第10話:連携の兆しと、ギルドのざわめき
無頼の牙パーティーが棘の森を攻略してから十日目。
アレン・ヴォルドは朝の光の中で道具ベルトを丁寧に確認し、小型のノートをポケットにしまった。
黒髪を短く整え、茶色の瞳に今日への集中を込める。
回復魔法を連発する日々が続き、少しずつパーティーの息が合ってきた実感があった。
ギルドの入り口では、三人がすでに集まっていた。
ガルドが大剣を肩に担ぎ、赤毛を朝日に輝かせて元気よく声を上げる。
「アレン! おはよう! 今日は中ランクの『霧隠れの谷』だぜ! 報酬もいいらしい!」
レオンが銀髪を後ろで束ね、風魔法の杖を軽く回しながら軽く笑う。
「ははっ、ガルドは相変わらず張り切りすぎだな。アレン、回復の準備はできてるか?」
バーンは無精髭を撫で、のんびりとした足取りで盾を担いでいる。
「アレン、今日は肉の量を多めに頼むぜ。戦いが終わったら腹が減るからな」
アレンは軽く頭を下げて三人と合流した。
「みんな、おはようございます。少し慎重にいきましょう。霧隠れの谷は視界が悪いので、連携を意識してください」
ガルドが豪快に胸を叩く。
「連携はいいけどな! 無頼の牙は勢いで勝負だ!」
クエスト受付カウンターでは、ミリアが明るい金髪ポニーテールを揺らして笑顔で待っていた。
「無頼の牙のみなさん、おはようございます! 今日のクエストは霧隠れの谷の魔狼退治ですね。霧が濃いので注意してください。アレンさんたちの回復魔法なら、きっと上手くいくと思います!」
ミリアは地図を渡しながら、いつものように追加情報をくれた。
「谷の奥に大きな親狼がいるらしいです。そこを倒せば一気に楽になりますよ。このパーティー、どんどん目立ってほしいんです。頑張ってくださいね!」
アレンは丁寧に礼を言った。
「ありがとうございます、ミリアさん。いつも本当に助かります」
ガルドが親指を立てる。
「おう! ミリアちゃん、期待しててくれ! 無頼の牙、今日も派手にいくぜ!」
レオンがくすくす笑う。
「受付嬢の期待に応えねばな。アレン、回復、よろしく頼むぞ」
バーンがのんびり頷く。
「まあ、戦いが終わったら飯だな」
四人は馬車に乗り、霧隠れの谷へと向かった。
谷に入ると、濃い霧が視界を覆い、足元が不安定になる。
魔狼の遠吠えが霧の中から響き、灰色の影が次々と現れた。
「よし、無頼の牙の出番だ! 俺が前で引きつける!」
ガルドが大剣を構えて突進した。
魔狼の群れが一斉に襲いかかり、ガルドの腕に牙を立てる。
「アレン、傷が痛え! 癒してくれ!」
「ガンガンいけ! まだ来るぞ!」
アレンはすぐに軽い回復魔法を唱えた。
緑色の柔らかい光がガルドの体を包み、傷を癒していく。
同時に支援魔法でガルドの力を強化し、動きを少し速くする。
「ガルドさん、霧の中で孤立しないように! レオンさんが風で霧を散らしてくれれば……」
「そんな悠長なこと言ってる場合じゃねえ! 無頼の牙は勢いでぶち破る!」
レオンが後方から風の刃を連発し、霧を少し散らそうとする。
「おいおい、また無茶かよ。アレン、俺にも強化を!」
バーンが盾で魔狼の突進を受け止め、斧で反撃を加える。
「アレン、回復ありがとうな。まだいけるぞ」
戦闘は霧の中で激しく続いた。
魔狼の群れが連携して襲いかかり、ガルドとバーンが何度も傷を負う。
アレンは汗を浮かべながら回復魔法を懸命に連発した。
精神力が消耗していくのを感じつつも、仲間たちの傷を一つずつ癒し、支援を重ねていく。
「アレン、傷がヤバい! 癒してくれ!」
「了解です……回復、続けます!」
緑色の光が何度も閃く。
アレンの魔法がなければ、この霧の中での戦闘はすぐに崩れていただろう。
レオンが風魔法で霧を散らし、魔狼の位置を明らかにする。
バーンが盾で守りながら斧を振り下ろし、ガルドが大剣で親狼を狙う。
少しずつ、だが確実に連携が形になってきた。
親狼が倒れると、残りの魔狼も勢いを失い、次々と倒れていった。
谷に静けさが戻る。
ガルドが息を荒げながら大笑いした。
「ははっ! 勝ったぜ! アレン、お前の回復連打がなかったら危なかったな!」
レオンが汗を拭いながらアレンの肩を叩く。
「ははっ、相変わらず無茶だったが、今日は少し連携が良くなった気がするぞ」
バーンがのんびり笑う。
「いい運動になった。今日は飯を豪華にしようぜ」
アレンは汗だくになりながら、軽く微笑んだ。
「みんな、無事でよかったです……少しずつ、息が合ってきたと思います」
ギルドに戻る馬車の中で、ガルドがアレンの背中を軽く叩いた。
「お前がいるおかげで、俺たちはもっと無茶できるんだ。無頼の牙、悪くねえチームだぜ!」
ギルドに到着すると、ミリアがカウンターから明るく手を振ってきた。
「無頼の牙のみなさん、おかえりなさい! クエスト成功おめでとうございます! 傷は大丈夫ですか?」
ミリアの緑の瞳が輝いている。
アレンが簡単に戦闘の流れを報告すると、彼女は嬉しそうに頷いた。
「すごいですね……アレンさんたちの連携、どんどん良くなってます。このパーティー、絶対に目立ってほしいです!」
その時、近くの冒険者たちの会話が少し耳に入ってきた。
「無頼の牙ってパーティー、最近結果を出してるらしいな」「男ばかりのバカっぽい連中なのに、意外と粘り強いって話だぞ」
アレンはそれを聞いて小さく息を吐いた。
まだ小さな評価だが、確かに無頼の牙の名前が少しずつ広がり始めている。
その夜、『鉄の杯』で四人は勝利を祝った。
ガルドがジョッキを高く掲げて叫ぶ。
「無頼の牙に乾杯!」
レオンがくすくす笑いながらグラスを合わせる。
「ふっ、今日は少しマシな連携だったな。アレン、回復の調子も上がってきたぞ」
バーンが肉を頬張りながらのんびり言う。
「アレン、これからもよろしくな」
アレンは麦酒をゆっくり飲みながら、仲間たちの顔を見回した。
霧隠れの谷での戦い。
回復魔法を連発する毎日。
ミリアの温かい応援。
そして、男ばかりの熱い仲間たち。
追放されてからわずか十日。
無頼の牙での日々は、確実に自分の居場所になり、成長の兆しを見せ始めていた。
明日もまた、回復を連打する日々が続く。
でも、今はこの仲間たちと一緒に、前を向いて歩いていける気がした。




