48話 奇襲
――速報です。
突如発生した謎の大規模爆発により、
市街地の一部が壊滅状態となっています。
原因は現在不明。
複数の建物が倒壊し、
負傷者・行方不明者は把握できていません――
瓦礫の隙間から聞こえる、微かな電子音。
砕けたラジオが、無機質な声で現実を告げていた。
煙の向こうでは、大量の救急車と消防車のサイレンが鳴り始めている。
自分が育った町が壊されているという事実が翔馬の胸を強く締め付けた。
「……くそ……」
だが、立ち止まる暇はない。
無闘とFは、まだ立っていた。
蒼鎧は限界まで軋み、
呼吸は乱れ、視界も揺れている。
それでも――
「……まだだ……」
無闘が低く呟く。
Fは無言で一歩踏み出し、
蒼の気を再び一点へ集束させる。
蒼気が振り向いたその瞬間。
空間そのものが震えた。
先ほどよりも、さらに密度の高い圧。
無闘とFが同時に悟る。
(……まずい……!!)
無闘とFは咄嗟に蒼の気を絞り出す様に展開する。
だが――
蒼が足りない。
「……っ!?」
無闘の蒼鎧が、途中で薄くなる。
Fも同時だった。
蒼の供給が途切れる。
心臓が重く脈打つ。
視界が、暗転する。
――切れた。
蒼の気が完全に尽きた。
同時に。
MODEが、final formが――
強制解除。
「……ぐ……ぁ……」
無闘の身体から、蒼が消える。
Fの蒼鎧も霧のように散った。
次の瞬間。
ドッッッ!!!
蒼の奔流が二人を真正面から叩き潰した。
ただ圧だけが、身体を砕く。
「いい加減に寝ておけ」
無闘の身体が宙を舞い、
瓦礫の向こうへ叩きつけられる。
Fも同様だった。
地面を何度も跳ね、最後は動かなくなる。
――沈黙。
立っているのは蒼気だけ。
蒼の気をまといながら、
彼はゆっくりと視線を巡らせた。
「……終わりだな」
翔馬の拳が震える。
仲間は倒れた。
町は壊れた。
瓦礫の山に静寂が落ちていた。
無闘は動かない。
Fも、与志野も、花野も――倒れ伏したまま。
蒼の気は枯れ、町は焼け、空気だけが重く沈んでいる。
それでも。
翔馬は前に出た。
脚は震え、肺は焼け、蒼の気はまだ十分に巡っていない。
それでも構える。
「……まだ……終わってない……」
蒼気が淡々と告げる。
「随分と無謀だな」
翔馬は睨み返す。
「……止める……ここで……」
その瞬間だった。
――カツン。
瓦礫を踏む、乾いた足音。
翔馬と蒼気、同時に視線を向ける。
荒廃した町の影。
崩れたビルの残骸の上に――
一人の男が、立っていた。
黒蒼の気を纏い、
歪んだ笑みを浮かべて。
「……はぁ」
低く、苛立ちを含んだ溜め息。
「……見てられないな」
翔馬の目が、見開かれる。
「……無い……野……?」
無い野は翔馬を一瞥しただけで、興味を失ったように視線を逸らす。
そして――蒼気を見た。
その瞬間。
空気が、凍りつく。
「……蒼気」
声は低く、だが確かな殺意がこもっている。
「……随分と派手にやってくれたな」
蒼気は、ほんの一瞬だけ目を細めた。
「……生きていたか」
無い野は、歯を剥くように笑う。
「のたれ死んだとでも思ったか?まあその方が都合が良いしな」
一歩、前へ。
蒼黒が再び濃くなる。
「俺を利用して、負けたら捨てて、挙げ句……こいつらを潰す」
無い野の視線が倒れた無闘達へ向く。
「……気に食わない」
そして、翔馬を見る。
苛立ちを隠そうともしない。
「それと……お前だ、翔馬」
翔馬は、言葉を失う。
「俺に偉そうな事を言っておいて無様な姿を晒しやがって」
蒼気が静かに構える。
「随分と優しいんだな……無い野」
「黙れ」
無い野の蒼が爆ぜた。
「俺はな……裏切られるのが一番嫌いなんだ」
次の瞬間。
無い野が消えた。
――ドンッ!!
蒼気の立っている地面が爆発する。
衝撃波が瓦礫を吹き飛ばす。
蒼気は紙一重で距離を取る。
(MODEを使わずにこのスピード……!)
