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56話:その価値は、波紋の如く広がった

 デスティが変ずる悪魔は、3組ある両の手で印を結んだ。

 同じく身体のあちこちに埋め込まれた魔眼が赤く光って、ギョロギョロとうごめく。


「「「「◆◆◆◆」」」」


 身体中に存在する口から放たれた一声は、音が重なりすぎていて、内容を判別することができない。

 背中に生える節くれだった棘も揺らめく。

 肩から生えた翼は、発光し魔法陣を映し出す。


 それら動作を全て同時に行う、その1秒にも満たない時間で、悪魔の頭上に巨大な火球が生み出された。


 空気が一気に乾燥し、熱気が一帯を襲う。

 太陽が増えたと錯覚するほどに、熱く眩しく巨大な炎熱球。

 ごく単純、しかし極まった炎系統の魔法だ。

 そして、本来死霊魔法使いであるはずのデスティが使えるはずのない、異常な出力の魔法でもあった。


「…………」


 対するマティアスは静かに構える。


 想像を絶する魔法に対しマティアスは、恐ろしい、とは思っていない。 

 思考は実にシンプルだ、何をされようがデスティの元に辿り着き。殴り。殺す。


 鈍い灰色に輝くこの竜人の肉体であれば、それが可能だ。


 悪魔が炎熱球を撃ち放つ。

 竜人が一直線に飛び立って、握り拳で迎え撃つ。


 超常の一撃はぶつかり合い、拮抗し、そして――――


====


 フリント・コールが今日、サブマッチを現地で観戦していたのは大した理由があったわけではない。

 マティアスから貰ったチケットを、勿体ないからと、せっかくだからと、そういう軽い気持ちで使っただけのことだった。


「は、ははっ、はははは……!」


 しかし今、彼は頭上で繰り広げられる戦いを食い入るように見ていた。


 悪魔の魔法と竜人の拳が激突し、大爆発を起こす。

 迫りくる熱波に、しかしフリントは無抵抗のまま身体を微塵に吹き飛ばされる。


 恐怖で動けなかったわけではない。

 痛みを感じないこの体のお陰で、それはとっくの昔に忘れてしまった。

 熱波が過ぎ去り、身体が再生してなお、フリントは構わずマティアス達の戦いを注視し続ける。


「とんでもなさすぎでしょ、2人とも……!」


 彼は、全力で殺し合う2人の技術(ワザ)に、圧倒されていた。


 爆発で舞い上がっていた煙が晴れる。

 悪魔は何十にも重ねた結界の中で無傷、竜人は何をした様子もないが無傷である。


 悪魔が動く、再び判別できない一言を発すると、虚空から夥しい数の魔法が炸裂する。

 光から現れたのは、無数の竜殺しの武器。

 ダーリックホエールの死体に仕込んだ時よりも数は多い。それらは空中を浮遊していて、悪魔が竜人を指差した途端、凄まじい速度を以てそちらへと殺到する。


 飛行魔法による空中機動であった。それもおそらく、ミカボシの最高速度に近い。


(あの悪魔っ、身体中の器官を使って、一度に百近い呪文を詠唱している! いわば――魔法の超多重化だ!) 


(これなら死霊魔法しか取り柄のないネクロマンサーでも、あらゆる魔法を足し合わせて(・・・・・・)間引き以上の出力が出せる! 多弁の悪魔とはよく言ったもんだよ! くあーっ! どうしてこの発想を僕も思いつかなんだ! ミカボシの強化に使えたのにっ!!)


 フリントは興奮と悔しさをない混ぜにした表情で、ごくりと唾を飲むこむ。


 そうして、竜人へと迫る竜殺しの武器。

 竜族をことごとく致命に至らせる武具に対し、竜人は手刀にて真っ向勝負を仕掛ける。

 連続する金属音、飛び散る刃の破片、竜人はただの徒手空拳で全ての武器を損壊、弾き飛ばす。


 恐るべき反応速度、しかし最も驚愕すべきは特攻であるはずの攻撃を軽々と跳ね返した、その防御性能である。


(竜人の方もなんだよアレ! 見るからにドラゴンっぽいのに竜殺しの武器を素手で迎撃!? 普通なら切り刻まれてる!! どんな耐久度してるんだあの小柄な体格で!!)


