#64
「あの―――……」
「ん~~? アレレ~~?? シェラさんじゃないでぷかあ~~どしたんですぅ?☆」
「あの―――私の悩みを聞いて欲しいんです!」
普段はお道化、その言動に関しても実に軽々しい剽軽者―――なのに。
いつぞか見せた“その人”の本質……
この魔界の、『三柱』の一つ、聖霊を統括する種属、神仙族の一人であり、その実力は“長”なる者に次ぐとされる―――
だとて、今はなぜか種属を離れ、自分達が暮らしている街に留まっている……
その目的は、定かにしないながらも、ならば今、自分の抱える悩みを聞いてもらうのに“絶好”だと感じた……
すると―――
「ほあ~~悩み……一体、何の悩みなんでしょねッ。」
――☆パチン☆――
また、あの“指鳴り”―――
そう……自分達と、他の者とを、“隔て”るモノ……
だから―――
「あのっ―――私……」
「その様子だと、ちゃんと“勧誘”われたみたいね。」
「えっ―――」
「あなた……と言うか、あなたを含める仲間達―――その者達は、ヴァーミリオンの導きによって、今代の魔王様と接見する機会を設けた……そうで間違いはないはずよね?」
「―――そうなんです! でも……どうしてそれを―――」
「そのことはまあ、“はっきり”とは言わなかったけれども、仄めかせてはいたはずよ? 特に―――あのベサリウスには……ね。」
「(!)あのやり取り―――って……」
「そう……あいつも、今はヘレナの一人として成っている―――ヘレナの事は、あなたも良く判っているように、“現政権下”に仕える者の一人……。 だから私も……そしてヴァーミリオンやウリエルも、ヘレナがあなたと“誓約”を交わした時点で、いつかは“勧誘”が訪れるであろうことは、判っていたの。 だけど、ヘレナは中々魔王様にあなたを会わせなかった……だから“私達”も、今の内に出来る事をしようと思ったのよ。 強烈すぎる個性を見せ、その印象が薄まらぬ内に、アプローチを掛ける……。 私達もね、なにも魔王様が欲している人材を、“横取り”しようなんて、思ってはいやしないのよ。 ただ―――“いつか”で、いい……あなたに備わる“その権能”を……影響力を、貸して欲しいだけ―――……」
そこでもまた、あの庵の内での“勧誘”と同じ様な事がありました。
……が―――どこかあの時とは少し違って見えた?
一体どの部分が―――?
シェラザードは、“自称”天使騎士からの説明を反芻していく内に、思い当たる節に、“当たる”―――
「“いつか”―――で、いい……? それ……って、どう言う事なんです?」
するとアンジェリカは、数秒ほど不思議そうな眼差しで王女を見つめると、程なくして王女が迷い惑っている事に、突き“当たって”行く……
#64;導 ―しるべびと― 師
「なぁ~るほど―――フフッ……フ・フ・フw」
「(え?)なんで笑うんですか?! そんな……失礼じゃないですか!?」
「ああ―――ごめんなさい。 私、ちょっとだけ、あなたの事を勘違いしていたわ。」
「(え??)勘違い―――?」
「だってあなた、とてもしっかりしてて、そんな風に悩むなんて、思ってもみなかったもの。」
「ええ~~?? “そんな風に”―――って……」
今の自分は、誰に言われずとも、迷いの岐路に立たされている……。
そんな自分に対し、せせら笑っているかのようにさえ思えてしまう“水の人”に対し、シェラザードは少し“イラッ”としてしまいました。
けれど、“水の人”は―――……
「それじゃ、一つ聞いていい?」
「(はあ?)何を―――……」
「あなたは『王女』なのだから、間違いなく今代のエルフ王『セシル』の後を継ぐのよね?」
「それは……当然でしょう? 私は、おやじの娘なんだもの―――それに、私の母様である、『ヒルデガルド』の娘なんだもの! だから……その王位を継がなければならない……」
けれど、本当は―――……
“自由”と言うものを知ってしまってからは、王族なんかに産まれてこなきゃ良かったとさえ、思ってしまっている……。
私が王族でなけりゃ、シルフィにも迷惑かけなかったし、あの人達とも別の象で出会えたんだと思う……。
それは、“もしも”のお話し―――
自分が、王族出身の『王女』でなかったら―――の、話し……
けれど、“水の人”―――『竜吉公主』は、別の解を出す……。
「“それ”は、間違いよ―――」
「間違い? 間違い……って―――」
「今ある“縁”は、間違いなくあなたが『王女』―――だったからこそ巡り合えたモノ……あなたが“もし”、『王女』でなかったら、別の“縁”が用意をされていたに違いはないわ。 その内には……数ある“縁”の内には、あの人達と繋がる“縁”なんて、ない―――と、言うものもあるの。 だから、軽々しく“そんな事”を、口にしたりしてはダメ……」
この人は―――幾つもの“縁”を見てきたんだ……
だからこそ、私が『王女なんかに産まれたくはなかった』事も、しっかりと受け止めて答えてくれた……
けれど……げれど―――だったら!
