#65
シェラザードの“迷い”は、『導師』の手によって、晴れるところとなりました。
そして……だからこそ―――
「ありがとう―――公主……様。」
「いいのよ―――これも、私の役割の一つなんだもの。」
「役割?」
「数々の理を解し、積み重ね、業を修める事により、今のあなたの様に迷い惑える者を“導く”―――そう言えば、ニルヴァーナ達も、そうだったわねえ……」
「ヴァーミリオン様達も?!」
「そうよ? だってあの人達―――w ローリエを除いたら、脳筋集団だったんだものww」
「脳―――筋……て、そりゃ……。」
「幸いローリエが私達に近い理解力があったから、あの4人の翻訳係になってくれてね。 判りやすく説明はしてくれていたみたいだけど……ね。」
シェラザードが悩みとしていたのは、『王女』と『現政権』の“掛け持ち”は、出来ない―――
どちらかを選べば、どちらかを切り捨てなければならない……そうした類のモノでした。
それにシェラザードは、いつも見せている表面上のモノが“豪放磊落”だっただけに、誰しもが“そう”認めざるを得ない処だった……
なのに―――
ふとしたきっかけで、見せてしまった“本質”……
そう―――この王女様は、実は……
しかし―――そう言う処に捉われてしまうなんて……
案外、素直で真面目で“普通”と変わらないのね。
それは、幾つもの個性を鑑定してきた存在だったから、判った事―――
そしてその結びつきを、王族でしか着けることを赦されない『装飾具』を譲られた存在だからこそ、判った事―――
それに―――……
「じゃあ~~そのお礼にィ、奢ってくだちいよッ☆」
「えっ? 奢る?? (……)そうね―――そのくらいのお礼は、するべきかな……。」
「ヤタ~~☆ おぉぉ―――い! 皆~~!! このエルフのお姉さんが、今日皆に奢ってくれるんだってぇ~~☆」
「(………………)はああ~~~?! えっ、ちょっ―――ちょっとあんたあ??」
「ニッシッシ~~☆ 今、ちゃあんと言いましたモンねえ~♪ 『お礼はすべき』―――ってw」
「(な……あっ?)ちょ―――ちょっと、あのねえ?」
いつの間に、その『隔たり』を解いたのか、いつもの“お調子者”の彼女が、顔を出す―――
その時、その場限りでは、“相談料”は高いモノについてしまった―――とは思ったものの、迷いの岐路を晴らしてくれた者に、感謝の意を表す事としたのです。
#65;新たなる“火種”
それから程なくして―――……
「ゴメンね―――皆……私ちょっと、つまらない事に拘り過ぎていた処があったみたい。」
「(……)そのご様子では、魔王様の真の意図が判ったみたいですね(ムヒ☆) まあ、なにより……と、言った処でしょうか。(ムヒ☆☆)」
良かった……戻ってる―――
あなたが悩みとしていた事を、万象須すべからく解決した―――
けれど……何だろう、この“モヤモヤ”とした想い―――
本来なら“嫌い”で、恋敵でもあるはずのあなたが、“戻ってきた”ことを、“良かった”と感じてしまっている……
それは、クシナダの内で、ほんの少しだけ生じてしまった“蟠り”の様なもの……。
その本来であれば、自分の恋路を―――幼馴染との関係性を、邪魔するだけの疎しい存在でしかなかったのに。
今では?w今の自分には、なくてはならない不可欠の因子とまで、成り得てしまっていた……
そして―――また、今……
それはまた、別の日に起きた、ある出来事が発端でした。
その日は、シルフィとシェラザード、つまりはエルフの2人が、この先必要となる物資を“買い出し”にと出掛けていた日の事。
クラン部屋では、ヒヒイロカネは自分の武器の整備に勤しみ。
クシナダは、そんな彼を、遠目で―――“そっ”と見つめているだけ……
そんな処に――――???
「ヒヒイロぉ~! ね―――ねえ、わ、私達結婚しよ??」
「(………………)―――は?」
はああ~~~??!!
