……と。」
「気遣いなら無用だ、今なら軽い叱責で済む……。」
「あのぅ~~~なんでまた、こんな展開に?」
「血の気が早くて、力が有り余っていなさるから、“いつか”はこうなるモンだと思いましたが―――w こいつは思いの外早かったようだww」
緋鮮の眸を爛々と輝かせ、『自分達の出番はまだか―――早く代われ』とでも言いたげに、“新”と“旧”の猛者達が対峙しました。
しかし、“新”と“旧”とは互いが同じ陣営同士でもあっただけに、軍権を与る者ベサリウスとしては頭の痛い問題でもあったのです。
そう……彼らに彼女達は、各々が一騎当千の強者の揃い―――それを互いが反目し合うなど、“元”総参謀にとっては望まない事態でもあったのです。
「あ゛~~~ちょっといいですかい。 お宅らが強いのは、魔界だったら誰だって知っている―――だから、そう言うのはですねえ……」
「黙っていろ―――ベサリウス……貴様の言など聞き入れん!」
「『取り付く島がない』―――と言うのは、こう言う事を言うのでしょうね……。」
「まw 好きにやらせときゃいいんじゃない?ww」
「公爵サン……笑いこっちゃないです―――って……。 こんなの、“我が主”に見られでもしたら……」
「(……)それ―――ちょっと遅かったようですよ。」
ヴァーミリオン達の到着より後れる事数刻……竜吉公主やウリエルに引率られたシェラザード達が到着した時、その場は一触即発の事態に包まれようとしていたのです。
つづく




