第6話:ミリアの優先クエストと、微かな噂
朝のギルドは柔らかな陽光に包まれていた。
アレン・ヴォルドは宿屋の部屋で道具ベルトを丁寧に巻き直し、小型のノートをポケットにしまった。
黒髪を短く整え、茶色の瞳に今日への気持ちを込める。
無頼の牙パーティーに加入して六日目。
回復魔法を連打する日々が、少しずつ体に馴染み始めていた。
ギルドの入り口では、すでに三人が待っていた。
ガルドが大剣を肩に担ぎ、赤毛を朝日に輝かせて大声を上げている。
「アレン! おはよう! 無頼の牙の六日目だぜ! 今日も気合いを入れていこう!」
レオンが銀髪を後ろで束ね、風魔法の杖を軽く回しながら皮肉っぽく笑う。
「ふっ、朝からガルドがうるさいな。アレン、回復の準備はできてるか?」
バーンは無精髭を撫で、のんびりとした足取りで盾を担いでいる。
「アレン、朝飯はちゃんと食ったか? 戦う前に腹を満たさないと力が出ねえぞ」
アレンは軽く頭を下げて三人と合流した。
「みんな、おはようございます。今日のクエストは何でしょうか?」
ガルドが豪快に胸を叩く。
「まだ決まってねえけど、ミリアちゃんにいいの回してもらおうぜ!」
クエスト受付カウンターに着くと、ミリアが明るい金髪ポニーテールを揺らして笑顔で迎えてくれた。
緑の瞳がアレンたちを捉え、いつもの笑顔が少し熱を帯びているように見える。
「無頼の牙のみなさん、おはようございます! 今日のおすすめクエストがありますよ。森の奥にある『毒霧の沼地』で魔蛙の群れが出てるんです。通常より報酬が少し良い中ランククエストで、ちょうど無頼の牙さんに合いそうかなって……」
ミリアはカウンター越しに詳細な地図を広げ、事前情報を丁寧に説明してくれた。
魔蛙の弱点は腹部と脚の関節、毒霧は風魔法で散らせる可能性があること、沼地の危険な沈み込みポイントなど。
さらに、小さな回復薬の瓶をそっと差し出す。
「これ、サービスです。少しでも役に立てば嬉しいです。アレンさんたちの回復魔法、ギルド内で少し話題になってきてるんですよ。もっと目立ってほしいな……」
アレンは少し驚きながら瓶を受け取った。
「ありがとうございます、ミリアさん。いつも親切にしてもらって、本当に助かります」
ミリアは頰を少し赤らめながらも、元気よく言った。
「無頼の牙パーティー、なんだか応援したくなってしまって。頑張ってくださいね!」
ガルドが親指を立てる。
「おう! ミリアちゃん、期待しててくれ! 今日も無頼の牙の活躍を見せてやるぜ!」
レオンがくすくす笑う。
「受付嬢にまで推されるとはな。アレン、お前の回復が効いてる証拠だぞ」
バーンがのんびり頷く。
「まあ、飯の時間になったら教えてくれよ」
クエストを受けて、四人は馬車に乗り、森の奥にある毒霧の沼地へと向かった。
湿った空気が濃くなり、木々が密集する中を進むと、緑がかった霧が視界を覆い始めた。
「よし、無頼の牙の出番だ! 俺が前で引きつける!」
ガルドが大剣を構えて突進した。
毒霧の中で魔蛙の群れが姿を現す。体長一メートルほどの蛙が十匹近く、粘つく舌と毒の霧を吐きながら襲いかかってくる。
ガルドの肩に魔蛙の舌が絡みつき、毒が回り始めた。
「ぐあっ! アレン、回復! 早く!」
「連打しろ、連打! まだ来るぞ!」
アレンはすぐに軽い回復魔法を唱えた。
緑色の柔らかい光がガルドの体を包み、毒の影響を和らげていく。
同時に支援魔法でガルドの力を強化し、動きを少し速くする。
「ガルドさん、腹部を狙ってください! 毒霧はレオンさんが散らしてくれれば……」
「そんな悠長なこと言ってる場合じゃねえ! 無頼の牙は勢いでぶち破る!」
レオンが風の刃を放ち、毒霧を少し散らそうとするが、霧はすぐに戻ってくる。
