8話:ガーネット・トウニー式・輪回転型・紅蓮砲
「サブマッチの前にルールを説明するぞ」
「『百獣狩り』は、今朝やった100人狩りサブマッチと同じ要領で、基本は『全てのターゲットを撃破するまでの時間』を競うサブマッチだ」
「ただし、ターゲットは百獣の名の通り魔物型! 種類も(作り手の俺次第で)バラバラ! 当然このターゲットは本物の魔物と同じ挙動をするし、身体も人型なんざ比べもんにならないくらい頑丈っつーわけだ!」
「よーするに、100匹の色んな魔物を器用に対処して、どんだけ早よ倒せるか、っちゅうわけやな!」
「要約すっとその通り!」
デスティとジュンコは解説席から拡声器で、これから行うサブマッチのルールを発表する。
「そんな数の魔物と戦うんですか……!?」
「『間引き』のシゴトみたいな感じデスネ」
「ちなみに、選手の両方が制限時間5分でターゲットを倒しきれなかった場合は、倒した数で勝敗を決めるが――まあ、オメーらなら時間切れはなさそうだな」
「僕、魔物となんて戦った事ないんですけど……?」
「ジブンが戦うワケでもナイノニ、デスティさんスゴイ自信デス……」
何故かはわからないが、デスティは2人が間違いなく魔物を全滅させると確信しているらしい。
しかし、ルールを聞いたマティアスとガーネットの口調はすこし気が引けたものだった。
それも仕方がないことだ、野生の魔物など特区以外でまず見かけない存在、そんな見知らぬ危険生物を大量に相手にしろと言われれば誰しもそうなる。
「まあ安心しろ。魔物型つっても逃げ回るだけで、間違っても選手や観客に襲い掛かったりはしない。サバイブ・マッチは選手観客に安心安全な娯楽を提供します、ってな」
「ツマリ……魔物の形をした動くサンドバッグというワケデスネ」
「それなら僕でもクリアできる……かな?」
つまるところ、このサブマッチはターゲットに攻撃を当てる技量と、撃破するだけのパワーさえあればクリアできるらしい。
身の危険は無いと分かってか、二人の弱気が消える。
「サブマッチの順番は演舞の時と同じだ。マティアスは解説席の結界の中に来い、ガーネットはそのままフィールドに残れ」
「それじゃあガーネットさん、頑張って」
デスティの指示に従って、マティアスは解説席の方へ歩きだそうとする。
ついでに、ガーネットの健闘を祈るつもりで「頑張って」と声をかけたのだが。
「マティアス、ちょっと違いマスヨ!」
「えっ、違う?」
ガーネットはがしり、とマティアスの右肩を掴んでそんな事を言い出した。
自分はなにか間違った事を言っただろうか、マティアスはぎょっとしていると……。
「イイデスカ、ワタシ達はこれから戦うのデスヨ?」
「戦うって言うか競争だけど……」
「どっちが勝つかの勝負デスヨ?」
「ま、まあそうだね」
「戦う相手ニハ『頑張って』じゃナクテ、『恥をかく前にとっとと帰ってママのミルクでも飲んでな、ベイビー』ッテ言う所デショウ?」
「いやいやそんな悪口言わないよ!? というかそれ小説に出てくる悪役のセリフだよね!?」
どうやらガーネットは西方小説みたいな雰囲気を望んでいただけらしい。
ただ、特に悪感情も抱いていない相手に挑発などマティアスは言えるはずもない。
「ンモウ、せっかくアウトローな雰囲気で戦えるゼッコーの機会なノニ。マティアスは『イケズ』ってヤツデスネ」
「意地悪なのかな……?」
「ナラ、ワタシがイイマス! 『フッ、田舎のおぼっちゃんは余程お喋りが得意みたいだな。そのピカピカの銃はパパに買ってもらったのか?』」
「いやいやいや僕銃持ってないし、というか小説のセリフだけ凄い流暢に喋れるんだね」
「オゥ、確かに銃ないデスネ。ソレナラ一つワタシの銃を貸してあげまショウ。デキタテホヤホヤ、ピカピカの銃デス」
「いっ……いらないいらない。悪口の為に新品の銃渡されるの初めてだよ」
もう一丁、艶のある新しめな銃を気軽に渡そうとするガーネットを(銃はちょっと欲しいかもと思いつつ)いなしながら、マティアスは解説席へと歩き出した。
「……勝負、かぁ」
歩いている最中、マティアスはガーネットの『勝負』という言葉が頭の中に残って、なんとなしに口に出した。
己を律するために、鍛えに鍛え上げた千変万化流の技。
マティアスにとって千変万化流の技とは、外敵に向けるものではなく、自分の体質を改善するための手段だった。
