第7話:貴族令嬢の興味と、届いた贈り物
朝の光がギルドの窓を優しく照らす中、アレン・ヴォルドは道具ベルトを丁寧に確認していた。
黒髪を短く整え、茶色の瞳に今日の決意を込める。
無頼の牙パーティーに加入して七日目。
回復魔法を連打する日々が続き、精神力の消耗を感じつつも、仲間たちとの時間が少しずつ心地よくなっていた。
ギルドの入り口では、いつもの三人が集まっていた。
ガルドが大剣を肩に担ぎ、赤毛を朝日に輝かせて元気よく声を上げる。
「アレン! おはよう! 無頼の牙の七日目だぜ! 今日も派手にいこう!」
レオンが銀髪を後ろで束ね、風魔法の杖を軽く回しながら軽く笑う。
「ははっ、ガルドは相変わらず元気だな。アレン、回復の準備は万端か?」
バーンは無精髭を撫で、のんびりとした様子で盾を担いでいる。
「アレン、朝からいい汗かきそうだな。戦いが終わったら腹ごしらえを忘れんなよ」
アレンは軽く頭を下げて三人と合流した。
「みんな、おはようございます。今日のクエストはどんな感じでしょうか?」
ガルドが豪快に胸を叩く。
「ミリアちゃんにまたいいのを回してもらおうぜ! 無頼の牙は勢いで勝負だ!」
クエスト受付カウンターに近づくと、ミリアが明るい笑顔で迎えてくれた。
金髪のポニーテールが元気よく揺れる。
「無頼の牙のみなさん、おはようございます! 昨日より少し難易度の高いクエストはどうでしょう? 東の森で出た『棘甲の熊』討伐です。報酬も悪くないですよ」
ミリアは地図を広げながら追加情報を教えてくれた。
「棘甲の熊は甲殻が硬いですが、首の後ろが弱点です。事前に注意しておいてくださいね。アレンさんたちの回復魔法なら、きっと大丈夫だと思います!」
アレンは丁寧に礼を言った。
「ありがとうございます、ミリアさん。いつも情報まで教えてもらって助かります」
ミリアは少し声を潜めて微笑んだ。
「このパーティー、どんどん目立ってほしいんです。頑張ってくださいね!」
四人がクエストの準備をしていると、ギルドの入り口の方から優雅な足音が近づいてきた。
銀色の長い髪を優しく波打たせ、紫の瞳が静かな知性を湛えた美しい女性が立っていた。
高級なドレスを優雅に着こなし、貴族らしい気品をまとっている。
彼女はエレノア・フォン・リヴェルタ。西部の有力貴族令嬢だ。
エレノアはアレンたちに視線を向け、特にアレンに目を留めた。
「失礼します。こちらが無頼の牙パーティーですね?」
ガルドが目を丸くする。
「おお、貴族のお嬢さんか? 何か用か?」
エレノアは穏やかに微笑みながら答えた。
「少しお話ししたくて参りました。……アレン・ヴォルドさん、覚えていますか? 以前、勇者パーティーのイベントで少しお会いしたことがあります」
アレンは驚いて彼女の顔を見つめた。
勇者パーティー時代、貴族主催の社交の場で軽く言葉を交わした記憶があった。
当時は地味な支援役としてほとんど目立たなかったはずなのに、彼女は覚えていたらしい。
「はい……覚えています。エレノア様ですね。お久しぶりです」
エレノアは紫の瞳を細めて続けた。
「勇者パーティーから離れたと聞き、少し驚きました。でも、男ばかりのパーティーで頑張っていると聞いて、興味が湧いてしまいまして。無頼の牙……少し荒々しい名前ですが、面白そうですわ」
レオンがくすくす笑う。
「ははっ、貴族令嬢にまで名前を覚えられるとはな。アレン、お前意外と顔が広いんじゃないか?」
バーンがのんびり頷く。
「まあ、貴族のお嬢さんが来るなんて珍しいな」
エレノアは小さく笑い、持っていた小さな木箱をアレンに差し出した。
「これはささやかな贈り物です。回復薬と支援魔法の触媒を強化したものです。少しでも役に立てば嬉しいですわ。無頼の牙パーティーの活躍、陰ながら見守っています」