「ちっ、効きが悪いな。アレン、俺にも強化を!」
アレンは即座にレオンへ支援魔法をかけ、続けてガルドとバーンの回復を連発した。
精神力がじわじわと消耗していくのを感じながらも、仲間たちの傷と毒を癒し続ける。
バーンが盾で魔蛙の舌攻撃を受け止め、斧で反撃を加える。
「アレン、回復ありがとうな。まだいけるぞ」
魔蛙の群れが一斉に襲いかかり、ガルドが再び深手を負う。
アレンは汗を浮かべながら回復魔法を懸命に連打した。
「アレン、もっと! 毒が回ってきてる!」
「了解です……回復、続けます!」
緑色の光が何度も閃く。
アレンの魔法がなければ、この沼地での戦闘はすぐに苦戦していただろう。
レオンが風魔法で毒霧を何とか散らし、バーンが盾で守りながら斧を振り下ろす。
ガルドが大剣で魔蛙の腹部を狙い、ようやく数を減らしていく。
最後の数匹が一斉に毒霧を吐き出した瞬間、アレンは皆に支援魔法を重ねがけした。
「みんな、持ちこたえてください!」
ガルドが叫びながら大剣を振り下ろす。
「無頼の牙は負けねえ!」
戦闘が終わり、沼地に静けさが戻った。
ガルドが息を荒げながら大笑いした。
「ははっ! 勝ったぜ! アレン、お前の回復連打がなかったら危なかったな!」
レオンが汗を拭いながらアレンの肩を叩く。
「ふっ、精神力の消耗が激しそうだな。よく耐えた。無頼の牙の回復役として、頼りになるぞ」
バーンがのんびり笑う。
「アレン、今日もよく頑張った。飯の時間だぜ」
アレンは汗だくになりながら、軽く微笑んだ。
「みんな、無事でよかったです……連携が少しずつ良くなってきてると思います」
ギルドに戻る馬車の中で、ガルドがアレンの背中を軽く叩いた。
「お前がいるおかげで、俺たちはもっと無茶できるんだ。無頼の牙、悪くねえチームだぜ!」
ギルドに到着すると、ミリアがカウンターから身を乗り出して迎えた。
「無頼の牙のみなさん、おかえりなさい! クエスト成功おめでとうございます! 傷は大丈夫ですか?」
ミリアの緑の瞳が輝いている。
アレンが簡単に戦闘の流れを報告すると、彼女は嬉しそうに頷いた。
「すごいですね……アレンさんの回復魔法がみんなを支えてるんですね。もっと目立ってほしいです!」
その時、近くの冒険者たちの会話が耳に入ってきた。
「なあ、勇者様のパーティー、最近大物のクエストで少し苦戦してるらしいぞ」「女性陣の機嫌が悪いと動きがバラバラだってよ。あのハーレム、支援が足りてないんじゃねえか?」
アレンは一瞬胸がざわついた。
かつて自分がいたパーティーの話だ。
しかし、すぐに小さく息を吐き、自分に言い聞かせた。
「……今は無頼の牙に集中しよう」
ガルドが大声で笑う。
「おう! ミリアちゃん、今日もありがとうな! 無頼の牙はこれからも頑張るぜ!」
レオンがアレンを指差す。
「回復役のおかげだ。アレン、連打の調子が上がってきたな」
バーンが満足げに頷く。
「アレン、今日も飯奢るぞ。無頼の牙の勝利を祝おう」
その夜、『鉄の杯』で四人はいつものように酒を酌み交わした。
ガルドがジョッキを高く掲げて叫ぶ。
「無頼の牙に乾杯!」
レオンがくすくす笑いながらグラスを合わせる。
「ふっ、ミリアちゃんの優先クエストのおかげで、今日は楽だったな」
バーンが肉を頬張りながらのんびり言う。
「アレン、これからもよろしくな」
アレンは麦酒をゆっくり飲みながら、仲間たちの顔を見回した。
ミリアの積極的な応援。
そして、耳に入った微かな噂。
追放されてからわずか六日。
無頼の牙での日々は、予想以上に賑やかで、温かいものになりつつあった。
回復魔法を連打する毎日。
でも、この男臭いバカたちとなら、続けていけそうだ。




