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亜里野ストーリー  作者: 与志野 音色
4章 蒼の気を持つ者編
44/68

44話 境地


かつて二人で歩いた道があった。


児童養護施設から少し離れた、夕方になると風が気持ちよかったあの道。


青木が他愛もない話をし、翔馬がそれに笑って答えていた時間。


そのすべてが、消えていた。


建物はない。

道もない。

思い出の痕跡すら、跡形もなく。


あるのは、ただの更地と、焦げた大地。


翔馬は、その場に立ち尽くしていた。


拳が震える。


「……ここ……」


声が、掠れる。


「……俺たちが……歩いた場所だろ……」


返事はない。


蒼気は、少し離れた場所で静かに立っていた。

その表情に迷いはなかった。


翔馬の胸に、何かがはっきりと折れる音がした。


怒りでも、悲しみでもない。

もっと冷たく重いもの。


「……もう……」


翔馬は、ゆっくりと顔を上げる。


「……戻れないんだな……」


蒼気を、真っ直ぐに見る。


かつての恩師。

守ってくれた大人。

手を引いてくれた存在。


――だったはずの人。


翔馬は、深く息を吸った。


「蒼気……」


その名を呼ぶ声に揺らぎはなかった。


「俺は……あんたを止める」


一歩、踏み出す。


「神だとか、王だとか……どうでもいい」


もう一歩。


「これ以上……誰かの居場所を消すなら……」


蒼の気が静かに、しかし確実に翔馬の周囲に満ちていく。


「……俺があんたを……」


それは、宣戦布告だった。


かつての恩師と教え子。

思い出を焼き払った者とそれを守れなかった者。


この戦いは、

もう逃げ場のない場所まで来ていた。


翔馬は、覚悟を決めた。


蒼気を止めるために。

過去ごと、斬り捨てる覚悟を。


蒼の気が空を裂いた。


翔馬が踏み込むより早く、蒼気の姿が消える。


「――っ!」


背後。


本能的に蒼鎧を展開した瞬間、

衝撃が背中を叩き潰した。


空気が爆ぜ、翔馬の身体が数十メートル吹き飛ばされる。


だが――


空中で翔馬は身体を捻り、蒼の気を噴射して体勢を立て直した。


(速い……無い野と同じ……いや、それ以上!)


視線を走らせる。


次の瞬間、蒼気は正面にいた。


ドガッッ!!!


ただの打撃。

だが拳の周囲で蒼の気が圧縮、振動している。


翔馬は腕を交差させ受け止めるが――


「ぐっ……!」


蒼鎧が軋む。


耐えきれず、地上へ叩き落とされる翔馬。

地面が沈み、クレーターが生まれる。


「防御は上達したな」


蒼気は空中に立ったまま、淡々と言う。


「だが、使い方が甘い」


指を鳴らす。


次の瞬間、空間そのものが爆ぜた。


ドッッッ!!!!!


蒼の気の衝撃波が連続で降り注ぐ。


翔馬は地を蹴り、Quattro Stepで一気に距離を詰める。


輝く蒼の気が爆発的に噴き上がり、翔馬の身体が光の尾を引く。


一瞬で蒼気の懐へ。


拳を叩き込む。


――直撃。


だが。


蒼気の身体が霧散した。


「幻影だ」


背後から声。


翔馬は即座に振り向き、蒼の気を放つが――


蒼気はその攻撃を素手で掴み取った。

蒼の気が指の間で砕け散る。


「……っ!?」


「力は確かに無い野を超えつつある」


蒼気の瞳が細まる。


「だが、覚悟が足りない」


掴んだ蒼の気をそのまま圧縮。


次の瞬間――


ドォッッ!!!


至近距離で爆発。


翔馬の身体が吹き飛び、空中で数回転する。


口から血が零れた。


「……くっ……」


それでも翔馬は、落下しながら蒼の気を制御し、何とか着地する。


膝をつきながら、顔を上げる。


「……覚悟なら……」


蒼の気が以前より静かに、しかし濃く満ちていく。


「……もう決めた」


翔馬は立ち上がる。


「俺は……あんたを止めるって」


一瞬。


蒼気の表情が、ほんのわずかに変わった。


「……そうか」


蒼の気が、彼の全身から溢れ出す。


「なら――」


空が、歪む。


「かつての師として、全力で殺そう」


二人の蒼の気が衝突し、空間が悲鳴を上げる。


空が、砕けた。


二人の蒼の気が真正面からぶつかり合い、衝撃波が何重にも広がる。


雲が引き裂かれ、気圧が狂い、地上の瓦礫が宙に舞った。


翔馬は歯を食いしばり、MODE何点の出力をさらに引き上げる。


(押し負ける……!)


腕が震える。

蒼鎧に走る細かなヒビ。


一方で蒼気は、余裕すら感じさせる表情で翔馬を見下ろしていた。


「必死だな、翔馬」


蒼気の蒼の気が質量を持ったかのように重くなる。


「だが――それだけだ」


次の瞬間。


蒼気が一歩踏み込んだ。


たった一歩。

それだけで距離が消失する。


「――っ!」


翔馬は反射的に身を捻るが、遅い。


ドン!!!


