第5話:無頼の牙、ギルドで少し目立つ
朝の光がギルドの窓から差し込む中、アレン・ヴォルドはいつものように道具ベルトを整えていた。
黒髪を短くまとめ、茶色の瞳に今日のクエストへの気持ちを込める。
無頼の牙パーティーに加入して五日目。
まだ追放の傷は完全に癒えていないが、男たちとの日々は予想以上に賑やかだった。
ギルドの入り口でガルドが大剣を肩に担ぎ、赤毛を振り乱して待っていた。
「アレン! おはよう! 無頼の牙の五日目だぜ! 今日も気合い入れていこう!」
レオンが銀髪を後ろで束ね、風魔法の杖を軽く回しながら近づいてくる。
「ふっ、ガルドが朝からうるさいな。アレン、回復の準備はできてるか? 今日は少し遠めの丘陵地帯のクエストだ」
バーンは無精髭を撫で、のんびりとした足取りで盾を担いでいる。
「アレン、朝から肉は持ってきたか? 戦った後は腹が減るからな」
アレンは軽く頭を下げて三人と合流した。
「みんな、おはようございます。今日のクエストは丘陵の『岩蟹の群れ』退治ですね。甲殻が硬いので、脚や関節を狙いましょう。俺は後方から支援と回復を担当します」
ガルドが豪快に笑う。
「計画はいいけどな! 無頼の牙は勢いで勝負だ! アレンが回復してくれりゃあ、俺は突っ込めるぜ!」
クエスト受付カウンターでは、ミリアが明るい金髪ポニーテールを揺らして立っていた。
緑の瞳がアレンたちを捉えると、いつもの笑顔が少し大きくなった。
「無頼の牙のみなさん、おはようございます! 今日も岩蟹のクエストですね。少し危険なので、気をつけてください。……あ、昨日登録したパーティー名、無頼の牙、ギルド内で少し話題になってますよ」
ミリアはカウンター越しに追加の地図と小さな回復薬の瓶をそっと差し出した。
「これ、使ってください。私の個人的なおすすめです。アレンさんたちの活躍、なんだか気になってしまって……」
アレンは少し驚きながら瓶を受け取った。
「ありがとうございます、ミリアさん。いつも親切にしてもらって助かります」
ミリアは頰を少し赤らめながらも、元気よく言った。
「無頼の牙パーティー、応援してます! 報告を楽しみにしていますね!」
ガルドが親指を立てる。
「おう! ミリアちゃん、期待しててくれ! 今日も無頼の牙の活躍を見せてやるぜ!」
レオンがくすくす笑う。
「受付嬢にまで名前を覚えられてるな。アレン、お前の回復が効いてる証拠だ」
バーンがのんびり頷く。
「まあ、飯の時間になったら教えてくれよ」
四人は馬車に乗り、西部の丘陵地帯へと向かった。
穏やかな丘が広がるエリアで、岩が点在する荒れた土地だ。
岩蟹の群れは甲殻が硬く、挟み込む攻撃が厄介だと聞いている。
丘陵に到着すると、地面から複数の岩のような影が動き出した。
岩蟹が六匹、大きなハサミを振り上げてこちらに迫ってくる。
「よし、無頼の牙の出番だ! いくぜ!」
ガルドが大剣を構えて突進した。
岩蟹のハサミがガルドの脚を狙うが、ガルドは大剣で受け止め、反撃を加える。
しかし、別の岩蟹が横から飛びつき、ガルドの肩に傷を負わせた。
「ぐっ! アレン、回復!」
「連打しろ! まだ来る!」
アレンはすぐに軽い回復魔法を唱えた。
緑色の柔らかい光がガルドの体を包み、傷を癒していく。
同時に支援魔法でガルドの力を強化し、動きを少し速くする。
「ガルドさん、脚を狙ってください! 甲殻の隙間です!」
「そんな細かいこと言ってる場合じゃねえ! 無頼の牙は正面からぶち破る!」
レオンが後方から風の刃を連発し、岩蟹の関節を狙う。
バーンが盾でハサミの攻撃を受け止め、斧で叩き落とす。