だがこのサブマッチで、直接ではないにせよ、自分は初めて勝負のために力を振るうのである。
(なんだろう? この気持ち……)
ざわざわとした感覚を胸のうちに抱えながら、マティアスは不思議そうな顔をするのであった。
「待たせたな観衆共! これより『全員ぶっ殺せ! 百獣狩りサバイブ・マッチ』を始める!」
デスティの声に合わせて、観客たちから歓声が上がる。
平和な時代を生きる若者たちが、サバイブ・マッチという刺激を今か今かと待ちわびていた。
「選手の活躍を見てーヤツは、目を離すなよ!」
ガーネットを指さして、デスティはそう言い放つ。
言葉とほぼ同時に、フィールドのあちこちに黒と緑の閃光が迸る。
彼女を取り囲むように、地上も上空も分け隔てなく、空に浮かぶ星々のように、デスティの死体魔法が発生して。
「ターゲットに紛れて、見えなくなっちまうからな!」
言い終わるや否や、校庭は異形の軍勢に制圧されていた。
地にはオオカミや大型のネコ型などの凶暴な肉食系の魔物や、黒い装甲を持つ甲虫型の魔物がずらりと並び、空には猛禽系の魔物や、ワイバーンのような竜種までもが飛び回っている。
しかも魔物型ターゲットは人型と違って本物そっくりに作ってあるようで、傍目から見れば魔物に四方八方を取り囲まれた、地獄のごとき光景が現れていた。
「スタートと同時にえらい数の魔物型ターゲットが早速ガーネット選手を囲い込んだで! 景気がええなあデスティ!」
「っくっくっく、ウルフ型10体、リタイヒャクアシ型10体、オメガライナサラス型5体、オーガ型10体、リパーマンティス型5体、ワイバーン型10体、サバクトビキャット型9体、オニゴロシヤンマ型15体、ベアキラービー型20体、フライング・シャーク型4体。総勢99体のおでましだ。最後の1体は、こいつら全員片付けてからのお楽しみってな!」
「いきなり99体も出したんか!?」
「うわぁ……どれも凶暴なやつばっかりだ……」
マティアスはターゲット軍団の顔ぶれに戦慄する。
変身する故にマティアスは魔物に詳しいのだが、デスティが生み出した魔物達はどれもこれも凶悪で戦闘力が高い面々ばかりだった。
攻撃はしてこないとは分かっていても、風貌の恐ろしさと、大群というシチュエーションに常人ならば震え上がってしまうだろう。
「こないに多いとガーネット選手が見えへんやん!」
「いーや、そいつはどうかな?」
しかし、やたらガタイのいい魔物ばかりで固めてしまったせいか、フィールドの中はすっかり魔物に埋め尽くされていて、ガーネットの姿は隠れてしまっている。
これではサブマッチの盛り上がりに欠けてしまうのではないか、そんなジュンコの言葉を、デスティは気楽そうに否定したその瞬間……。
「『フレア・バレット』!」
ダアン! という発砲音。
解説席前にいたターゲット達はわずかに回避行動を取るが、間に合わない。
動きが鈍い甲虫型が弾丸を受けて大きく跳ね飛ぶと、直後に業火が炸裂、周りにいたターゲット複数が爆炎に飲まれていった。
「リロード! 『グラヴィティヴ・バレット』!」
再び銃声、空を飛ぶサバクトビキャットとオニゴロシヤンマ数匹が、鈍色の雷に打たれたと思えば、重力落下の何倍もの速度で地面へと激突していく。
「リロード! 『カマイタチ・バレット』!」
さらなる銃声、地上にいた甲虫型とリパーマンティス型の身体がバラバラに分断され、宙へと放り上がる。
「『魔弾は魔物よりツヨシ』。ンー、名言デスネ」
そうして次々とターゲットの群れを晴らすことで、ガーネットの姿が確認できるようになった。
彼女はターゲットに全く臆することなく、魔弾の破壊跡を満足そうに見ている。
「お、おおーっ!? さっそくガーネット選手、魔弾を連発してターゲットを大量撃破! 数も減って姿が見えたで!」
「ほれ見ろ。今ので26はやったか」
ジュンコとデスティの解説と、観客席からの歓声がサブマッチ会場に響き渡る。
ガーネットの放つ魔弾はどれも花火のように色とりどりで、その破壊は見ていて気持ちのいいものであった。
「すごい……!」
素直な賞賛が、マティアスの口を衝いて出る。
自分とは全く別種の、魔物を殲滅する力の形に。
自身の知る凶悪な魔物達を、最も容易く葬る力の大きさに、感動に近い感情を抱いていた。
「サテ――お次はどいつに風穴アケましょうカ!」
銃を構え、次なるターゲットに照準を合わせ、魔弾の射手は笑う。
(ンフフー! ワタシ、いま最ッ高にガンマンしてマス!)
