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第2話:鉄の掟パーティーと、最初の本気クエスト

朝のギルド都市ガルドンは、いつもより少し活気づいていた。

アレン・ヴォルドは昨夜の酒の残り香を振り払うように、軽く頭を振った。

黒髪を短く整え、道具ベルトを腰にしっかり巻き直す。

昨日、勇者ハーレムパーティーから追放されたばかりなのに、今日はもう新しいパーティーと行動することになっていた。


「アレン! 遅いぞ! 早く来いよ!」


ギルドの入り口で、赤毛の巨漢ガルドが大剣を肩に担いで大声を上げていた。

その横では銀髪のレオンが腕を組み、皮肉っぽい笑みを浮かべている。

さらに少し離れたところで、バーンがおっさんらしいのんびりした顔でパンをかじっていた。


「おはようございます……みんな、早いですね」


アレンが近づくと、ガルドが豪快に笑った。

「当然だろ! 今日のクエストは少しランクが高いんだぜ。森の奥で出た『森狼の群れ』退治だ! 報酬もいいらしい」


レオンが肩をすくめる。

「ふっ、ガルドが『俺が全部倒す!』って張り切ってるだけだけどな。回復がいないとすぐにボロボロになるから、お前を誘ったんだよ」


バーンがパンを飲み込みながらのんびり言う。

「アレン、回復薬はちゃんと持ってきたか? 俺の飯も忘れんなよ」


アレンは小さく息を吐いた。

「もうちょっと計画的に進めましょう……回復魔法は準備してあります。支援魔法もかけますので、みんな無茶は控えてください」


三人は揃ってギルドのクエスト受付に向かった。

カウンターに立つミリアが、明るい金髪ポニーテールを揺らして笑顔で迎えてくれる。


「アレンさん! 昨日も新しいパーティーでしたよね? 今日も頑張ってくださいね! このクエスト、ちょっと危険なので気をつけて!」


ミリアはアレンたちにクエストの詳細を丁寧に説明しながら、追加の地図をそっと渡してくれた。

「森の奥の水場近くに狼の巣があるみたいです。事前に情報が入ってるので、参考にどうぞ」


アレンは軽く頭を下げた。

「ありがとうございます、ミリアさん。いつも助かります」


ミリアは少し目を細めてアレンたちを見た。

「鉄の掟パーティー……みんな男の人ばかりで、なんか楽しそうですね。応援してますよ!」


ガルドが胸を叩く。

「おう! 任せとけ! アレンが回復してくれりゃあ、俺は無敵だぜ!」


クエストを受けて、四人はロンドリアの東側にある「未開の森」へと向かった。

馬車で半日ほど揺られ、森の入り口で降りる。

木々が密集し、陽光が木漏れ日となって地面に落ちている。

空気は湿気を帯び、遠くから獣の遠吠えが聞こえてきた。


「よし、作戦はシンプルだ! 俺が前で突っ込んで、狼を引きつける! レオンが魔法で援護! バーンが守って、アレンが回復! 完璧だろ!」


ガルドが大剣を構えて意気込む。

レオンがため息をつく。

「またその無茶な作戦か……まあ、いいけど。アレン、強化魔法は忘れんなよ」


バーンが盾を構えながらのんびり言う。

「俺は後ろで待機だ。狼が来たら叩き落とすぜ。アレン、飯の時間になったら言えよ」


アレンはノートを軽く開き、森狼の特徴を簡単に確認した。

「森狼は群れで動きます。足が速いので、囲まれないように注意してください。俺は後方から支援と回復を担当します」


四人は森の奥へと進んだ。

木々の間を抜け、水場に近づくと、複数の目が光った。

灰色の毛並みの森狼が五匹、牙を剥いてこちらを睨んでいる。


「来たぞ! いくぜ!」


ガルドが大声を上げて突進した。

大剣を振り下ろし、一匹の森狼を吹き飛ばす。

しかし、他の狼が横から飛びかかり、ガルドの腕に牙を立てた。


「ぐあっ! 痛え! アレン、回復!」


「連打しろ! 早く!」


アレンはすぐに軽い回復魔法を唱えた。

緑色の柔らかい光がガルドの傷を包み、血が止まっていく。

同時に支援魔法でガルドの力を少し強化する。


「ガルドさん、もっと慎重に!」


「そんなこと言ってる場合じゃねえ! 来いよ狼ども!」


ガルドは傷を癒されながらも、再び突っ込んでいく。

レオンが風の刃を放ち、二匹の狼を切り裂く。

バーンが盾で狼の突進を受け止め、斧で反撃した。


