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亜里野ストーリー  作者: 与志野 音色
3章 人格分裂編
26/68

26話 無闘とF


薄暗い廃工場。

静寂の中田野の祝福、my only girlfriendが淡く光っていた。


翔馬の呼吸がゆっくりと整い──

閉じていた瞼が、震え、ゆっくりと開く。


「……ここは……?」


与志野がほっとした顔で駆け寄る。


「翔馬!良かった……!!」


田野も汗を拭いながら安堵の笑みを見せた。


「なんとか……治ったみたいだな。」


翔馬は状況を掴めず、周囲をきょろきょろ見回し、

そして──


「………え?」


目が固まった。


その視線の先。

廃工場の壁にもたれるようにして立つ、二つの影。


無闘。


そして、否定者F。


「……誰だ……お前ら……」


翔馬が身構えようとすると、無闘は両手を挙げて笑った。


「まぁ落ち着けよ、別に戦いに来たわけじゃねぇ。」


Fも慌てて手を振る。


「そう!違うよ!違うから!

敵意ゼロ!ほんとにゼロ!!」


翔馬はさらに混乱したように眉をひそめ、Fの方を見る。


「……いや待て、あんた……この前自転車でぶつかった……」


「え、お前ぶつかったの?なんか迷惑かけてねえよな?」


無闘は面倒くさそうに首を鳴らす。


Fは笑顔で答えた。


「え?ぶつかってないよ!それは違う!」


「……ああそう……悪いね翔馬君、俺から謝るよ」


翔馬の顔が歪む。


「ああ……それで……あんたらは何しに来たんだ?」


「あーそうだ、俺は無闘、そんでこっちはF。

お前らに協力してもらいに来たんだ。」


「……無闘……それにFって……何野四天王の……?協力?」


理解の範疇から外れすぎていて、言葉が出ない。


与志野が小さく息を飲んだ。


「翔馬……聞いてほしいことがある」


その声に促され、与志野と田野がこれまでの経緯を端的に話す。


翔馬の身体から何かが大量に出ていったこと。


その“何か”が多井死達が言うには亜里野の中の別人格で、合計六人が実体化して逃げていったこと。


そして──

誰より信頼し、尊敬していた青木先生。

優しかった大井史先生。


その二人が翔馬の監視員だったこと。


話を聞いた翔馬は、唇を震わせた。


「……何だよそれ……意味わかんねえ……」


「俺達だってまだ飲み込めてねえよ……でも……あんなもの見せられたら……」


否定者Fが静かに口を開く。


「嘘じゃないよ。

むしろ、まだ言ってない大事なことがある。」


「大事な事……?」


無闘も真顔で続ける。


「お前ら……まあ信じられないと思うがよく聞いてくれ。」


翔馬は戸惑いを隠せない。


「まずはさっきの監視員や無い野が元々いた場所……あいつらの故郷……神界について」


与志野と田野も凍りつく。

翔馬は一歩後ずさった。


「……神界……?」


否定者Fが深く頷く。


「うん、ここ……下界とは別にある世界」


空気が一瞬にして冷たくなった。


無闘が続ける。


「祝福ってのは元々そっち側のものなんだよ。

でもこの高校には下界人でありながら祝福を扱える奴らが複数いた……俺らはそれを調べてたんだ。」


Fが補足するように言う。


「勿論私達は下界人だよ!祝福も使えない!」


無闘は壁にもたれたまま、淡々と続ける。


「そしてな、お前の中にいた人格……あれも多分神界由来だ。」


「……は……?」


「この世界で生まれたもんじゃないってことさ」


翔馬は拳を握る。


信じられない。

そんな話、受け止められるはずがない。


与志野も反論する。


「いやいや……だって翔馬は小さい頃からずっと俺と児童養護施設に居たんだぞ?そんな訳が……」


そう言いながら気づく。


(児童養護施設……もしかして……あいつの親が居ないのって……しかも青木先生は俺達が小さい頃からずっと施設の職員だった……まるで俺達が……いや、翔馬が成長していくのを……見張る為……?)