王女シェラザードの、迷いの“岐路”―――それはまさしく……
「じゃ―――もう一つ聞かせて。 だったらあなたは、その生涯を、エルフの……『エヴァグリムの女王に捧げる』―――そのつもりなの?」
何を言っているの―――?
そんなの当然でしょ……?
『エルフの王女』として産まれた私が、『エルフの女王』として―――……
すると、まるで諭すかのように―――……
「ふぅ~ん……ちょっとこれは、評価を変えないといけないのかもね―――」
「はい?」
「あなたがそんな、器量の狭い持ち主―――だなんて、思わなかったもの。」
「(!)な―――何を言うの! そ……そんな―――」
「あら、だって、あなた今その事を、あなた自身が口にしたじゃない―――あなたのその生命……生命の灯火が燃え尽きるまで、『その生涯を女王のままで終える』……って。」
その言葉が―――自分の“何か”を貫いた……
言われてみれば、あの時の魔王からの“勧誘”にも、どこか引っ掛かりを感じていた……
それに今、『神仙族』のNo,2からの言葉に、また……
私―――は……どこか……間違いを犯している?
「あ……あの―――私……?」
「一つ、参考までに聞くけれど、エルフって“長命種”だよね? 永く生きれれば、1000年以上生きた個体もあったと聞くわ。 だからあなたは、その寿命……千数百年か、またまたは数千年か……判らないけれど。 そんなにまでして、自分の政権に固執していたいわけ? それが本音だとしたら、あなたはいつか……あなたが忌み嫌い、粛清をした“連中”とやらと、同じ末路を歩むわよ。」
それは、まさに衝撃―――
シェラザードも、固執していたわけでも……固執しようとしたわけでもない―――けれども……その無意識下には、“固執”を望んでいた事だった―――?
私は……間違っていた―――
私は、私が『王女』であることに、否定的ではありながらも、その誰よりも『王女』であることを望んでいた……『「女王』であることを、望んでしまっていた……!
ああ……なんて……なんて恥ずかしい!
「それじゃ……魔王様は、そんな私の胸の内を、見透かしてて―――」
「そんなことより、あの御方から言われなかった? 『即答をしなくても構わない』―――って……。」
「(!)その言葉―――」
「そう言う事……何も“今”でなくても構わない……。 あなたの政権が、一体いつまで続くかは判らないけれど、次代の治政者に政権を渡した時点でも、『返事をしても構わない』―――あの御方は、そう仰られたのよ。」
王女が立たされていた“迷いの岐路”は、今ここに晴らされました。
それも、“迷いの岐路”に立たされた機、導く者―――『導師』の手によって……
そして、『緋鮮の記憶』に書かれてあった、その役割―――その事も、実態としてあった事を知る事となったのです。
つづく




