第23話:霧の廃墟と、支え合う四人
無頼の牙パーティーが鉄の谷を攻略してから二十三日目。
アレン・ヴォルドは朝の宿屋で道具ベルトを丁寧に巻き直し、小型のノートをポケットに入れた。
黒髪を短く整え、茶色の瞳に今日の集中を込める。
ここ数日のクエストで回復魔法の負担が徐々に積み重なり、朝の目覚めが少し重く感じるようになった。
ギルドの入り口では、三人がすでに待っていた。
ガルドが大剣を肩に担ぎ、赤毛を朝日に輝かせて元気よく声を上げる。
「アレン! おはよう! 今日は『霧の廃墟』の亡霊騎士退治だぜ! 古い騎士の霊が徘徊してるらしい!」
レオンが銀髪を後ろで束ね、風魔法の杖を軽く回しながら軽く笑う。
「ははっ、ガルドは相変わらず張り切りすぎだな。アレン、回復の準備はできてるか?」
バーンは無精髭を撫で、のんびりとした足取りで盾を担いでいる。
「アレン、今日は肉の量を多めに持ってきてくれたか? 戦いが終わったら腹が減るからな」
アレンは軽く頭を下げて三人と合流した。
「みんな、おはようございます。少し慎重にいきましょう。霧の廃墟は視界が悪いので、声で位置を確認しながら進みましょう」
ガルドが豪快に胸を叩く。
「連携はいいけどな! 無頼の牙は勢いで勝負だ!」
クエスト受付カウンターでは、ミリアが明るい金髪ポニーテールを揺らして笑顔で待っていた。
「無頼の牙のみなさん、おはようございます! 今日のクエストは霧の廃墟の亡霊騎士ですね。霧が濃くて視界が悪いので、特に注意してください。アレンさんたちの回復魔法なら、きっと大丈夫だと思います!」
ミリアは地図を渡しながら、いつものように追加情報をくれた。
「廃墟の奥に親騎士がいるらしいです。最近、無頼の牙の名前をギルド内で聞く機会が本当に増えましたよ。このパーティー、どんどん目立ってほしいんです。頑張ってくださいね!」
アレンは丁寧に礼を言った。
「ありがとうございます、ミリアさん。いつも本当に助かります」
ガルドが親指を立てる。
「おう! ミリアちゃん、期待しててくれ! 無頼の牙、今日も派手にいくぜ!」
レオンがくすくす笑う。
「受付嬢の期待を背負うとはな。アレン、回復、よろしく頼むぞ」
バーンがのんびり頷く。
「まあ、戦いが終わったら飯だな」
四人は馬車に乗り、霧の廃墟へと向かった。
廃墟は濃い霧に包まれ、古い石壁が崩れ落ち、亡霊騎士の鎧姿がぼんやりと浮かび上がっていた。
「よし、無頼の牙の出番だ! 俺が前で引きつける!」
ガルドが大剣を構えて突進した。
亡霊騎士の剣がガルドの肩を切り裂き、冷たい痛みが走る。
「アレン、傷が痛え! 癒してくれ!」
「ガンガンいけ! まだ来るぞ!」
アレンはすぐに軽い回復魔法を唱えた。
緑色の柔らかい光がガルドの体を包み、傷を癒していく。
同時に支援魔法でガルドの力を強化する。
「ガルドさん、霧の中で孤立しないように! 声で位置を伝え合いながら……」
「そんな悠長なこと言ってる場合じゃねえ! 無頼の牙は勢いでぶち破る!」
レオンが後方から風の刃を連発し、霧を少し散らす。
「おいおい、また無茶かよ。アレン、俺にも強化を!」
バーンが盾で剣攻撃を受け止め、斧で亡霊騎士を叩き落とす。
「アレン、回復ありがとうな。まだいけるぞ」
戦闘は濃い霧の中で長引いた。
亡霊騎士の群れが霧の中から次々と現れ、ガルドとバーンが何度も傷を負う。
アレンは汗を浮かべながら回復魔法を懸命に連発した。
精神力がじわじわと消耗していくのを感じ、軽いめまいがした。
「アレン、傷がヤバい! 癒してくれ!」
「了解です……回復、続けます!」
緑色の光が何度も閃く。
アレンの魔法がなければ、この霧の中での戦闘はすぐに苦戦していただろう。
レオンが風魔法で霧を散らし、バーンが盾で守りながら斧を振り下ろす。
ガルドが大剣で親騎士を狙い、ようやく大きな亡霊騎士を倒した。
親騎士が倒れると、残りの群れも勢いを失い、次々と霧の中に消えていった。
廃墟に静けさが戻る。
ガルドが息を荒げながら大笑いした。
「ははっ! 勝ったぜ! アレン、お前の回復連打がなかったら危なかったな!」
レオンが汗を拭いながらアレンの肩を叩く。
「ははっ、相変わらず無茶だったが、今日は霧が濃くて大変だったな」
バーンがのんびり笑う。
「いい運動になった。今日は飯を豪華にしようぜ」
アレンは汗だくになり、軽く息を乱しながら微笑んだ。
「みんな、無事でよかったです……霧の中で視界が悪くて、回復が追いつかなくて焦りました」
ギルドに戻る馬車の中で、ガルドがアレンの背中を軽く叩いた。
「お前がいるおかげで、俺たちはもっと無茶できるんだ。無頼の牙、悪くねえチームだぜ!」
ギルドに到着すると、ミリアがカウンターから明るく手を振ってきた。
「無頼の牙のみなさん、おかえりなさい! クエスト成功おめでとうございます! 傷は大丈夫ですか?」
ミリアの緑の瞳が輝いている。
アレンが簡単に戦闘の流れを報告すると、彼女は嬉しそうに頷いた。
「すごいですね……無頼の牙の成功率、最近本当に安定してきてますよ。ギルド内で『あの男ばかりのパーティー、だんだん本格的になってる』って声が増えています!」
その時、近くで他の冒険者たちの会話が聞こえてきた。
「無頼の牙、霧の廃墟を無事にこなしたらしいな」「回復役がいるおかげで粘り強いって評判だぞ」
アレンはそれを聞いて小さく息を吐いた。
まだ小さな変化だが、無頼の牙の名前が確かに広がり続けている。
その夜、『鉄の杯』で四人は勝利を祝った。
ガルドがジョッキを高く掲げて叫ぶ。
「無頼の牙に乾杯!」
レオンがくすくす笑いながらグラスを合わせる。
「ふっ、ギルドの視線が増えてきたな。アレン、お前の回復が効いてるぞ」
バーンが肉を頬張りながらのんびり言う。
「アレン、これからもよろしくな」
アレンは麦酒をゆっくり飲みながら、仲間たちの顔を見回した。
霧の廃墟での濃い霧の中の戦い。
回復魔法を連発する毎日。
ミリアをはじめとする受付嬢たちの視線。
そして、男ばかりの熱い仲間たち。
追放されてからわずか二十三日。
無頼の牙での日々は、試練を繰り返しつつ、確実に周囲の注目を集め、静かに積み重なっていた。
明日もまた、回復を連打する日々が続く。
でも、今はこの仲間たちと一緒に、ゆっくりと前進していける気がした。