無い野の拳が連続で迫る。
轟音。
空気が悲鳴を上げる。
完全に互角だった。
蒼気の蒼の気の制御。
無い野の、歪で暴力的な出力。
ぶつかるたび、地面が削れる。
翔馬はその光景を見て息を呑む。
(……同じ……)
蒼気と無い野。
かつて“王”とされた存在同士。
無い野は殴りながら吐き捨てる。
「どうした!こんなものか!?」
蒼黒がさらに膨張する。
無い野の蹴りが蒼気の防御を軋ませた。
蒼気が一歩下がる。
「……っ」
「……いい顔だ」
そして、背後をちらりと見る。
立ち尽くす翔馬。
「勘違いするなよ、翔馬」
無い野は、蒼気から視線を逸らさずに言った。
「お前を助けに来たわけじゃない、こいつにツケを払わせる為に来ただけだ」
蒼黒が吠える。
「蒼気は……俺が殺す!!」
蒼気はゆっくりと口角を上げた。
「……面白い」
蒼と蒼黒が、正面から噛み合った。
衝突の瞬間空間そのものが歪み、爆音が遅れて追いつく。
――ドォンッ!!
地面が沈み、瓦礫が宙を舞う。
蒼気は両腕で受け止めながら低く呟いた。
「揃いも揃っていい加減にしろ……まだ力の差が理解できないのか」
「フン……そうか?俺には見えてきているぞ」
一歩、前へ。
「必死に追いつかれまいとする……お前の背中が」
蒼黒が一点に収束する。
翔馬の心臓が跳ねた。
(あれは……!)
無い野が顔を上げる。
「並ばせてもらうぞ……蒼気!」
狂気と理性が無理やり溶かされる。
「……来るか」
蒼気が低く呟く。
無い野は胸の前で両手を組み、
自らの身体に叩き込むように蒼黒を流し込んだ。
「――MODE終点」
ドォッッッ!!!!!
次の瞬間。
無い野の身体が砕けるように再構築される。
骨格が軋み、筋肉が不自然な動きで隆起し、
皮膚の下を蒼黒が這い回る。
顔が歪み、笑っているのか苦しんでいるのか分からないような表情になる。
翔馬の喉が、音を立てて鳴った。
(MODE終点……マヂキチ野!)
「クク……ククク……」
無い野が首を傾ける。
「このまま追い抜かせて貰おうか」
――消失。
次の瞬間、蒼気の眼前。
反応する暇すら与えない速度。
蒼気は蒼の気を全開で放出し、
衝突に備える。
「――来い」
拳と拳が、激突。
ドン!!!!!
衝撃波が空を引き裂き、雲が円状に吹き飛ぶ。
「……っ!」
無い野は止まらない。
殴る、蹴る、叩き潰す。
動きは滅茶苦茶――
だが全てが最適解。
理性を捨てた分、身体が最短距離しか選ばない。
「ハッッ!!!」
ズドッッ!!
無い野の拳が、蒼気の防御を貫く。
蒼気の肩の蒼鎧が砕け、
即座に蒼の気で修復されるが――
修復が追いつかない。
(終点で出力を上げ続けている……本気で並ぶつもりか……私に!)
蒼気は距離を取り、蒼の気を一点に圧縮する。
「舐められたものだな……!」
蒼の光が、線ではなく面となり、
空間ごと押し潰しにかかる。
無い野は正面からそれを受けた。
「――あ?」
スパッッ!!!
身体が一度バラける。
蒼黒が散り、肉体の輪郭が崩壊する。
だが――
「こんなもので……!!」
蒼黒が、強引に再接続される。
終点の力が壊れた分だけ強度を上げて再生する。
蒼気の目が僅かに見開かれた。
(異常な再生速度……これが無い野の終点!)
「少し厄介だな……"少し"だが」
「余裕をこくのも今のうちだ!」
無い野が両腕を天に掲げる。
蒼黒が空を覆い始める。
「"人格分裂"」
無数の不完全な人格の断末魔が一点に圧縮されていく。
(とてつもない蒼の気……無い野の祝福か)
蒼気も構えた。
「……なら、こちらも」
蒼の気が三剣神の領域に踏み込む。
空間が完全に静止する。
「本気で行かせてもらう」
両者の大技が同時に放たれた。
蒼と蒼黒の正面衝突。
――世界が、白に染まる。
ドォッッッッッ!!!!!!!!
衝撃波が遥か彼方まで届き、廃墟となった町の残骸すら粉塵に変える。
数秒後、光が晴れる。
そこに立っていたのは――
膝をついた蒼気だった。
「……っ」
息が乱れている。
蒼の気が明らかに不安定だった。
一方。
無い野は立っている。
身体はボロボロ。
それでも――前に出る。
「ほら……どうした……蒼気……」
笑う顔は完全に狂っている。
「さっきまでの余裕は……?」
蒼気はゆっくりと顔を上げる。
(蒼の気の無限生成……ここまで厄介だとはな)
「……なるほど」
口元に薄く笑み。
「君は……確かに“失敗作”ではない」
蒼気の蒼が、さらに深い層へ沈む。
「だからこそ……ここで消しておかなければな」
無い野は嗤う。
「消してみろ……出来るものならな!」
――戦況は確実に蒼気を追い詰めている。
だが同時に、無い野自身も限界の淵に立っていた。




