起死回生の策、始動します!(2/2)
「作戦大成功!」
行商が帰っていくと、四人はハイタッチをした。
「いける、いけるよ、これ! もっと魔獣を呼んで飼育して……」
「そいつらから素材を集めて売る! 名付けて魔獣牧場じゃ!」
魔獣牧場。それこそが、ミースの財政危機を乗り越えるためにシャーロットたちが考えた起死回生の策だった。
「手始めにもっとユニコーンを増やそっか」
庭に戻る道すがらリルが上機嫌で言った。
「ユニコーンって気難しいし人のいるところを嫌うから、素材を採るのは難しいと思ってたけど……案外簡単にできたしね」
「我のお陰じゃ」
ティモが自信たっぷりに言った。
「奴め、我が生やした草がよほど美味かったと見える。あんなに一心不乱に食いおって。傍に人がいるのにも忘れるくらいじゃから、よっぽどじゃな」
「それに、逃げたくても逃げられないだろう。シャーロット様が辺りに結界を張ったんだ。あれを破れる生き物などそうそういない」
一行は庭に着く。ユニコーンはまだ草に夢中だったが、そろそろ食べ尽くしてしまいそうだ。リルが「パパ、補充!」と命令した。
「まったく……氏神使いの荒いお姉ちゃんじゃ」
ティモが地面に魔力を送り込んだ。すると、そこから草が生えてくる。先ほどと同じように、腰くらいの高さになったところでティモは魔法を使うのをやめた。
「何してんの! こんなんじゃ足りないよ!」
リルの青い目が吊り上がる。
「ちょっと大きい水溜まりくらいの面積しかないじゃん! もっと草を生やさないと! せめてこの庭いっぱいに!」
「ひぃっ、鬼じゃ!」
ティモがシャーロットの後ろに回り込んでリルから身を隠した。尻尾をブルブルと震わせている。
「無から有を作り出すのは簡単ではないのじゃ! 何にもないところから植物を育てるのは難しいんじゃぞ! 御供石をいくら積まれたところで、一度に生やせる量には限界があるのじゃ!」
「チッ、使えないんだから……」
「シャ、シャーロットぉ! 今、お姉ちゃんが舌打ちして我の悪口を言ったぞ!」
「ケンカしないでください」
シャーロットは二人をなだめ、ヒンヒンと泣くティモを慰めた。
「何もないところから植物を生やすのが難しいなら、種でもまいてはいかがでしょう? まだ行商人さんはいますよね? お金なら先ほどの素材の売り上げが手元にありますから、それで何か買いましょう」
「いえ、その必要はありません」
バスティアンが会話に加わる。
「種ならミース城にもたくさん保管してあります。といっても、花の種ですが」
「花か……いいんじゃない? 花を食べて育つ魔獣とかロマンチックじゃん。バスティアン、そういうの好きでしょう?」
「ああ、そうだな。月に叢雲、花に獣。徒花となって散るか、別の命の糧として生きるか。両者の間に横たわるのは深く大きな……」
「それで、その花の種は城のどこにあるんじゃ?」
せっかくの詩的な気分を壊されてバスティアンは少しムッとしたようだ。眉根を寄せながら「地下室だ」と言った。
「いくつか部屋がある。その内の一つに保管してあるはずだ」
「よし! それなら皆で種まきじゃな!」
「力不足の氏神のサポート、とも言うけどね」
ティモとリルが来た道を引き返して城へと戻る。シャーロットとバスティアンも二人のあとに続いた。
「バスティアン様はガーデニングがお好きなのですか?」
大量の花の種がミース城にあるなど初耳だった。バスティアンは「そういうわけでは」と返す。
「昔の失敗の名残です。かつてわたしはミースに花畑を作ろうとしたんですよ。観光名所にでもなればと思って」
「なるほど、領地経営の一環だったのですね。けれど、その結果は……」
「ええ、上手くいきませんでした。一応、痩せた土地でも咲く花という触れ込みだったのですが、どうも上手く育たなくて……。張り切って大量に種を仕入れて痛い目を見ましたよ」
「ですが、その種もこうして役立つ日が来たではありませんか」
シャーロットは優しい声で言った。
「何がどう活きるのかなんて、その時になってみなければ分かりませんよ。お姉ちゃんの力だって今までは忌み嫌われていたんです。それでもその能力にも使い道はありました。……バスティアン様の努力は無駄ではなかったのですよ。失敗が成功に変わる日がこうしてやって来たのですから」
「シャーロット様……」
バスティアンが金の瞳を潤ませてシャーロットに近寄ってくる。震える手が伸びてきた。
抱きしめられるかもしれない。
一瞬、そんな風に期待してしまった。
けれど、バスティアンは伸ばした手をすぐに下ろす。シャーロットは「やめないでください」と言って、彼の胸元に縋り付きたいような衝動を覚えた。
(……あの逞しい腕に包み込まれたらどんな気持ちになるのでしょう)
恐らく骨抜きにされてしまうに違いない。そうなっても構わないし、むしろそうなりたい、とシャーロットは切に願った。
(ダメ……。落ち着きなさい、シャーロット。私の恋心が本物だとまだ決まったわけではないのですから……)
バスティアンは元婚約者のエドガーの代替品かもしれない。
そんな疑惑にシャーロットはまだ振り回されていた。この恋心が本当にバスティアンに向けられているものなのか、ずっと迷っていたのだ。
「二人とも! 良い雰囲気で見つめ合ってるところ悪いけど、ちょっと手伝ってよ!」
「すごい量の種じゃ! とても一日ではまききれんぞ!」
種が入った袋を担いだリルとティモが地下へと続く階段を上がってくる。
己の中の醜い面に背を向けるように、シャーロットはバスティアンから目を離して二人のところへ駆け寄った。
(この恋が幻でなければいいのに……)
シャーロットはそう思わずにはいられなかった。