(あれが圧縮変形――変身魔法使いの奥義! もともと巨大なドラゴンの形を、竜人の形になるまで圧縮して密度を極限にまで高めてる!! こっちはいわば、力の一点凝縮!!!)


 コール家で嫌々ながら叩き込まれた戦いの知識が、フリントにこのサブマッチの全てを正しく理解させる。

 デスティとマティアス。2人は今、終結士族すら凌駕した人類最高峰の力を以て戦っているのだと。


 竜人は武具を蹴散らし、悪魔へ突っ込む形で蹴りを繰り出す。

 悪魔は武具が効かないと見るや否や、雷を束ねて生み出した巨大な剣を振り下ろす。


 二つの攻撃がぶつかり合った余波で、天は割れ、大地は揺れ、空気は震える。

 まるでこの世が終わる戦争の如き光景。もう何度目かもわからない死を受け入れながらも、フリントは目を見開いて、戦いを見続ける。


「なんだよこれ……! なんなんだよ……!?!」


 フリントは、力や戦いに興味などない筈であった。

 終結士族を嫌い、平和な時代に戦いを強制される生き方を嫌った。

 力には価値はない。生きていく上で役に立たない。この時代を、人が力を手放す時代だと豪語した過去さえある。


 しかしフリントの心臓は今、ドクンドクン、と早鐘を打っていた。

 それは、感動であった。

 芸術美極まる絵画を前にして、心を鷲掴みにされたように。



「こんなの、無料タダで観て良いもんじゃないでしょ……!」


 フリントは2人の戦いに、何物にも変え難い『価値』を見出していたのだ。



「たはは……まいったね……こりゃ、完敗だ……! いや何が負けなのかって感じだけど、なんかもう見入ってる時点で、負けた気がしてくるよ……!」

「ぎゃーーーっ!!?」

「ん?」


 そうしてフリントが圧倒されていると、戦いの余波である衝撃波に混ざり、近くで女性の悲鳴が聞こえた。

 フリントは首を傾げる。戦いがあまりに激しく何度も死ぬものだから、悲鳴を上げても意味がないと思って、茫然と観ているのが大半。

 そんな中で、まだ悲鳴を上げられる人間が居るのかと思い、そちらに視線を向けると……。


「まっ!? またもや大爆発ッ!!! デスティ選手とマティアス選手の攻撃がぶつかり合う度に、どえらい規模の大爆発がーっ!!?」

(あれは、結界が得意な……たしか、ジュンコさんだっけ?)


 するとそこには、結界で作られた小さなシェルターと、その中で実況するジュンコを含めた数人が居た。

 どうやら、筒がなく実況を行うため、ジュンコは知り合い達で集まり、結界内で観戦しているようだった。


「い、一体何が起きとるんや!!? 誰かわかる人居る!!?」

「ごめんジュンコさん、アタシも分からない。魔導学校の知識だけじゃサッパリ……」

「わたしも凄すぎて何が何だか……」 

「ベルちゃんアレサちゃんはしゃーない! ガーネットちゃんとアルマちゃん達は!?」

「無理デス! 2人と戦ったことありマスケド、あんな姿見たことアリマセン!」

「アテクシも同じく。分かるのは2人とも実在しない魔物の姿になってるってことくらいネ」

「ねえねえジュンコちゃん。結界の外出ていい?」

「アホ!!!」

「シンプルに罵倒された!?!?」


 マティアスとデスティがあまりにも高度な技術で戦っているせいで、どうやら実況が滞っているらしい。


「あーん! 誰か解説してー!!? ウチじゃもうなんもわからーん!!?」

(この戦いが、わからない? こんな凄い戦いを???)


 フリントは、ジュンコの悲鳴に近い言葉を聞いて、衝動的にそちらへ駆け出していた。


(そんなの――もったいなさすぎでしょ!)


