#31
その“歌声”に誘われるがまま、彼女達は、その“歌声”がしている源泉へと足を向かわせていました。
その源泉とは―――
マナカクリムの中央に位置する『噴水のある広場』。
そして、その場所にはやはり―――“ある者”が……
数々の旋律や、その歌声などで、仲間達に支援を行う【吟遊詩人】。
けれど、自分達が着いた頃には、もう―――?
~♪―はん~あぁあ やんなっちゃ~った あ~んあぁあ 驚いた―♪~
ズコ―――
「(え……)ぇえええ~~?!」
なんぢゃそりゃぁああ~!
先程まで、その耳を潤し、この胸に響いていた歌声モノはどこへやら。
いつしか“調子”は『コミカル』なものに変わっており、剰え周りからは“笑いの渦”を取っていたのです。
「あれから300と50年! ボク達を苦しめていた魔王は、討ち伐されはしましたけれど、一向に変わらなかったのは、ボク達の暮らしぶり。 あのですね―――奥さん、ここだけの話しなんですケド、ボクが街頭で自慢の咽喉を披露したって、『コレ』っぱかしにかならないんですよ~? えっ?それがお前の才能だって? あのねぇ、お前めぇさん、それ言っちゃあおしめえだヲ。」
♪―なあぁ~~んでか―♪
「って、そりゃですね あ、あんた達がいて、ボクがいる――― お一つ、ボクを憐れと思うんでしたら、こちらの器に“お気持ち”を頂戴ませませ―――と、言うわけでございまして、ここらでお一つ、お歌を披露したく思いまするるる~~。」
う~~ん?
“コレ”って、『歌』って言うより『漫談』?
……て言うより、なん―――なの? コノヒト……
折角―――の、“歌声”に誘われてきたと言うのに、果たしてそこにいたのは、“調子”に乗せて“笑い”を取る、そう言った“芸人”とも取れなくもなかったため、あの“歌声”に期待を寄せていたシェラザードはガッカリとしたものでした。
が……―――
「―――ッハハ、変わんねえな、あの人もw」
「しかし、私達のクランの内では、あの人が一番の“稼ぎ頭”だったのですよね。」
「(ゑ~)そなの?」
「今はまあ……あなたやササラ様もいますから、そうは思わないんでしょうけどね――― けれど、あの人の“歌”は、本物なのよ?」
「ふぅ~ん…… じゃあなに? “お笑い”を披露してるの―――って……」
その事は、終ぞ“悪友”からは返ってきませんでしたが、優れた歌声を持つ者に、“敢えて”の選択をさせてしまっているのは、自分達の“不手際”も関係している―――そうも思えなくもなかったため、シェラザードも、それ以上は追及しないでおいたのです。
それはそれで良かったのですが――― 一つ気になったのが……
アレ……? ササラどうしたんだろ
あの吟遊詩人の人、クシナダ達の一員メンバーだったはずなのに……
まるで、知っているかのような眼差しを向けるなんて―――
そう……それは、自分達の会話に、一切乗ってこなかった、黒キ魔女の存在……
確かに、その時は、自分達との会話の環に入ろうとはしませんでしたが、どことなく彼女は、この吟遊詩人の事を―――
すると?
え? なんで皆、帰ってっちゃうの?
あの人、もう歌い始めているのに……
その吟遊詩人が、再び囀り始めた頃から、集まっていた人達が、疎らに散り始めた……
そして、口々に言っている事を、耳にする―――
「あの“一芸”面白かったけど……なあ?」
「ああ―――楽器奏る技術は、悪くはないんだが……」
「なんにせよ、“口パク”じゃあなあ?w」
“口パク”?なに言ってんの―――こいつら……
こんなにも……また――― 胸に……ココロに響く詞を……
歌っているって言うのに―――
シェラザードには、不思議でなりませんでした。
“一芸”を披露している時とは、また別の顔――― 真剣な顔つきで歌っている者の事を、嘲笑っているかのような評価。
だから、その事に一言物申そうと、したのですが―――
「止めておきなさい、シェラ―――」
「え~? なんでよ―――」
「仕方がないのよ…… だって、この人の声、“特別”なんだもの―――」
「“特別”?」
「シェラザード様、この人の“声”は、普通の人達には聴こえないんです。」
「(え……)それ―――って……」
「はい、言わば、あの人が認めた者にしか、その“声”は伝わらない―――」
「けど―――不思議なこともあるもんだぜ。 シェラやササラの事は、知らせたはずなんてないのになあ? なのに、なんで……あの人の声が聴こえてるんだ?」
「(!)言われてみれば―――」
その吟遊詩人の、生まれ持った特異性からか、この吟遊詩人が、いくら心を込めて歌い上げようが、普通の人には耳に届かなかった……
心に、響こうなど、あろうはずもなかった―――……
だからこそ、その吟遊詩人の事を、昔からよく知っている冒険者仲間達は、こう呼んだのです。
#31;声莫キ歌声
「『声莫キ歌声』? あれ?ちょっと待ってよ――― 確か、『緋鮮の記憶』にも、同じ名前を持った人が、いたような―――?」
「『緋鮮の記憶』の愛読者である、あなたには判ったようね。 ええ、そうよ、あのお話しに登場する人物の一人、『歌姫』こそが、あの人……吟遊詩人の【ミカ】と言う人よ。」
自分達が、吟遊詩人【ミカ】の事を話し込んでいる最中でも、その旋律は止むことはありませんでした。
『戀』の歌
『愛』の唄
『仲間』の詩
『旅立ち』の謡
『冒険』の謠
そして
『思いを馳せ綴る』謌
しかも、そのどれもが―――……
なんで……この人、一度も会った事もないのに―――……
ここ最近、私達の身の回りで、あった出来事を詞に出来るんだろう―――……
“あの出来事”の最中には、この人の姿なんて、どこにも見えなかったのに……
不思議なこと―――と、言えば。
シェラザード王女が一大決心をして、自国に巣食う『身中の蟲』達を退治すべく、行動していた―――
そうした数々の出来事を、恰もそこにいたかのように、克明に表現できていた事……
『“悪友”との暫しの別離れ』や―――
『憧憬れの対象であった者との邂逅』―――
だからこそ―――ココロに響く……
胸を打つ…………
ゆえにこそ―――自然と涙腺が緩み……
涕が迸しる……
そして、一頻り心ゆくまで歌い上げたからか―――
吟遊詩人はこちらを向いて、“ニコ”と微笑み返す……
「やあ―――また会えたね……」
なんのことはない―――
王女シェラザードは、すでに会っていたのです…… 『10年前』、エルフの王国の城を訪れていた、この吟遊詩人に……
つづく




