#67
殊の外、手強い相手に手古摺ってしまっているクシナダ達―――
クシナダは、王女の本質を知り―――知ることによって、本来見えてこなかった“悪友”と言う存在に、好感が持ててきてしまった……だから、不意に自分達を訪ねてきたエルフの男性―――『侯爵グレヴィール』を前に、『知らない』などと、言ったモノでしたが……
自分達さえも知らなかった、『王女』と『侯爵』との“間柄”……
だからつい、口を滑らせてしまった―――
「おやおや―――“シェラ”とは? 一体どなたの事なのです。 そちらのエルフの女性の名は、確か“シルフィ”……だったはず―――それにあなた先程は、『他のエルフの女性の事は知らない』―――そう言ったはずですよね?」
こうまで理詰めにし、逃げ道を塞ぐかのように物を申し立ててくる―――
クシナダの表情も、先程とは打って変わって、焦りばかりが顔に出てくる……
すると、それを―――?
「はあ~~あ、ヤレヤレ―――ああ全く以て、その通りだよ。」
「(えっ……?)」
「(ヒヒイロさん?)」
「では、知っているのですね?」
「ああ……知っているよ―――」
ヒィ君、何を言っているの?
あなた……あなたの事を好いてくれている―――“彼女”の事を……切り捨てると言うの?
それは、間違い―――
「西地区に住んでる、今年4歳になると言う、確かあのエルフの女の子も、『シェラザード』……だったよなあ?」
「―――!」
「それにあの子、クシナダには妙に懐いていたしなあ~。」(――☆)
そう言って“目配せウインク”をする、自分の幼馴染の『赫キ衣の剣士』。
それに、そう―――ヒヒイロカネは……いや、彼に“潜みし人格”は、ある事に気付いていたのです。
この『侯爵』を名乗る男性エルフ、肝心な箇所をぼかしている……
『こちらに、もうお一人、エルフの女性がいる―――そうで間違いありませんよね?』
その男性エルフは、一言も……『こちらのクランに』等とは、口にしていない―――
解釈の仕様によっては、『こちらの街に』とも、捉えられなくもない……
つまりは、鎌をかけていた―――?
それに―――……
「そう言えば、『シェラザード』……この界隈じゃなくても、エルフの女性の名前として結構耳にする名前だよなあ? それにあんた―――あんたとは『幼い頃から互いを知った仲』って、言っていたけど……そんな幼い子が、『幼い頃から』……って、それっておかしくないか?」
すると、あれほど追い詰めていた表情が一変し、最初に自分達に見せていた、“あの表情”に切り替わる……
「そうでしたか―――どうやら、私の勘違いだったようです……。 そのことについては、不快感を与えてしまった事を、どうかお許しになられたい……」
そう言って、その頭を深々と垂れ、謝罪を述べる『侯爵』―――
けれど実際、油断がならない―――そうした警戒が、彼女達の内に蔓延したのは否めなかったようです。
* * * * * * * *
その一方―――シェラザードは……
ああ~~ちっきしょう―――一難去ったと思ったら、また一難カヨ……
まさか“あいつ”が、マナカクリムに姿を見せるなんてぇ~~
危うく虎口を逃れ、ひと安堵吐いていた処でした。
しかし―――そう……不可解に思われていた、今回の彼女の一連の行動の解……それは。
シルフィと一緒に買い出しに出かけていた時、ふと自分の眼の端に映り込んだ“彼”の姿……
だからこそシェラザードはすぐさまその場を後にし、クラン部屋へと戻った途端に『|ヒヒイロカネと婚約している《既成事実》』を捏造しようとしていた―――
けれどクラン部屋には、クシナダもおり、程度の抵抗があった―――
だから、このままでは見つけられてしまうのも時間の問題になってしまう―――と、思ってしまったため、シルフィがグレヴィールを連れてくる前に逃走を図ったのです。
しかも、その逃走先に選んだ場所と言うのも……
「悪いわね―――なんだか手伝わせちゃったりして。」
「いや、いいンすよ―――いいんスよ~。 丁度私もヒマしてたことだしぃ? それに娘さんには、日頃お世話になってばっかで~~」(テヘヘw)
「しかし……また一体、どゆ風の吹き回しなのでしゅか? シェラさん。」(ムヒュ?)
