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第26話:風の尾根の記憶と、静かな夜の約束

馬車がゆっくりと坂道を登る中、アレン・ヴォルドは窓枠に肘をつき、外の景色をぼんやりと眺めていた。

二十六日目。無頼の牙パーティーは今日もクエストに向かう途中だった。

ここ最近、回復魔法を連発する日々が続き、体に重い疲労が蓄積していることを、アレンは自分でもはっきりと感じていた。


ガルドが隣の席で大あくびをしながら、赤毛を掻き上げた。

「ふわあ……今日の風の尾根、風が強そうだな。アレン、回復頼むぜ! お前がいなきゃ俺、吹き飛ばされてたかもな」


レオンが向かいの席で腕を組み、銀髪を軽くかき上げながら皮肉っぽく笑った。

「ははっ、ガルド、お前はいつも同じことしか言わないな。アレン、顔色があんまり良くないぞ。昨日もかなり連発してただろ? 少しペースを落としてもいいんじゃないか?」


バーンは少し離れた席で干し肉をゆっくり齧りながら、のんびりとした声で言った。

「アレン、今日は肉を多めに持ってきてくれたか? 風の強い場所は喉が渇くからな。戦いが終わったら、しっかり腹ごしらえしようぜ」


アレンは目を細めて小さく息を吐いた。

「みんな、今日は風が強いそうです。回復をこまめにかけながら、慎重にいきましょう。……少し、負担が大きいかもしれません」


ガルドが豪快に笑い、アレンの肩を軽く叩いた。

「慎重はいいけどな! 無頼の牙は勢いだ! お前がいるからこそ、俺たちは無茶できるんだぜ」


レオンがくすくすと笑いながら窓の外を見た。

「ふっ、最近ギルドで俺たちの名前を聞く機会が増えた気がするな。ミリアちゃんも『どんどん目立ってほしい』って言ってたし、エレノア様からもまた何か届きそうだ」


バーンが干し肉を飲み込みながらのんびり頷いた。

「そうだな。アレンが加入する前は、俺たち三人だけでやってた時はもっと苦労してたな。今は回復があるだけで全然違う」


アレンは静かに聞きながら、胸の内で思った。

地味な支援役だった自分が、こんな風に仲間から必要とされていると感じる日が来るとは思っていなかった。


馬車が風の尾根に到着した。

尾根は高く、強い風が吹き荒れ、足場が不安定だった。

翼蛇の群れが風に乗って滑空し、鋭い牙と尾で襲いかかってきた。


「よし、無頼の牙の出番だ! 俺が前で引きつける!」


ガルドが大剣を構えて突進した。

強い風が回復魔法の光を乱し、効果が思うように乗らない。

ガルドの胸が翼蛇の尾で切り裂かれ、血が風に舞う。


「ぐっ! アレン、傷が痛え! 癒してくれ!」


アレンは歯を食いしばって回復魔法を唱えた。

しかし、強風が緑色の光を散らし、回復が遅れる。

ガルドの傷がなかなか塞がらず、血がさらに流れ出す。


「ガルドさん、風が魔法を散らしてます! もう少し近づいて……!」


「そんな悠長なこと言ってる場合じゃねえ! 無頼の牙は勢いでぶち破る!」


レオンが後方から風の刃を放ちながら叫んだ。

「おいおい、風が強すぎるぞ! アレン、強化も頼む!」


バーンが盾で尾攻撃を受け止め、斧で翼蛇を狙う。

「アレン、こっちも来てるぞ!」


アレンは汗を浮かべ、精神力を振り絞って回復魔法を懸命に連発した。

頭が重くなり、視界が少し狭くなってきたが、必死に光を維持し続けた。


戦闘は長く激しかった。

風が味方にも敵にも影響を与え、ガルドとバーンが何度も深手を負う。

アレンは息を荒げながら、回復と支援を交互に繰り返した。

限界を感じる中でも、仲間たちの傷を一つずつ癒し続けた。


ようやく親蛇を倒した時、アレンは膝をついて大きく息を吐いた。


ガルドが息を荒げながら笑った。

「ははっ……勝ったな。アレン、今日はお前もかなりキツそうだったぜ」


レオンがアレンの背中を軽く支えながら言った。

「ふっ、風が魔法の邪魔をしてたな。アレン、よく持ちこたえた」


バーンがのんびりとした声で言った。

「アレン、今日は少し休め。飯は俺が多めに作るから」


帰りの馬車の中は、いつもより少し静かだった。

ガルドが珍しく声を落として言った。

「アレン、お前が倒れたら俺たち終わりだぞ。無理すんなよ」


レオンが窓の外を見ながら続ける。

「ははっ、認めるのは癪だが……お前がいなかったら、今頃俺たちはもっと苦労してただろうな」


バーンが干し肉を齧りながらのんびり言う。

「アレン、感謝してるぜ。これからもよろしくな」


アレンは小さく微笑んだ。

「みんな……ありがとうございます」


ギルドに戻ると、ミリアがカウンターから少し早足で近づいてきた。

「無頼の牙のみなさん、おかえりなさい! ……アレンさん、顔色が悪いですよ。大丈夫ですか?」


アレンが報告を終えると、ミリアは心配そうに言った。

「風の尾根は風がきついですよね。無理はしないでくださいね。このパーティー、どんどん目立ってほしいんですけど……みんなが元気でいてくれるのが一番です」


その夜、『鉄の杯』では四人がいつものテーブルに座っていた。

今日は風に吹かれた疲れが残る中、静かに酒を飲んでいた。

ガルドがジョッキを掲げたが、トーンは少し低めだった。

「無頼の牙に乾杯……今日はみんな、お疲れ」


レオンがワインを注ぎながらアレンを見た。

「アレン、今日は特に負担が大きかったな。少しペースを落としてもいいんじゃないか?」


バーンが肉を焼きながらのんびり言う。

「アレン、今日はゆっくり休め。俺が飯を多めに作ったから、たくさん食え」


アレンはジョッキを手に、静かに言った。

「みんな、ありがとうございます。まだ大丈夫です。でも、気遣ってくれて嬉しいです」


四人は静かに酒を飲み、今日の戦いの話を少しずつ交わした。

風の強い尾根での苦戦。

回復を連発する日々の積み重ね。

そして、仲間たちが自分を気遣ってくれる温かさ。


アレンは麦酒を一口飲み、胸の奥が少し軽くなるのを感じた。


追放されてから二十六日。

無頼の牙での日々は、試練を増やしつつ、確実に「仲間」というものを教えてくれていた。


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