だが無闘は、薄い笑みを浮かべた。


「まぁ信じなくてもいい、けど──」


その目は一瞬だけ鋭く光った。


「お前の身に起きることは、これから全部“神界”が絡んでくる。」


否定者Fも息を呑む。


「そして……その中心にいるのは、間違いなく君だよ。」


翔馬は喉が乾くような感覚を覚えながら、震える声で言った。


「……なんで……俺なんだよ。」


無闘は深く息を吐いた。


「それを説明するには──

まず基本を話さねぇとな。」


工場の空気がさらに重く沈む。


翔馬は拳を握りしめたまま、

その答えを待つしかなかった。


工場の埃が、静かに舞っていた。

無闘は壁から背を離し、ゆっくりと歩み出る。


「祝福ってのはな──

本来、別世界の神界人だけが使える力なんだ」


その言葉に、翔馬も与志野も田野も、息を呑む。


否定者Fが指を立てる。


「つまり、この世界の普通の人間には本来、

 絶ッ対に使えない力ってこと。」


無闘は続ける。


「だが知っての通り俺達の学校、神界高校には

人間のはずなのに祝福が発現した奴が複数いた。」


翔馬が眉を寄せる。


「神界人じゃ無いのに……何でいきなりこの学校だけ発現するんだ?」


「それを調べるために、俺らは学校に潜った」


無闘は淡々とした口調で言った。


与志野が驚きで声を上げる。


「潜った……!?お前ら何もんだよ…!」


「そう、全部調査任務だ。」


Fも補足した。


「私達には“師匠”がいるの。

神界の……とんでもなく強い人、その人に言われてきた。」


田野がつぶやく。


「師匠……?」


無闘は頷き、拳を軽く握った。


「俺らは祝福こそ使えねぇが、

幼少期からその師匠に鍛えられてたんだ」


「蒼の気の使い方、身体能力の開放、

そして──拳法全般。」


無闘の背後の空気が一瞬だけ震える。


「だから“下界人の祝福持ち”くらいなら、

 余裕で潰せる。」


翔馬は息を呑む。


(じゃあやろうと思えば今すぐ俺らを……)


