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聖女の陰として生きてきた私が、廃太子と幸せになるまで  作者: 三羽高明@『廃城』電子書籍化


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34/50

起死回生の策、始動します!(1/2)

 一夜明けて、シャーロットとリル、それにティモは、バスティアンによってミース城の庭園に集められていた。


「計画は昨日の夜に話した通りだ」


 ビシッと背筋を正して、バスティアンが一人と二柱の前で大仰な身振り手振りで説明を始める。


「諸君らの健闘にミースの未来はかかっているのだ。であるからして……こら! 真面目な話の最中だぞ!」


 大あくびをしていたティモがギクリとしたように固まる。昨夜遅く寝ていたところをバスティアンに叩き起こされ、寝ぼけ頭に財政改革案を詰め込まれたせいで、まだベッドが恋しいのだろう。


「バスティアン、早く始めようよ」


 リルがつまらなさそうに言った。


「大演説ならまたあとで聞いてあげるからさ」

「まったく……そんなたるんだ態度ではミースの危機は乗り越えられないぞ」


 と言いつつも、バスティアンは計画を記した紙を懐から取り出した。


「さあ、行くぞ! 作戦の第一段階! さいは投げられた! 神の御前に煌めく供物を捧げよ!」


「ええと……」


「パパに御供石を渡すんですよ」


 何をして良いのか分からなさそうなリルとティモに、シャーロットが助け船を出す。


 シャーロットは昨日城に持って帰ってきた御供石をティモに渡した。ティモがそれを服のポケットに入れる。


「第二段階! 蘇れ、母なる大地よ!」

「パパ、魔法を使って地面に草を生やしてください」


 シャーロットが翻訳すると、ティモが地面に手を付ける。すると、その手元から草が伸びてきた。


 ここまでは前にシャーロットが執務室から見ていた光景と同じだ。だが、今回はその続きがあった。


 前は生まれたての赤ちゃんの髪のようにほわほわしていた草が、あっという間にボサボサに……もとい、こんもりと茂ったのである。


 草が腰くらいの高さまで伸びたところで、ティモは作業の手を止めた。自分の成し遂げたことに驚いたのか、大きな口が裂けそうなくらいにぱかっと開いている。


 けれど、驚きが治まるとティモはいつもの尊大な態度を取り戻した。


「皆の者! 見よ! 氏神の本領発揮じゃ! はーはっはっは! 我の前にひれ伏すが良いぞ!」


 すっかり得意になったティモはふんぞり返って成果を自慢した。シャーロットは「すごいです!」と彼を褒めてあげる。


「よく頑張りましたね。さすが神様です」

「っていうか、シャーロットのお陰でしょ」


 調子に乗っているティモにリルが冷たい視線を送る。


「シャーロットが見つけてきた御供石の力で魔力が強くなっただけじゃん」


 辛辣な言い方だが、その通りだった。御供石は神に捧げる石である。その石を本来の用途で使用したのだ。人間ですらこの鉱石を使えば強い魔力を得ることができるのだから、使用者が神ともなれば効果が出ないはずはなかった。


「で、御供石は? まだちゃんと残ってるの?」


「何じゃ、我の成功に嫉妬したのか? 邪神というのは焼きもち焼きで敵わんなあ。……ほれ、石ならまだあるぞ」


 ティモがポケットから御供石を取り出してみせる。色も大きさもシャーロットが渡した時のままだった。


 人間が使用すれば使い捨てになってしまう御供石も、神に与えた場合はご覧の通りだ。


 シャーロットは教会で何度も神に御供石が捧げられる光景を見てきたが、それが消滅したところには出くわしたことがなかった。どうやら、神は人間よりも御供石を上手に扱えるらしい。


(神も人のように石の魔力を引き出せるけれど、人と違ってその力を枯れ果てさせてしまうことはない。神が所有している間はこの石は神の一部となって魔力の増幅に寄与し続ける。まさに奇跡の御業みわざですね)


 ティモは半分竜の体をしている時点ですでに人間離れしているが、こうして奇跡をあっさりと起こしてしまう辺り、やはり神なのだと実感する。教会勤めの経験があるシャーロットは神聖な気持ちで氏神を見つめた。


「ほれ、次はお姉ちゃんの番じゃろう。上手くやれば我の時のようにシャーロットたちから褒めてもらえるかもしれんぞ」


「おい、話を勝手に進めるな。第三段階には『生めよ増やせよ地に満ちよ』というれっきとした名前が……」


「バスティアン、その分かりにくい作戦名、やっぱり変えた方がいいって。……ほいっ!」


 リルが軽く指を鳴らすと、地面から魔法陣が出現する。


 そこから現われたのはユニコーンだった。


 ユニコーンは辺りを素早く見回すなり、その場から逃げ出そうとする。ティモが「シャーロット!」と叫んだ。


「囲め!」


 シャーロットが詠唱すると、辺り一帯がドーム状の半透明の壁で囲われる。逃げようとしたユニコーンはその壁に行く手を塞がれて立ち往生してしまった。


「ほ~ら、怖がらなくてもいいんだよ~」


 リルが優しい声を出しながらユニコーンに近づいていく。


「お姉ちゃんが美味しいごはんをごちそうしてあげるからね~」


 リルはティモが出現させた草地までユニコーンを誘導した。


 ユニコーンは初めの内は警戒心たっぷりに草の匂いを嗅いでいたが、恐る恐るといった様子で一口食べる。そして、安全だと判断したのか、その後は一心不乱になって食事を始めた。


「よし、今だ!」


 バスティアンがユニコーンの角をボキリと折った。「やったぞ!」とティモが拍手する。


「たてがみもいただいちゃった!」


 ユニコーンの毛並みを整えてあげていたリルも嬉しそうだ。彼女の握るブラシには、偶然抜け落ちた魔獣の毛が絡まっていた。


 シャーロットもにこやかな顔になりながらも、「本当に大丈夫なんですよね?」と念を押す。


「角を折られたりして、ユニコーンは痛くないのでしょうか?」


「シャーロットは心配性だなあ。これは人間にとっては爪を切るみたいなことなんだよ」


 ブラシから毛を取り外しながらリルが言った。


「あんまり角が長いとあちこちにぶつかって危ないもん。だからユニコーンって、ある程度角が伸びてくると自分で木とか石とかに体当たりして角を折っちゃうんだ。それに……ほら」


 リルがユニコーンを指差す。その頭頂からは早くも小さな新しい角が伸び始めていた。


「折ってもすぐに伸びるんだよ。だから平気」

「皆様、行商の方がお見えですよ」


 バスティアンの執事のオラフがやって来て来客を告げる。ちょうどいいタイミングだ。シャーロットたちは採集したばかりのユニコーンの角と毛を持って行商人の待つ客間へ向かった。


「おお、これは!」


 角と毛を見せるなり、商人は明るい顔になった。


「ユニコーンから採れる素材ですね。どれ……ほうほう……」


 商人は角と毛をじっくり眺め回す。バスティアンは「どうだ?」と緊張した声で聞いた。


「買い取ってもらえるか?」


「それはもちろん。ユニコーンの角や毛は魔法薬や魔法具の材料として重宝されていますからね。お値段は……こんなところでいかがでしょう」


 提示された金額にシャーロットは思わず笑顔になった。厩舎にあと何頭か馬を追加するくらいはできそうな額だ。

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