第8話:無頼の牙、珍しい休日
無頼の牙パーティーがギルドに加入してから八日目。
珍しくクエストの予定が入っていない休日を迎えていた。
アレン・ヴォルドはギルド併設の宿屋の部屋で目を覚ました。
黒髪を軽く手で整え、茶色の瞳に少し戸惑いの色を浮かべる。
「今日は……休みか」
普段は回復魔法を連発する戦闘の日々だったが、今日は何も予定がない。
アレンは小さく息を吐き、道具ベルトを外して部屋を出た。
ギルドの近くにある広場では、すでに三人が集まっていた。
ガルドが大剣を地面に立てかけ、赤毛を朝日に輝かせて大声を上げている。
「アレン! おはよう! 今日は珍しい休みだぜ! どうする?」
レオンが銀髪を後ろで束ね、木陰に座りながら軽く笑う。
「ははっ、ガルドが朝から張り切ってるな。アレン、今日は回復魔法の連発はなしでいいぞ」
バーンは無精髭を撫で、のんびりとした様子で大きな袋を肩に担いでいる。
「アレン、今日は飯をしっかり食おうぜ。戦いがない分、腹いっぱい食えるからな」
アレンは少し微笑みながら三人と合流した。
「みんな、おはようございます。休みって……何をすればいいんでしょう?」
ガルドが豪快に笑う。
「決まってるだろ! 男は休みでも体を動かさねえとダメだ! 近くの川で泳ぐか、腕相撲でもするか!」
レオンが肩をすくめる。
「おいおい、また無茶な提案だな。せっかくの休みだというのに、汗だくになるつもりか?」
バーンがのんびり頷く。
「まあ、飯の準備を先にしようぜ。アレン、今日は俺が腕を振るうから楽しみにしてろ」
四人はギルドの近くにある小さな川辺へと向かった。
エルトリア大陸の穏やかな気候の中、川の水は澄んでいて気持ちが良い。
ガルドが上着を脱ぎ捨てて川に飛び込み、大声で笑う。
「うおおお! 冷てえ! アレンも来いよ!」
アレンは少し困った顔で川辺に座った。
「少し慎重にいきましょう……水が冷たいですよ」
レオンが木陰で杖を回しながらからかう。
「ははっ、アレンは相変わらず真面目だな。休みの日くらい、少し羽目を外せよ」
バーンは川辺で火を起こし、持ってきた肉や野菜を焼く準備を始めた。
「アレン、今日は回復魔法じゃなくて、俺の料理を味わえ。肉の量はたっぷりだぜ」
川辺での時間は意外と賑やかだった。
ガルドが水をかけ合ってレオンを巻き込み、レオンが風魔法で軽く反撃する。
バーンが「飯ができたぞ!」と声を上げ、四人で囲んで食べる。
アレンは焼きたての肉を一口食べ、目を細めた。
「美味しいです……バーンさん、料理が上手いんですね」
バーンが満足げに笑う。
「まあな。冒険者やってると、飯が大事だって気づくんだよ。アレン、お前ももっと食え」
ガルドが肉を頬張りながら大声で言う。
「アレン、お前が加入してから、俺たちの戦いが変わったぜ。回復があってこそ、無頼の牙は無茶できるんだ!」
レオンがワインの入った革袋を傾けながらくすくす笑う。
「ふっ、認めるのは癪だがな。アレンの回復がなければ、ガルドはとっくに戦闘不能だ」
アレンは少し照れくさそうに言った。
「みんな、褒めすぎです……俺はただ、回復をかけているだけですから」
四人は川辺で時間を過ごした。
ガルドが腕相撲を挑み、レオンが皮肉を交えながら参加し、バーンがのんびり審判をする。
アレンは笑いながら見守り、時折ツッコミを入れる。
午後になり、四人はギルドに戻った。
ギルドの酒場『鉄の杯』では、ミリアが休憩時間に座っていた。
彼女はアレンたちを見つけると、明るく手を振ってきた。
「無頼の牙のみなさん、今日は休みだったんですね! どうでしたか?」
ガルドが豪快に笑う。
「おう! 川で泳いだり、飯食ったり、いい休みだったぜ!」
ミリアは目を細めて微笑んだ。
「よかったですね。アレンさんたち、いつも頑張ってるから、たまにはこういう日も大事です。このパーティー、どんどん目立ってほしいんですよ」
エレノアからもらった贈り物の箱を思い出しながら、アレンは静かに頷いた。
「ありがとうございます、ミリアさん。休みの日も、みんなと過ごせて楽しかったです」
その夜、四人は宿屋の部屋で少し酒を酌み交わした。
ガルドがジョッキを掲げて言う。
「無頼の牙に乾杯! 休みも悪くねえな!」
レオンが軽くグラスを合わせる。
「ははっ、明日からまた無茶なクエストが待ってるぞ。アレン、回復、よろしくな」
バーンがのんびり笑う。
「アレン、これからもよろしくな。飯、もっと作るぜ」
アレンは麦酒を一口飲み、仲間たちの顔を見回した。
追放されてからわずか八日。
地味な支援役だった自分が、こんなに賑やかな休日を過ごせるようになっていた。
回復魔法を連打する戦闘の日々も、今日のような休みの日も。
無頼の牙での生活は、少しずつ自分のものになりつつあった。
ミリアの応援の言葉と、エレノアの贈り物。
そして、男ばかりのバカな仲間たち。
アレンは静かに微笑んだ。
明日からまた、回復を連発する日々が始まる。
でも、今は少しだけ、この温かい時間を味わっていた。




