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亜里野ストーリー  作者: 与志野 音色
2章 体育祭編
25/68

25話 分裂


蒼気が静かに歩み寄る。


無い野は微動だにせず、

ただ蒼気の掌が自分へ触れるのを待っていた。


「始めるよ……無い野」

「ああ」


蒼気の指先が翔馬の胸へ触れた瞬間──


蒼の気が無い野の身体に流れ込んだ。


ゴウゥッッ……!!


廃工場の空気が一気に重くなる。


「……ッ!!」


無い野は少し苦しそうに汗を流す。


蒼気は目を閉じ、深く息を吸った。


「……見える……亜里野翔馬の気……いや、これは……」


その表情がわずかに強張る。


無い野が低く呟いた。


「そうだ、この身体に居るのは──俺だけじゃない。」


「……どういう意味だ?」


与志野が息を呑む。


無い野はゆっくりと視線を上げた。


「俺と共に封じ込められた合計六つの人格……多重人格達だ」


「六つ……!?」


田野が声を失う。


蒼気は額に汗をにじませながら、

さらに深く蒼の気の流れへ意識を沈めた。


「成程、確かにいるね……素晴らしい」


「蒼気さん、無い野君だけを切り離すのは難しいですか?」


「出来るには出来るが……それに器や無い野が耐えられるか分からない、少しリスキーだ」


無い野は淡々と続ける。


「他の六人も解放させるつもりなら気をつけた方がいい、人格の中でも力が大き過ぎて制御出来ない奴らが何人かいる……」


多井死はその言葉に薄く笑った。


「やはりね……安心してくれ、君の安全は私が守る」


蒼気が集中を深めようとしたその時──


金属片が転がる音。


「……?何だあいつは?」


全員が振り返る。


そこに、血まみれの少女が立っていた。


与志野と田野は驚愕する。


「フンペチ……!?」


だが、フンペチの眼中には与志野達など毛ほども無かった。


その目には壁にめり込み、血を流す抹殺斗が写っている。


「抹殺斗……さん……」


瞬間、枯渇した筈の蒼の気が再び底から湧き出す。


腕は折れ、片目は塞がり、

それでもその瞳には激しい怒りが燃えている。


「……っ……殺す……!!」


与志野と田野はフンペチの圧に押され、端へ後ずさった。


「何て圧だ……!」

「あいつ……あの怪我でまだ……!?」


大井死が小さく眉を寄せる。


「フンペチ……まだ生きていたか」


フンペチはふらつきながらも全身に蒼の気を纏う。


「抹殺斗さんを……よくも……!貴様ら……殺す!!」


叫ぶなり、無い野達へと飛びかかる。


deletepeti(デリートペチ)!!!」


「……心苦しいものだね」


多井死が一歩踏み出した瞬間、フンペチの目の前に瞬時に移動する。


指先でフンペチの額を軽く叩いた。


コツン。


その瞬間、フンペチの全身が“蒼に飲まれた”。


ズガァァァァァンッ!!!


床が陥没し、

フンペチの身体は地面に沈み込んだまま動かない。


一撃。


「仮の教職だったとはいえ……我が学舎の生徒を殺すのは」


田野が乾いた声を漏らす。


「……嘘だろ」


(一撃……ていうか何だ今の蒼の気……今の一撃だけで俺の総量を超えてる!)


多井死は軽く手を払う。


「後処理役が前に出るべきじゃないよ……もう聞こえてないか」


蒼気が即座に作業へ戻る。


「すまない、少し揺れた。

 無い野──始めるぞ。」


蒼気の蒼の気が翔馬の身体に深く潜り込む。


ゴゴゴゴゴ……!!


内部から複数の脈動が響き始めた。


蒼気の声が震える。


「いくぞ……!」


無い野は黙って頷いた。


蒼気が拳を握り──


「解除。」


蒼の気が爆発するように翔馬の身体から放たれた。


眩い光が工場を満たし──


次の瞬間。


“人影”が次々と翔馬の身体から抜け出した。


ぼとり。

ぼとり。


蒼の靄に包まれながら、

五人の影が床に落ちるようにして現れた。


皆、一息を吸った瞬間──


走り出した。


各方向へ、まるで本能で逃げるかのように。


多井死が呟く。


「散ったか……それにしても……五人だったな……後一人は?」


「多分、翔馬に完全に取り込まれて存在が消えたんだろう」


蒼気は肩で息をしながら頷く。


「成程ね、まあ無い野以外の人格が味方とは限らない以上……消えるのに越した事はないだろう」


無い野はぐったりして動かない翔馬を見下ろし、今度は自分の身体を見つめる。


手足を少し動かし、それを噛み締めるように笑った。


「……終わったか、感謝する。」


蒼気が微笑む。


「礼はいらん。

君は君で──」


その言葉の途中で。


空気が裂けた。


「遅かったか……!!」


「私達抜きで何してるの!!それは違うよ!!」


二つの影が工場に飛び込んできた。


無闘。


否定者F。


何野四天王の二人。


田野が驚愕する。


「なっ……!あいつら……!何野四天王の……!!」


「は!?何野四天王!?何でここに……!?」


多井死の顔から笑みが消える。

無い野も表情をわずかに険しくした。


Fが指を突きつける。


「ねぇ!何で!何で抹殺斗とフンペチ死んでるの!」


無闘は肩を揺らしながら笑う。


「いやギリ生きてるっぽいぞ……てか勢揃いだな。」


多井死が舌打ちする。


「ヴァルキリ野の弟子か……今はまずい」


蒼気も頷く。


「無い野、退くぞ。」


無い野は一度だけ翔馬の身体を見つめた。


無表情のまま、

しかしどこか名残惜しさを滲ませながら──


「……分かった」


地面が揺れ、

無い野、多井死、蒼気の三人が一気に跳躍する。


天井の穴を破って外へ消える。


Fは勢いよく叫び、走り出す。


「ねぇ待ってよ!!」


「待てF!!まずはこっちだ!!」


残されたのは──


気を失った翔馬。


呆然と立ち尽くす与志野と田野。


そして、地面にめり込み沈黙する抹殺斗とフンペチの身体。


そして、新たに現れた何野四天王の二人だった。


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