表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
亜里野ストーリー  作者: 与志野 音色
3章 人格分裂編
37/68

37話 才能


蒼黒の爆風が木々を薙ぎ払った直後――

空気はまだ震えていた。


無闘は地面に叩き伏せられ、

身体を痙攣させたまま起き上がれない。


「……く……そ……動け……ねぇ……!」


当て野も同様だった。

腕は折れ、蒼の気は乱れ、呼吸は荒く、

視界すら定まらない。


「チっ……ここまで……か……」


二人とも戦闘不能。


その影で動く人物がいた。


「――っ、二人とも……!」


田野に絶望している暇はなかった。

彼の目の前には、

倒れ込んだまま動かないFの姿。


田野は両手をFに向けながら叫ぶ。


「……クソ……もう少しだ……!」


Fの身体に淡い光が流れ込む。


祝福 my only girl friend。

直接的な攻撃こそ出来ないものの拘束、治癒、防御などあらゆるサポートが可能。

だがそれは充分な蒼の気が祝福者にある場合。


田野は現在、何度もmy only girlfriendを再生成し、残された蒼の気は少ない。

だがそれでも――


「……っ……は……」


Fの指が、動いた。


「F!聞こえるか!?」


薄く、だが確かに瞼が震えた。


「……田……野……?」


その声に、田野は心底安心しながら笑った。


「よかった……!間に合った……!」


軽傷は目立つがFの身体は確実に回復していた。


だが戦況は最悪だった。


与志野は倒れた無闘と当て野を見ると、

すぐに翔馬へ叫んだ。


「翔馬!! 二人を連れて逃げよう!!

今の無い野に勝てる奴なんて誰もいねぇ!!」


だが。


翔馬は動かない。

いや、聞いていなかった。


翔馬は荒野の中心で立ち尽くし、

ただ一点を見つめていた。


無い野。

Fが見せた“肉体の変化”。

無闘が説明した“MODEの理”。


それらが脳内で何度も何度も反芻されていた。


(MODE……肉体を作り変え戦闘形態に作り替える技……)


胸の奥が“蒼”で疼く。


まるで、何かが呼び覚まされようとしているかのように。


与志野は翔馬の異変に気づかないまま叫ぶ。


「おい翔馬!!ボサっとすんな――」


(……そうか)


翔馬の意識は、

完全に別の方向へ向かっていた。


蒼の気が、足元で揺れる。

それは無意識。


ただ共鳴していた。


Fの蒼。

無闘の蒼。

無い野の蒼。


そして――翔馬自身の蒼。


それらが頭の中で“形”を作り始める。


(……俺は……俺の正体は……何だ?)


翔馬の思考は混濁しながらも

一点だけ異常に澄み渡っていた。


無い野は花野の元へ歩み寄る。


花野は大樹を吹き飛ばされて倒れ、

もう立ち上がれない。


無い野は冷淡に言う。


「まずは……お前からだ」


花野は震える身体で地面を掴む。


「くっ……!!」


無い野の影が覆いかぶさる。


腕が上がり――

そのまま花野を“吸収”しようとしたその瞬間。


無い野は動きを止めた。


「……?」


彼の背筋を、説明不能の違和感が走った。

視線が自然と、翔馬の方向へ動く。


(なんだ……?)


亜里野翔馬。


無い野が十六年間封じ込められてきた肉体。

蒼の気が、彼の足元で“逆巻くように”揺れている。


まるでそこだけ世界が歪み、

空気が震え、

光がねじれているような――

そんな異様な“兆候”。


無い野の眉がわずかに上がる。


(こいつは……つい最近祝福を発現したばかりの雑魚……俺のエネルギー要員……パーツに過ぎない……)


自身と肉体を分けた際、

本来なら消えたはずの“才覚の欠片"。


「お前……」


翔馬の唇が、ゆっくりと動いた。


「……無い野……」


その瞬間、翔馬の全身が蒼に包まれる。

荒野が震え、砂が舞い、空気が裂ける。


Fが成し遂げた“あの現象”の初兆候。


無い野は確信する。


(使いこなしたとでもいうのか……俺の身体を……)


翔馬はまだ完全には目を開けていない。

だが“蒼”が彼の身体にまとわりつき、

まるで“形を作ろうとしている”。


そして――翔馬は、ゆっくりと瞼を開いた。


蒼の気が爆ぜる。

世界が、震える。


無い野は低く呟いた。


「……偽物が」


翔馬の瞳に映るのはただ一つ。


“戦う”という意思。


そして――その身体は確かに、

才覚へ足を踏み入れようとしていた。


無い野の瞳が細くすぼまった。


(あいつ如きが発動できるわけはないが……万が一だ……発動前に一瞬で殺す!)


吸収しようと掴んでいた花野を、まるで壊れた玩具を放り捨てるように投げた。

花野の身体が地面に叩きつけられ、砂煙が上がる。


無い野はそのまま方向を変え、迷いなく翔馬へ一直線に踏み込む。


その軌道の途中。

重症だったFを田野が治癒させていた。


「歩ける!?俺の祝福で担いで……!」

「いや、一人でいける……」


完全には程遠いが、辛うじて逃れる程度まで回復は終わっている。


「翔馬!無闘と当て野を連れて逃げるぞ!!」


与志野が叫んだ。


だが――届かない。


翔馬の耳には何も入っていなかった。

翔馬の脳内はただ反復していた。


無い野の“型”。

Fが見せた“MODE”。

そして……無闘の言葉。


呼吸の仕方。

蒼の気の溜め方。

筋肉の使い方。

意識の位置。


それらが破片のように翔馬の中で組み上がっていく。


無い野が翔馬へ歩を進める。


翔馬は、脳の奥底が焼け付くような感覚と共に、ゆっくりと立ち上がろうとしていた。


無い野はその異様な動きで“何か”を察した。


(……何だ?)


欠陥品と認識していた筈だった。

無い野の祝福多重人格、数ある人格の中で蒼の気もまともに使えず祝福も目覚める事がなかったハズレの人格。


なのに――その欠陥品からは膨大な蒼の気が漏れ出していた。


無い野は気づいた。

自らが“捨てた人格”が持っていた才能の片鱗に。


「チッ……面倒なことになりそうだ。」


無い野は判断を切り替えた。

念のためではなく、即殺す必要がある、と。


「翔馬!早く逃げろ!」

「邪魔だ」


無い野の横に立ちはだかった与志野は、既に revolver finger を装填している。


「おらああぁぁぁ!!!」


全指から放たれる thousand finger 。

圧倒的な連射。


ドドドドドドドド!!!


しかし無い野は一歩も速度を緩めなかった。


全弾を見切り、軌道を読み、体をずらし、指先一つかすらず避け切った。


そしてすれ違いざま、手刀。


「――ぐっ!!?」


与志野の身体がくの字に折れ、地面へ転げ落ちそのまま動かなくなる。


意識は完全に飛んだ。


標的はただ一人。

片鱗を覗かせつつある、危険因子。


「死ね。」


無い野の拳が振り上げられ、蒼の気が螺旋を描く。

ただの一撃。

だが“人間”なら跡形もなく吹き飛ぶ威力。


拳が翔馬の顔面に届く――その瞬間。


無い野の拳は空を切った。


視界から翔馬が消えていた。


ほんの一瞬。

まばたきすらしていないのに。


背後に気配。


視界の端で蒼い靄が揺れた。


翔馬は無い野の背中に立っていた。


その顔は無表情。

ただ静かに、淡々とした声で呟いた。


「……MODE──」


「─転。」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