第1話:追放された日と、男臭いパーティーへの誘い
王都ロンドリアの冒険者ギルド本部は、今日も活気に満ちていた。
クエスト掲示板の前で冒険者たちが声を上げ、受付カウンターではミリアをはじめとする受付嬢たちが忙しそうに対応している。
その喧騒の片隅で、アレン・ヴォルドは静かに立っていた。
黒髪を短く整え、茶色の瞳が少し疲れた色を帯びている。
腰にはいつもの道具ベルトと小型のノートが下げられ、動きやすい旅装にフード付きのマントを羽織っていた。
「アレン……お前はもう、このパーティーには必要ない」
勇者パーティーのリーダーである勇者レイヴンが、淡々と言った。
その周りには、華やかな女性メンバーが三人、軽い笑みを浮かべて立っている。
聖女候補のルシア、剣士のミリアーナ、魔法使いのセレナ。
彼女たちは勇者レイヴンのハーレムを形成し、パーティーの華となっていた。
アレンは小さく息を吐いた。
「必要ない……ですか」
「そうだ。戦闘でほとんど目立たないし、支援魔法も地味だろ? パーティーの雰囲気が悪くなるって、みんなも言ってるんだよ」
ルシアが肩をすくめて笑う。
「アレンくん、いつも後ろでノート取ってるだけよね。空気みたいで、ちょっと気まずいわ」
ミリアーナが頷く。
「勇者様の機嫌も悪くなるし、もういいんじゃない?」
セレナはただ、興味なさそうに視線を逸らした。
アレンは追放の言葉を、静かに受け止めた。
元々、彼は勇者パーティーの支援役兼分析役だった。
敵の弱点を分析し、味方を強化する支援魔法をかけ、時には軽い回復魔法で皆を支える。
しかし、派手な攻撃魔法や剣技を持つメンバーたちに比べて、どうしても目立たなかった。
そして何より、女性陣の機嫌を取るために「アレンは邪魔」と判断されたらしい。
「わかりました。荷物はすぐにまとめます」
アレンがそう言うと、レイヴンは軽く手を振った。
「まあ、頑張れよ。次のパーティー探せばいいだろ」
女性陣は特に何も言わず、ただ笑っているだけだった。
アレンは胸に小さな痛みを感じながら、ギルドの控室に戻り、自分の荷物をまとめた。
小型のノート、回復薬の材料、支援魔法用の触媒……地味だが、彼にとっては大切な道具ばかりだ。
ギルドの外に出ると、夕暮れのロンドリアが広がっていた。
人通りが多い大通りを歩きながら、アレンは静かに考えを巡らせた。
追放された理由は理不尽だったが、反論する気力も湧いてこなかった。
地味な支援役がハーレムパーティーにいること自体、無理があったのかもしれない。
落ち込みながらも、ギルドに併設された大酒場『鉄の杯』へ向かった。
今日はもう、何も考えたくなかった。
酒場は冒険者たちで賑わい、テーブルでは大男が大笑いし、酒の匂いが濃く漂っている。
アレンは隅の席に座り、麦酒を一杯だけ注文した。
グラスを傾けながら、今日の出来事をぼんやりと思い返す。
「よお、暗い顔してんな。お前、勇者パーティーの支援役じゃなかったか?」
突然、大きな声が響いた。
アレンが顔を上げると、そこには筋肉質の巨漢が立っていた。
赤毛の短髪、傷だらけの革鎧を着込み、大剣を背負っている。
笑顔が豪快で、目がギラギラと輝いている。
「ガルド……さん?」
アレンは以前、ギルドで何度か顔を合わせた記憶があった。
男ばかりの冒険者パーティーの前衛を務める、猪突猛進タイプだ。
「そうだぜ! アレンだろ? なんかクビになったって聞いたぞ。まあ、座れよ」
ガルドは勝手にアレンの向かいの席に座り、大きなジョッキをテーブルに置いた。
続いて、細身の銀髪の青年が近づいてくる。
青い瞳に軽やかなローブを着た、風属性魔法使いのレオンだ。
「ふっ、ガルドがまた拾い物をしてる。追放された支援役か。面白そうだな」
レオンは皮肉っぽく笑いながら、隣に座った。
さらに、がっしりした体型の三十代男性が、のんびりとした足取りでやってくる。
茶髪に無精髭、重厚な斧と盾を担いだバーンだ。
「よしよし、今日の飯は俺が焼くぞ~。アレン、肉の量多めに頼むわ」
バーンはアレンの肩を軽く叩き、笑顔で言った。
アレンは少し戸惑いながら、三人を見つめた。
「えっと……皆さん、何の用ですか?」
ガルドが豪快に笑う。
