#75
その街―――『ハーヴェリウス』……【昂魔】を統括する『悪魔族』の“長”が治める地であり。
またの称を『迷宮都市』と呼ばれている場所でした。
そう、この街全体は、マナカクリムやマジェスティックの様な街並みではなく、その路が“迷路”の様に入り組んだ迷宮だったのです。
『確たる路案内がなければ、立ち処に迷い惑い、生命が危うくなる事も儘にしてある―――』
そう自分達の路案内人である黒キ魔女より説明があるのでした。
そして、その最奥部―――そこに居座る人物を目にし、黒キ魔女以外の全員は一様にして我が目を疑ったのです。
なぜならば、そう―――……その人物の“謂れ”は、黒キ魔女より“こう”聞かされていたから……
『5000年の刻を紡ぎ―――』
5000年……現在、魔界に存在する誰よりも長命であり、その人物より以前の者はいない……
だからこそ、“そう”解釈をするものなのです。
5000年を生きていると言う事は、さぞや老獪にしてその顔には“皺”という貫禄が刻み込まれているのだろう……と。
しかし、自分達を待ち受けていたのは―――
少女……?
そん……な? 5000年を生きているんだよね?
なのになぜ……見かけによっては、あのササラよりも、幼い印象を受ける―――……
その場にいたのは、一人の美少女―――……
“銀雪”の縦ロール、その肌も“雪白”を思わせ、“琥珀”と“ターコイズブルー”のヘテロクロミアの両眸を持ち、その身には“暗紫”のゴシック・ロリータ様式を纏っていた……
自分達が、描いていた、“老婆”ではない“美少女”……
―――が、しかし……
「フッ……このワレの容姿を見て、目を丸くするとは―――な……。」
その咽喉より絞り出されたのは、美少女の声ではなかった―――
“低く”“渋く”重低音の重みのある『老年男性』の声―――……
その事に、またも驚きを隠せない者達に、さぞや呆れ、怒るものと思われたのですが……
「まあ……よい、事態は逼迫しておる。 我が弟子である黒キ魔女よ―――ここに、何用で罷り越したのだ。」
「師よ―――改めて、これまでの真実を……明かして頂きたく存じ上げます。」
「“これまで”……つまり“総て”を話せ―――と? 良いのか……その重責に耐えかね、発狂するやもしれんぞ。」
「その事実を知り得ただけで壊れてしまうようならば、いずれ来たる『大災厄』の相手も儘ならぬまま、我らが滅亡するのは必定……」
「(え……っ?)今―――今何て言ったの? 今何て言ったの、ササラ!」
「私がこの方に弟子入りした時、その覚悟を問われました。 それが、この方による『予言』……“いつ”かは判りませんが、遠かれ近かれ、この魔界は滅ぶそうです。」
「滅ぶ―――? 滅ぶ……って?? 一体、何者の仕業よ!!」
「それを、この方から聞く為に、この地に訪れたのです。」
今回ササラは、危機管理の察知能力により、『今を以て外はない』としていました。
しかし、それでも『あまり時間は残されていない』だった……
けれども、“こう”も言っていたのです、『(ほんの少し前までは)まだ猶予はあった』と―――……
しかしなぜまた急に、『猶予はあった』はずなのに……『あまり残され』なくなったのか。
そのタイミングこそが、『ファフニール襲来』―――
最早、安穏としていた時は過ぎ去ってしまった……今は、火急の事態……
だからこそ、知り置く必要があったのです。
かの『実話』を、『創作話』に“脚色”した張本人の口から―――不都合の塊を。
「さて―――ではどこから話せばよいかな……。 ふむ―――そうだな……ならば一つ問う事にしよう。 何故この世界が『魔界』なのか、何故この世界に住む我らが『魔族』なのか。」
“それ”は―――その質問は、単純にして明解であり、しかも物事の本質を的確に捉えていると言えました。
しかしながら、この教義に中っていたササラ以下―――つまりシェラザード達は、途端に困惑したものでした。
なぜなら……
「フッ―――フフフ……出ぬか、解答が。 今までその様なことを……当たり前のことを考えだにしてこなかったのだから、“出ぬものは出ぬ”……。 この世界が『魔界』であり、この世がたった一つしかないと思っているからこそ……そしてまた、そのたった一つしかない世界に住まう我らが『魔族』である……と、言う事を受け入れるしか外はなかったのだからな!」
えっ……? 何を言っているの?
それではまるで―――……
そう……『それではまるで―――』
なぜ、この世界が『魔界』で、自分達が『魔族』なのか、そんな当たり前のことは、これまでにも考えても来なかった……考えた事などなかったから、いくら考えを巡らせたところで、“出ないものは出ない”……
しかし、悪魔族の長により、一つの“知識”を与えられ、“そう”思うようになってしまった……
この魔界よりも“別”な世界が存在し、その世界には私達以外の“何者”かが存在している……?
けれど私達は、そんな事も知らずに、この魔界に閉じ籠こもっている……?
同じだ……以前の王女と―――
“鳥籠”に捕らわれ、それ以外の世界を知らなかった……
王女と同じだ……
王女だけではない……魔族全体が“そう”だった……。
その、知っておくべきではなかった真実を知り―――
「許せない……許せない……許せない―――!! なぜ、こんな大切なことを知らせてくれなかったの!? 知らせようとしてくれなかったの!」
「(……)この魔界世が、『常夜の闇に閉ざされた世界』―――だから……だよ。」
「(え??)『常夜の闇に』……『閉ざされた』?? でも、この世界には陽はあるし、“朝”“昼”“夜”も存在している……のに―――」
「その様な、目に見えるモノの事を述べているのではない。 ワレが申しているのは、目に見えぬモノ……モノの捉え方だ。 汝が至れしモノの一部は、例え大多数が至れたとはしても、その矛先の“行き場”がないのだ。 言葉通り、『閉ざされ』ているのでな。 だが―――彼奴らは、自由気儘に、好き勝手に、こちら側に来られる―――と、したなら?」
「そんな……そんなのって―――」
「だが、それもまた“事実”であることを、汝らは既に知っている……」
「えっ―――?!」
「私達が……?」
「忘れたのか、汝らが住みし場所―――マナカクリムを襲来せし、あの奇妙な“獣”の事を。」
「“あれ”―――が……」
「かの“超”獣こそは、あなた達も見たように、この魔界の隅々を探しても見つかるはずもないのです。 “あれ”こそは……別次元の何者かが意図画策し、送り込んでいるのですから。 だからとて、総てを知り得るべきではない……知ったところで、混乱を招くのは必至でしたから。 だからこそ、情報の統制を行うようにしたのです。 ですから、あの“超”獣の事を『異次元の知性』だとか『別次元の知的生命体』とまでしかしてこなかったはず。」
「彼の者達こそ【ラプラス】―――ワレに言わせれば、【ラプラスの魔】と呼ぶに相応しかろうな。」
今こそ……今でこそ―――真実は語られる……
それまでは、明確にはされてこなかった、異界からの侵略者―――ラプラス……
その意味としても、『その世界にはいない知的生命』を現わす……
この世界―――魔界……にはいない…………
それは当然――――――それこそが真実――――――
しかしながらなぜ、【大悪魔】より齎らされた“知識”が真実であると―――当然だと思えてしまったのか……
それは一番、シェラザードが理解していた事由でもあったのです。
#75;ラプラスの魔
つづく




