#61
遂に、微睡より覚醒めたるは、『暴虐の君主』か―――果てまたは『聖人君子』か……
ただ、この時点に於いてはまだ、シェラザードの内では、“そのどちら”でもあったのです。
その……覚醒めたる魔王の、寝起きからの一言目が……
「(う~……)なにか用かい―――」
「没頭しすぎるのは、“悪い”とは言いませんが、程々に休まねば……な。」
「ああ―――判っているよ。 それより君だけは、私の事を判っているモノと思っていたのに……サリバンと同じことを言うモノだなあ。」
「彼女も、そなたの事を思っての言です。 それに、あのような体勢で寝ていると……」
「あ゛~~~判った、判った――― それ……で、こちらのエルフはどちら様になるのかな。」
その第一印象は、“魔界の王”らしからぬ、実に庶民的なモノだった……
剰え、盟友としている者からの忠告にも、まるで子供がむくれているかのようだった……
これ……が―――“魔族の王”?
私は……また判らなくなってしまった―――
『暴虐の君主』か、或いは『聖人君子』か、そのまた或いは『庶民』か、はたまたは『子供』か……
しかし……それらの総ては、やがて“一つ”に纏められる……。
「ふむ……しかし“それ”は、不用な質問だったね。 “君”がいる時点で、気付いておかなければならなかった―――」
「(え??)私の事―――判るんですか?!」
「ヘレナからも聞かされているからね……。 それに、“あなた”が私の下を訪うのも、また運命―――と、言った処か……。 そうだろう? エヴァグリムの“現”王女―――シェラザード……。」
「(!!)―――……。」
「あなたの祖先にあたる、ローリエの死……。 あれは大変に悼ましいものだった―――。 本来ならば私が代表し、感謝の辞を述べなければならなかったモノを……。 ただ、“それ”をしてしまえば、エルフに無用な印象を与えてしまう事にもなり兼ねない……。 それは、“対内的”にも……また“対外的”にも、ね―――。 それに彼女の種属だ、例え困難に陥ろうとも、立ち直ってくれるものと信じていた……。 私の“盟友”であるニルヴァーナよりも、機知・理解共に富み、私の意を好く汲み……ニルヴァーナとローリエの“二本柱”をして、私の治政を盤石のものとしようとしたが……。 私は、その“邂逅”までは恵まれてはいたが、“それから”の後は、大切なものを失ってばかりだ……ただ、この事を口にしてしまうのは、現在私の下で働いてくれている者達に、失礼にあたる事だからね……。」
それこそは、まさしくの『王』―――でした。
遍く庶民を栄えさせ、然してその“愛”は、盟友にも弟子にも従者にも降り注がれていた……
だとて―――?
素直に受け止められない、その“裏面性”に……
「あなた……様が―――魔界の王たる方だと言うことは、理解りました……。」
「それは、感謝した方がいいのだろうね。」
「だとしたら―――『アレ』は? 一体何なのですか?」
「(!?)おいッ――――」
すると―――ヴァーミリオンからの言を、遮る“手”……
魔王の手は、エルフの王女が何について訊こうとしているのか、判っているかのようだった……
しかして、そう―――エルフの王女シェラザードが、訊こうとした事……知ろうとした事こそ、『兵器開発』の事だった……
それを、魔王カルブンクリスは―――……
「『アレ』……とは?」
「私、この部屋の片づけを、ヴァーミリオン様としていて、見つけてしまったんです―――『兵器開発』をしているものと見られる、“文書”を……。」
「ふうん―――それで?」
「私だって、魔王が率いる軍隊は、魔界一だと言う事を知っています。 なのに! それ以上の強さを持たせて、どうしようと言うんですか!?」
シェラザードが、魔王カルブンクリスが覚醒める前に―――と、ヴァーミリオンと共に、この庵内の整理をしていた時、偶然見つけてしまったモノ……それこそが、『自律式自動反撃システム』の概要を綴った文書……。
これが、『兵器開発』でなくして、なんであろうか―――?
魔界一の軍隊を、更に強化させて、この人物は何を更に望むのか―――?