「アレン! 俺にも強化を! 魔法が通りにくい!」
レオンが叫ぶ。
アレンは即座にレオンへ支援魔法をかけ、続けてガルドとバーンの回復を連発した。
精神力がじわじわと消耗していくのを感じながらも、仲間たちの傷を一つずつ癒していく。
岩蟹のハサミがバーンを吹き飛ばし、ガルドが再び深手を負う。
アレンは汗を浮かべながら回復魔法を懸命に連打した。
「アレン、もっと! まだ痛えぞ!」
「了解です……回復、続けます!」
緑色の光が何度も閃く。
アレンの魔法がなければ、この戦闘はとっくに苦戦していただろう。
レオンが風魔法で岩蟹の動きを乱し、バーンが盾で守りながら斧を振り下ろす。
ガルドが大剣で甲殻の隙間を狙い、ようやく一匹、また一匹と倒していく。
最後の岩蟹がガルドに向かって猛烈に挟みかかった。
「危ない!」
アレンが声を上げると同時に、ガルドが叫んだ。
「無頼の牙は負けねえ!」
大剣が振り下ろされ、最後の岩蟹が甲殻を砕かれて倒れた。
丘陵に静けさが戻る。
ガルドが息を荒げながら大笑いした。
「ははっ! 勝ったぜ! 無頼の牙、今日も勝利だ! アレン、お前の回復連打、最高だったぞ!」
レオンが汗を拭いながらアレンの肩を叩く。
「ふっ、精神力の消耗が激しそうだな。よく耐えた。無頼の牙の回復役として、頼りになるぞ」
バーンがのんびり笑う。
「アレン、今日もよく頑張った。飯の時間だぜ」
アレンは汗だくになりながら、軽く微笑んだ。
「みんな、無事でよかったです……連携が少しずつ良くなってきてると思います」
ガルドがアレンの背中を軽く叩く。
「そうだろ? お前がいるおかげで、俺たちはもっと無茶できるんだ。無頼の牙、悪くねえチームだぜ!」
ギルドに戻ると、ミリアがカウンターから飛び出してくる勢いで迎えた。
「無頼の牙のみなさん、おかえりなさい! クエスト成功おめでとうございます! 傷は大丈夫ですか?」
ミリアの目が輝いている。
アレンが簡単に戦闘の流れを報告すると、彼女は真剣に聞きながらメモを取った。
「すごいですね……アレンさんの回復魔法がみんなを支えてるんですね。ギルド内で『無頼の牙ってパーティー、意外と頑張ってる』って少し話が出てきてますよ!」
ミリアは少し声を潜めて続けた。
「次はもう少し報酬の良いクエストを優先的に回しますね。アレンさんたちを、もっと目立たせたいんです」
ガルドが笑う。
「おう! ミリアちゃん、ありがとう! 無頼の牙はこれからもっと目立つぜ!」
レオンがアレンを指差す。
「回復役のおかげだ。アレン、連打の調子が上がってきたな」
バーンが満足げに頷く。
「アレン、今日も飯奢るぞ。無頼の牙の勝利を祝おう」
その夜、『鉄の杯』で四人はいつものように酒を酌み交わした。
ガルドがジョッキを高く掲げて叫ぶ。
「無頼の牙に乾杯!」
レオンがくすくす笑いながらグラスを合わせる。
「ふっ、少しずつギルドで名前が知られてきたな」
バーンが肉を頬張りながらのんびり言う。
「アレン、これからもよろしくな」
アレンは麦酒をゆっくり飲みながら、仲間たちの顔を見回した。
追放されてからわずか五日。
地味な支援役だった自分が、無頼の牙という男臭いパーティーで回復魔法を連打し、ギルド受付嬢から積極的に応援されるようになっていた。
まだ小さな変化だが、何かが確実に動き始めている。
ミリアの「もっと目立たせたい」という言葉が、ふと胸に残った。
無頼の牙パーティーの日々は、予想以上に賑やかで、温かいものになりつつあった。
回復を連打する毎日。
でも、この仲間たちとなら、続けていけそうだ。