蒼気の掌底が腹部に突き刺さる。

衝撃が内部で炸裂し、内臓が揺さぶられる。


「がっ……!」


翔馬は血を吐きながら空中を転がる。


だが、そこで終わらない。

蒼気は追撃を止めない。


空中を蹴り、翔馬の上を取り――


「教えてやる」


蒼の気を纏った踵が、叩き落とされる。


「本物の、神の戦い方というものを」


直撃。


翔馬の身体が流星のように地上へ落下する。


轟音。


地面に巨大なクレーターが穿たれ、粉塵が立ち昇る。


蒼気は上空から静かに見下ろす。


「立てるか?」


沈黙。


――だが。


クレーターの底で、蒼の気が再び灯る。


瓦礫を押しのけ、翔馬がゆっくりと立ち上がった。

膝は震え、呼吸は荒い。


それでも――目は、死んでいない。


「……舐めんな……」


翔馬は拳を握る。


「まだまだこれからだ……!」


次の瞬間。


翔馬の蒼の気の流れが変わった。


無理に出力を上げるのをやめ、

蒼の気を身体の動きと完全に同期させる。


蒼気が、わずかに目を細めた。


(冷静になったか……このまま時間をかけられてもやっかいだな……)


翔馬は地を蹴る。


最短、最速、最小の動き。

拳は蒼気の顔面を狙う。


蒼気は軽く首を傾け、躱す――


はずだった。


拳が、かすめた。


「……!」


蒼気の頬に、浅いが確かな裂傷が走る。


蒼の気が弾け、血が一筋流れた。

その光景に、翔馬自身が一瞬驚く。


(……当たった……!?)


蒼気は指で血を拭い、静かに笑った。


「なるほど……」


蒼の気が、さらに深く、鋭く研ぎ澄まされる。


(翔馬のMODE……無意識ながらも完成に近づいている)


蒼気は両手を広げる。


「“解”」


次の瞬間。


蒼気の姿が複数に分裂した。


残像――否、

すべてが実体を持つ攻撃体。


(増えた……!?祝福か!?)


「……っ!」


四方八方から放たれる蒼の気の斬撃。

翔馬は蒼鎧を展開し、必死に捌く。


防ぐ。

避ける。

受け流す。


だが、一撃が――


ズバッ!!!


肩を裂いた。


「ぐあっ……!」


血が宙に散る。


蒼気の声が、重なるように響く。


「耐えろ、翔馬」


「それが出来なければ――」


すべての蒼気が、一点に収束する。


「お前は、ここで終わりだ」


殺意が完全に解き放たれた。


翔馬は荒い息の中で拳を握り締める。


(……負けるわけには……)


仲間の顔が脳裏をよぎる。


与志野、田野、当て野、花野、無闘、F。


そして――必ず守ると誓った日常。


翔馬の蒼の気が静かに、しかし確実に変質していく。


「……来いよ……蒼気……」


目を見開く。


「今度は――俺が、踏み込む番だ」


その時。


蒼の気がぶつかり合う空間に異質な静けさが割り込んだ。


「その必要はねえよ」


低く、落ち着いた声。


翔馬と蒼気の間に――

一人の男が立っていた。


「君は……」

「無闘……!」


翔馬が息を荒げながら名を呼ぶ。


無闘は一度も振り返らない。

ただ、蒼気だけを真っ直ぐに見据えていた。


「翔馬、お前はちょっと休憩しとけ」


蒼気はわずかに口角を上げる。


「まだ駒が残っていたか」


「駒じゃないさ」


無闘は拳を握る。


「ただの友達だよ」


その瞬間。


無闘の身体から、蒼の気が静かに反転した。


派手な光はない。

爆発的な放出もない。


だが――血管の一本一本に蒼の気が行き渡る感覚が、空気を震わせる。


「……来たか」


蒼気が目を細める。


「MODE反転」


無闘は一歩、前に出る。


「さて、神様に俺が通じるか……少し試そうか」


「神を試す……か、バチが当たっても知らないよ」


次の瞬間。


無闘が消えた。


――否、速すぎて認識できない。


蒼気が即座に防御の蒼の気を展開する。


だが。


無闘の拳は、防御の“薄い点”だけを正確に打ち抜いた。


――ゴッ!!


衝撃が蒼気の内部にまで響く。


「……っ」


蒼気が一歩、下がる。


その事実に、翔馬が目を見開いた。


(正確に撃ち抜いた……凄え!)


「理屈か」


蒼気は口元を歪める。


「確かに完成度は高いな、だが――」


蒼の気が爆発的に膨れ上がる。


「それだけに伸び代はゼロだ」


蒼気の拳が真正面から振り抜かれる。


圧倒的質量。

圧倒的出力。


普通なら、消し飛ぶ。


だが無闘は――


受け流した。


ゴオッッ!!!!


拳がぶつかる瞬間、蒼の気の流れを“循環”させ衝撃を体内で分解、分散する。


(受け流された……ヴァルキリ野め……厄介な技を……)


無闘は一歩も引かない。


「力任せはもう通用しないぞ」


肘。

膝。

掌底。


最短距離の連撃が蒼気を襲う。


一発一発は軽い。

だが、確実に削る。


「チッ……!」


蒼気が後退しながら距離を取る。


「面白いな……理論で神を殴るか」


蒼気の蒼の気が質を変える。


より荒く、より危険に。


「だがな、無闘」


蒼気は告げる。


「神界で生き残るのは……正しい者じゃない」


蒼気が踏み込む。


「より強い者だ!」


激突。


無闘は真正面から迎え撃つ。


MODE反転がフル回転し、

血液と蒼の気が限界速度で循環する。


(どうするか……受け流すにもこれ以上の出力を出されたら難しいな)


無闘は理解していた。

蒼気はまだ本気じゃない。


それでも。


「……それでいい」


無闘は歯を食いしばる。


(俺は……時間を稼ぐ)


視線の先で、翔馬の蒼の気が再び高まり始めている。


「翔馬が“辿り着く”までな……!」


師と理論、神と人、完成と進化。


蒼気が辿り着いた境地に、翔馬は並ぼうとしていた。


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