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亜里野ストーリー  作者: 与志野 音色
2章 体育祭編
24/68

24話 真実

二人の蒼の激突で、廃工場が何度も軋んだ。


抹殺斗は拳を連打し続ける。

蒼鎧を限界以上に展開し、祝福も放ち続ける。


だが翔馬には一切効いていなかった。


掠りもしない。

触れたとしても蒼の防御が無音で威力を殺す。


抹殺斗は焦りで呼吸を乱しながら、

距離をとろうとするが——


翔馬の指が軽く弾かれただけで、

抹殺斗の視界が裏返った。


「……ッ!?」


首を掴まれていた。


いつの間にか、翔馬が真正面にいた。


「がっ……は、離せ!」


抹殺斗は祝福を至近距離で発動する。


バシュウゥッ!!!


だが翔馬は顔を横に向け、光線を避ける。

翔馬の背後の壁が音もなく消滅した。


翔馬は掴んでいた手をゆっくり握りしめ——


「がっ……ぁ……ぁ……!!」


翔馬に持ち上げられ、抹殺斗の身体が徐々に浮かぶ。


骨が軋む音が響いた。


グググググ……!!


「離してほしいか?」

「グッ……ゥ……ゥァ……!」


翔馬はそのまま抹殺斗を地面に叩きつけた。


ドガアアアアアンッ!!!


コンクリが大きく陥没する。


「ぐっっ!!!」


抹殺斗は必死に蒼鎧を張るが、

翔馬はその上に片足を置き、無造作に踏み抜いた。


ミシィッ!!


「……なっ……」


ドゴッ!!!


蒼鎧が砕け、抹殺斗の腹を勢いよく踏む。


「ゴハッッ!!」


抹殺斗の顔が恐怖で染まる。


翔馬は無表情のまま、

抹殺斗の胸に掌を軽く添えた。


「少し痛むぞ。」

「な、何を……!」


次の瞬間、一気に翔馬の蒼の気が抹殺斗の体内に流れ込む。


「ぐああああああああッッ!!」


抹殺斗の身体が感電した様に盛大に跳ね上がり、

一瞬で吹き飛んだ。


壁ごと突き破り、奥の鉄骨に叩き込まれる。


ゴガァアアアアンッッ!!


蒼の鎧は完全に消失。

抹殺斗は血を吐きながら、力なく崩れ落ちた。


動けない。


「……ぅぁ……」


(……嘘……だ……俺が……こんな……奴……に……)


翔馬が一歩、また一歩と歩み寄る。


抹殺斗の顔面に影が落ち——


翔馬の指がゆっくりと抹殺斗の額へ向く。


「やめっ——」


ドンッ!!!


