#88
“高高度”での偵察は、ある意味―――成功をすれば敵の陣容を知ることが出来る……反面、もし失敗をすれば……
確かに“高高度”―――上空1万kmを越えた場所から敵の内情を伺えるのは、またとない好機と言えましたが、“標的”として捉えられた時、魔法で迎撃……悪くすれば撃墜される畏れがある―――
それを、大天使長ミカエルは自分の同輩であり配下でもあるウリエルにその任を託したのです。
しかし、竜吉公主はその決定に異論を唱えようとしました。
とは言え……彼女は天使族ではない―――
だからこそ他の体制に物を申せるはずもなかったのです。
そして―――中陣が設営されているであろう地点にまで飛んでみると……
おかしい―――……所々設営されようとしている痕は散見るのに……人影が見当たらない―――?
それに……もう補足されて、魔法での迎撃行為があってもおかしくないハズなのに……?
そこで―――何があったか判らない……起こったか知れない……。
だからこそ、目に見えている部分の実情だけを伝えると、間髪を入れずして―――
「そうか……良く判った。 では君は、そのまま……降下して地上での索敵及び偵察を試みてくれたまえ。」
「ミカエル殿? あなたはなんと言う事を―――……」
「私の采配に、口を差し挟むつもりかね? 竜吉公主……」
「当たり前でしょう? 彼の者は、あなた方『四大熾天使』を形成する一人……」
「私はね―――竜吉公主。 今回のウリエルの役割は、前の戦争での“あなた”だと、そう捉えているのだよ。 前の戦争では、(当時の)魔王に弓引くことを畏れ傍観に立ち回った天使族……。 だが、神仙族は叛乱に加担する畏れを抱かず、ヴァーミリオン達に陰ながらの支援で支えてきた。 そしてあなたは、敵である魔王軍総参謀ベサリウスの奸計に陥ち、籠絡されようとしていた……。 私はね、公主……あの時、人の身にやつして彼らの行動を見てきたが、敵に囚われたあなたを損得勘定抜きで助け出そうとしていたあの行動に、“未来”を見い出していたモノなのだよ。」
“地上”に於いての索敵や、またそれに伴う情報収集などは、“上空”でのそれと比べると格段に危険性レベルが引き上げられるものでした。
そのことを、例え派閥や体制が違うからとして、竜吉公主は看過出来るものではなかったのです。
けれども、ミカエルの今回の一連の行動に至ろうとしたまでの心情の吐露を聞くと、何も言えなくなった……
その事は、彼女が一番良く理解できていた事だったから……
しかし、地上での索敵・情報収集を行っていた者から、衝撃の事実が伝えられたのです。
〔ミカエル聞こえますか―――〕
「どうかしたのかね? ウリエル―――」
〔現在、現場を探索中なのですが、どうにもおかしいのです―――〕
「『おかしい』―――? それはどう言った意味でだね?」
〔確かにこの場では、“陣”の設営をしていた形跡が見られます。 しかしながら―――誰もいない……生体反応が全くないのです!〕
「それは……確かにおかしいわね―――そこで何があったか、判る?」
〔いえ、それが……ざっと見渡し―――…………これは?〕
「何か見つけたのかね?」
〔はい……しかしこれは―――…… こ・こ・こっ……これは~~~―――!?〕
「どうしたのだね、ウリエル! そこで何があったのか、何を見つけたのか、状況だけを報告したまえ!」
#88;見え始めた異変
地上での、索敵・情報収集の一報―――その最初では上空でのモノと、そうさほど変わりはありませんでした。
が、より近くにて調査されたからには、徐々に見え始めてきた異変がありました。
今回の魔界侵略側は、侵略行為がよりやり易いように……と、中継地点と言って差し支えない“中陣”の設営に取り組んでいた―――それは、事実だったことが分かったのですが。
今一つ判らなかったのは、完成させてはいなかった……つまり、中途半端で放置? されていた感じだったのです。
つまりは、中途半端である理由も、『誰もいない』……『生体反応が全くない』―――これには何かしらの理由で、この地点を放棄しなければならない理由が、そこにはあった……。
理由としては様々に考えられる事がありましたが、そうした憶測・推測も、ウリエルが発見したと思われる“あるモノ”を見て、急に怯え始めてしまった……
ミカエル達と『四大熾天使』を形成する彼の者ですら、そうした声を醸さなければならなかった理由……
その事に、同じく四大熾天使の一角を担う者の、そうした怯え様に、その現場で何を見かけたのかを問うたのです。
すると……ウリエルからは、衝撃的なこの一言―――
〔何もない……誰もいない……と言うのは―――ここに『完食者』が降臨っていたのです!!〕
「そんっ……な?! 魔王様が―――なぜ……?」
「(ハッ!)まさか……ウリエル―――至急その場の魔素マナを調べるのだ……最優先事項だ!!」
〔えっ、あっ……は、はい―――承りました〕
「ミカエル殿―――」
「私の予測が正しければ、恐るべき事態が進行しつつある……」
「えっ―――?」
「そういう事だ……魔王カルブンクリスは、遂に―――」
〔報告します、残留魔素0!〕
「(……)そうか―――判った。 至急帰投したまえ。」
「ミカエル殿……?」
「ひょっとすると……とは思ったのだが、恐らくは……今回の一件では発動させなかったのだろう―――だが油断はできない。 先程も言いかけた事だが、魔王が研究していた“あのシステム”は、完成の日の目をみたのだろう。」
「“闇の衣”……! あの……ニルヴァーナを取り込まんとしていた『魔王の思念体』をも喰らった、アレですか!?」
「ああ……あれでも6割方の完成度だったと言うが―――公主、申し訳ないが、至急魔王城まで飛んで、そこでの状況を見てきて頂けないだろうか。」
「承知いたしました―――」
“今”でこそ、その昔……その場で何があったかまでは詳らかにはされていない……それでも、いかばかりかの詳細は語られた事はあるのです。
そう……“生命”としての終を迎えたルベリウスの肉体からは、『魔王』としての『思念』―――つまりはこれが“存在”と言う事になるのですが。
その『存在の終』を迎えさせた者こそ、今代の魔王カルブンクリス―――だった……。
では、『存在の終』というのは?
その当時、現場で直視してしまっていた、竜吉公主やミカエルの証言そのまま―――“喰らった”……
それも今回のウリエル宜しく、『完食者』と言う固有権限を発生させて……
それこそは、まさしくの―――悍しい……
一介の個人が、『魔王の思念』を喰らうことは出来たとしても、やがてそれは、その個人よりも強い思念によって内から喰われ、“個”が喪失され、魔なる王の支配されるところとなる……
魔界の王を僭称する為には、『魔王の思念』に支配されない事が、第一条件としてあるのです。
しかし『蝕神族』は―――『完食者』である者は……
理りを捻げ、自我こそが魔王足らしめんことを、そこで示したのです。
つづく




