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54話:『最高位死霊魔法使い』デスティ

 マティアスとデスティ、魑魅魍魎が入り乱れる2人の決戦は、グラウンドゼノ島に壊滅的な被害を出し続けていた。


 お互いがお互いを倒すために技を放つ、そこに周囲の他者や環境への考慮はまったくない。

 観客達は次から次に巻き込まれ、その度に不死の魔法で身体を強制的に再生させられている。


 そんな、生き死にを繰り返す中、観客達のほぼ全員は同じ感想を抱いていた。


 ――これはもう、人間同士の戦いじゃない。


 それは、常識として容易に予想できることではあった。

 魔物の軍勢を単体で壊滅する個人同士で戦えば、もはや戦いの範疇には収まらないことは。

 しかしその上でなお、このサブマッチは多くの観客たちの予想を裏切る光景を生み出していた。


 例えば、デスティナ・ズゥ・ハーク。 

 ネクロマンサーの総本山にして当主、悪名を含めて色々と有名人ではあったが、しかし所詮ネクロマンサーなど葬儀屋でしかなく、本人の実力は大したこともないと高を括る人間も多かった。

 だがその偏見は、試合が始まってすぐに間違いであると悟るほかなかった。

 

 改造されたヘカトンケイルによるブレスの奔流、あの一撃は間違いなく、死霊魔法使いでありながら、間引きと遜色ない力を持つ事の証明であった。

 

 そして、マティアス・リーヴィング。

 魔物の姿を借りて戦う千変万化流という武術に対し、『たかが魔物』と侮った見方をする観客達も少なからず存在していた。

 しかしふたを開けてみれば、それはとんでもない勘違いであった。


 魔物の姿で放つ技は、間引きのソレと遜色ない威力を持っている、加えて、同型の魔物をいとも容易く蹴散らした圧倒的戦闘力、マティアスもまた観客たちの予想を大きく覆していた。



「ふぇっふぇっふぇっ。こりゃ、デスティの負けは決定じゃなぁ」


 大半の観客達が2人の力に驚愕している中で、違う反応を見せる者たちもいた。

 既に勝負は決したと嘯くのは、大戦時代を知る老人達である。


「黒白竜王は文字通り竜族の頂点、大戦時は一騎当千の英雄が束になって漸く討伐するほど強かった。確かにデスティは強いが、間引き程度の実力者1人では勝ちの目は無い……そう思わんかじーさんや」

「ぐぬぬぬぬぬぅ……!」

「ふぇーっふぇっふぇっふぇっ! この勝負っ! 竜王を倒されたデスティの負けッ! マティアスに全ベットしたあたしの勝ちじゃぁぁぁぁーーー!!!」

「ぬわーっ! おのれデスティッ! 勝てッ! 何がなんでも勝つんじゃワシはお前に賭けとるんじゃぞぉぉ!!!」


 マティアスとデスティが使った黒白竜王は、もはや人間1人で対処できるような魔物ではない。

 ゆえに、デスティの竜王を瞬く間に制した、マティアスの勝利は揺るがないと分析している。


 そして最後に、デスティとマティアスの2人を知る者達は思った。


「ンー、確かにマティアスが一見イッケンユーセーに見えマスケド……」

「みんなわかってないワネ」

「うんうん、2人とも戦ったことあるアタシらからしてみれば……」


「「「まだ、序の口ってとこデスネ」かな」ネ」


 このサブマッチが、このまま呆気なく終わるわけがない、と。


====


 マティアスの想像以上の強さに興奮しながらも、デスティは瞬時に戦況を分析する。


(相性がモロに出ちまったか)


 デスティの死霊魔法は、頂点に達していると言っても過言ではい。

 魔物の死体を、限りなく生きている時と同じ状態で創り出し、本物そっくりに動かしてみせる。


 その再現度、操作精度、どれをとっても超一流。

 同じことができる死霊魔法使いは彼以外存在しないほどだが――それが却って、悪手だった。


 マティアスの千変万化流は、魔物の姿を借りて行う『対魔物』を想定した武術である。

 対複数のみならず、同型の魔物に必ず打ち勝つための戦術も組み込まれているのだ。


 故に、デスティが正確に魔物の動きを再現すればするほど、マティアスにとっては格好の餌食。

 それを端的に表したのが、あの竜王の瞬殺劇であり、デスティは魔物同士の戦闘において、勝ち目が薄いことを示している。


 ならば(・・・)