「お前、回復魔法使えるんだろ? うちのパーティー、回復役がいなくて困ってんだよ! 前衛の俺が突っ込んで、魔法使いのレオンが後ろから撃つんだけど、誰も治してくれねえんだ」
レオンが肩をすくめる。
「正確には、ガルドが無茶しすぎてすぐボロボロになるんだよ。『アレン、回復!』って叫びたいんだけど、誰もいないからな」
バーンがのんびり頷く。
「まあ、暇つぶしにでも来いよ。うちは男だけだから、気楽だぜ」
アレンは麦酒のグラスを握りしめた。
追放されたばかりで、新しいパーティーの誘いなど予想外だった。
しかも男ばかりの、しかもかなり賑やかな三人……。
「でも、俺は地味な支援役ですよ? 派手な攻撃はできませんし……」
ガルドがテーブルをバンと叩く。
「いいんだよ! お前が回復してくれりゃあ、俺はもっと突っ込める! 回復魔法連打で頼むぜ!」
「連打……ですか」
アレンが控えめに返すと、レオンがくすくす笑った。
「ほら、期待してるぞ。どうだ、アレン。とりあえず明日のクエスト、一緒に来てみないか? 低ランクのゴブリン退治だ。報酬は山分けで」
バーンが肉の串焼きを頬張りながら言う。
「飯も奢るぞ。心配すんな」
アレンは少し迷った。
追放されたショックはまだ残っている。
しかし、この三人を見ていると、どこか温かいものを感じた。
ハーレムパーティーの華やかな雰囲気とは正反対の、男臭くて荒っぽい、でもストレートな誘い。
「……わかりました。明日だけ、試しに」
アレンがそう言うと、ガルドが大声で笑った。
「おう! 決まりだ! アレン、よろしくな!」
レオンがワイングラスを掲げる。
「ふっ、期待してるぞ。回復、頼むわ」
バーンが満足げに頷く。
「よし、じゃあ今夜は飲もうぜ。アレン、もっと飲め」
酒場の喧騒の中で、四人はジョッキを合わせた。
アレンはまだ心のどこかで追放の痛みを感じていたが、同時に新しい何かが始まる予感もした。
翌朝。
ギルドの前でアレンは三人と合流した。
ガルドは大剣を振り回し、レオンは風魔法の杖を軽く回し、バーンは盾を担いでいる。
「よし、アレン! 今日からお前は俺たちの回復役だ! 怪我したらすぐ治せよ!」
「回復魔法連打で頼む! 遠慮すんな!」
「アレン、肉多めに持ってきてくれたか?」
アレンは小さく息を吐きながら、道具ベルトを確かめた。
「もうちょっと計画的にいきましょう……わかりました。回復、かけますよ」
四人は低ランククエストの受付に向かった。
ギルド受付のミリアが、カウンター越しに明るく声をかけてくる。
「アレンさん! 新しいパーティーですか? 頑張ってくださいね!」
アレンは軽く会釈した。
ミリアは勇者パーティー時代から、いつも親切にしてくれていた受付嬢だ。
彼女の笑顔を見ると、少しだけ気持ちが軽くなった。
クエストは近くの森に巣食うゴブリン数匹の討伐。
簡単なはずだったが、ガルドが「俺が全部倒すぜ!」と突っ込んでいく。
「ガルド、待ってください!」
アレンが声を上げるが、すでに遅い。
ゴブリンの棍棒がガルドの肩を打ち、血が飛び散る。
「痛えぇ! アレン、回復! 早く!」
「連打しろ! もっと!」
アレンは慌てて支援魔法をかけ、続けて軽い回復魔法を連発した。
緑色の柔らかい光がガルドの傷を癒していく。
レオンが風の刃でゴブリンを切り裂き、バーンが盾で守りに入る。
「ほら、アレン! もっと強化かけてくれ!」
「了解です……」
戦闘は慌ただしく進んだ。
ガルドが無茶をし、レオンが呆れながらフォローし、バーンがのんびり守る。
アレンは回復魔法を懸命に連打しながら、皆を支えた。
結果、ゴブリンはあっさり倒され、クエストは成功した。
ギルドに戻ると、ミリアが目を輝かせて迎えた。
「すごいですね、アレンさんたち! 意外と息が合ってますよ?」
アレンは汗を拭きながら苦笑した。
「息が合うというより……振り回されてるだけですけど」
ガルドが大笑いする。
「まあいいじゃねえか! アレン、今日の回復、悪くなかったぞ!」
レオンが肩を叩く。
「ふっ、次はもっと無茶するからな。回復、期待してる」
バーンが満足げに言う。
「飯、食おうぜ。アレン、今日も奢るわ」
四人は再び酒場へ向かった。
アレンはまだ追放の傷が完全に癒えたわけではなかったが、この男臭いバカたちと一緒にいると、なぜか前向きな気持ちが少しずつ芽生え始めていた。