「い―――いや……ちょっと待ってくれ? シェラさん……。 お前、言うに事欠いて、ナニ口走ったか、判ってんのか??」
唐突なる、『愛の告白』―――
いや、すでにもうそれは、“そんなものを飛び越えて”までの結婚の申し入れに、どうしてそんなことに成ったのか、判りだにし得ない存在は……
「しぇる゛あ゛ぁ゛~~! あんた……今すぐにでも死にたいの??」
そうなりますよねえ~~~?
てか、なんでこいつ―――毎回、毎回、火種を持ち込むんだあ~?
既にその場こそは、『修羅場』―――
そうなるまでは、“至福の一時”だったハズ―――なのに……
今や『鬼道巫女』は、目を血走らせ……額には青筋を浮かべさせ……身体からは殺気を漲らせていた―――とくれば、『今まさにそこにある危機』なワケであり―――
……が、しかし、ここでシェラザードの弁護をするのであれば、彼女には彼女なりの、“切羽詰まった状況”と言うものがあったのです。
それは……遡る事、数時間前―――
「粗方―――用意すべきモノは、買い揃えられましたね。」
「そうだね―――」
「シェラザード様……最初にお会いした時とは、少し変わりましたね。」
「そう―――?」
「ええ―――だって、私との最初の出会いは、あなたがお開きになった『晩餐会』で、いきなり『王女の身代わりをやれ』―――でしたもの。」
「ああ~~そうだったねw」
「でも今にしてみれば、あの時『王女』の“身代わり”をして良かったと思っています。」
「―――――………………………………。」
「だって、あの経験がなければ、王国の中枢で、何が行われていたかなど……」
それは、シルフィとシェラザードの、最初の邂逅の思い出話……。
あの一件から、シルフィの方でも『王族』……と言うより、“政治”の事に、興味は湧きつつあったのです。
その“きっかけ”を作ってくれたのが、目の前にいる“破天荒”にして“豪放磊落”な、『王女』その人だった―――
だからいつかは、この日の様に、二人きりになった時に、ちゃんとお礼を述べよう……と、しただけ……だったのに―――
? ?? ???
「ゴッ―――ゴメン! ちょっと重要な一大事を思い出しちゃって―――だから先に、私戻るね?」
「はい? あのっ……ちょっ―――」
折角いい雰囲気で会話は弾んでいたと言うのに、急にまた何を思ったのか、この王女様は焦りの色を隠さないまま、その場にシルフィだけを残し、まるでつむじ風の様に、いづこかへと去って行った……
その、この時の状況と、あの日、自分に“身代わり”を押し付けてきた時の状況とが、妙にリフレインし始める……
そんな、取り残されたシルフィに、“ある存在”が、声をかけてきた―――……
「どうも―――こんにちは」
「あっ、はい―――……」
その“ある存在”とは、自分達と同じエルフ―――それも“男性”でした。
女性であるシルフィたちとは違い、長身で細身、顔つきも優美で、甘いマスクをした、一般的に言う処の“イケメン”……
しかしシルフィは、この“謎の彼”の事を、知っていました。
いや……“知っている”と言うよりは、“身代わり”をしていた時分には城内でよく見かけていた顔だったから、“見知っている”とまでした方が正しいのでしょうか……
そう、この“彼”こそは、本来なら庶民であるはずの自分が、中に入る事さえ許されない『城』に入ることを赦された身分……『エルフの貴族』だったのです。
しかし―――なぜ……『エルフの貴族』が、またこの街に……?
それに―――『エルフの貴族』……
王国の、“身中”にまで食い入り、国益を損ねさせてきた者達……その大多数は、『王女』の手によって、粛清されてきた―――
……と、言う事は??
まさかこの人……シェラザード様がこの街にいることを突き止め、自分達を廃してきたシェラザード様を害する為に……
そのシルフィの思考は、ある意味では間違ってはいませんでした。
“見せしめ”の為にもと、多くの貴族を処断し、粛清をしてきたのですから。
だから“そうしたモノ”は、いつしか巡りに巡って、王女自身に降りかかってくる……
それが、“普通”の―――“一般論”だったとするならば??
ただ一つだけ言えた事、この『エルフの貴族』らしき男性エルフが、この街にいると言う理由は、“そう言う事”―――では、ない……と、言う事なのです。
つづく




