#45
その日は、“いつも”と変わりありませんでした。
そう―――“あの時”が来るまでは……
その日は、“いつも”と同じように、長閑な一日でした。
暖かな陽差しが照り 風に草花がそよぎ 清らかな水を湛えた川のせせらぎ……
いつもと
変わらぬ
日常―――
それが
突如
破られる……
その突端は、新たなる魔獣の出現でした。
この魔界に於いては、複数の特徴を持ち合わせる―――と言う、『合成魔獣』は存在していました。
頭には“獅子”“鷲”“山羊”の3つを持ち 胴は“山羊” 手足は“獅子” 尾は“蛇”
と言う、オーソドックスな『キマイラ』……
頭・前足・翼は“鷲” 胴・後足・尾は“獅子”
と言う、『グリフォン』……
しかし、突如として現れた魔獣は、その“どれも”当てはまらなかった……
全くの“新種”にして、“未知”の存在……。
『しかしまた、どうして―――?』
と、皆が惑う中、“ある者”が、その存在を知ったが如くに、『ぽつり』と漏らす……。
「あれは―――『オピニンクス』?! あのレベルの存在が、もう……?! こうしてはいられないわ、早速報告―――いえ、今は撃退させるのが先決か!?」
普段は、“自称”天使騎士だとし、周囲からは白い目で見られていた者―――
しかし、出現した『未知なる魔獣』を目にし、“虚”の仮面が剥がれ落ちる……
「一体何の騒ぎ…… うわっ?! なんだ?ありゃ―――……」
「あっ、エルフのお姉さん―――至急、この街の皆に、避難を呼びかけて!」
「ン・ゲッ―――誰かと思ったら、“自称”ちゃんか…… それより、あんたも、意外とまともな時あったもんだなあ?」
「そんなことはいいから―――」
「はいはい、皆に避難の呼びかけね……それより、あんたはどうすんの?」
「私は―――この先にいるかもしれない、逃げ遅れた人達がいないか、確かめてくるわ。」
「(……)OK―――じゃ、私はクランの皆に話しを通しとくよ。」
街の異変の確認を―――と、出会ったのは、シェラザードでした。
そんなシェラザードも、自分も見たこともない、“超”獣には驚いたようで、そこでアンジェリカは、人命第一を考え、住人への避難の呼びかけをしてもらうよう頼んだのです。
その一方で、アンジェリカ自身は、自身の危険を顧みず、避難先とは反対方向に進み、逃げ遅れた者の発見と、救助を目的としようとしたのでしたが……
少しばかりアンジェリカが進んだ後、建物の大きな瓦礫が、落ちてきた―――
? ?? ???
自身の危険を顧みずに行動を起こした者の安否を気遣いながら、シェラザードは彼女から頼まれた事を遂行するのでした。
そして、通達したクランのメンバー達と、クランメンバーであり、ギルドマスターを母に持つササラの呼びかけにより、ギルド自体も、その行動を早めてくれたおかげで、予想よりも早く、街の住人全員の避難を終えさせることが出来た……
だから―――
「シェラ―――どこへ行くと言うの?」
「アンジェリカを探しに行くんだよ。 あの子は、自分の身の危険も顧みないで、あの先に進んだ―――もしかしたら、助かっていないのかもしれない……けれど、助かっているのかもしれない――― あの子のやった事って、『英雄』のそれなんだよ……私が目標に掲げ、その背を追い続けている、『緋鮮の覇王』の“それ”なんだ!」
「(……)判りました。 けれど、あなた一人では、手が足りないでしょう?」
「いいの……? 死ぬかもしれないんだよ―――」
「一人寂しく死ぬよりかは、いいでしょう? それに……あなたばかりに、いい恰好はさせないんだから。」
「(……)一言ヨケーなんだよ、あんたは…… じゃ―――行くよ……」
「おい―――ちょっと待てよ。 1人よりかは2人……2人よりかは―――だろ?」
「そうですね―――」
「では、私も加わりましょう。 ですので、その間のここの防衛は、お任せしますね、コーデリアさん。」
