#84
「ひ―――ひとまず、あんたがやりたいことは判ったわ……。 けれど、この騒動が終わったら返してもらえるんでしょうね。」
「“わたくし”の目的も、そこで果たせられるからな……。 目的が果たせたなら、大人しくしておいてやる。」
その言葉で、シェラザードは安堵したものでした。
確約までしてもらえていないのに、その言葉……だけで、安堵したモノだった―――
しかし、そこばかりに浸っている訳にはいかない―――そう、現実として、魔界は侵略されているのです。
「さて―――ここで抑えておかなくてはならないのは、現在この魔界の主要都市が襲撃を受けている……と、言う事だ。 人族の『マジェスティック』、竜族の『ヴェルドラリオン』、精霊族の『オブビリオン』、魔人族の『コキュートス』……などね。 内でも死守しなければならないのは、ボク達天使族の『エデン』、公主達神仙族の『シャングリラ』、ジィルガ達悪魔族の『ハーヴェリウス』。 そして、最終防衛線である、『マナカクリム』だ。 もし、あの街が陥落るような事になれば、『魔王城』へと続く経路が確保され、結界も解かれてしまう……それだけはなんとしても、食い止めなければならないんだよ。」
『三柱』の一柱であるミカエルからの状況報告―――及び判断により、まず率先すべき指標が示され始めました。
その中でも―――の、最優先事項が、侵略された場合を想定した上での、最終防衛線『マナカクリム』の防衛―――
ただ、それだけにこの街を攻略する軍団は、並ならぬものがあった……
「あれは『率然』―――! フ……フフフ―――“アレ”をこの戦場へ投入するなぞ、力の入れ込みようが伺われると言うもの!」
「あのような化け物を、存じているのですか!?」
「ああ、存じているとも……。 “アレ”を、ただの化け物と思わぬがよいぞ。 『其の首撃たれれば則ち尾至り、其の尾撃たれれば則ち首至り、其の中胴撃たれれば則ち首尾倶|に至る。』 “わたくし”の世界でも、特級の警戒危険生物だ。 それに……“霜の巨人”フィボルグ、あれがこの街の攻略担当に任ぜられたか―――」
元々同じ世界の住人同士だから、戦力の把握は出来ると言うもの……
しかし、彼の者達にしてみれば、自らの弱点が露見されている事など、露ほども思ってもいないこと……
{妾が水の権限よ、顕現せよ―――! ≪霧露乾坤≫―――≪水鏡≫}
「〖エアリアル・ウインド・ガード〗」
「〖七つ色の光の力よ、邪を退ける礎となれ〗―――〖プリズマ・イリア〗」
「フィボルグとやら―――貴様の相手は私だ! ≪フレイム・ストローク≫―――≪ヴァナ・フレア≫」
「〖天と地と人に充つる力よ、我に寄れ〗―――〖灰燼と化せ地獄の業火よ、我が願いを成就する為の礎となりて現出せよ〗―――〖クリムゾン・ノート〗」
まさか自分|だけではなく相方|のパターンや弱点が漏洩されているモノとは思っていなかった為、思わぬ大打撃を被ってしまった霜の巨人率いる軍団。
しかしそこで、見てしまった顔に思わず―――
「キサマ……ニュクス! キサマハ……死ンダ―――」
「はず……か? だが、残念だがここにこうして生きておる。 さあ選べ―――“生”か“死”か。 “生”を選ぶのであれば、“わたくし”の事業に手を貸せ―――だが……」
「残念ダガ……ソレハデキヌ―――」
「―――で、あろうな。 では……死ね、速やかに。」
互い同士でなければ通じ合わない言語を使い、意思の疎通を図る者達。
そこで知られてしまう事となる、既に亡くなったとされる存在の、“生存”―――
またそれによって、自分達と出身を同じうする者の情報漏洩によって、自分達が窮地に立たされたことを知るのでしたが……
「なぜ処断をしたの―――……」
「“わたくし”が生きている事を知られてしまっては、困る……からな。」
「でも―――」
「判ってもらおう……等とは思ってはおらぬ。 “わたくし”は“見殺し”にされたのだ、“見放し”にされたのだ、“見棄て”られたのだ!! ならば―――同じ世界に生きる者達に、同等の報いを―――償いを負わせる権利があろうと言うものだ!!」