 ジュンコ達が居る結界まで辿り着き、フリントはダンッ! と強くノックする。


「ねえ! ちょっといいかい?」

「へ? アンタは……」


 呆気に取られるジュンコに対し、フリントは全く構わず、一方的にこう告げた。


「解説、僕がやるよ」


 こんな面白い戦いを何も知らずに見るなんて許し難いと、フリントは解説役として立候補した。



====


「なんと……よもや、これほどまでとは……!」


 多くの観客と同じように、フラット・コールは、頭上で繰り広げる悪魔と竜人の戦いを、驚愕の表情で見上げていた。



 悪魔が嘶く、眩い光の斬撃が竜人の速度を遥かに超えて到達する。

 しかし竜人の勢いは止まらない。斬撃を受けながらも強引に悪魔へ向かって、尻尾を振るった斬撃をお返しする。

 

 攻撃が、互いに直撃する形となる。

 悪魔の身体の右肩から腰のあたりまでをザックリと切り裂かれていた。

 しかし内に潜むデスティまでは攻撃が届いておらず、損傷箇所はすぐさま再生する。


 マティアスに至っては肉体の表面が多少焦げ付いた程度で、ダメージを負った様子が無かった。


(あの年齢で間引きを遥かに超える力を、あまつさえ、ソレを躊躇なくぶつけ合うとは……! 彼らには恐怖が微塵もないのか……!?)


 フラットの、身体の震えが止まらない。

 孫であるフリントのように、興奮から震えているではない、恐怖からくるものであった。


 友人を、この手で殺しかけた記憶が蘇る。

 多くの勘違いがあり、責任の大半はフラットには無かったと判明した今であっても、数十年と重ねてきた恐怖は拭い難いものであった。


 そして今、フラットの目の前で、2人の若者が間引き以上の力を以て殺し合っている。

 こんな戦いが長く続くわけがない、今にどちらかが死ぬ、フラットは思った。



 竜人が、がぱり、と大口を開ける。

 灰色の光が収束していって、それはやがて細い光線となって、一直線に悪魔を撃ち抜かんとする。


 悪魔は何百にも重ねた結界で、光のブレスに対抗する。

 ガラスが割れたような音が連鎖する、重なった結界はブレスを受け止めきれず、わずかな時間で全滅したが――――結界の先に、悪魔の姿は無かった。


 ブレスは遥か上空まで打ち上がり、巨大な爆発を引き起こす。

 結界など目眩しと時間稼ぎに過ぎず、悪魔は爆発に紛れて、竜人の背後へと転移していた。

 竜人が反応するより早く、悪魔は竜人の背中に掌を押し当て、魔法を密着状態で浴びせかける。

 

 爆発が連なり、巨塔のように天から地へと伸びた。竜人を大地へと叩き伏せた悪魔はトドメとばかりに魔法を叩きつけようとするが――――邪魔だと言わんばかりに放たれた竜人の蹴りによって、悪魔は砲弾のごとく蹴り飛ばされていった。


 悪魔と竜人は、同時に起き上がる。

 両者共に傷らしい傷は見当たらず、致命にはいまだ遠い。


「……終わらない……攻防が成立している……」


 訪れない決着に、フラットは声を漏らした。

 終結士族であるからこそ解る。あの2人は加減などしていない、繰り出す攻撃に込められた力は、どれも数多の魔物を滅殺する一撃だ。

 人間など吹けば飛ぶように殺せる筈である、事実ほかの観客達は何度も死んでは蘇っている。


「――――ッ!」

「――――ッ!」


 しかし、2人はまだ生きている。

 もはや怪物そのものと化していたが、両者ともに心の底から楽しそうな表情(かお)をしていた。


(恐怖を感じないのではない。楽しさが、勝っているのか)


 そう簡単には死なんとばかりに、マティアスとデスティは互いに全力を尽くし、戦い続ける。


(楽しさ、か……)


 フラットは、サブマッチの直前にマティアスからかけられた『力を振るう楽しさまで捨てなくたって良い』という言葉を思い出した。


 かつてフラット自身にも、その時期はあった。

 数多の魔物を殲滅し、友人と数を競い合った日々だ。

 

