第25話:埃まみれの坑道と、坑道の奥で聞いた本音
馬車がガタガタと激しく揺れる中、アレン・ヴォルドは座席に体を預け、軽く目を閉じていた。
二十五日目。無頼の牙パーティーは今日も灰塵の坑道に向かう途中だった。
ここ最近、回復魔法を連発する機会が続き、朝の目覚めが少しずつ重くなっていることを、アレンは自分でも自覚していた。
体が重い。頭の奥が鈍く痛む。昨日も回復をかなり連発したせいだろう。
隣に座るガルドが大きなあくびをしながら、赤毛を掻き上げた。
「ふわあ……今日の岩ゴーレム、硬そうだな。アレン、回復頼むぜ! お前がいなきゃ俺、途中でぶっ倒れてたかもな」
レオンが向かいの席で腕を組み、銀髪を軽くかき上げながら皮肉っぽく笑った。
「ははっ、ガルド、お前はいつも同じことしか言わないな。アレン、顔色があんまり良くないぞ。昨日もかなり連発してただろ? 無理してないか?」
バーンは少し離れた席で干し肉をゆっくり齧りながら、のんびりとした声で言った。
「アレン、今日は肉を多めに持ってきてくれたか? 坑道の埃で喉が渇くからな。戦いが終わったら、しっかり腹ごしらえしようぜ」
アレンは目を細めて小さく息を吐いた。
「みんな、今日は埃がかなり濃いそうです。回復をこまめにかけながら、慎重にいきましょう。……少し、負担が大きいかもしれません」
ガルドが豪快に笑い、アレンの肩を軽く叩いた。
「慎重はいいけどな! 無頼の牙は勢いだ! お前がいるからこそ、俺たちは無茶できるんだぜ」
レオンがくすくすと笑いながら窓の外を見た。
「ふっ、最近ギルドで俺たちの名前を聞く機会が増えた気がするな。ミリアちゃんも『どんどん目立ってほしい』って言ってたし、エレノア様からもまた何か届きそうだ」
バーンが干し肉を飲み込みながらのんびり頷いた。
「そうだな。アレンが加入する前は、俺たち三人だけでやってた時はもっと苦労してたな。今は回復があるだけで全然違う」
アレンは静かに聞きながら、胸の内で思った。
地味な支援役だった自分が、こんな風に仲間から必要とされていると感じる日が来るとは思っていなかった。
馬車が灰塵の坑道の入り口に到着した。
四人は埃っぽい空気を吸い込みながら、暗い坑道の中へ足を踏み入れた。
坑道内は予想以上に視界が悪く、足元がざらつき、息をするたびに喉がざらつく。
やがて岩壁から岩ゴーレムが動き出し、重い拳を振り下ろしてきた。
ガルドが大剣を構えて突進するが、埃で足元が滑り、大きくバランスを崩す。
「ぐおっ! アレン、回復! 早く頼むぜ!」
アレンは即座に回復魔法を唱えた。
しかし、坑道に充満した濃い埃が緑色の光を散らし、回復効果が思うように乗らない。
ガルドの肩が深く抉れ、血が混じった埃が舞い上がる。
「ガルドさん、埃が魔法を散らしてます! もう少し近づいて……!」
「そんな悠長なこと言ってる場合じゃねえ! 無頼の牙は勢いでぶち破る!」
レオンが後方から風の刃を放ちながら叫んだ。
「おいおい、埃が邪魔すぎるぞ! アレン、強化も頼む!」
バーンが盾でガルドを庇いながら斧を振るった。
「アレン、こっちも来てるぞ!」
アレンは歯を食いしばり、回復と支援を交互に連発した。
精神力が急速に削られ、頭の奥がずきずきと痛む。
埃が目に入り、視界がさらに悪くなる中でも、光を絶やさず仲間を支え続けた。
戦闘は長く続いた。
岩ゴーレムの硬い拳が何度もガルドとバーンを襲い、アレンの回復が追いつかない瞬間も出てきた。
それでも四人は声を掛け合いながら、なんとか親ゴーレムを倒した。
坑道に静けさが戻った時、アレンは壁に手をついて大きく息を荒げていた。
ガルドが埃まみれの顔で笑った。
「ははっ……勝ったな。アレン、今日はお前もかなりキツそうだったぜ」
レオンがアレンの背中を軽く支えながら言った。
「ふっ、埃が魔法の邪魔をしてたな。アレン、よく持ちこたえた」
バーンがのんびりとした声で言った。
「アレン、今日は少し休め。飯は俺が多めに作るから」
帰りの馬車の中は、いつもより少し静かだった。
ガルドが珍しく声を落として言った。
「アレン、お前が倒れたら俺たち終わりだぞ。無理すんなよ」
レオンが窓の外を見ながら続ける。
「ははっ、認めるのは癪だが……お前がいなかったら、今頃俺たちはもっと苦労してただろうな」
バーンが干し肉を齧りながらのんびり言う。
「アレン、感謝してるぜ。これからもよろしくな」
アレンは小さく微笑んだ。
「みんな……ありがとうございます」
ギルドに戻ると、ミリアがカウンターから少し早足で近づいてきた。
「無頼の牙のみなさん、おかえりなさい! ……アレンさん、顔色が悪いですよ。大丈夫ですか?」
アレンが報告を終えると、ミリアは心配そうに言った。
「灰塵の坑道は埃がきついですよね。無理はしないでくださいね。このパーティー、どんどん目立ってほしいんですけど……みんなが元気でいてくれるのが一番です」
その夜、『鉄の杯』では四人がいつものテーブルに座っていた。
今日は埃まみれのまま酒を飲むことになった。
ガルドがジョッキを掲げたが、トーンは少し低めだった。
「無頼の牙に乾杯……今日はみんな、お疲れ」
レオンがワインを注ぎながらアレンを見た。
「アレン、今日は特に負担が大きかったな。少しペースを落としてもいいんじゃないか?」
バーンが肉を焼きながらのんびり言う。
「アレン、今日はゆっくり休め。俺が飯を多めに作ったから、たくさん食え」
アレンはジョッキを手に、静かに言った。
「みんな、ありがとうございます。まだ大丈夫です。でも、気遣ってくれて嬉しいです」
四人は静かに酒を飲み、今日の戦いの話を少しずつ交わした。
埃まみれの坑道での苦戦。
回復を連発する日々の積み重ね。
そして、仲間たちが自分を気遣ってくれる温かさ。
アレンは麦酒を一口飲み、胸の奥が少し軽くなるのを感じた。
追放されてから二十五日。
無頼の牙での日々は、試練を増やしつつ、確実に「仲間」というものを教えてくれていた。