そのガーネットはというと、内心、とてもとても満足していた。
引き金を引き、弾丸を放ち、射撃の反動を全身で感じ、魔弾が生み出す破壊を見届ける。
どれもこれも、平時では得難い体験であった。特に、実際に撃ち抜けるターゲットがいることと、それが魔物の形をしていることが、ガーネットの引き金を引く指を軽くしていく。
「ガーネット選手はターゲットの4分の1を撃破! これは早い! これやと2分もせんうちにクリアもありうるペースや! デスティ、まさか、まさか手加減しとるとちゃうかー?」
「手加減なんざするかよ。単純に魔弾の火力が高すぎて、持ち堪えるターゲットがいねぇ」
「ソンナ悠長な事はやってられマセン! 1分台でケリをつけマス! ……コノまま銃をズット撃ちたいところデスケド」
サブマッチを終わらせるのを惜しみながらも、ガーネットは勝つために次なる魔弾を装填する。
「リロード! 『ライトニング・バレット』!」
その魔弾は、命中した瞬間に雷を撒き散らす。
先程撃った三つの魔弾――火炎、重力倍増、真空による斬撃――は堅牢かつ鈍重なターゲットに対して有効だったが、この魔弾はその真逆。
ガーネットは銃を上へと構える、狙いは空を舞うワイバーン型のターゲット。
雷の速度であれば、どれだけ素早く飛び回ろうと関係ない。
「バァン!」
引き金を引き、発砲する。
魔弾は間を置かず、照準の先へと――
「ンンっ?」
――何もいなかった。
ガッ! と、魔弾がフィールドを囲う結界に激突し、沈黙する。
「……オゥ、外されマシタネ」
狙いを外された。
狙いをつけ、引き金を引くほんの刹那の瞬間に、ワイバーン型のターゲットは照準から離れていたのだ。
ガーネットは銃を構えて、もう一度狙いを定める……だが、ワイバーン型ターゲットの虚な視線もまた、銃口にぴたりと向けられていた。
見られている、このまま撃っても当たらない。ガーネットはそう直感する。
(このワイバーン型は厄介デスネ……。弾速は充分な筈デスガ、ワタシの照準を上手く外してキマス)
魔弾とは、銃弾に予め魔法陣を刻み、当てた相手の魔力を吸収して魔法を炸裂させるものだ。即ち、魔弾そのものが当たらなければ、充分な威力は見込めない。
(命中補助を刻ンダ銃に取リ替エル? ノー。それだと弾速が落ちて躱されマスネ)
銃の取り替えを僅かに考えるも、即却下する。
弾速を落とすくらいなら、ターゲットの動きを先読みして当てるか、他のターゲットに魔弾を当てて、炸裂範囲にワイバーン型を巻き込んだ方がまだ可能性がある。
(先に他のターゲットを撃破スル? ……ノー)
しかし、それさえも躱されてワイバーン型だけが残ってしまえば、苦戦は必至だろう。
「ンー。コノままチマチマ撃つのも、タイムに響きマスシ――
だからガーネットは、決断した。
構えた銃を、格納マントの中へと転送して。
――奥の手、使っちゃいマショウ!」
隠していた力を披露することにした。
「おおっと!? ガーネット選手、魔弾を外したと思うたら、新しい銃を取り出し……銃なんかアレ!?」
「っくっくっく、アレがガーネットのとっておきか」
「銃身が幾つも……それを、束ねて円形に纏めてある……?」
ガーネットが取り出した銃は、それまで使っていた長銃の形から大きくかけ離れた、異形の銃であった。
マティアスの言う通り、六つほどの長い銃身が円形状に束ねてある、銃身を接続した根本は、何か機構が詰まっているのか、太く丸太のようになっていて、全体的な形だけで言えば大砲のようにもみえる。
それほどの大きさゆえに、束ねた銃身の上部分に片手で持ち上げる用途と、銃の最後方にレバーのように片手で握り込む用途の二つのグリップが存在していた。