『俺の勝ち。残念だったね』

『てめーズリーぞ! 俺んとこにデカブツばっか押し付けやがって!』

『ふっ、どれだけデカかろうと一体は一体。というか、数を競うって先に決めたのはオジンじゃないか』

『んぎぎぎぎ……っ! しょがねーなー! 今回は譲ってやるよ! 俺の方が強えーから! 小物狩り専門家フラットくんの顔に免じてやんよ!』

『……聞き捨てならないね? ぶっ殺されたいのかな魔物の物真似芸人風情が』

『あーん??? やんのかテメー??』

『殺し合いならいつでも受けて立つよ???』


 競い合い、ふざけ合い、くだらないことで言い争って、しかし直接戦うことは終ぞなかった親友。

 もし、今、サブマッチでオジンと戦えたのなら、どれだけ楽しかっただろうか、フラットは想像して。


(……認めよう、マティアスくん。私は臆病になりすぎていたようだ)


(人間は確かに強大な力を手にした。しかし、人間もまた、力に見合う程に強くなった)


(もう、大丈夫だ)


 恐怖が、薄れていくのを感じた。

 フラットは心の内で独白しながら、マティアスを心底羨ましそうに見つめて、ひとりごちる。


「オジン。君の孫の晴れ舞台だ。見ているか?」 


「随分と楽しそうに暴れている、こっちの事なんてお構いなしだ」


「ああ――――俺も、お前と戦いたいよ」


 身体の震えは、いつのまにか止まっていた。


====


 少女にとって戦勝記念日は、純粋なお祭りの日であった。


 一年でいちばん大きいお祭りである。

 大広場から獣さえ通りがからぬ廃要塞まで、すべからく祭りの色に飾り付けられて、町中が楽しそうな人々でごった返すのだ。


 少女の両親いわく、この日は人類が魔物に勝利した特別な日で、ダルコの街はまさにその戦いが終わった場所なのだという。

 だから、当時戦った英雄達に感謝をするため、大きなお祭りで勝利を祝うのだそうだ。


 しかし、平和な時代、平凡な家庭に生まれ育った少女にとって、魔物や英雄達ははるか昔の、縁遠い話でしかなく。

 少女の興味はもっぱら、この日しかやってない屋台で外国のお菓子を食べてみたりとか、友達とあちこちの公共施設を巡って、スタンプラリーなどのイベントを満喫するとか、そういうお祭りらしいことに向けられていた。


 

 その日の昼から行われていた、破滅的な戦いを目にするまでは。


「――――」

 


 その日ダルコの街を、友人達と巡るつもりだった。

 1日は短い、足早に回らなければあっという間に日が暮れてしまう、お祭りの全てを堪能できない。

 

 しかし実際は、戦勝記念館の外壁に投映された映像を前に足を止め、視線を釘付けにされていた。



 映像の中では、悪魔と竜人が戦っている。

 色とりどりの巨大な悪魔の魔法と、それに比べれば随分と小さい竜人の攻撃がぶつかり合うたびに、大爆発が起きていた。

 

「ね、ねぇ、あの、さっきから遠くで何か聞こえるのって……もしかして……」

「えっ……? 嘘でしょ……!? 戦いの音がここまで届いてるの……!?」


 同じく映像に見入っていた友人達が、ふと気づいて、驚愕した。

 少女も意識して聞いてみると、確かにその通りだった。

 遠方から聞こえてくる爆発音は、映像の中で行われる攻防に少しだけ遅れる形で発生している。


「これ、ほんとのできごとなんだ……」


 少女はぽつりとつぶやいた。

 どうやらこの戦いは、今、この世界のどこかで起きているらしい。


 悪魔と竜人、先ほどまでは少女と同じ人間の筈だった怪物達は、なにもかもを破壊してしまいそうな魔法を派手にぶちかまして、そんな魔法を拳一つで打ち砕き、未だ戦いを続けている。

 

「…………」


 戦いの熱にあてられて身体が熱くなる、見えない勝負の行方に息が詰まる、計り知れない力がぶつかり合うたびに、少女の心に鮮烈な衝撃が迸る。

 少女は、人類が到達しうる暴力の頂点とも言える光景に、見惚れてしまっていた。



 そしてこれ(・・)は、少女とその友人に限った話ではない。


 映像ゲイザーはダルコの街のあらゆる場所に配備され、サブマッチの光景を多くの人々へ見せていた。

 映像が見える範囲にいる全ての人間は、足を止めて見入っている。


 祭りの雰囲気を味わおうと、散策するつもりだった大人達。

 屋台に並ぶ珍しい食べ物やお土産を目当てにしていたはずの観光客。

 今こそ稼ぎ時だとばかりに張り切っていた店主。

 たまたま通りがかっただけの、通行人まで。

 