実績(・・)で勝るとするか」


 やりようはいくらでもある、そう言わんばかりにデスティは死霊魔法を展開した。



「!」


 竜王を粉砕したマティアスは、そのまま背後にいるデスティに追撃を放とうとしていた、その最中である。


「――“紫炎将軍ヤスヒデ・ノ・イエナガ”、“災厄の落とし子リレアーネ”、“閃仙タオ・ルゥ”、“魔導破壊兵器総司令マギアメナスコマンドパトリシア・ユビキタス”、“晶華流(ソカル)開祖サイヨウ・ナカノハ”――」


 竜王の聴覚で捕らえたのは、名前だった。

 誰かの名前を、デスティは次々と読み上げている、その度にその方角から人の気配が増えていることを、マティアスは肌で感じ取った。


 デスティがいる位置は、観客席からも遠く離れている、すなわち、体を再生した観客達が集まっているわけではく。


「死体錬成、竜王討伐隊オールスターズ


 ずらりと、デスティの周囲に数十人の見慣れぬ人間が立ち並ぶ。


「あの人達は……どこかで、見たようなっ……!?」


 彼等の顔ぶれを一目見て、マティアスは思い出した。

 マティアスは彼等を知っている、具体的には、学校の歴史の教科書で、だ。


(そうだ……あの人たちは戦争で活躍した……!)


 彼等は、英雄である。

 魔物との戦争にて人類に大きな勝利をもたらし、その功績を以て現在まで伝えられた強者だった。


「俺は死体を生前と全く同じ通りに動かすことができる。俺が使えない魔法や力も、死体を通して間接的に使えるわけだが……当然、人間も例外じゃねー」


「そこで。戦時中、黒白竜王を討伐したメンツ(・・・・・・・)を揃えてみた」

「ずるいですよ!? 複数人なんて!?」

「ハッ、数も力。これも俺の力(・・・)だ」


 純粋な魔物同士の戦闘では、デスティに勝ち目はない。

 ならば、竜王に勝利したことのある戦士達であれば、どうだろうか?


「さあ、竜王退治と洒落込もうか!」


 紫色の豪炎で形作られた竜が、純粋な腕力によって発生した拳圧が、眩い滅びの閃光が、大砲のごとき魔導銃から破壊光線が、水晶刀を振るい生み出された飛ぶ斬撃が――デスティの号令で、一斉に放たれる。


(数が多い! 避けるよりも迎え撃つ!)


 かつての英雄達の死骸による、生前と変わらぬ一撃必の技。その数、合わせて10近く。

 竜王を殺傷せしめた技に対しマティアスは。


「千変万化流、竜、王、型、ッッ――」


 構わず、追撃を続行する。

 二つある竜の尾を、双頭の顎で噛み止めながら、思いっきり引き剥がしにかかる。

 並行して、灼熱のブレスを吐き、咥えた尻尾に炎を纏わせた後。


「――破天一蹴・双極そうきょく!」


 留めていた力と吐息の炎熱を、解放する。


 白と黒、二色の豪炎を帯びた竜王の尻尾が居合の如く振り抜かれ、巨大な二筋の斬撃として放たれた。

 英雄達の合体攻撃と竜王の斬撃、双方は激突の末に。


 

 ――拮抗する素振りすら見せず、英雄の攻撃は、斬撃に弾き飛ばされた。


「……なん、だと?」


 ……デスティが用意した竜王討伐隊は、完璧だった。

 英雄達は死体でありながら生前と変わらない力を持っていて、事実、彼らの攻撃は竜王を倒せるだけの威力があった。

 

 それでも打ち負けたのは、マティアスの攻撃の方が遥かに強かったから、ただそれだけである。


 マティアスは、受け継ぐ為に千変万化流を学んだのではない。

 己の体質を制御するために、千変万化流を学ぶ姿勢(・・)を身に着けた、そういう人間である。


 姿勢とは即ち、修め、鍛え、磨き、新しきを生み出し、成長し続けること。

 平和な時代となり、もはや成長する必要はどこにもない筈の千変万化流を、マティアスは今なお鍛え続けている。


「こ、これはっ、オジンよりも――!!?」

 

 会場のどこかで観戦しているフラットが、驚愕と共に呟いた言葉が、答えだった。

 異常成長を遂げたマティアスの千変万化流は、威力という一点において並ぶものはいない。



「素晴らしい技です。でも、千変万化流に挑むには50年遅いっ(・・・・・・)!」


 