「コレがワタシの奥の手! 名付けて『ガーネット・トウニー式・輪回転型・紅蓮砲』デス!」
ガーネットはその銃の名を高らかに宣言し、腰だめに構える。
「ここでガーネット選手は新しい銃を取り出したで! その名もガーネット・トウニー式・りん……えーっと?」
「ガーネット・トウニー式・輪回転型・紅蓮砲デス!」
「長いな。略してガトリング砲でいいだろ」
「ワッツ!? せっかく一生懸命ネーミング考えたノニ!? デモなんかイイカンジの名前です! サイヨウ!」
「凄いあっさり採用しちゃった!?」
デスティが即興で考えた(妙にしっくりくる)略称を、これまた速攻で受け入れるガーネット。
「ソレデハ改めマシテ! このガトリング砲の威力、ゴ照覧アレ! デス!」
彼女は腰だめに構えたガトリング砲の銃口を上へと傾ける。
「新しい銃で再び空のターゲットを狙うガーネット選手! はたして通用するんかー!?」
「……あんなに重そうな銃で、大丈夫なのかな」
マティアスは、どうにもピンと来なかった。
ガーネットが奥の手で出したとあれば、あのガトリング砲はワイバーンにも間違いなく通用する代物なのだろう。
しかし魔弾を避けられる要因は、照準をつけるまでの僅かな隙のせいなのだ。
順当に解決策を取るなら、銃そのものの取り回しを良くして、素早く狙いをつける事ではないのか?
「スピンアップ!」
ガーネットが叫ぶ、ギュィイイイイイ!!! とガトリング砲が唸りを上げる。
生物とかけ離れた人工物の咆哮は、束ねられた銃身を回転させる事によって生み出され、そして――
「ファイア! 弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾ーーーーー!!!!!」
――ガトリング砲が、火を噴き上げる。
砲門の先にいたサメ型ターゲットが、一瞬でバラバラに千切れ飛んでいった。
ごく単純な弾丸の威力、そして悍ましいほどの発射量によって成せる現象であった。
「弾弾弾弾弾弾弾弾弾」
サブマッチのフィールドが、音で支配される。
絶え間なく高速で弾丸を放つ音、銃身が回転する音、ターゲットが爆散し弾け飛ぶ音、それら全てが合わさった破滅の音だ。
ガーネットは身体ごと銃を振り回して、銃口を別方向へと向けていく。
向けた側から、射線の先にいたターゲットは、種類に関わらずみな爆散していった。
耐えられない、耐えられるはずが無い、数秒の僅かな時間で、何百もの弾丸を放つ、暴力の化身の如き兵器なのだから。
「弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾!!」
それでもなお、ワイバーン型のターゲットだけは、弾丸の暴風雨の中にあっても未だ生き延びていた。
ガトリング砲の射線から逃げに逃げ、グルグルと周囲を飛び回っているのだ。
弾丸を絶え間なく発射しようが、照準に追い付かれなければ当たる事はない――
「弾弾弾弾ぁぁぁぁぁぁ!!!!」
――全ての弾丸が、魔弾でさえなければ。
ワイバーン型以外の他ターゲットたちは、ほぼ全てがガトリング砲によって弾丸を撃ち込まれていて。
四方八方に存在していたがゆえに、魔弾を全方位へと炸裂させる触媒と成り果てていた。
フィールドが真白の閃光に包まれる。
躱しようがない、躱すためのスペースすらない、ワイバーン型のターゲットはなす術もなく、光のなかへ飲まれて消える。
「最高だガーネット! ラストターゲット行くぞォ!!!」
その直後に、デスティが声を張り上げる。
先程の掃射と魔弾の一斉起動でその場のターゲットは全て撃破されたらしい。彼は間髪入れずに死霊魔法を繰り出していた。
ガーネットの正面、少し離れたところに大きな黒緑の閃光が迸る。