 映像が見える位置にいる全ての人間は――皆、この戦いの決着を見届けようとしていた。


=====


「「っがぁあああああああ!!!」」


 悪魔と竜人は、もはや飛行するのも億劫だとばかりに地を駆けて、相手へと迫る。

 悪魔は魔法を全ての手に備え、竜人は拳を固く握りしめ、接近と同時に相手の顔面へとそれを叩きつける。


 竜人の打撃で悪魔の首が千切れかけるも、猛烈な魔力によって、悪魔の身体は竜人の拳を押しのけながら再生する。

 悪魔の魔法で竜人の頭が爆ぜる、至近距離での魔法に竜人の頭部表面は炭化するも、瞬く間に元通りとなる。


「く た ば り やがれぇぇぇえっ!!!」

「そっちこそぉぉぉおおおおっ!!!」


 戦いは、至近距離での魔法と打撃による、ノーガードの殴り合いへともつれ込む。

 2人を中心とした爆発が何度も起きて、またその間隔はどんどん短くなっていく。

 攻撃をぶつけ合うのではなく、互いの身体に当て続ける。どちらが先にくたばるかを競うように。


 このままどちらかが倒れるまで殴り合うのかと思われた、その時であった。


「「っ!?」」


 双方の攻撃が、たまたまぶつかり合ったその時、発生した爆発によって――2人は真反対の方向へと吹き飛ばされていった。


 地面に墜落してもその勢いは止まらない。地面を一直線に割りながらお互いに砂埃を舞い上げ直進していく。

 やがて慣性の力も無くなり直進が止まると、やはり、怪物達は何事もなかったかのように起き上がった。


 そうして遠くへと飛ばされた相手を見て、2人は率直な感想を述べた。


「っはー硬ってぇ……。何すりゃくたばるんだお前?」

「……しぶとい。想像より、遥かにずっと!」

 

 まさにお互い様である。ただ、言葉とは裏腹に2人は笑っていた。

 心地よく、楽しくてたまらなかった。

 互いにぶつける相手が居ないと散々に言われてきた力を、今、思い切りぶつけている。

 その上で相手が倒れてくれないのだ、これほど嬉しいことはない。


(さあて……どうやって倒すか。幸い、まだ試してない魔法はごまんとある)

(でも、身体は動く! まだ戦える!)


 今まで培ってきた力の全てを、コイツにぶつけてやろう。

 マティアスとデスティは、永遠にこの戦いを続けたいとさえ思った。


 しかし(・・・)


「ぐ――ッ!?」


 マティアスの動きを一瞬止めたのは、デスティからの攻撃ではなく、頭の内側から湧き上がる鈍痛だった。


 ずぐん、と痛む頭に表情を歪める。

 魔力の過剰消費である。

 最強の姿に変身したまま戦い続ける事で魔力の消費を抑えたつもりだったが、これまでの変身や負ったダメージの回復、魔力を使った攻撃法などを鑑みてみれば当然で。

 マティアスにとってこれが初めての実戦である以上、己の限界を弁えた戦いなど、できるはずもなかった。


「はぁーっ、はーっ……!」

 

 だがデスティもまた、悪魔の肉体の内側で滝のような汗をかき、視界は歪んで、身体をふらつかせている。

 受けた傷はすべて魔力で治した筈だった、しかしそれで生命ライフは保てても、負傷で失った体力スタミナまでは取り返すことはできなかった。



「ふ、ふふふ……」

「……くくっ、くっくっく」


 一瞬の隙をお互いの隙で潰しあった後、2人は笑った。

 どうやら見てくれだけは無傷に見せても、お互いしっかりとダメージを受けているらしい。

 

「キツそうですね。スタミナ切れですか」

「はっ……ぬかせ。そっちこそ魔力切れ寸前、ってとこか?」


 あと一息で相手を倒せる事を、マティアスもデスティも確信する。

 サブマッチの決着は、目前にまで迫っていた。

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