#42
#42;何処より出でし“水”は やがて『不覚』を包み込む
時間を少し遡り―――
シェラザードが『例の2人組』と、協力をしていた時の事……
日中に於いては、仲間達が言っていたような妨害もなく、淡々と済ませた―――
その夜の事……
安らかな寝息を立てて眠るエルフを余所に―――
――“ある者達”が――
――覚醒め始める――
「早速、始めると致しましょう―――」
「その前に―――なぜ、あのエルフを巻き込む必要性が?」
「(……)あの者は、明からに我らを、猜疑の眼を以って視ていました。」
「ならば―――――――」
「『ならば』……内へと取り込み、疑いを晴らせば、善きまでのこと……。 それに、そなたも気付かぬではあるまい?」
「フ……なるほど。 『彼の御方』に“認められし者”を、“自陣”に―――と、言う事ですか…… 相変わらず、為されることが……」
「無駄口は慎むがよい―――“彼奴”めを探し出すのに、必要以上に留まり過ぎてしまった…… もうすでに、この地での冒険者達を統率する者も、気付き始めておる。 今日で収めさせねば……」
「反応あり―――来ます!」
〘我が理力に依りて現出せよ〙―――〘流水転渦〙
その、“二”の存在―――
“一”は――――――
“清流”の様に靡く『水色』の髪
靜やかなる“湖底”を思わせる『群青』の眸
『白砂』の様な、肌理細やかな肌を持ち
『瀑布』を思わせるかのような衣
そして、自らの理力を持ちて、身体を“水”と化した、“水の人”……
今“一”は――――――
“砂漠”の様な『ライト・サンド』の髪
永の年月、地中にて育くまれた様な『琥珀』の眸
“暁に映える流砂”の様な『ベージュ』の肌
“大地に落ち枯れゆく葉”の様な『カーキ』の衣
そして、背には3対6枚の翼を持った“天使”……
そう―――熟睡をしていたシェラザードが、“おねしょ”をしてしまったと勘違いし、目を覚ました時に見てしまった“存在”達……
しかも、ササラやノエル、シェラザードも思い当たった節―――『何かしらの調査』をしていたものと見え、その日は丁度、最終日に当たっていた―――
それに、マナカクリムのギルドマスターも、ここ最近の事象に疑問を抱き始めており、これ以上、自分達がこの地に留まるのを、善しとはしていなかった……
なぜなら、彼の者達が負いし使命は、彼の者達の『眷属』に知られずの内に、済ませなければならなかつた―――
はず……なのに?
ならばなぜ、彼の者達は、シェラザード達、冒険者の手を借りなければならなかったのか……
「ええい―――何をしている! 近くにいるのではないのか!?」
「“彼奴”めも、多くの仲間を、我らに掃討されましたからな―――…… 残りの一体とて、警戒するのは必然となりましょう……。」
この時にはまだ、“彼奴”とでしか表現しきれなかった……
それほどまでに、『不覚』の存在―――
その存在達を、討ち平らげるのが、本来の彼の者達の使命でした。
しかし、残り一体は、余程に憶病―――慎重になっているものと見え、僅かながらに反応は見せはするものの、把握までには至らなかったのです。
そんな時に―――
「オヤオヤ―――w お二方ともあろう者が、把握まで至っていなかったとは……w」
「(!)貴様―――“ベサリウス”!? 何故、貴様がここに!」
「なにをしているのです! そんな輩に構うなど―――!」
〘我が理力に依りて、把握せよ〙―――〘水蓋匣〙
「(ヒュ~♪)さぁ~っすがw」
「少し……油断している体を演じれば―――と、思ったが…… それにしても、手間を煩わせてくれたものだ、さて……どうしてくれようか?」
『調子のいい』“調子”で現れた者に、“水の人”はまた、“ある名”をして呼びました。
そう―――以前に、緋鮮の覇王が、その者を“そう”呼んだと、同じように……。
そして、“水の人”が、“ベサリウス”なる者に、気を捉われた機―――
最後に残った一体が出現……が、しかし、すぐに『水』に捕らわれてしまったのです。
そしてそこで、簒奪は行われる……
『水』の“圧”に屈け―――
身体中の『水分』を支配された挙句、“抜かれ”―――
