#27
“未明”による、ダーク・エルフの襲来により、一時的にエヴァグリムの城下街は、混乱の坩堝となりました。
けれど……そこにはすでに―――
「(!)何者だ!お前は―――」
「この私が、何者であるか―――そんな事は些末な事だ……。」
『緋鮮のドレス』に『黄金の甲冑一式』、そして『黄金の剣』……
その“有り様”に、アウラは思う処となっていました。
なんだ……この者は―――
まるで……まるで、“あの存在”と同じ―――
この私も……幼い頃に憧憬れた―――『緋鮮の覇王』そのもの!
かの……創作話の序盤に斯くあり―――
『その者、鬼人であると言えど、その心に大志を抱き、さある“智慧ある者”の助言を賜りながら、世界を“正道”へと導く手とならん』
『ただ……その者、鬼人であると言えど、その角を持たず、その代わりとして目鼻立ちよく秀麗であり、匂い立つ色香を放てり』
『そして、鍛えられたる“武”もさながらにして、身形も他の鬼人とは“異彩”を放てり』
『“流れるような金色の御髪”、“熱き“情熱の焔”を宿したかのような緋鮮の眸”……』
『周知である鬼人の風貌ではなく、他者の見様によりては、“人族”や“エルフ族”の若い女性に見えたり』
『“緋鮮のドレス”、“黄金の肩当”、“黄金の胸当て”、“黄金の小手”、“黄金の腰当”、“黄金の軍靴”の『甲冑一式』に』
『【デュランダル】と銘打たれた“黄金の剣”を携えたる』
『その者の名は【ニルヴァーナ】……』
『しかして、この日この時を以ちたりて、“名”を――――』
#27;緋鮮の覇王
『―――と、自ら名乗りたる。』
状況がこうなる、その僅か以前―――
「(宙空に飛竜が舞っているな……) それじゃ、オレはこれから、緋鮮の覇王の英霊を、この身に降ろす…… その後は、手筈通りにお願いします―――」
「無理はしないでね―――」
「ご武運を―――」
「(……フッ)〖大いなる古の英霊よ、我が身に依りて契約の礎とせよ〗=〖憑依―――英霊降臨:『緋鮮の覇王』〗!」
教えられた通りに“式句”を唱えると、その場に焔が巻き上がり……
そして顕現したるは、伝承通りの容姿をした、“女性”でありました。
「(……)ふむ―――状況は好ましくはない……が、面白くはなってきているようだな。」
「―――あなたが……」
「そなた―――ノエルの娘だな。」
「はい! けれど……私の事をどうして……」
「そなたの出生の折、私も現場に立ち合っていたのでな……。」
「(あ……)では―――」
「予定より早い陣痛に破水――― それを知ってしまった時、流石の私も肝を冷やしたものだ……。 だが、“ある方”の取り成しもあってな、母子共に大事なくて良かった……と、言う処だ。」
直接お会いした事もなかったのに、自分の出生時の事を知っていた……。
かつての仲間の慶事ではあったものの、同時に危険性を伴った出来事に、例え緋鮮の覇王ではなくとも、共に駆けてきた仲間達にとっては、心配したものでした。
が、そこはやはり、ノエルの母が語ったように、『とある方』の取り成しもあり、母・娘共に生き永らえる事が出来た―――と、言う事だったのです。
それは、それとして―――
「では、緋鮮の覇王様、私からの依頼を―――」
「いや……それは出来ぬ―――」
「(!)どうして―――……」
「私は……そなたからの、そなた達からの、その願い…… 聞き届けてやることは、出来ぬ……。 “同じ様な願い”を、重ねて受ける―――と、言うのは……な。」
「(!)私と……同様のお願いを―――既に?! それは一体……誰なのです?!」
違う種属同士……同じ性別……
この私に、叶わぬ“想い”を患ってしまった“彼女”―――
それも、特に禁忌とされている、“鬼人”と“エルフ”……
「『ローリエ』……私は、お前の想いに答えてやれなかった――― それであるにも拘わらず、彼女が事切れてしまう以前、私に託した事があるのだ。 彼女の出身国―――エヴァグリムの未来を……な。」
「そんな……では、かの王国の異変は、その方の代より既に……」
「彼女の時代では、小さな萌芽でしかなかったのだろう……が、ローリエは、その危険性を予見していたのだ。 そう言う事なのだ……『こうなる事』は、目に見えていたのだ。 そして……私は蘇えった―――“緋鮮の記憶”と共に…… その初仕事が、ローリエ……お前から託された事とは、皮肉と言うものだな。 ゆえに、私は……そなたからの頼みは聞けぬのだ。 そこは理解をしてくれ―――ノエルの娘よ……」
過去の存在であり、現在に於いては生きてすらいない―――言わば“霊体”……
しかし、怨みがましく穢れた悪しき存在ではなく、生前の功績を認められ、聖なるものへと昇華したものを、『英霊』と呼びました。
そして、鬼人の術である“鬼道”を基に、依り代を媒介にして降霊する……
こうして、古代の英雄は、現代のこの世に蘇えったのです。
そして――――――………
「そなた―――…… 緋鮮の覇王とお見受けするが……相違ないな?」
「ほう―――そなたとは初見のハズであるのに、この私の事を古代の英雄と間違えてくれるとは…… 少々、面映ゆい事ではあるな。」
「(……)“違う”―――と言うのであれば、なぜ私の前にはだかる。」
「逆に問おう―――闘争を起こす気もないのに、なぜにあのような啖呵を切った――― 私には……その事が不思議でならぬ。」
「なに―――?! だがしかし……あの場には、そなたの様な者はいなかったはず……」
「その場にはいなくとも、私には見れていたのだよ…… 肉体は失ってはいるものの、その魂は不滅――― そうした術を、この私自身の“盟友”の手で、してもらったのだからな……。 だから―――“見えて”いた…… 霊体となったこの私には、全ての“導き”が、手に取る様に判るのだ―――!」
“存在”の否定―――まではするものの……
その証言することで、判ってしまった……
間違いない……緋鮮の覇王は、誰かしらに“憑依”することにより、この時代に蘇えったのだ……
ならば―――託した方が良いのか……?
シェラザードの国を護る為に、一肌脱ぐつもりであった、私の代わりを……
つづく