 攻撃に打ち勝ったことを目視したマティアスは、力強く宣言する。

 斬撃の勢いは止まらず、攻撃範囲全てを切り飛ばしながら一直線に突き進む。

 観客たちを、高くそびえる山岳を、死骸の英雄たちを切り裂いて、斬撃はデスティへと着弾し。


「ちっ! とんでもねぇ技だ――なぁっ!!!」


 そこで、止まった。


「ッうおぉぉりゃあぁああ!!!!」

「うえっ!!?」


 否、止められていた。

 デスティはその両手を突き出して、触れることなど出来ない筈の斬撃を押しとどめている。

 踏みしめている地面が割れ、裂け目から光が噴出する、それでも、デスティは全く後退せずに受け止め続けて。


 勢いを完全に殺された炎の斬撃は、まるで陽炎のように溶けて、消えてしまった。


っつ……やりゃ、止めれるもんだな。見るからにそこいらの攻撃のウン十倍はヤバそうだったが……くっくくく……!」

「とっ、止められた……!!?」


 死骸の英雄たちは、跡形もなく吹き飛んでいる。

 しかし、手をひらひらさせながらも、平然と立っているデスティに、マティアスは目を見開いた。


 あり得ない。

 加減も躊躇もない、全身全霊の、軍勢を打ち滅ぼす一撃である。

 たとえ相手が同じドラゴンであろうと両断できる一撃だった、それをただの人間が、あまつさえ素手で押さえ込むなどと。


「しっかし今の一撃といい、マジでヤベーなおい。仮にオメーが魔物として生きてたら、戦争で人類に勝ち目がなかったんじゃねーか?」

「……その一撃を、素手で止めたデスティさんが言いますか」

「くっくく、そりゃ相手が悪かったってやつだ。なんせ俺はどの人類よりも強え自信がある」


 だがデスティは、それをやってのけた。

 表情には焦燥感など微塵も感じさせず、少々手こずっただけと言わんばかりに、楽しそうに笑っている。

 マティアスは冷や汗をかきながらも軽口を返して、その僅かな間で思考する。


(どうやってデスティさんは攻撃を防いだのか、は、今は考えなくていい――)


 マティアスにとって『そこ』はどうでも良かった。

 相手が教えてくれるはずもなく、自分で答えを出した所で、間違ってるかもしれない。

 何よりこの戦いの最中で思考に意識を奪われれば、敗北もありうる。


(――重要なのは、デスティさんにはブレスが効きにくいこと。死体は焼けたこと。直接的な体術は防がず回避したこと!)


 ブレスを過信せず、体術を中心に戦う。

 マティアスは事実こそ確かなものとして意識に叩き込み、動き出す。




「さて、楽しくてつい張り合ってたが……。正直、今のオメーとまともにやって勝てる気がしねー。そろそろ趣向を変えるぜ」

「!」


 それと同時に、デスティも動いた。

 迸る殺意を察知したマティアスは、攻撃前に潰すべく尻尾を直接叩きつけようとしたが……直前の思考に割いた、わずかな時間が災いする。


「ネクロマンサーはネクロマンサーらしく、死体は死体らしく使いましょう――ってな!」


 既にデスティは、魔法を行使していた。

 出遅れたマティアス、その頭上が眩く輝いたと思えば、突然、薄暗くなった。


「死体錬成、ダーリックホエール・爆死寸前(ボンバーイェー)!」

「ダーリックホエール……っ!?」


 視線を上に向けて見れば、頭上からダーリックホエールの巨体が、マティアス目掛けて落ちてきていた。


 それは一見すると、この島にやってきた時、不死の魔法を証明するために観客達を潰した質量攻撃と、同じものに見えた。しかし。


(違うっ! あのダーリックホエール妙に大きいというか、膨れてる!? それにこの、匂い(・・)は……!!?)


 『なぜ、いまさら同じ技を?』マティアスの頭に浮かんだ疑念は、ダーリックホエールの体躯と、鼻をつく匂いによって瞬時に否定される。

 

 今、落ちてきているダーリックホエール、その死体は――まさしく死体という様相であった。

 腹は大きく膨れ上がり、身体は傷まみれで、肉はぐずぐずに腐っているのか、強い腐臭を放っている。


「竜哭無むざ――!」


 マティアスは危険を感じ、ブレスでダーリックホエールそのものを焼き尽くそうとするも。


「知ってっか? ダーリックホエールの死体はな、ずっと放置して腐らせてっと、体内にガスが溜まりまくって――爆発するんだぜ?」

 

