#76
今まで知らなかった“知識”が―――知ってこなかった“知識”が……
途端堰を切ったように流入して来る―――
しかも、流入して来る知識はシェラザードだけのモノではありませんでした。
だからこそ……
「あ、あっ―――!? う……うぅ……」
「どうしたの?! シェラ―――!」
「い……痛い……あ、頭が―――割れるように痛いよぅ……」
「大丈夫ですか?! ササラ様―――これは一体……?!」
「どうやら、始まったようですね……“継承”が―――」
「“継承”―――? けれど、まだシェラは……」
「間違っても、『エルフ王国の王位継承』の件ではありませんよ―――今……この方を襲っている頭痛は、“彼の存在”が蓄積してきた知識―――或いは経験が、急激に流入しているからに外なりません。 そう……私達、常人の域を越える膨大な量が―――」
「えっ……? “彼の存在”―――? “彼の存在”―――って?? シェラは……シェラは、エヴァグリムの王女じゃないの?!」
「それは、また一つの事実でしかない―――さて……それでは、また一つの真実を紐解いてしんぜよう。」
“今”―――シェラザードを襲っている頭痛は、これまた“ある存在”でもあるシェラザードの、所謂ところの“前任者”が培ってきた“知識”に、また“経験”でした。
けれど、その量は膨大―――かのササラをしても、『常人の域を越える』とまでした……
いやしかし―――?
エルフの……エヴァグリムの王女であるシェラザードが、“それ”以外のどんな存在であるのだと??
「先程ワレは、この世界の事を『常夜の闇に閉ざされた』―――と、していたな。 ならば、“それ”だけだと思うかね?」
「“闇”ある処には“光”もまた必ずや現れる―――この、常夜の闇に閉ざされた世界が『魔界』であるならば、“闇”をも照らす暁―――“光”もまた存在しうるのです。」
「闇の中に光が―――??」
「それが……シェラザード様―――」
「“その存在”の事を、ワレは【躍動せし光】とそう定義し、呼ぶことにした。 そして、このエルフの王女こそが、新たなる【グリマー】なのだ。」
今までは、聞かされて絶望する真実ばかり―――でしたが、ここにきてようやく差し込んできた一条の光明……。
それこそが……【躍動せし光】―――
そして今―――シェラザードの内でも、流入する知識や経験に耐えようとしているのでしたが……
〘さあ―――顔を上げなさい……我が『後継』よ……。〙
〘だっ―――誰……? 私を呼ぶ……“あなた”は誰―――?!〙
疼痛がする頭を持ち上げ、見上げた時、自分の目の前には、自分と“同じ”の―――
? ?? ???
〘あなたは……エルフ―――? けど……どこか見覚えのある―――…… どこか、懐かしささえ感じる―――……〙
それもそのはず―――シェラザードの目の前にいたのは……
〘我が名は、【ローリエ】……かつては、【美麗の森の民】と呼ばれた者―――〙
〘ローリエ……様が? 私―――と、同じ……!! そ、それじゃ、ヴァーミリオン様達と、ご一緒したと言うのも……〙
〘我が“学の師”―――カルブンクリス様より、誘い導かれ……総てを受け入れたからに外なりません。 さあ……この冥く閉ざされし魔界に新たに降誕した【光】よ……あなたも、己が授かりし宿命に従い―――萬世を照らす暁となるのです。〙
その瞬間―――光が弾けた……
それこそはまさしく、“内側”からも“外側”からも、総てを受け入れた証しでもあると言えたのです。
「大丈夫? シェラ―――……」
「大丈夫……それに、そう言う事だったんだね―――」
「『そう言う事』―――とは?」
「私……会ってきたよ、意識の内で―――グリマーの前任者である、ローリエ様に!」
「ローリエ様が?! では―――……」
「うん……他にも見えたよ―――色んな人達……けど、こうして“想い”は継がれてきたんですね。」
「けれど待って下さい? 確か……ローリエと言う方は―――」
「そう言う事だ―――いかなる“万能”を有し授かりはしても、“限り”というものはある。 かのローリエなる者も、稀代の権能を授かりはしたが、あのような最期を遂げてしまうとは……」
【グリマー】と言う存在は、この魔界に於いて多大な“影響”を与える―――ものの、それ以外は他の種属とさして変わらない……寿命はあるし、身体を激しく損傷させてしまえば、死に至ることさえある。
その例がローリエだと言えました。
ローリエの死の瞬間―――大切な仲間の身を庇った……
しかしその者は獣人であり、エルフの……それも王族の生命とは、とても釣り合いは取れない―――
況してや、当時のエヴァグリムの王女は、自身をグリマーであることを受け入れていた……
だとしても、そんな自分の身よりも大切とした仲間―――けれどそれは、物事の解決を遅らせてしまう結果にもなり得ていたのです。
#76;闇に埋没した史実
それに……この事態は、ジィルガの『予言』にもなかった―――まさしくの想定外になっていたのです。
けれども、事態の収束を図らなればならない……
侵蝕されてしまった魔王を止めるには、最早手段を選んではいられない……
そこでジィルガは一考し、一か八かの賭けに出ることにしたのです。
その“賭け”の正体こそが―――理論的には確立をしていても、実践でのデータは乏しい『あの計画』……
ジィルガの弟子の一人であり、【昂魔】の内でも存在している個体数が少なく、しかしながら……その“強さ”は他のどの種属よりも抜きん出た能力を有すると言う―――『蝕神族』……。
本来ならば、その武力・武勇が突出特化しているはずの種属で、たった一人産まれてきた『異質』……
蝕神族であるはずなのに―――異様に高い、知力に知性……その異質が、200年と言う歳月をかけ、研究をしていた題材こそ、【自律式自動反撃システム】
その理論は、早い内から確率はしていましたが、実証できる機会がなかった……
そこでジィルガは、弟子の一人であるカルブンクリスが開発していた兵器を、実戦に投入させてみることにしたのです。
結果としてはご存知の通り、暴虐の魔王ルベリウスは、その存在毎、喪失なわれた……
緋鮮の覇王により、魂の器としての肉体は全損させられ……は、したものの、その魂は“不滅”―――
互いに死力を尽くしきり、闘争を繰り広げたことで、緋鮮の覇王の肉体も、精神も、限界に近かった……
そこを、“憑依”などで乗っ取られ、魔王を倒した最強の味方が、一転して今度は最凶の敵に成ろうとしていた―――
そこへ、突如として現れた彼女達の依頼主が、奇妙な『術式句』―――奇妙な『冥キ霧』を纏い、最期の抵抗を試みようとする魔王の魂を―――その魂毎、完食した……
その真実は、史実には不要のものとされ、かくてその真実は歴史の“闇”に―――埋没させられてしまったのです。
つづく




