#20
予期せぬダーク・エルフの姫将軍の来訪を受け、剰え宣戦の布告までされ―――
一時エヴァグリムの城内は、動揺が奔ったものでした。
このまま―――あの『黒竜の乗り手』と畏れられた姫将軍が、宣戦布告と共に、城内にいる我らを鏖殺しにするのではないか?!
いや……それはまずあり得ない―――こちらには、“お転婆”とも、“じゃじゃ馬”とも呼ばれておる、王女様がおられるではないか!
ああ―――そうだった、王女ながらも武芸の鍛練をするなど、酔狂の極み―――と、思っていたが……なかなかどうして―――w
“こういう時”のために、我々の役に立ってくれるとはなあ?!
これは……ある、心莫い者達の―――囁き……
それに、こうした者達は、王女であったとしても、少しも王女らしからぬ者に対し、苦々しくさえ思っていたのです。
けれど……なぜか王女は、自分達を庇ってくれていた―――??
しかし……彼らは、王女の『真意』を、知らない―――
それはそうと、今回の一連の騒動を収まらせたシェラザードは、自分の部屋である『王女の部屋』に戻り……
「はああ~~~疲れたあ~~~ まさかアウラが、あの人達連れてきちゃうなんてさぁ……計算外だよぅ……。」
「随分と―――疲弊されているご様子だねえ?我が主―――」
「ああ~~うん…… アウラがマナカクリムに顔見せた時から、“いつかはこうなる”―――って思ってたけどさぁ…… それに、今回のようなことになるのに、その時は“一対一”での勝負……って、思っちゃってたからね……。」
「そしたら、相手の方が一枚も二枚も上手だった―――と?」
「そ―――そう言う事……危うく絆されそうになっちゃったよ……。」
「フフッ―――それは大変でしたねぇ? それに、もしそうなったとしたら、あなた様が“私”に語ってくれた筋書き……大筋で書き換えなくちゃならなくなる―――」
「判ってるよ―――けど、あの場を退いてくれた事は幸いだったわ……とは言え、猶予されてる時間も、そう残されてない――― だから……やるよ―――」
幸いなことに、彼女の“真意”は、まだ誰も知られている様には感じられませんでした。
そして―――なぜ彼女が、親しき間柄の者達までも、欺いてまで事に及ぼうとしたのか……
それは―――
その一つの、大きな要因が『公爵ヘレナ』でした。
強大な力を持ち、自分達よりも永き機を紡ぎ、なにより賢い……
だからこそ踏み切れた―――踏み切ろうとしたのです。
#20;一人ぽっちの戦争
この『国』に於いて……この『城』に於いて、王女は孤独でした。
栄えある王室を差し置き、勝手気ままに横行する、力のある上級貴族や官僚……そして大商人達。
言わば―――この国は『傀儡』そのものだった……
だからあの時―――“グサリ”と突き刺さったあの一言……
『それをする為には、お前の父である『現国王』のように“傀儡”にはならないとな―――!』
その“言葉”は、どんな鋭利な剣で突き刺された時よりも痛かった……
そして更には―――
『お前は……お前自身の運命も変えられず、お前の国自体の運命も変えられなかった……』
ああ……その通りだよ―――アウラ……
私は……私一人では、私の運命は変えられそうになかった……
それは、あなたも言っていたように、私の国自体の運命も……!
けど……違うよ―――違うんだよ……
私は今、大きな味方をつけた……
それにもう……私は一人であって、一人じゃない……
だからこそ今―――私は行動を起こす!
だけど、その前に―――……
「ねえ……公爵ヘレナ、一つお願いをしてもいい?」
「“ヘレナ”―――で、構いませんよ……我が主。 それで……なにを?」
「“あの子”を帰してあげて……私の“身代わり”に―――“替え玉”になってくれた、“あの子”を……」
「よろしいので? あの者は、その最中に色々と見聞しましたよ。 “そこ”には、我が主の不都合な真実となるようなことも……」
「私の事なんてどうでもいい―――事の重大さは、いかにして駆逐すべきか……よ―――」
シェラザードが、『事』に及ぶ前に、是が非でもしなければならなかったこと―――
それは、今まで、王女の“身代わり”“替え玉”をこなしてくれた、シルフィの送還でした。
けれどヘレナの助言にもあったように、シルフィは王女の身代わりを果たすに際し、色々な“真実”を……
それも、一般庶民が知りだにしてこなかった、『王女の不都合な真実』ばかりを目にしてきたのです。
* * * * * * * *
“それ”は、身代わりとなって間もない頃―――身代わり王女は、本当の王女の部屋で、『ある物』を目にしていました。
「(あら……?)これは―――…… あの方の日記だわ―――?! それに……っ、これは―――!!」
それは……王女シェラザードがつけていた日記……
そこで身代わり王女は、思わぬ“真実”を目の当たりにしてしまうのです。
○/×
今日もまた、伯爵と官僚が、何やら話し込んでいる……
それもどうやら、自分達の利得となることのみ、話し合っているようだ。
彼らは、国の重鎮……国家へ、国王陛下へ、そしてそこに暮らす民草達に忠誠を誓っているはず……なのに―――許せない……。
○/△
今日は、また別の官僚と、城へ出入りしている商人とが、何やら話し込んでいる。
どうやら、国でその取扱いを禁じられている物品を、『裏市場』と言う場所で、違法な―――それも法外な額で取引すると言う相談をしているようだ。
そんなもので私腹を肥やして、一体何になると言うのだろう……
それに、そうした利益を、使うなどして回してくれると言うのならば、多少は大目に見てあげてもいいのだけれど……
なぜ彼らが―――彼らだけが富めるのか……
そんなことは判っている―――使わずに貯めこんでいるからだ……。
王女様が―――こんなことを……?
では……この私に“身代わり”をするようにしたのも―――
近くの街、マナカクリムでの、市場調査の為に……?
この方は……孤独なのだ―――
なのに、たった一人で強大な政敵に立ち向かおうとしているなんて……
たった一人で……あの魔王と遜色ない―――いや……それどころか、『あの物語』でさえ、一人の魔王を討つのに、多大な犠牲を払ったと言うのに……
それに、この国に巣食う“魔王共”は、一人じゃない……
こんな……勝ち目のない戦を……ならばあなたはどうして―――?!
当初、身代わり王女は、“身代わり”“替え玉”として、白羽の矢を立てられたことに、非常に迷惑がっていました。
けれど……その“役”を押し付けられて間もない頃に、知ってしまった……
この国の『異常』―――
この方は、決して愚かではない……
なのだとしても―――なぜ今にして、『行動に移る』という暴挙に?
そしてまた―――不都合な真実は……知れてしまう。
つづく




