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亜里野ストーリー  作者: 与志野 音色
2部神野ストーリー1章 神界トーナメント編
63/68

63話 一回戦、開始

コロシアムの喧騒が突如として止まった。

まるで音そのものを掴み取られたかのように。


「――静粛に」


低く、しかし絶対の響きを持つ声が空間全体に落ちる。


観客席の最上段。

そこに玉座が出現していた。


座っているのは一人の男。


長い外套。

悠然と脚を組み、肘掛けに頬を預けている。


多死Ross。


「よく来たな、下界の連中。」


嘲るような笑み。


「歓迎しよう、神界七天神トーナメントへ」


観客席が再び沸き立つ。

だが多死Rossは指を一本立てただけで黙らせた。


「――ルールを説明する」


その瞬間コロシアム中央の床が光り、巨大な魔法陣のようなものが浮かび上がる。


「形式は五対五の勝ち残り戦だ」


空中に五つの光点が並ぶ。


「先鋒、中堅、大将――

順番は各チームが自由に決めろ」


翔馬は息を呑む。


「ねぇねぇ、多死Ross間違ってない?先鋒、中堅、大将って三人しか居ないじゃん!」


「端折ったんだろ……いちいち気にすんなよ」


Fのツッコミにいつもの様に対応しながら無闘はルールを静かに聞いていた。


「なるほど……先鋒で勝ち続ければほかの奴らは戦わなくて良いのか……」


「倒されるまで交代は不可。

倒された者は――」


多死Rossは、楽しそうに口角を上げた。


「二度と戦えない」


観客が歓声を上げる。


「降参は?」


翔馬が叫ぶ。

多死Rossは肩をすくめた。


「原則認めない」


冷たい言葉。


「ここまで来て降参なんて命を拾う真似出来ると思うなよ?」


ざわめき。


「確かにここの雰囲気的に降参なんてさせて貰える感じじゃないよな……」


田野が翔馬に小声で呟く。


(って事は……先鋒で出る奴は五人抜きするか戦闘不能になる程の大怪我しなきゃ変われない……?)


「クソ……確実に俺達を潰しに来てるな」


翔馬は多死Rossを睨め付ける。


「次」


多死Rossは続ける。


「戦闘は一対一。

乱入、援護、時間稼ぎ――」


 視線が鋭くなる。


「すべて反則。

違反した場合、その場で処刑だ」


空気が凍る。


「武器、祝福、神の気――使用制限は一切なし」


観客席が狂喜する。


「ただし」


多死Rossは意味ありげに言葉を切る。


「このコロシアムには防護用の結界が張られている」


床に走る無数の光の線。


「一度試合が始まればもうここからは出られない、死にたくなければ目の前の敵を全力で殺せ」


その言葉にすべてが集約されていた。


「優勝者には――」


多死Rossはゆっくりと立ち上がる。


「七天神直属の座を与える」


観客が狂ったように叫ぶ。


(くだらん……実質ない様なものだな)