その心情の吐露むを聴いた時、シェラザードはかつての自分の姿を、“その者|”に重ね合わせていました。
自分の王国―――だとしても、周りには味方の一人もいなかった王女……
そうした孤独を振り払い、仲間信じ合える者達を作り、革命を起こした王女……
けれど、王女と夜の世界を統べし女王の、たった一つだけ違った点―――
この人は……どこまで行っても孤独なんだ―――
けれど、一人でも解決できるだけの実力を持ち合わせている……
そこの処は判る―――判る……に、しても……
力を協せなけりゃ、いつか破綻は訪れてしまう……
「ねえ……教えてくれない。 これから起こる―――起ころうとしている事を……」
「第一波は防いだ―――が……フィボルグと率然が敗死れた事は、すぐに知れ渡る。 そうすれば、魔界の各主要都市を襲撃している者達は、ここに戦力を集中させるだろう。 だが……それこそが“わたくし”の狙い目だ―――なぜならば、その時ここには、今回の侵略戦の総責任者―――『ルキフグス』を筆頭とし、『アスタロト』『アスデモウス』達もいるであろうからな。」
「君ほどの実力者が、そうまで高評価するには、余程の大物のようだね。」
「では、我らも戦力の集中を―――!」
「それは出来ないよ―――竜吉公主。 もしそれをしてしまって、伏勢をして防衛が薄くなった処を叩かれてはボク達の無能ぶりを曝け出してしまうことにもなりかねない。」
「ですが―――……」
「まあ聞き給え。 けれど今回のケースは、機会の一つと捉えてもいいと思っている。 350年前は準備も儘ならないまま、ルベリウスだけで対処させてしまった―――彼の強さとしての自信の現れもそうなのだが、ボク達の方でも『彼に任せておけば事足りる』と思ってしまったから、付け入れられる隙を生じさせてしまった……言わば、あの時の過失は、『三柱』全員にある―――と言っても、過言ではないのだよ。」
「では、どうしようと―――」
「そこは、考えてあるさ―――あれから……果たしてボク達は、何もしてこなかったのだろうか?」
#84;350年前の教訓
侵略戦の“第一波”は、どうにか凌ぎ切った……とはしていても。
その事で侵略側の戦略も見直され、一両日の内にマナカクリムが魔界最大の戦場と成る危険が臭わされ始めたのです。
けれど防衛魔界側も、ただ手を拱いていたわけではなかった―――
以前の失策を素直に認めた上で、その場で一番に発言力が強かった……
「“攻められている”―――からこそ、こちら側としてできるのは、『専守防衛』……これ以外にない。 それに、あちらさん出身の言われ様には、侵略側はほぼ主力を固めて攻め寄せてくるだろう。 だから、ボク達の方でもそれに見合うだけの戦力を投入しなくてはならない―――ただ、それだけでは先程竜吉公主が言っていた事と同じ事だ。 そこで……ボクの考えとして―――なのだが……」
近い未来、魔界の主戦場に成ろうとしているマナカクリム―――
そこで天使族の長、大天使長ミカエルの戦略が語られる……
「ヴァーミリオン、君達の仲間全員を、ここへと呼び寄せたまえ。」
「しかし―――ホホヅキは……」
「彼女は、このボクが説得をしよう。 そして君とリリアは最前線で敵を駆逐―――ノエルは敵の陣中奥深く入り、情報の収集と共に攪乱を……。」
「判りました―――それで、あなたは?」
「不肖このボクは、この防衛戦の総責任者と成ろう……。 そして各都市の防衛には、天使の“座天使”“智天使”を宛がわせよう。」
「天使族の、ほぼ主戦力ではありませんか―――!?」
それだけ、今回の意気込みと言うものが伝わる……。
それに、大天使長自身が、最終防衛線とは言えど一つの街に出陣してくるなど過去にも例がなかった……。
けれど―――“一番”の不満を抱えていたのは……?
それが今―――現出してしまう……
つづく