「でも私達だけじゃ解決できない問題が出てきた」


無闘が真剣な目つきで翔馬たちを見る。


「翔馬、与志野、田野。」


「……?」


「蒼気と多井死。

あの二人は今──神界人として本気で動いてる。」


空気が張り詰めた。


「このままだと、確実にお前らが狙われる。

特に翔馬、お前は優先順位“最上位”だ。」


翔馬は拳を握る。


「それは……俺の中の人格が……神界と関係してるからってことか?」


無闘は無言で頷いた。


Fが静かに言う。


「だから……私達と組まない?」


翔馬が息を止めた。


「蒼気先生と多い死先生の正体を追う、散らばった翔馬の人格達を探す、そしてこの学校で何が起きてるか突き止める。」


無闘は手を差し出した。


「お前らだけじゃ絶対無理だ。

だが俺らも……師匠も……この件は放置できねぇ。」


田野と与志野が、互いに顔を見合わせ──


与志野が深く頷いた。


「……翔馬、俺たちも……協力した方がいいと思う。」


田野も静かに言う。


「俺達だけじゃ……皆んなを守れない」


翔馬は俯き、震える拳をゆっくり握りしめた。


青木先生の笑顔が頭をよぎる。

大井史先生の優しい声がよみがえる。


──裏切られた痛みが、胸を刺す。


だが。


「……分かった」


顔を上げ、無闘をまっすぐ見た。


「協力する……一緒にやる。」


無闘がゆっくりと笑う。


「よし。」


Fも小さく拳を握った。


「これで──神界と戦うチーム完成だね。」


翔馬の胸の奥で、

静かに、しかし確実に何かが動き始めていた。


──3日後。


神界高校では、翔馬たちの姿がないまま

体育祭は強引に決行され、学年の誰もが“何かがおかしい”と感じながら終わった。


そして土日を跨ぎ──月曜日。


校門前はざわついていた。


「なぁ……あの三人、今日も来てないのか?」


「てかうちの生徒が救急車で運ばれてたのってマジだったの?」


「てか大井史先生も途中から居なかったよな……」


「だよな、金曜日何があったんだろうな」


生徒たちの噂が渦巻く中、

当の本人たち──翔馬、与志野、田野は学校とは別の場所にいた。


その日の昼過ぎ。


人気のない山奥の空き地。

岩と木々に囲まれた、簡易な修行場のような空間。


無闘が腕を組んで立ち、

翔馬と与志野、田野を見下ろした。


「じゃ、今日から本格的に始めんぞ。」


翔馬が深く息を吐く。


田野が小さく言う。


「……学校、休んでるけど本当に大丈夫か……?」


Fがその背後からヒョコッと顔を出した。


「大丈夫大丈夫!一日ぐらい休んでもなんも言われないって!」


「お前この前無断欠席しすぎて担任に注意されてたよな……」


無闘がツッコむ。


無闘は気にせず続けた。


「まず、お前らに伝えとく。」


無闘は指を一本立てる。


「抹殺斗とフンペチは死んでねぇ。」


翔馬が眉をひそめる。


「田野が……治したからだろ。」


「あぁ。

ただし暴走の危険があるから完全には治してねぇ。

今は病院で大人しく入院してるらしいけどな」


田野は申し訳なさそうに言う。


「……あの二人、本当は全回復させたかったんだけど……あん時は前に祝福使い過ぎて疲労してたし……

意識取り戻したらまた暴れるかもだしな。」


無闘は軽く肩をすくめた。


「まぁ今は置いとく、向こうは当分戦線復帰できねぇだろ」


翔馬は少しだけ安堵の表情を浮かべる。


(良かった……あの二人も……死んでなかった……)


Fが唐突に言う。


「じゃあさ翔馬くん、君の中から出ていった人格のこと、覚えてる?」


翔馬は無言で首を横に振る。


「……全然。」


「だよね、見た感じあれ……祝福でできた生成物に近い存在だよ。」


「祝福……?でも俺の祝福は……」


無闘が手を叩いた。


「とにかく。

今のお前らに必要なのは“蒼の気のコントロール”だ。」


翔馬が真剣な表情になる。


「……教えてくれ」


無闘はにやりと笑う。


「いいか翔馬。

お前の蒼の気は────」


無闘は翔馬の胸に軽く手を添えた。


「規格外だ。」


翔馬の心臓が大きく跳ねた。


「規格外……?」


「大井死に蒼気……あの二人並み、もしくはそれ以上の気の“質”を持ってる。」


与志野が驚く。


「え……翔馬が……?」


「与志野はまあ平均って感じだな、田野は少し少ない」


無闘は言葉を続けた。


「だが使い方が壊滅的だ。

そのせいで身体が先に壊れるし速攻で蒼の気も使いきっちまう。」


翔馬は抹殺斗戦を思い出し拳を握る。


「……分かってる。」


無闘は頷き、二人に向かって言った。


「だからこれから教えるのはお前らが神界の奴らと戦うために必須の技術……基礎だ」


無闘は両手を叩き、号令をかける。


「では──修行開始だ。」


翔馬が深く息を吸う。


(青木先生……俺はあんた達の正体を確かめる。)


(そして……絶対に負けない。)


そんな中──


何処かの高層ビルの屋上。

何者かが都市を見下ろしていた。


小汚いフードを被り、その少女は呟く。


「……止めないと……この世界の……終焉を……」


突風が吹き少女のフードが取れた。


「……この世界も……神界も……私が守る。」


彼女の目が細まる。


この日から──翔馬たちの本当の鍛錬が始まった。


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