お手柄です、シャーロット様!(1/1)
「聞いてください、バスティアン様!」
ティモがミース城にやって来てから一週間ほどが経った日のこと。夜遅くに帰宅したシャーロットは、浮かれた足取りでバスティアンの居室を訪れた。
「何かいいことでもありましたか、シャーロット様。まるで喜びの神の祝福を受けたような顔をなさっていますが」
「ふふふ……確かにこれは神のお導きかもしれませんね」
上機嫌のシャーロットはバスティアンの大げさな物言いに表情を緩める。机に飾ってあるヒマワリの入ったドライフラワーボックスを脇に退け、空いたスペースにカバンの中身を並べた。
「これは……見事な石ですね」
大きさは手のひら大。オパールのような乳白色の地色をしており、虹色の光を放っている。
「ひょっとして宝石ですか?」
「それに近いですね。これは『御供石』と呼ばれている品です」
「御供石というと教会で儀式の時に使われる? 確か、神へのお供え物ですよね?」
バスティアンの言う通り、御供石は神事になくてはならないアイテムだった。儀式の際はこの石を祭壇に供え、神に自らの信仰心を示すのだ。
御供石には魔力が宿っている。その力の大小により、神が与える加護の大きさも決まると言われていた。
「ですが、御供石というのはこのような色をしていたでしょうか? もっと輝きが少なくて、正直に言ってその辺の道端に落ちていても分からないくらいのありふれた外見だったような気がしますが……」
「それはですね、この御供石がとっても質の高いものだからです!」
シャーロットは早口でまくし立てた。この最高の発見の全容を早くバスティアンにも知ってもらいたくて仕方がない。
「この御供石を輸出すれば、ミースが救われること間違いなしです! だって、これほど品質のいい御供石なんてそうそうお目にかかれませんから!」
「この石はミースで産出されたものなのですか?」
「……あっ、そのことをまだお話ししていませんでしたね」
シャーロットは軽く深呼吸して気持ちを落ち着かせた。どうやら興奮しすぎて話の順序がめちゃくちゃになっていたらしい。
「バスティアン様のおっしゃる通り、これはミースで採れたものです。パパと会った渓谷を覚えていますか? 私、もう一度あそこへ視察に行ってみたんです」
シャーロットは御供石を見つけた時の状況を説明した。
「といっても、何かがあると初めから分かっていたわけではなかったのですが。ただ、何となく調べてみようという気がしたのです。結構高度な探査魔法も使ってみたりしました。すると、岩壁の中からかすかな魔力の反応があるではありませんか!」
興奮がぶり返してきて、シャーロットは再び深呼吸した。
「それで、好奇心から掘り起こしてみるとこの御供石が出てきたというわけです! ……どうです、すごいでしょう、バスティアン様!」
シャーロットはオリーブ色の瞳を輝かせる。
「ミースはきっと鉱脈が豊富にあるんですよ! これを開拓しない手はありません!」
御供石の使い道は神への供え物だけではない。この石に込められた魔力を吸い取れば、それを己の力とすることも可能なのだ。要するに、魔力を増強させるアイテムにもなるということである。
もっとも、魔力が増すのは一時的な効果だし、人間が石の力を使うと御供石は消滅してしまうのだが。
それでもその利便性ゆえに、御供石はいざという時に頼りになる切り札のような存在として王国民に親しまれていた。
そんな素晴らしい鉱物がミースで採れることが分かったのだ。シャーロットはすっかり気分が高揚していた。
「たくさん掘って、たくさん売って……これでミースの財政危機は救われます!」
シャーロットは話を締めくくる。だが、バスティアンの表情は晴れない。考え深げな顔で御供石を一つ手に取る。
「シャーロット様はミースには鉱脈が豊富にあるとおっしゃいましたが、それは確かでしょうか?」
バスティアンは悩ましげな顔をしている。
「もし採掘を開始したあとに、埋蔵量がそれほどでもないと判明したら? その場合、ミースはすぐにまた元の状態に逆戻りです。それに鉱山労働者を大勢雇うお金もありませんし……」
バスティアンの声は暗い。
「すみません。シャーロット様がせっかく華々しい発見をしたというのに、水を差すようなことを言ってしまって。ですが、わたしはミースを救おうと様々な事業に手を出して、ことごとく失敗してきたのです。少し慎重になってしまうのですよ」
「……そうですよね」
シャーロットは自分の軽率さを恥じ入った。
ミースは貧しいのだ。新たな事業を始めるとしたら、絶対に失敗は許されない。これ以上借金が増えれば、もうお金を貸してくれる相手もいなくなってしまうだろう。そうなったらこの土地は一巻の終わりである。
「けれど……この御供石、何かの役に立たないでしょうか?」
シャーロットは未練がましく掘り出してきた鉱石を指先で撫でた。
「こんなに質が高いんですもの。もう一度岩壁に埋め直してくるのはあまりにももったいないです。もっと安上がりで失敗してもそこまで痛くない使い道はないでしょうか?」
「うーん……御供石……神へのお供え物……」
「……神といえば、このお城にもいますよね」
邪神と氏神が。
シャーロットがそう付け足す前に、バスティアンが「ああっ!」と大声を上げた。
「そうだ! その手があったか!」
「バスティアン様?」
「お手柄です、シャーロット様! やはりあなたは素晴らしい! 試してみたいことがあるのです! お付き合い願えますか?」
「ええ、構いませんが……」
何が何やらさっぱり分からない。それでも、バスティアンの晴れ晴れとした顔を見ている内に、シャーロットはどうやら自分の発見も無駄ではなかったらしいと分かって安堵したのだった。




