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亜里野ストーリー  作者: 与志野 音色
3章 人格分裂編
38/68

38話 人格分裂最終決戦


翔馬の身体から、蒼の気が溢れる。


だがそれは、これまで誰も見たことのない性質を帯びていた。


黒蒼の濁流を纏う無い野とは正反対――

澄み切り、眩く、まるで意思そのものが光になったかのような蒼。


空気が、静かに鳴った。

地面に散っていた砂粒が、ふわりと浮かび上がる。


蒼の粒子が翔馬の輪郭をなぞり、筋肉の動きに合わせて脈動する。


(……この光は……?)


無い野が一瞬言葉を失う。


困惑。

それが即座に警戒へ切り替わる。


(何だあれは……蒼の気が……澄んでいる……?)


無い野は半歩、距離を取った。

わずかだが、確実に警戒している。


「翔馬……?」


与志野達は少し離れた所で無闘と当て野を支え、その変化を凝視していた。


「無闘……これって……」

「ああ、間違いねぇ……MODEだ……」


無闘とFは信じられないという表情を浮かべる。


(もしかしてあいつ……俺の説明と俺達のMODEを見ただけで……!?有り得ねえ……だが……)


無闘は横にいるFと目を合わせる。

Fも同じ結論に辿り着いた様だった。


(翔馬が……いや、無い野も同じく噂に聞く伝説の"始まり野一族"って奴なら……この馬鹿げた才能の説明もつく……)


「皆んな、離れててくれ」


翔馬は、拳を下ろしたまま言った。


「……皆んなは……俺が守る」


声は震えていない。

怒りでも、恐怖でもない。


ただ、決意だけがあった。


無い野は、鼻で笑う。


「……笑わせるな」


蒼黒が、より濃く噴き上がる。


「お前は俺の祝福で出来た欠陥コピーに過ぎない。お前如きが俺に歯向かう気か?」


翔馬は答えない。


だが、構えた。


呼吸が変わる。

足の置き方。

視線の位置。

蒼の気の巡らせ方。


それは、Fが見せたMODEとも、無闘のMODEとも違う。


――“翔馬の型”。


「ククク……一丁前に構えやがって……身の程を知れ」


明らかに苛立つ様子を見せながらも無い野は悟る。


(……理解している。

……視認と説明のみで覚えたか……)


互いに満身創痍だった。


無い野の身体には無数の亀裂が走り、蒼黒は噴き出すそばから強引に再構成されている。


翔馬の肉体もまた、慣れない技にいつまで身体が持つかは分からない。


筋繊維は悲鳴を上げ、肺は焼け付くように熱い。


それでも、どちらも下がらない。


無い野は、脳内で冷静に計算を始めていた。


――MODE終点 マジキチ野。


発動から現在まで……

およそ、六分半。


蒼の気の湧出量。

肉体再構成の消費。

Final Formの残滓。


 全てを加味し――弾き出す。


(……残り、九十秒。)


九十秒以内に決めなければ、

この肉体は“終点”を迎える。


無い野は、口角を吊り上げた。


「良いだろう……つけ上がったお前に教えてやる、本物の蒼の気というものを」


翔馬の蒼が、応じるように一段階、強く輝いた。


世界が、静止したかのような錯覚。


風が止み、

音が消え、

視線だけが交差する。


ドォォッッッッ!!!!!


衝突。


音は、遅れてやってきた。


翔馬と無い野が踏み込んだ瞬間、空間そのものが歪み、爆風が遅れて木々の葉を薙いだ。


「うわっっ!!」

「伏せろ!巻き込まれるぞ!」


与志野達は瞬時に身を屈める。


拳と拳、脚と脚が激突するたび、蒼と蒼黒が火花のように弾ける。


互いの意地が、正面から噛み合っていた。


(速すぎる……!全然見えねえ……!)


無闘の目には、二人の姿はもう映っていない。

ただ、空間に走る蒼の線と、黒い裂け目だけが戦っている証だった。


「クソ……田野!いけるか!」

「分かってる……行こう!」


与志野と田野は皆を抱え、山道を滑り降りる様に駆けていった。


逃げて行った与志野達を遠目に見ながら翔馬は安堵する。

 

(よし、上手く逃げれた……後は……!)


