表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/8

第1話:追放された日と、男臭いパーティーへの誘い

王都ロンドリアの冒険者ギルド本部は、今日も活気に満ちていた。

クエスト掲示板の前で冒険者たちが声を上げ、受付カウンターではミリアをはじめとする受付嬢たちが忙しそうに対応している。


その喧騒の片隅で、アレン・ヴォルドは静かに立っていた。

黒髪を短く整え、茶色の瞳が少し疲れた色を帯びている。

腰にはいつもの道具ベルトと小型のノートが下げられ、動きやすい旅装にフード付きのマントを羽織っていた。


「アレン……お前はもう、このパーティーには必要ない」


勇者パーティーのリーダーである勇者レイヴンが、淡々と言った。

その周りには、華やかな女性メンバーが三人、軽い笑みを浮かべて立っている。

聖女候補のルシア、剣士のミリアーナ、魔法使いのセレナ。

彼女たちは勇者レイヴンのハーレムを形成し、パーティーの華となっていた。


アレンは小さく息を吐いた。

「必要ない……ですか」


「そうだ。戦闘でほとんど目立たないし、支援魔法も地味だろ? パーティーの雰囲気が悪くなるって、みんなも言ってるんだよ」


ルシアが肩をすくめて笑う。

「アレンくん、いつも後ろでノート取ってるだけよね。空気みたいで、ちょっと気まずいわ」


ミリアーナが頷く。

「勇者様の機嫌も悪くなるし、もういいんじゃない?」


セレナはただ、興味なさそうに視線を逸らした。


アレンは追放の言葉を、静かに受け止めた。

元々、彼は勇者パーティーの支援役兼分析役だった。

敵の弱点を分析し、味方を強化する支援魔法をかけ、時には軽い回復魔法で皆を支える。

しかし、派手な攻撃魔法や剣技を持つメンバーたちに比べて、どうしても目立たなかった。

そして何より、女性陣の機嫌を取るために「アレンは邪魔」と判断されたらしい。


「わかりました。荷物はすぐにまとめます」


アレンがそう言うと、レイヴンは軽く手を振った。

「まあ、頑張れよ。次のパーティー探せばいいだろ」


女性陣は特に何も言わず、ただ笑っているだけだった。

アレンは胸に小さな痛みを感じながら、ギルドの控室に戻り、自分の荷物をまとめた。

小型のノート、回復薬の材料、支援魔法用の触媒……地味だが、彼にとっては大切な道具ばかりだ。


ギルドの外に出ると、夕暮れのロンドリアが広がっていた。

人通りが多い大通りを歩きながら、アレンは静かに考えを巡らせた。

追放された理由は理不尽だったが、反論する気力も湧いてこなかった。

地味な支援役がハーレムパーティーにいること自体、無理があったのかもしれない。


落ち込みながらも、ギルドに併設された大酒場『鉄の杯』へ向かった。

今日はもう、何も考えたくなかった。

酒場は冒険者たちで賑わい、テーブルでは大男が大笑いし、酒の匂いが濃く漂っている。


アレンは隅の席に座り、麦酒を一杯だけ注文した。

グラスを傾けながら、今日の出来事をぼんやりと思い返す。


「よお、暗い顔してんな。お前、勇者パーティーの支援役じゃなかったか?」


突然、大きな声が響いた。

アレンが顔を上げると、そこには筋肉質の巨漢が立っていた。

赤毛の短髪、傷だらけの革鎧を着込み、大剣を背負っている。

笑顔が豪快で、目がギラギラと輝いている。


「ガルド……さん?」


アレンは以前、ギルドで何度か顔を合わせた記憶があった。

男ばかりの冒険者パーティーの前衛を務める、猪突猛進タイプだ。


「そうだぜ! アレンだろ? なんかクビになったって聞いたぞ。まあ、座れよ」


ガルドは勝手にアレンの向かいの席に座り、大きなジョッキをテーブルに置いた。

続いて、細身の銀髪の青年が近づいてくる。

青い瞳に軽やかなローブを着た、風属性魔法使いのレオンだ。


「ふっ、ガルドがまた拾い物をしてる。追放された支援役か。面白そうだな」


レオンは皮肉っぽく笑いながら、隣に座った。

さらに、がっしりした体型の三十代男性が、のんびりとした足取りでやってくる。

茶髪に無精髭、重厚な斧と盾を担いだバーンだ。


「よしよし、今日の飯は俺が焼くぞ~。アレン、肉の量多めに頼むわ」


バーンはアレンの肩を軽く叩き、笑顔で言った。


アレンは少し戸惑いながら、三人を見つめた。

「えっと……皆さん、何の用ですか?」


ガルドが豪快に笑う。

「お前、回復魔法使えるんだろ? うちのパーティー、回復役がいなくて困ってんだよ! 前衛の俺が突っ込んで、魔法使いのレオンが後ろから撃つんだけど、誰も治してくれねえんだ」