ぐむり、と灰色の肉塊が光から生み出されて、爆発的に膨れ上がる。
肉塊は素早く流動し、この場の全員が見覚えのある怪物の形をとった。
「死体混合錬成、『ダーリックホエール・竜鱗装甲』! ダーリックホエールの体積に、ドラゴンの防御力の合わせ技! 破れるもんなら破ってみやがれッ!!!」
それは、表皮がドラゴンの皮膚と鱗で構成された異形のダーリックホエールであった。
ダーリックホエールの大口にドラゴンの牙が生えそろい、形相は爬虫類じみた厳ついものに、四肢も岩山のように屈強なものへと変貌していた。
翼なきドラゴンと言っても遜色ない、前代未聞の大怪物を。
「オーケー!!! レッツァゴォォォォォ!!!!」
フライシュッツは笑顔とガトリング砲の咆哮で応える。
魔弾の濁流がダーリックホエールの顔面へと殺到する。
着弾した側から炸裂する魔弾は、まるで無数に打ち上がる花火のように輝いて、恐ろしい風貌をあっという間に隠してしまう。
数秒としないうちに魔弾の炸裂光は顔面に留まらず、顔面から胴へ尻尾をめがけて突き進んでいた。
それは、身体のあちこちに撃ち込んでいる訳ではなく、頭部が削れて無くなったから、起きている現象だった
「す、すごいっ……! こんなのもう硬さとか関係ない、物量で全部押し潰して……!!?」
マティアスはガーネットの破壊に釘付けになっていた。
恐るべき銃の威力に恐るべき魔弾の威力、しかし彼女の本当の恐ろしさは、速さも硬さも無視した圧倒的物量だったことに、心の底から驚愕し、興奮していた。
そうして、光の進行はあっという間にダーリックホエールの尻尾の先端まで届いて――
「ガーネット選手! そのままラストターゲットを撃破っ! 百獣狩りサブマッチ、タイム1分46秒でクリアや!」
「ッフゥ〜〜〜ッ……! サイッコー……デシタ……!」
ガーネットのサブマッチは終了したのであった。
目の前の全てを文字通り撃ち滅ぼし、ガーネットは大きく息をつき、ガトリング砲を地面に置いて座り込んでいる。
どうやら完全燃焼の余韻に浸っているようで、その表情はやりたいことを出来た満足に満ち溢れている。
「いやぁー、えらいシロモンやったなぁ! ガーネット選手のガトリング砲!」
「カッハハハ! ああ、とんでもねぇ、99体の群れも、改造ダーリックホエールもゴリ押しで撃破しちまうとはな」
「音も威力も派手すぎて、ウチら見入って何も喋れんかったしな!」
「……それもそうだった。じゃあガーネットが燃え尽きてるうちに解説するか」
しばらくの間大人しいガーネットをよそに、デスティ達は拡声器を手に語り始めた。
「ゆーても、デスティにガトリング砲の解説が務まるんか? ネクロマンサーなのに」
「確かにアレは初見だが、見てわかる範囲なら解説できる」
「ほぉ、じゃあお手前見してもらおか?」
ガーネットは挑発的な口調で解説を求める。
その態度にデスティは、別段どうということもないというふうだった。
どうやら二人の付き合い方というものは普段からこの様な感じらしい。
「まずあのガトリング砲は、数秒の内に何発も魔弾を発射できる大型の銃だな」
「見たまんまやな! まあ6本も銃身が束ねてあるし、あれ全部からいっぺんに撃つんやろ?」
「いや、そうだったらサブマッチの途中で撃てなくなってただろうな」
ガトリング砲の束ねた銃身からそのまま発想したであろうジュンコの意見を、デスティは否定する。
「魔弾は常にひとつの銃身から撃ってる。銃身を回転させて一本一本、代わる代わるに発砲してた」
「えっ、見えたん、こわ……? ちゅうか、なして一本からしか撃たへんの?」
「そうじゃねーと撃てなくなるんだよ」
束ねた銃身は火力を増すためのものではなく、魔弾を継続して撃ち続けるための機構であるとデスティは見ていた。