順と逆の『渦』により、“捩じ切れ”た後―――
鋭き『水』の勢いにより、“切断”される―――
ノエルとササラの母娘が確認した、あの不可解な遺体の謎は、ここに極まりました。
その総ては、“水の人”が行使した『水の理力』により、為されてしまっていた事だったのです。
それはそれで良かったのですが―――……
「これで、総てが終わりましたね―――それより……なのですが。」
「妾は、問うたはずです。 “ベサリウス”……なぜ貴様がここにいる―――」
「ン・フッ―――ク・ク・ク……フフフフw」
「何が可笑しい!」
「イヤア……全く―――あんたと言い、ヴァーミリオンと言い、頭ン中、オメデタなヤツばかりだなあ?w」
「なんだと―――!」
「この“オレ”が、連中に倒されたのは知ってのハズだろう? そして、今の“オレ”の存在意義がなんであるか―――知っておいでのハズなのに……? まだ“オレ”のことを、“ベサリウス”と呼ぶあんたの事が―――滑稽でならない……だから、嗤って差し上げたのさ!」
「いい加減にしなさい!ヘレナ――― それ以上焚き付けて何になりますか。」
“水の人”は、突如現れた公爵ヘレナ―――
いや、その時には、怨恨の念を強く遺していると見られる、“ベサリウス”を睨みつけていたのです。
一体―――この両者の間で、何があったのか……
それは………………
「妾は、こやつに焚き付けられずとも、その怨みは忘れぬ…… こやつめは、前の戦いで、我らが眷属の子らを、その悪辣なる策謀を以て、多くを亡しなわせてきた! よいか……ベサリウスよ―――妾は許さぬぞ…… たとい、我らが“長”が許したとしても! 妾は貴様を許さぬ!!」
「フッ……怨み節炸裂―――てなわけですか。 だがね……それを言うなら、“オレ”にだって言い分はある。 あの戦いで、前代の魔王軍は壊滅しちまったんだ……。 それをあんたは、不問にしよう―――てのかい!?」
「およしなさい―――! それに、あなたもあなたです。 今は、“上層”より伝いいつかせられた事を、完遂できたことを、喜ぶべきでしょう!」
「(ハ……ア………)それもそう―――ですね。 ならば貴様は、即刻妾の前より去るがよい!」
『何かあった』―――どころの話ではありませんでした。
その“水の人”は、ヘレナの一人である、“ベサリウス”の罪の在り処を問うたのです。
そう―――それは、“あの戦争”………
現在より、350年も前にあったとされる、当時の魔王討伐戦―――
そこで何があったか………
言わば、“戦争”なるものは、多くの生命が亡しなわれる―――
兵士の生命を……
戦闘には関係ない、庶民の生命を……
そこを、“水の人”は言ったのです。
『我らが眷属の子らを』
―――と……。
けれどならば、“天使”の方は? “ベサリウス”の方は―――?
つまりは、そう言う事が『戦争』だと、判っていたからこそ、それ以上の追及はしなかった―――
…………の、でしたが――――――
「そう言う訳にはいかないんですよ。」
「お前―――!?」
「いい加減、肚ん内割りましょうやw なぜあんたら―――特に『公主』! 必要じゃないと判っておきながら、なぜ“我が主”との、協力に応じた?」
「(うっ! むむぅ……)―――――――……。」
「返答えられる訳がねえよなあ? まさかあんた……『あの御方』が目を付けた者を、横取りしようって魂胆じゃないのか?」
「ヘレナ―――!」
「あんたもだよ、“天使”…… あんた―――この方の側にいながら、なぜ強く戒めなかった!? あんたも狙ってるんだろ……? あわよくば、手前ぇらんとこの『陣営』に組み込もうって、魂胆―――」
ガサッ~-☆
〚そこにいるのは何者です!〛
〚気付かれましたか……不手際ですね。〛
これは―――シェラザードが目覚め、“水の人”達とのやり取りを、盗み見聞しようとした時までの、一部始終……
そう―――実は、シェラザードは気付いていませんでしたが、この現場には、“あと一人”……
シェラザードを“我が主”と見定めた、公爵ヘレナの存在もいたのです。
つづく