レオンが肩をすくめる。

「正確には、ガルドが無茶しすぎてすぐボロボロになるんだよ。『アレン、回復!』って叫びたいんだけど、誰もいないからな」


バーンがのんびり頷く。

「まあ、暇つぶしにでも来いよ。うちは男だけだから、気楽だぜ」


アレンは麦酒のグラスを握りしめた。

追放されたばかりで、新しいパーティーの誘いなど予想外だった。

しかも男ばかりの、しかもかなり賑やかな三人……。


「でも、俺は地味な支援役ですよ? 派手な攻撃はできませんし……」


ガルドがテーブルをバンと叩く。

「いいんだよ! お前が回復してくれりゃあ、俺はもっと突っ込める! 回復魔法連打で頼むぜ!」


「連打……ですか」


アレンが控えめに返すと、レオンがくすくす笑った。

「ほら、期待してるぞ。どうだ、アレン。とりあえず明日のクエスト、一緒に来てみないか? 低ランクのゴブリン退治だ。報酬は山分けで」


バーンが肉の串焼きを頬張りながら言う。

「飯も奢るぞ。心配すんな」


アレンは少し迷った。

追放されたショックはまだ残っている。

しかし、この三人を見ていると、どこか温かいものを感じた。

ハーレムパーティーの華やかな雰囲気とは正反対の、男臭くて荒っぽい、でもストレートな誘い。


「……わかりました。明日だけ、試しに」


アレンがそう言うと、ガルドが大声で笑った。

「おう! 決まりだ! アレン、よろしくな!」


レオンがワイングラスを掲げる。

「ふっ、期待してるぞ。回復、頼むわ」


バーンが満足げに頷く。

「よし、じゃあ今夜は飲もうぜ。アレン、もっと飲め」


酒場の喧騒の中で、四人はジョッキを合わせた。

アレンはまだ心のどこかで追放の痛みを感じていたが、同時に新しい何かが始まる予感もした。


翌朝。

ギルドの前でアレンは三人と合流した。

ガルドは大剣を振り回し、レオンは風魔法の杖を軽く回し、バーンは盾を担いでいる。


「よし、アレン! 今日からお前は俺たちの回復役だ! 怪我したらすぐ治せよ!」


「回復魔法連打で頼む! 遠慮すんな!」


「アレン、肉多めに持ってきてくれたか?」


アレンは小さく息を吐きながら、道具ベルトを確かめた。

「もうちょっと計画的にいきましょう……わかりました。回復、かけますよ」


四人は低ランククエストの受付に向かった。

ギルド受付のミリアが、カウンター越しに明るく声をかけてくる。

「アレンさん! 新しいパーティーですか? 頑張ってくださいね!」


アレンは軽く会釈した。

ミリアは勇者パーティー時代から、いつも親切にしてくれていた受付嬢だ。

彼女の笑顔を見ると、少しだけ気持ちが軽くなった。


クエストは近くの森に巣食うゴブリン数匹の討伐。

簡単なはずだったが、ガルドが「俺が全部倒すぜ!」と突っ込んでいく。


「ガルド、待ってください!」


アレンが声を上げるが、すでに遅い。

ゴブリンの棍棒がガルドの肩を打ち、血が飛び散る。


「痛えぇ! アレン、回復! 早く!」


「連打しろ! もっと!」


アレンは慌てて支援魔法をかけ、続けて軽い回復魔法を連発した。

緑色の柔らかい光がガルドの傷を癒していく。

レオンが風の刃でゴブリンを切り裂き、バーンが盾で守りに入る。


「ほら、アレン! もっと強化かけてくれ!」


「了解です……」


戦闘は慌ただしく進んだ。

ガルドが無茶をし、レオンが呆れながらフォローし、バーンがのんびり守る。

アレンは回復魔法を懸命に連打しながら、皆を支えた。

結果、ゴブリンはあっさり倒され、クエストは成功した。


ギルドに戻ると、ミリアが目を輝かせて迎えた。

「すごいですね、アレンさんたち! 意外と息が合ってますよ?」


アレンは汗を拭きながら苦笑した。

「息が合うというより……振り回されてるだけですけど」


ガルドが大笑いする。

「まあいいじゃねえか! アレン、今日の回復、悪くなかったぞ!」


レオンが肩を叩く。

「ふっ、次はもっと無茶するからな。回復、期待してる」


バーンが満足げに言う。

「飯、食おうぜ。アレン、今日も奢るわ」


四人は再び酒場へ向かった。

アレンはまだ追放の傷が完全に癒えたわけではなかったが、この男臭いバカたちと一緒にいると、なぜか前向きな気持ちが少しずつ芽生え始めていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