「そこら辺を解説すっと、歴史の話になるんだが……」
デスティは頭を人差し指で小突いて、思い出すように話し始める。
「魔物と争ってた時代でも、銃と魔弾は使われてた。ガーネットが最初使ったものとそう変わらない形でな」
「運用方法は単純で、大勢で銃を持ち、横並びで一斉に魔弾を撃つ。これだけで魔物の群れを掃討できたし、数さえ揃えれば非力な人間でも戦力になるってんで、重宝されてたわけだ」
「そして、さらなる戦力の向上ってことで一人一つの銃で大勢の魔物を相手できないか、っつー発想に至った。結果、銃に連射機能を付けた代物が開発されたらしい」
「それがガトリング砲っちゅーこと?」
「いーや、中途半端な失敗作の話だ。連続で発砲はできたが、すぐに銃身が焼き付いて使い物にならなくなったんだと」
デスティは肩をすくめる、まるでその失敗を直に見てきたように、呆れた様子だった。
「結局、大人数で銃を撃つ戦法で差し支えなかったこともあって、連射できる銃の開発はそこで終わったわけだが……」
「ガトリング砲はその欠点を克服した、完成品ってことやな」
ジュンコが解説の最後を先取りすると「そういうことだ」とデスティは答えた。
そして彼はくっくっくと笑い出すと。
「しっかしよく考えてやがる、6本の銃身で射撃の負担を分割するとはな。アレはいわば、たった一人で銃撃隊一つに比肩する、銃の極致だ」
「えらいベタ褒めやなー」
「そりゃそうだ。まさかこの時代に、大戦時の未完成技術を完成させたモンが見れるとは思わなかった」
デスティはガトリング砲がよほど気に入ったらしい。
最後に褒めるだけ褒めて、デスティは解説を締め括った。
「イヤー、サッパリスッキリしまシタ!」
そうして解説を終えると、ちょうどいいタイミングでガーネットが解説席へと戻ってきた。
デスティとガーネットは拡声器を切って、彼女を迎える。
「ガーネットちゃんお疲れさん! 凄かったで!」
「タイムも上々だ、間引きの連中とそう変わらねぇ」
ガーネットが出したタイムは相当早い部類だったらしい。
デスティの言葉が真実なら、ガーネットの実力は、魔物と戦う本職の人間とそう変わらない域にあるということでもある。
(間引きの人と、同じ……)
そして、今の今まで沈黙していた(ガトリング砲の破壊力に圧倒されていた、とも言う)マティアスは、素直に凄いと思っていた。
――どくん、どくんと、マティアスの心臓が早鐘を打ち始める。
これまでにない、ガトリング砲という武器を使いこなし。
ターゲットとはいえ魔物の大軍をあっという間に蹴散らして。
本当に小説の主人公のような彼女へ。
「お疲れさま」と言おうと思っていたのに、何故だか心が落ち着かなかった。
「あ、ガーネットさん――」
「マティアス」
デスティたちの労いの言葉に答えるより先に、ガーネットはマティアスの元へ向かって来ていた。
汗と砂にまみれた、しかし満足感と自信にあふれた彼女に名前を呼ばれて、マティアスの言葉は途切れる。
「勝つのは、ワタシデス」
「!」
そうしてガーネットの言葉に込められた熱が、マティアスの引き金を引いた。
(そうだ、これは勝負なんだ。僕とガーネットさんの……!)
マティアスの心に熱が生まれる。
脈打つ心臓、ざわついた心の原因を、マティアスはたった今自覚したのだ。
(確かめたい、僕の千変万化流が、サブマッチでどこまでやれるのか)
それは、鍛えた己の力がどこまで通用するのかという、好奇心。
(比べてみたい、ガーネットさんの銃と、どっちが凄いのか――!)
そして、相手の力を上回ろうとする、闘争心。
己を律するための力が、今、解き放たれようとしていた。