アレンは箱を受け取り、少し戸惑いながら頭を下げた。
「ありがとうございます、エレノア様。そんなに気を遣っていただいて……恐縮です」
エレノアは優雅に微笑んだ。
「アレンさんが誠実で地味ながらも頼りになる方だったことは、覚えています。男ばかりの熱いパーティーで、どう活躍されるのか興味がありますわ。もしよければ、またお話を聞かせてくださいね」
彼女はそう言い残し、優雅に去っていった。
ガルドが箱を覗き込みながら興奮気味に言う。
「おお、すげえ高そうな回復薬じゃねえか! エレノア様、太っ腹だな!」
レオンが肩をすくめる。
「ふっ、貴族令嬢にまでバックアップされるとは。無頼の牙、だんだん派手になってきたな」
バーンがのんびり笑う。
「アレン、今日はいいものもらったな。戦いが終わったら、ゆっくり味わおうぜ」
アレンは箱を大事に抱えながら、静かに言った。
「少し慎重にいきましょう……この薬、今日のクエストで役立てます」
四人は東の森へと向かった。
棘甲の熊は二頭現れ、硬い甲殻と鋭い爪で襲いかかってきた。
ガルドが大剣を振り回して突っ込み、すぐに傷を負う。
「アレン、傷がヤバい! 癒してくれ!」
「ガンガンいけ! まだ来るぞ!」
アレンはすぐに回復魔法を唱え、緑色の光でガルドの傷を癒した。
エレノアからもらった強化触媒を使って支援魔法の効果を高め、皆の力を底上げする。
「ガルドさん、首の後ろを狙ってください!」
「そんな細かいこと言ってる場合じゃねえ! 無頼の牙は正面突破だ!」
レオンが風の刃を放ち、熊の動きを乱す。
「おいおい、また無茶かよ。アレン、俺にも強化を!」
バーンが盾で爪攻撃を受け止め、斧で反撃を加える。
「アレン、回復ありがとうな。まだいけるぞ」
戦闘は激しかったが、アレンはエレノアの贈り物を活用しながら回復魔法を連発した。
精神力が消耗する中でも、仲間たちの傷を一つずつ癒し、支援を重ねていく。
緑色の光が何度も閃き、無頼の牙の連携を支えた。
「アレン、癒してくれ! まだ痛え!」
「了解です……回復、続けます!」
最終的に二頭の棘甲の熊を倒し、クエストは成功した。
ガルドが息を荒げながら大笑いする。
「ははっ! 勝ったぜ! エレノア様の薬、効いたな! アレン、お前の回復連打が最高だった!」
レオンが汗を拭いながらアレンの肩を叩く。
「ははっ、相変わらず無茶だったが、よく耐えたぞ」
バーンがのんびり笑う。
「いい運動になった。今日は豪華な飯にしようぜ」
アレンは汗を拭きながら軽く微笑んだ。
「みんな、無事でよかったです……エレノア様の贈り物、ちゃんと役に立ちました」
ギルドに戻ると、ミリアがカウンターから明るく手を振ってきた。
「無頼の牙のみなさん、おかえりなさい! クエスト成功おめでとうございます!」
アレンが今日の戦闘を簡単に報告すると、ミリアは目を輝かせた。
「すごいですね……アレンさんたちの連携、どんどん良くなってます。このパーティー、絶対に目立ってほしいです!」
その夜、『鉄の杯』で四人は勝利を祝った。
ガルドがジョッキを掲げて叫ぶ。
「無頼の牙に乾杯! エレノア様にも感謝だぜ!」
レオンがくすくす笑いながらグラスを合わせる。
「貴族令嬢にまで興味を持たれるとはな。アレン、お前が鍵だぞ」
バーンが肉を頬張りながらのんびり言う。
「アレン、これからもよろしくな」
アレンは麦酒をゆっくり飲みながら、仲間たちの顔を見回した。
ミリアの積極的な応援。
そして、エレノアという新たな後ろ盾。
追放されてからわずか七日。
無頼の牙での日々は、予想以上に広がりを見せ始めていた。
回復魔法を連打する毎日。
でも、この男臭い仲間たちと、温かい応援してくれる人たちがいる。
少しずつ、前を向ける気がした。