「アレン! 俺にも強化かけてくれ! 魔法が当たらない!」


レオンが叫ぶ。

アレンは慌ててレオンにも支援魔法をかけ、続けてガルドの回復を連発した。

精神力が少しずつ消耗していくのを感じながらも、必死に魔法を維持する。


森狼の一匹がバーンに向かって飛びかかった。

バーンが盾で受け止めるが、勢いで後ろに下がる。


「バーンさん、大丈夫ですか!?」


アレンが声をかけながら、軽い回復をバーンにもかける。

四人の連携はまだぎこちない。

ガルドの猪突猛進、レオンの皮肉混じりの援護、バーンのでっかい守り、そしてアレンの懸命な回復と支援。

それでも、徐々に狼の数を減らしていく。


「アレン、もっと連打! 俺がまだ痛え!」


「了解です……回復、かけます!」


アレンは額に汗を浮かべながら、回復魔法を次々と唱えた。

光が何度も閃き、仲間たちの傷を癒していく。

狼の遠吠えが弱くなり、最後の一匹がレオンの風魔法で倒れた。


「ふう……終わったか」


ガルドが大剣を地面に突き立て、息を荒げて笑う。

腕や肩にいくつも傷跡が残っているが、アレンの回復でほとんど塞がっていた。


レオンがローブの袖で汗を拭う。

「ガルド、お前がもう少し控えめなら、こんなに回復連打しなくて済むんだがな」


バーンがのんびり笑う。

「まあ、いい運動になったぜ。アレン、回復ありがとうな。飯の時間だ」


アレンは少しふらつきながらも、道具袋から簡単な食料を取り出した。

「みんな、無事でよかったです……でも、もう少し作戦を立ててから動いた方がいいと思います」


ガルドがアレンの肩をバンと叩く。

「それが鉄の掟だろ! 無茶して、回復して、勝つ! お前、なかなかやるじゃねえか。アレン、今日から正式にうちのパーティーだ!」


アレンは苦笑した。

「正式に……ですか。まだ一日目ですけど」


レオンがくすくす笑う。

「ふっ、回復の調子も悪くない。連打されると安心するわ」


バーンが肉の干し肉を頬張りながら言う。

「アレン、明日もよろしくな。飯、もっと作るぞ」


四人は森の水場で少し休憩した。

アレンはノートに今日の戦闘を簡単にメモした。

敵の動き、仲間の連携の甘い部分、自分の魔法の消耗具合……。

地味だが、これが自分の役割だと改めて思った。


ギルドに戻る道中、ガルドが大声で歌を歌い始め、レオンが呆れ、バーンが笑う。

アレンはその後ろを歩きながら、静かに考えていた。

昨日まで勇者パーティーで感じていた孤独感が、少し薄れているような気がした。

男ばかりで、荒っぽくて、計画性は低い。

でも、誰もアレンを「空気」扱いしなかった。

ただ「回復してくれ」とストレートに頼ってくる。


ギルドに到着すると、ミリアがカウンターから手を振ってきた。

「アレンさんたち、おかえりなさい! クエスト成功おめでとうございます! 傷は大丈夫ですか?」


ミリアの目が少し輝いているように見えた。

アレンが軽く頭を下げると、彼女は追加の報酬書類を素早く用意してくれた。

「少し多めに処理しておきますね。このパーティー、面白くなりそうです」


ガルドが笑う。

「おう! アレンがいるからな!」


レオンがアレンを指差す。

「回復役のおかげだ。連打、頼りにしてるぞ」


バーンがのんびり頷く。

「次はもっと大きなクエストに挑戦するか。アレン、よろしくな」


アレンは小さく微笑んだ。

「はい……がんばります」


その夜、再び『鉄の杯』で四人は酒を酌み交わした。

ガルドが昨日と同じように大きなジョッキを掲げ、レオンが皮肉を交え、バーンが飯の話を始める。

アレンは麦酒を一口飲みながら、静かに仲間たちの顔を見た。


追放されたばかりの自分が、こんなに早く新しい居場所を見つけられるとは思っていなかった。

回復魔法を連打する日々が続くのだろう。

まだぎこちない連携だが、少しずつ形になっていく予感がした。


ミリアの「応援してますよ」という言葉が、ふと頭に残っていた。

ギルド受付嬢の彼女が、なぜかこの男臭いパーティーを気にかけているようだった。


鉄の掟パーティーの、二日目が終わろうとしていた。


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