『魔王』が、また“豹変”してしまう前に軍隊の増強を止めさせなければ、いよいよ以てこの魔界は……
シェラザードの“不安”は、募るばかりでした―――……
けれどそれを―――
「なるほど、あの『計画書』に目を通し、あなたはその様に解釈したのだね。 残念ながら……“それ”は間違いだ―――」
「間違い―――?」
「あの『計画書』は、魔王軍を増強させる為のものではない……。」
「カルブンクリス―――?!」
間違いであることを諭され、多少“ホッ”と、するものの―――……
魔王の盟友が、明らかに焦った声色を醸す―――
えっ……? じゃあ―――ヴァーミリオン様は、あの計画書の真意を、知っている……?
なぜならば、その昔―――……
「この計画書は、魔王軍の増強を図る為のモノではなく、私自身に反映させる為……。 そう、この私の増強を図る為のモノだ。」
「えっ?! けれど、それって―――……」
「あなたも、ここへと来るまでに、色々識ってきたのだろう? その内に、ルベリウスの生命としての終は、ヴァーミリオンが為してくれた……けれど、“それだけ”では、不十分だったのだよ―――」
シェラザードが愛読していた『緋鮮の記憶』には―――『魔王を討伐した英雄達は、混迷から世を解き放ち、魔界を正常に戻したのでした。』
―――と、締めくくられていたのでしたが。
つい先頃知れてしまった、“それから”の出来事……
そう―――魔王ルベリウスの体力を“0”にはしたものの、“存在”としては、未だ遺っていたのです。
しかし―――その場には、満足に動ける者は、誰一人としていなかった……
つまりは、そのままでいたら、『憑依』により、PTメンバーの誰かに……
いや、ここで言及をするならば、ヴァーミリオンの身体が―――乗っ取られて……いた?
けれど、現在そうなっていない―――と言う事は、そこで、何かしらの“介入”があった……
? ?? ???
* * * *
「カルブンクリス―――? なぜそなたが……」
「聞いていた通りだったようだ……。 『魔王』は、肉体を滅ほろぼすだけでは亡びはしない……その“存在”も、同時にしないと―――ね……。」
「よせ―――そなたが敵うはずが……」
既に満身創痍の仲間達……それに、ようやく苦心の果てに倒したと思っていたのに、魔王ルベリウスの死体より出てきてしまった『思念体』……。
このことを、ヴァーミリオン達は知りませんでしたし、何より依頼主であるカルブンクリスからも知らされていなかった……。
これは、重要な情報を伝えなかった―――と言う、重過失に相当するものなのですが。
実は、それを意図的にカルブンクリスがしていたとしたなら……?
それに、当初ヴァーミリオン達は、彼女ではどうにもルベリウスを倒せないから、武に秀でた自分たちを頼ったのだろう―――そう思っていた……からこそ、実力が未知な……『魔王の思念体』に立ち向かうカルブンクリスを諫めようとしたのです。
けれど、カルブンクリスには歴とした勝算があった―――
そこで取り沙汰されたのが、長年カルブンクリスが“研究”の題材としていた、『計画書』……
#61;闇の衣
「それを、『闇の衣』と言う―――」
「闇の……衣―――」
「ああ、そうだ。 私では、どうにも敵わなかったからね―――ルベリウス自体には。 だからこそ、ニルヴァーナ達に『討伐』の依頼をした……。 生命活動の“器”としての肉体を喪失なえば、この私でもどうにかなるからね。」
すると、魔王の頬を張る音が―――……
しかしそれは、間違いなく―――……
「このっ……薄情者! あんた最低だよ!! あんたを信じ、ついてきてた人達を、人柱に捧げようなんて―――!」
その、張った“手”の意味は判る―――判る……にはしても……
「王女! なんと言う事をするのだ!」
「構わないよ……ニル――― ああ~~しかし、『アレ』は最高だった! あの『存在』を取り込むことにより、“私”と言う存在を紡げさせる刻を、より一層永くさせた……そこの処は感謝せねばなるまい。」
えっ……どう言う事?
聞いたことがない……『存在』を取り込んでしまう事によって、『存在を紡ぐ刻を伸ばせる』……だ、なんて。
その“一言”―――その一言のみで、シェラザードは判り得ました。
判り得て、しまいました。
カルブンクリスこそは、やはり『魔王』として、魔界に君臨するに相応しい存在だった……
強敵を打破するにしても、決して自らの手を下さず、優れた智嚢を以て他者を誑し込み、然る後に“旨味”のみを横取りする……
奸智長る者にして、凶悪なる強さをも、得ていたのだと。
つづく