ドッッ!!!


「よそ見してる場合か!?亜里野!!」


――制限時間、九十秒。


短い。

だが翔馬たちにとっては、果てしなく長い。


翔馬はdouble stepを重ねがけし、地面を蹴るたびに音速を超えて無い野へ迫る。


視界が歪み、風が悲鳴を上げる。


だが――


無い野は、ついてきていた。


完全に、同速。


翔馬の拳を受け、脚を弾き、軌道を読んで迎撃する。


二人は一瞬たりとも優劣のつかない、完全な互角でぶつかり合っていた。


 ――残り八十秒。


(……嘘だろ……!)


翔馬は内心で息を呑む。


(MODEを使って全力で踏み込んでるのに……まだ……!?)


翔馬は歯を食いしばり、

さらに蒼の気を引き上げる。


肉体が悲鳴を上げるのを無視し、ギアを一段階上げた。


一方、無い野の内心にも驚きが走る。


(屈辱……!元の身体ではないとはいえこの俺がこいつ如きと互角とは……!)


だが、同時にその顔に浮かぶのは歓喜だった。


「ハハッ、いいぞ……!全力を見せてみろ!!」


無い野もまた、速度を上げる。

蒼黒が噴き出し、身体が強引に追いつく。


その速度は、もはや人の目では観測不能。


――七十秒。


その瞬間。


無い野の瞳が、わずかに細くなった。


(読めたぞ……)


翔馬の踏み込み。

重心。

次に来るタックルの角度。


無い野は一歩、半身ずらし――


翔馬のタックルを躱し、カウンター。


ドゴッ!!!


鈍い衝撃。


翔馬の体勢が崩れる。


「……っ!」


(しまった……読まれ始めた!)


 畳みかけるように、無い野が迫る。


 だが――


「Quattro Step……!」


翔馬の姿が、四重にブレた。

無い野の攻撃が空を切る。


(更に速い……!?)


次の瞬間、翔馬は無い野の懐へ滑り込む。


咄嗟に手で受けようとした無い野の指が何本かへし折れた。


バキバキッ、という嫌な音。


「……!」


無い野は即座に距離を取る。


(ここまで速いと動きが上手く読み切れん……だが一時的だ)


蒼黒が指を包み込み、即座に再生が始まる。


翔馬はそれを見て焦る。


(やっぱり回復する……!あいつを倒すには一撃で決めるか回復出来ない速さで叩き続けるしかない!)


――残り、一分。


だが、翔馬は止まらない。


Quattro Stepを連続発動。

上下左右、死角からの連打。


「喰らえ無い野!!!」


ドドドドドドドドドドド!!!!


無い野は防御に回るが、慣れない速度に対応しきれない。


(まずい……!)


無い野は判断を下す。


全身を――無制限の蒼鎧で覆う。

蒼黒の装甲が重なり、鉄壁の防御が完成する。


 だが――


翔馬の瞳が、鋭く細まった。


(甘いぞ無い野!)


翔馬は狙いを一点に集中。

同じ場所へ、同じ角度で、蒼を叩き込み続ける。


ドドドドドドドドドドドド!!!!!


ヒビ。

亀裂。

そして――


蒼鎧が、砕けた。


「――っ!?」


(無制限の蒼鎧が砕かれた……?)


無い野の装甲に、穴が穿たれる。


その瞬間――


ドガッッ!!!


「がっ……!?」


翔馬の顔が、歪んだ。

呼吸が乱れ、蒼の光が一瞬、揺らぐ。


無い野の拳が適応出来ていなかった筈の翔馬の脇腹を捉えていた。


(嘘だろ……もう……見切られた!)


無い野は、僅かな違和感を見逃していなかった。


(……やはりな)


翔馬の新たな速度。

その負荷。

限界。


(いくら速いとはいえ先程までとは違い、軌道が単純……Quattro Step、しかも慣れないMODEを使いながらとなると完璧な操作は難しい)


無い野は、もう――適応を終えつつあった。


蒼黒が、再び膨れ上がる。


「諦めろ亜里野、お前にその才能は使いこなせない」


「くっ……!!」


残り時間は、刻一刻と減っていく。


――終わりが、近づいていた。


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