#32
披露すべき“歌”は、披露し終えた―――と、言わんばかりに、吟遊詩人は囀りを止め、奏でていた楽器を仕舞う、その傍らで……
「やあ―――また、会えたね。」
「えっ―――じゃあ……まさか、あなたが、あの時の?」
「そうだよ? エルフ君……君が、興味津々にボクの話しに、耳を傾けてきた時の表情を、ボクは忘れたことはなかった~~~♪ のに、ねえ?」
「(あ……)ゴ―――ゴメンなさい! 気が付かなくて……」
「君はボクの顔を忘れてた~~♪ けれど―――君が今、ここにいるってことはぁ~~?♪ どうやら、君の方でも、色々あったようだね?(ジャンジャン♪)」
その言葉で、甦った事がある―――
そう、それが、現在から10年前、不意に自国の城を訪れた、この吟遊詩人だった―――
“鳥籠”に囲われ、外界の情報は一切断たれていた王女が、外界の情報を知る『きっかけ』となった、吟遊詩人の詞―――
自分が知らないことに、俄然興味を示した王女は、歌を披露し、終えて帰ろうとする吟遊詩人を捉え、そこで自分の知らなかった情報を、次々と聞き込んだのです。
その事の一部に、『王族』とは違う、『庶民』達の暮らしぶり……などや、今は亡き、上級貴族や官僚達がしてきた“悪事”……
王女が、(これから)城から一歩も出なければ、知りだにしなかった“真実”。
途中から、耳を塞ぎたくなったものでしたが、それをしてしまったら、『身中の蟲』達のやってきている事を、容黙認することになる……
だから王女は、例え辛くとも、耳を塞ぎませんでした。
そして、次第に分かり始めてきたのです。
この吟遊詩人の言ってくれたこと……
母様の『手記』と同じだ―――
ある日、偶然見つけた母様の手記は、当時、判らなかった事ばかりだけれど……
今、この人が示してくれた“真実”と照らし合わせてみて、ようやく符号してきた……
そうなんだ……母様が亡くなったのは―――!
そして、『そのきっかけ』となったのが、“10年前”……
その頃から王女は、密かに計画を立てたのでした。
自分を取り巻く環境―――
殊の外、自分の周りを纏わりつき、まるで“監視”をしているかのような、実の父親である、側仕えの目を盗みながら……
そして、ようやく“機”は訪れ、父を除く『身中の蟲』全員を、葬り去ることができた……
なのに、今―――王女シェラザードの身柄は、城にはない……マナカクリムにある。
生き残らされた、国王であるセシル―――
その名の下に、“変革”は実行に移されつつあるからか、“強制的”にでも『戻ってこい』―――等と言う、命令も……況してや“手”も、講じられてきてはいない。
ようやく……おやじも、自分の立場というモノが、判ってきた……のか、なあ―――
その事は、また再び城に戻るなどして、確かめていないのだから、何とも言えないのですが……
それはさておき―――クランのメンバー達からしてみれば?
「へえ―――ミカさん、シェラの事、知ってたんだ?」
「(あ……)そう言えば、シェラザード様の“日記”にも、書かれてありましたよね?」
「シェラの“日記”―――? 一体何が……」
「そうですねえ……今回の、一連の出来事に関わる、“計画”などが、詳細にツラツラと……」
「シルフィー君~? ちょっと話すことがあるから、こっちへ来てもらおうか?」
「(あっ?!)シェ―――シェラザード様ぁ?」
「おいおい―――シェラのヤツw」
「(チ)他に何が書かれてあるのか、聞こうと思ってましたのにぃ……」
「ハッ―――ハッ―――ハッ―――w どうやら、愉快な人が増えてくれたようで、ボクも嬉しいよ。」
なぜ今回、吟遊詩人の歌声が、王女の耳に届いたのか……
10年も以前に出会い、その時に見初められていたから―――と、言う事が、判ってきたのです。
が……―――
「(……)あの―――」
「ん? どうしたんだい?」
「いえ……」
今思えば、あの黒キ魔女が、言い難そうだった……伝え難そうだった―――
その理由はどうしてなのか
けれどもそれは、ササラ本人の口から伝えられない限り、知り様がないのです。
#32;伝えられない言葉
そんな一日が過ぎた、その翌日の事……
シェラザードは、マナカクリムのギルドマスターの訪問を受けていました。
「あ……あのお~~~ぅ?」
「(……)やっと見つけたわ―――」
その言葉を受け、同時にシェラザードの頭の中を巡った事と言ったら……?
え?『やっと見つけた』―――って……もしかして?
『カツアゲしようとしていたチンピラを、逆にカツアゲし返す為に、ちょっと強めに塀を蹴った時、半壊させた』事かあ~?
いやっ―――それとも……
『兎人族の娘を、ナンパしようとしていたチャラ男を、少し強めに小突いて、骨折っちゃった』事かあ~?
いやいやいや―――それとも??
『酒場で飲み逃げした事がバレた』とか??(←ダウトw)
―――等と、まあ……そうした疑いは、枚挙に暇がなかったようで……
しかし―――ギルドマスター・ノエルが、シェラザードを訪ねてきたのは、そんな理由ではなく……。
「あなた……エルフの王族関係者―――って言うのは、本当?」
「(へっ?)え~~~っと……それ、誰から聞いたんです?」
「それより―――“コレ”を見て。 あなたには、“コレ”が何なのかは判るはず……」
「(!)“それ”―――『エヴァグリムの誇り』?? けれど……なぜ“そんなモノ”が、あなたの手元に……?!」
すると……ノエルは、何も言わないままに―――シェラザードに抱き付いてきた……
「やっと―――やっと見つけた…… その身を挺し、私の生命を救ってくれた、『私だけの英雄』の子孫を―――!」
「あなたの生命を救った―――? じっ……じゃあ―――!!?」
自分が、エルフの王族関係者―――
つまり王女であることを、知る人物が現れたことに、シェラザードは動揺を隠せませんでした。
けれど、ノエルが所持していた『ある物』を見せられると、何ら迷いすら見せずに、その装飾具が何であるかを示して見せた―――時……
ノエルの口から零れ出た『私だけの英雄』……その真実
そして、知ることとなる―――
シェラザードの“先祖”に当たる方の、凄絶なる最期の瞬間を。
つづく