無い野は退屈そうに説明を聞いていた。


執事が静かに前へ出る。


「以上がルールでございます、

観戦者の方はこちらへ。」


深く一礼。


田野とFは執事について行く。


「皆んな!頑張れよ!」

「死んだらぶっ飛ばすから!」


翔馬は拳を握りしめる。


「やるしか無いのか……」


無い野が低く笑った。


「多死Rossの部下か……おかしな話だな。」


その目は完全に狩人のそれだった。


「奴は今日で死ぬと言うのに」


多死Rossはその様子を見て満足そうに笑う。


「いい顔だ」


コロシアム上空。


巨大な光の板が空間そのものを裂くように出現した。


「――対戦表を公開する」


多死Rossの声が場内に響き渡る。


光の板に無数の文字と紋章が刻まれていく。


神界各地の名だたる戦士たち。

七天神の配下。

翔馬達にはどれも初見の名前だった。

だが名前を見るだけで圧が伝わってくる。


「……え?」


花野が息を呑んだ。


「ちょっと待て……」


翔馬の視線が一点に固定される。


第一試合。


そこにはっきりと書かれていた。


――――――――――

第一試合

チーム無い野

 VS

チーム蟹

――――――――――


「チッ、初戦かよ……てか蟹?どういうことだ?」


無闘が眉をひそめる。


観客席がどよめいた。


「蟹って……予選で勢いあったあいつらか」

「おいおい、初戦からあいつらかよ!」


多死Rossが楽しそうに笑う。


「面白いな……」


多死Rossは下界側を見下ろす。


「運がいい」


その言葉に嫌な予感が走る。


「本戦初日、しかも――」


口角が吊り上がる。


「即第一試合だ」


観客が爆発する。


「殺せえええ!!」

「下界人を血祭りにしろ!!」


無闘が思わず叫ぶ。


「おい!順番を決めるって――」


「まだ決まってなかったか?じゃあ俺が決めてやる」


多死Rossが即答した。


「先鋒は――」


視線が無い野に突き刺さる。


「無い野」


翔馬が振り返る。


「……無い野?」


無い野はゆっくりと笑った。


「ハッ……言われなくてもそのつもりだ」


その目に恐怖はない。


むしろ期待。


「油断するなよ無い野……相手は蒼気や大井死と同じ神界人だ。」


当て野が無い野を一瞥し、忠告する。


無い野は肩を回しながら答える。


「お前ら端で休憩してて良いぞ……全部俺が殺してしまうからな」


翔馬が一歩前に出る。


「無い野待てって、相手の情報が――」


「関係ない」


無い野は振り返らずに言った。


観客席がざわめく。


「下界人が笑ってるぞ!」

「余裕ぶってられるのも今のうちだ!」

「おい、あの下界人どっかで見たことねーか……?」

「はぁ?気のせいだろ」


闘技場中央の床がゆっくりとせり上がる。


「無い野」


翔馬が低く呼ぶ。

無い野は一瞬だけ振り返った。


「死ぬなよ」


短く、真剣な声。


無い野はニヤリと笑い、そしてアリーナへ踏み出す。


コロシアムが歓声で揺れる。


「――第一試合、対戦相手入場。」


多死Rossの宣告と同時に対面のゲートがゆっくりと開いた。


中から五人の神界人が出てくる。

五人は笑いながら翔馬達を見下ろしていた。


「見ろよ……明らかに雑魚そうだぜ」

「ククッ……初戦は余裕で通過だな」


一人が後ろを振り返る。


「一番強いお前がまとめてぶっ殺しちまえよ」


その言葉に応じるように一人の男が前に出る。


――いや、“男”と呼んでいいのか分からない。


上半身は人型。

だが下半身は明らかに異形だった。


硬質な甲殻に覆われた脚。


関節の節は異常なまでに太く、大腿部からは蟹の歩脚が幾重にも連なっている。


その腰には不気味な器具が装着されていた。

器具の刃が鈍く光る。


「何だ……あいつ……あいつも神界人なのか……?」


翔馬が思わず声を漏らす。


だが次の瞬間――


「来たァァァ!!」

「始まり野一族だ!!」

「初戦から当たりだぞぉ!!」


コロシアムが爆発した。


翔馬が不思議そうに無闘に顔を向ける。


「おい無闘……始まり野一族って何なんだよ?」


「は?お前無い野から教えられてなかったのか?お前もその一族じゃねえのかよ」


「一族って……どういう事だ?」


「始まり野一族っていうのはな、生まれながらにその身に祝福が刻まれてて絶大な才能が約束されたエリートの一族だよ。名前の最後に野がつくのが特徴だ。」


「野……あ、亜里野……確かに名前にある……たまたまじゃないのか?」


観客席の神界人達が総立ちになり、

狂ったように叫び始める。


「下界人は餌だァ!!」

「脚をもげぇ!!」

「血見せろォ!!」


翔馬は信じられない様に無闘を見る。


「最後が野って……それって与志野とか田野も始まり野一族って事かよ?」


「いや、下界人には基本的に始まり野一族は居ない、祝福も下界人には使えないんだ。

だからこそあの神界高校の奴らはおかしかった。」


熱狂の中で異形の男は愉快そうに肩をすくめた。


「おいおい……随分ビビってるじゃねぇか」


器具に手をかけ、無い野を見下ろす。


「下界人代表は……お前だろ?」


無い野は無言だった。

ただゆっくりと前に出る。


「無い野……か、どっかで聞いた名だな。

お前も始まり野一族かよ?」


一歩、また一歩。


その足取りには焦りも、恐怖も、怒りすらない。


異形の男が眉をひそめる。


「……チッ、無視かよ」


無い野はようやく口を開いた。


「………一つ質問がある。」


「は?」


「あの五人の中で……」


静かな声。


「お前が一番強いのか?」


「ハッ……当たり前だろ、俺は始まり野一族だぞ」


コロシアム全体が血に飢えたような熱狂に包まれる。


その怒号を一つの声が、強引に押し潰す。


『――さぁさぁさぁ!!』


拡声された甲高い声が、

結界越しにコロシアム全体へ響き渡る。


無い野達は声の主に目をやった。


宙に浮かぶ実況席。

そこには派手な仮面を被った司会者が立っていた。


『第十一回神界七天神トーナメント!!

記念すべき第一試合の開幕でございます!!』


観客席が再び爆発する。


『下界より招かれし五人の戦士――

無謀か、はたまた奇跡か!!』


司会者は腕を大きく広げる。


『先鋒!!下界代表――無い野ッ!!』


ブーイングと罵声。


「殺せぇぇぇ!」

「死ねぇぇぇ!」


だがそれを楽しむかのように司会は笑う。


『対するはァ!!』


声色が一段高くなる。


『高貴なる血統!始まり野一族より――!!』


何処からか出てきたスポットライトが異形の男を照らす。


蟹甲殻類大腿部歩脚身(かにこうかくるいだいたいぶほきゃくみ)取り出し器具野!!』


観客席は総立ちだった。


「来たァ!!」

「脚を取れぇ!!」

「初戦から目玉だぞ!!」


無闘は若干引き気味で呟く。


「何なんだあいつ……てか名前長過ぎだろ……」


花野がそれに続いた。


「名前はともかくあいつの気……実力は本物っぽいね」


司会は愉快そうに手を叩く。


『ルールは簡単!!武器あり!神の気あり!

動かなくなった時点で決着!!』


翔馬達の背筋が凍る。


『なお、全員が戦闘不能状態になり下界のチームが敗北した場合……』


司会の声が一瞬だけ低くなる。


『多死Ross様により即、処刑でございます』


そして満面の笑み。


『それでは選手の皆様――

覚悟はよろしいですかァ!?』


ォォォォォォォォォォォォ!!!!!


「おい……無闘……!」

「ああ……まあ分かってた事だが……生きて返す気はさらさら無いって事だ……」


翔馬達の声は群衆の歓声にかき消される。


(確実に俺らを消す為にトーナメントで消耗させてから自分の手で殺すって寸法かよ……確かに下界で暴れ回って俺らと戦うよりも効率的だ)


無い野は何も答えない。

ただ、静かに立つ。


蟹の異形は器具を鳴らしながら嗤った。


「早くしろよ司会者。

俺の刃がウズウズしてんだ」


司会は高らかに叫ぶ。


『――結界、完全閉鎖!!』


光の壁が闘技場を包む。

コロシアムの中と外が断絶された。


一対一。


『第一回戦!!先鋒戦!!』


一拍。


『――――開始!!』


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