抹殺斗が壁にめり込んだまま沈黙する。


完全に、戦闘不能。


廃工場は静寂に包まれた。


──その時だった。


2階の高所の鉄骨の上。

誰も気づかない場所で、それを見ていた男がいた。


黒いコート。

白い仮面。

足音も気配も一切無い。


男はじっと翔馬を見下ろし——


「……遂に目覚めたか……」


独り言のように呟いた。


翔馬の蒼がまだ揺れている。

抹殺斗を倒した直後とは思えない異様な静けさ。


そして──


遠くから足音が聞こえた。


「翔馬ァ!!」


「翔馬、無事かッ!?」


与志野と田野が駆け込んで来た。

ボロボロの身体で、息を切らしながら。


だが二人は目にした光景に絶句する。


廃工場の床は沈み、

壁は抹殺斗の祝福で穴だらけ、

抹殺斗本人は壁に埋め込まれて動かない。


そして中央に立つのは——


無言でこちらを見る翔馬。


別人のような蒼の気。


その背中が、まるで怪物だった。


「しょ、翔馬……?本当に……翔馬か……?」


田野の声が震える。


翔馬は答えない。


その時だ。


「……やあ」


入り口から軽い声がした。


三人が振り返る。


いつの間にかそこに立っていた男。


誰も気づかなかった。


翔馬の背後に立つほどの、

完全な“気配の消失”。


与志野が即座に構える。


「誰だ……!」


「ハハハ……無理は禁物だよ与志野、もう君の身体に蒼の気は残ってないだろう?」


「え……?」


田野が思わず声を漏らす。


その男が一歩翔馬に近づき、入り口からの逆光で見えなかったその男の顔が明らかになった。


「体育祭をサボってこんな所で決闘なんて——」


男はニヤリと笑い、足を止めた。


「教師としては感心出来ないな。」


「……大井史……先生……?」


その男は大井史。

亜里野達のクラスの担任だった。


「は……?え……大井史……先生……?」


二人は呆然と立ち尽くし、

翔馬だけがその男を、無感情な瞳で見つめていた。


「……誰だ」


大井史は微笑む。


「さて……翔馬君。

いや、無い野と呼ぶべきかな?」


翔馬の蒼の気がわずかに揺れた。

廃工場の空気が、再び重く沈む。


「成程……神界の……今更俺に何の用だ?」


廃工場に重い空気が落ちる。


翔馬──いや、“無い野”が無表情のまま大井史を見据えている。


「は?無い野って誰だよ……おい翔馬!危ないからこっち来い!」


「与志野待て!何か変だぞ!」


与志野と田野は状況を理解できず、ただ立ち尽くすしか無かった。


大井史は淡々と口を開く。


「さて……そろそろ説明してあげないといけないね。

君たち生徒にも、そして──“中身”にも。」


「中身……?」


田野が震える。


大井史は軽く笑う。


「私はね、教師なんかじゃない。

教師の“ふり”をしていただけだ。」


与志野が叫ぶ。


「じゃあ……本当は何なんだよ!」


大井史は目を細めた。


「亜里野翔馬の監視員だよ。

彼の“本当の祝福”が亜里野そのものを飲み込むのを見届けるためのね。」


沈黙。


かすかな振動音だけが工場の隅で響く。


田野は声を失い、与志野がぎりっと歯を食いしばった。


「翔馬の……監視……?

何言ってんだ……意味がわかんねぇよ……!」


「分からなくて当然だよ。」


大井史は肩をすくめた。


「彼は普通の祝福者じゃない。

彼の本来の力が目覚めた瞬間、下界でのバランスは崩壊する。」


その言葉に反応したように、

無い野の蒼の気がゆらりと揺れる。


「御託はいい……大方解き放たれた俺を殺しに来たって所だろう?返り討ちにしてやる」


大井史はその様子を見て満足そうに頷いた。


「勘違いしないでくれ、私達に敵意はない。

君の手伝いをしたいだけだ」


無い野はその言葉に瞼を少しだけ閉じ、そして笑みを浮かべた。


「……クク……成程な……こっち側って訳だ」


「察しが良くて助かるよ、無い野君」


与志野と田野は完全に理解の外の話についていけず、ただ立ち尽くす。


「田野……もしかして……」


「ああ……あいつ……翔馬じゃない」


田野が呟いたが、その声は震えていた。


大井史はそれには答えず、

工場の入り口方向へ視線を向けた。


「……来たね」


足音が一つ。


静かに、確実に近づいてくる。


与志野と田野は反射的に視線を向けた。


薄暗い廃工場の入り口。

そこから姿を現したのは──


「すまない大井死、遅れた」


光の差す中へ歩み出たその男を見た瞬間、

与志野の目が大きく見開かれた。


「青木……先生……!?」


翔馬と与志野が尊敬している教師。

優しく、強く、常識的で、子供想いの良き指導者。


その青木が、

全く別の気配を纏ってそこに立っていた。


「蒼気さん」

「ああ、分かってる」


蒼気は二人に軽く微笑む。

いつもの柔らかい顔、のはずなのに──

どこか冷たく、深く、遠い。


「驚かせてしまったね。

私も大井死君と同じく──亜里野翔馬の監視員だ。」


「……な……」


言葉が続かない。


蒼気は大井死の隣に並び、無い野へと視線を向ける。


「無い野、身体を取り戻したばかりで思う所があるのは分かるが……時間がない、分かるね。」


「……分かっている。

亜里野が意識を取り戻せば……俺は再び沈む、そして二度と浮かび上がる事は無いだろう」


大井死が微笑む。


「今から肉体の主導権を無い野君へ移すのは時間がかかり過ぎる……少し強引にはなるが、君を亜里野翔馬の身体から引き剥がし、別の肉体を生成する。」


蒼気も言葉を継ぐ。


「監視員として任命された時から……この瞬間を待っていた。」


無い野の蒼が、深く、重く脈動した。


翔馬の身体の中で、何かが目覚めかけていた。


与志野は息を呑む。


「……どうなってんだ……翔馬……」


工場内の全員が見守る中──


無い野、大井死、蒼気。

三つの異質な蒼が絡み合い始める。


その瞬間から、

“世界”が変わり始めた。


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