「(……)判りました――― 私も、眷属の子らを死なせるのは忍びませんから。 それに“アレ”は……――― まあとにかく、あなた達も死なぬよう、お気を付けを……。」
街の住人全員の避難を確認すると、安否が気遣われる者の捜索をしようとするシェラザード。
すると、彼女に協力を願い出るかのように、まず“悪友”が同調をしてくれた……
それが契機となり、続いてヒヒイロカネやシルフィ、更にはササラまでも―――
けれど、自分達が抜ける穴を、埋める為にと目を付けたのは、あのコーデリアでした。
しかしながら……彼女は、こう思ったのです。
フ……見事、“あなた様”に出し抜かれてしまいましたか―――
しかしまあ……なんと美しい事か―――
未だ明かす事叶わぬ我らに、尽くしてくれるものとは……
はっきりとしたことを述べるのならば、今回に関しては、人的被害は出る事はなかった……
なぜならば、避難を完了させている住人達は、“地”を司る【四大熾天使】の庇護の下にあり―――
また、“未知の魔獣”を相手にしているのは……
* * * * * * * * * * * * * * * * * *
「アンジェ~~! どこ~~―――!?」
「おい、アレ―――!」
「あの子の装備の一部だわ??」
「そんっ……な―――」
「くっ―――!」
「(あ……)どこへ行くと言うの―――シェラ~~!」
「(!)水……――― 皆さん、お気を付けを! 水です! 水……が―――」
その瞬間―――かけられていた封が外れる……
周辺に“水”―――この状況、あの時と全く同じではありませんか!
なぜ……今まで見落としていたのでしょう……
あの時、あれ程までに話し合っていたと言うのに……
『不思議なまでに残された『水溜り』や『ぬかるみ』―――』
『不自然なまでに、その死体に遺された爪痕―――』
なぜあれ程までに―――
『圧力に屈け』
『身体中の水分が失われ』
『鋭利なモノで斬り裂かれ』
『逆位置の負荷によって捩じ切られ』
たのか……
その総ての原因が、“水”であることを!
魔界にある魔法に通じ、時には『天使言語術』さえ操ると言われている、黒キ魔女ですらも、記憶の迷路に落とし込まれてしまった―――……
しかし、それも今思えば、不自然ではなくなった―――……
それが出来るのは、『眷属』たる“獣人族”では、ない―――
#45;“水”の畏れを体現せし者
すると―――
〚顕現せよ〛
……と、何処よりの言葉に応じ、沸き立つ“水”がありました。
そう……またしても―――の、“水”……
そしてその“水”は、瞬くの間に『人型』を形成し、その人型大としての“大きさ”、“形状”を保ちながら、“超”獣に相対すると……
“その者”が、ほんの少しばかり“念”を込めると、地に潜んでいた水が浮き上がり……
そしてまた、少しばかりの“念”を込めると、水は回転りながら、『環』を形成―――
やがて『環』は、紙よりも薄くなり―――ながらも、その回転速度はさらに早まり、周囲の岩や木々を、斬り裂き始めた……
そのことにより、その『薄き水の環』の強度が、岩や木よりもある事を知らしめられたのです。
しかし、その事を見せられた―――
“水”が……物体を斬った―――?!
しかし……これで、“水”によって、斬り裂かれた遺体の謎が解けました……
すると……やはり―――この一連の事象を起こした“張本人”は……
その時、見せられた権限の有り方により、判ってきたことがありました。
“あの”不可解な『水溜り』や『ぬかるみ』も―――
“あの”不自然な死因の遺体も―――
総ては、“神の域”に近しい権限を有する、この“水の人”だったと言う事を……。
すると“水の人”は、“戯れ”であるかのように、手をかざし―――軽く振り払う諸動作をした……
“それ”に応じるかのように、『薄き水の環』は、“超”獣を斬り裂いた―――
≪水環斬≫―――その権限の行使こそは、その“水の人”の持つ、『霧露乾坤』と言う、その者が持ちし、固有の権限だったのです。
つづく