「ササラ―――そんなことを言わないの。 それに、シェラザード様に手伝って頂いて、私の業務も軽減されているのだから……。」
ギルマス様からのお褒めの言葉……ひじょ~にありがたいんすけど―――
ああ~~とは言っても、なんだかココロが“チクチク”痛むわあ~~
“あいつ”から身を隠すため、丁度『ギルド』が思いついたから、転がり込んだだけなんだけど―――
……シェラさん? もしかすると、厄介事に巻き込まれちゃってマス?(ムヒョ?)
相ッ変わらず、勘の冴え渡ってらっさることで―――
しかも今回のヤツは、私の手の内を読まれてるから、下手な動きはできないのよ。
あなた様の手の内―――
フムフム、すると相当手強い方のようですねえ?(ムヒ☆)
“手強い”―――て、もんじゃないのよ……
言っちゃったらさ、ちっさい頃からバカやらかし合ってきた仲だからねえ?
なるほど……
では―――逃走先に“ギルド”を選択されたのも、ある意味では間違いではない……
なにしろここは、『関係者以外立ち入り禁止』ですからねッ。(ムヒッ☆)
いやホント―――あんたやノエル様には感謝しかないわ。
だから……“ほとぼり”冷めるまで、私を匿ってよね。
マナカクリムの『ギルド』―――この場所ならば、追及の手は及ばない……
それにシェラザードにして見れば、心強い味方……
この『ギルド』の実質上のNo,1である“マスター”のノエル……に、そのノエルの娘である、『黒キ魔女ササラ』……
この二枚看板で、侯爵家の関係者からの追及の手は及ばないであろう……
それはそれで、間違いありませんでした―――
が
#67;化かし合い
「こちらの、空いている席―――よろしいでしょうか?」
「(ん~~?)あ~~~いいよ―――」
ん? どこかで聞いた声だな―――?
それは、別の日の昼下がり……
それも、“ほとぼり”が冷めたと思われた頃合の……
だからこそ、油断をしていた―――と、そう思われても仕方がなかった……
『ほとぼりが冷めた』―――だから、その日を以て“ギルド”に逃避していたのを止め。
しかも、“いつもの場所”ではない―――そんな憩いの場所で一息吐いていた処に、『どこかで聞いた声』に終ぞ反応をしてしまった……
ブホッΣ
「:おっと、危ない―――」
「………………………………。」(ワナワナ)
伏せていた顔を上げ、相席を求めてきた男性の顔を直視してしまった時、噴き出してしまったシェラザード……
そんな彼女の口から吹いて出たモノを避け、その“男性”は……
「おや、これはこれは―――シェラザード様ではございませんか。」
「グ……グ…………グ………………………………グレヴィールぅ?! あ……ああ………………あんた、帰ったんじゃなかったの?」
「おや? 私の事をご存知でいらっしゃると?」
『ほとぼりが冷めた』―――と言う事は、自分が警戒していた“厄災”が、この街からいなくなってくれたモノとそう思ってしまっていたから……
けれども、自分にとっての“厄災”は、いなくなってなどいなかった―――
しかも、今以てすれば実に“白々しい”までに自分の居場所を特定し、そして“白々しい”までに相席を求めてきた―――
シェラザードは、この人物を評するのにササラには言っていたのです。
『私の手の内を読まれてるから、下手な動きはできないのよ。』
そう……だから、目の前の“厄災”の事を聞かなくなったから、そろそろ逃避先から出てきていいだろう―――そこを抑えられてしまっていたのです。
つづく