 デスティが語った直後、ダーリックホエールの腐敗死体はボン、という音と共に弾け飛んだ。


「なっ!? 自爆した!?」


 炸裂し、死体を構成していた、骨や肉、内臓があたり一帯へと撒き散らされる。

 土砂降りの如く広範囲に降り注ぐ死体の欠片は、余りにも細かく、竜王の巨体で回避することは不可能であった。


 ――しかしこの爆発、それ自体はマティアスを殺すほどではなかった。

 所詮、これは内部に溜まったガスの圧力による爆発、炸裂する肉や骨は勢いこそあれど、竜王の肉体に傷を負わせるほどの威力を持たないのだ。


 故に、マティアスに致命傷を与えんとするは。



「死体から、武器(・・)が!?」


 死体の中に仕込まれていた、幾つもの凶器である。


「黒白竜王が討伐された時、その身体からは人間の手によって、幾つもの武具に加工された」


「爪を剣に、牙を刀に、鱗を矢尻に、翼を弓に、角を槍に――そしてそれら武具は、同種のドラゴンに対して絶大な威力を発揮する。いわば竜殺しの武器となった」


「俺からすりゃあ死体(・・)だがな!」

「そんなのありですか!?」


 デスティは死霊魔法によって、あらゆる死体を作り出す事ができる。

 死体の定義は、本人の認識次第。

 故にデスティは死体を加工して作られた竜殺しの武器をも死体とし、爆発寸前のダーリックホエールへ埋め込んでいたのである。


 肉片と骨に混ざって、剣や槍などの凶器が無数に降り注ぐ。

 その全てが竜殺しの名を関する武具、竜の身体で受ければ竜王とて無事では済まない。


(体を消し――ダメだ! 受け止めるッッ!!!)


 一瞬、すり抜けようと考えたマティアスであったが、試合前の演舞を思い出して、すぐさま思い直す。

 デスティは死霊魔法で、霊体化した身体に触れる。

 降り注ぐ凶器もまた死霊魔法の産物なら、マティアスが身体を消しても直撃する可能性がある。


「全形――大海坊主!」


 故にマティアスは変身を選んだ。

 マティアスの全身が一瞬だけ消え、次に現れたのは竜王のシェルエットのみはそのまま、全身が透き通り、瑞々しい輝きを放つスライムが現れた。


諸刃取もろばどり!!!」


 降り注ぐ凶器がゲル状の身体を切り裂く寸前、すべての刃は、その身体に挟まり(・・・)止められていた。


 スライムへの変身。先の竜王と比較すれば、強度を大きく落とした変身に思うだろう、しかしスライムの肉体を侮るなかれ。

 自由自在に変形するゲルの体は、そのすべてが筋肉で出来ているといっても過言ではない、人間の指先よりも繊細に動かせる『全身』で、マティアスは武器を全て白刃取りしたのだ。


 こうなれば、武器はもはやマティアスの手中にあるといっていい。

 マティアスは受け止めた竜殺しの武器を、デスティに向けて投げつけて。



「竜殺しの武器! そっくりそのままお返ししま――

「よし『魔弾の射手(フライシュッツ)』、氷結の魔弾」


 ――そこまでが、デスティの狙いであった。


 ズドン! とデスティのいる方向から重い銃声が響いて、マティアスの身体に衝撃と冷気が走る。

 スライムの肉体は殆ど水と等しく、氷結の魔弾によってマティアスの全身はみるみるうちに凍り付いた。


 信じられないものを見るような目で、マティアスはデスティの隣で銃を構える彼女(・・)を見つめる。

 長い金髪をポニーテールで結び、アメスタンの伝統的衣装に身を包む魔弾使いの彼女、しかしその瞳にはいつもの溌剌とした光はなく、肌の色も土気色をしていた。


「ガーネット……さん……!?」

「そっくりに作った『にせ・ガーネット』だ」


 それは本人ではなく、ガーネットを模して作った死体人形である。

 この会場にいる全員が死体の身体で存在しているように、デスティはまだ生きている人間の死体を作り出せる。



「よーやく竜王の姿をやめたな? 死体錬成、巨人ギガンテス、『精霊使い(スピリットマスター)』。武遊・水斬り(ストーンスキッパー)!」


 続け様に現れたのは、頑健無敵の精霊使い(にせ・アルマ)と、その相棒たる精霊(セネート)と同じぐらいの大きさを誇る巨人。

 巨人はアルマを模した死体人形を握り込んで、マティアスに向けて豪快に投げつける。


「アルマさんの偽物まで……っ!」

「さあ選べ、霊体になってモロに喰らうか! 凍ったまんま砕け散るか!」



 迫る豪速球、凍った身体では躱す事は不可能、変身はできるが変身し切るまでの猶予はなく、途中で攻撃が直撃するだろう。


「くっ……!」


 変身途中で攻撃を受けた事など一度もないマティアスだが、一つだけ確実にわかることがある。

 凍ったまま全身を砕かれれば、確実に死ぬということだ。


 選択肢などない、身体を丸ごと消して――


「死霊魔法、暴魂暴魂(ボコボコ)!!」

「ごが、はっ――――!!?」


 体を消した瞬間に、死霊魔法をかけられた偽物のアルマは、マティアスの肉体のど真ん中にドロップキックをぶち当てて着弾する。

 着弾箇所から、臓腑が全てひっくり返るような衝撃が、痛みとともにマティアスの全身へと広がった。


「ぐ……あああああっ!!!」


 激痛で肉体のイメージが崩れ、大海坊主の形を維持できない。

 霊体化しているマティアスの肉体は、蹴り飛ばされながら、人間の形へと強制的に戻っていく。


(身体を、なおせっ……! 万全の自分をイメージしろっ……!!)


 重さの無い霊体故にそのまま蹴飛ばされながら、マティアスは体の治癒に全力を注ぐ。

 痛みと激痛で、四肢がバラバラになるイメージをいやでも想像させられかけるが、それを無理やりに押さえつけ、なんとか人の形へと変身し終えた。


「ぐ、あだっ……!」

 

 勢いづいたまま実体化した故に、マティアスは勢いそのままに投げ出されて、しばらく地面をゴロゴロと転がる。

 勢いは徐々に落ちていって、マティアスは地面に倒れ伏す形で止まることとなった。


「傷は、ないけど……っ、痛みは……」


 ズキンズキンと痛む全身に、マティアスは倒れたまま思わず表情を歪める。

 変身魔法による治癒は、あくまで見た目を整えるだけであり、大雑把にいえば止血と大して変わらない。

 血を無駄に流す事はないが、ダメージ自体は残っている、直ぐには動けないだろう。


「してやられたな……。でも、偽物とはいえアルマさんの攻撃を受けて、5体満足なのは、マシな方……か」

 

 デスティの狙いは、変身途中のマティアスを狙い撃つことだった。

 ダーリックホエールによる爆発。その死体に仕込んだ竜殺しの武器。偽物のガーネットとアルマ。

 それらによる攻撃を畳みかけて、隙を無理矢理生み出したのだ。


(それに、あれだけ魔法を連発して威力も精度も落ちないなんて……)


 並の魔法使いであれば、先ほどの戦術のどれか一つですら、魔力も出力も足りずに実行できないだろう。

 恐るべき出力を誇る死霊魔法、それに見合う底なしの魔力量、そしてそれらを使いこなす高い練度と精度。

 これに加えて、武術の心得と、マティアスの攻撃を防ぐことの出来る、何らかの手段を併せ持っているのだから――。


「強いなぁ……! デスティさん……!!」

 

 ――たまらない(・・・・・)

 マティアスはデスティが想像を絶する強敵であることを実感し、僅かに笑みを浮かべる。

 そして痛む身体に鞭を打ち、ゆっくりと立ち上がると……。


「マティアス、オメーはネクロマンサー以外は誰も倒せねー」

「っ!」


 目の前に、デスティ達が来ていた。

 サブマッチ会場、そして観客の輪からも大きく離れた位置だったが、常人よりも速く動ける三人にとっては、詰めるのも容易い距離だった。


 動けば撃つと言わんばかりに、がちり、と偽物のガーネットに銃を突きつけられる。

 マティアスは動きを止めざるをえない。


「そして俺は、ネクロマンサーの中で一番強い。オメーが俺に勝てりゃ、このサブマッチでオメーを倒せる奴なんざどこにも存在しねえ」


「つまり極論。これは世界最強を決める(・・・・・・・・)サブマッチになる」

「!」


 そのままの状態で、デスティは語る。 


「さあ―――世界最強は目の前だぜ?」


 マティアスの夢は、サバイブ・マッチで世界の頂点に立つこと。

 そしてそれは、この『最高位(アーク)死霊魔法使い(ネクロマンサー)』デスティナ・ズゥ・ハークに勝利した先にあると。

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