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53話:『千変万化流伝承者』マティアス

「観客のみんな! お待たせや! サブマッチの前にルール説明と選手の紹介をするで!」


「とはゆーてもルールは至って単純! この島を舞台に2人のサブマッチャーが大暴れ! 先に相手を倒した方が勝者や! 観客のウチらは巻き添え上等やけど、死んでも死なんから安心安全! いやメチャクチャやな!? 死なんからええけども!」


「そんでこのサブマッチに望むは、ダルコ州最強のサブマッチャー! あらゆる攻撃をすり抜ける無敵の『千変万化(シェイプシフター)』マティアス・リーヴィング!」


「押忍、よろしくお願いします!」


 ジュンコに名前を呼ばれたマティアスは、両肘を引いて頭を軽く下げる。

 サブマッチの歴史上最初の直接対決、制するは変幻自在、前代未聞の魔法を扱う変身格闘家か。


「そして最強に挑むは、サバイブ・マッチ創立者にして誰もが知る最強最悪の死霊魔法使い! デスティナ・ズゥ・ハーク! 普段はサブマッチ運営に注いでいる実力を、今日ついに白日の下に晒すーっ!」


「くっくくく……! そーいや俺も、こんな大勢の前でサブマッチすんのは初めてだったか」


 それとも、用途不明、正体不明、死者を弔う魔法にて戦うという、死霊魔法使いか。



「始める前に一つ聞いとく、痛覚をアリにするか? 観客は全員ナシにしてるんだが」

「せっかくなので、アリでおねがいします」


 始まる直前、デスティに問われたマティアスは、間髪入れずにそう答えた。

 せっかくの死んでも死なない殺し合いである。

 マティアスは、よりリアルに、痛みさえも楽しもうという心積りだった。


「気が合うな」


 デスティもそのつもりだったらしく、マティアスの返答に笑みを見せる。

 

「ほないくで! サブマッチ開始やっ!!!


 そうして、遂に、サブマッチが始まった。



====


(変身前に潰されないよう離れた方がいい――けど)

(変身する前に潰すのが定石――だが)


 2人は同時に、動かない(・・・・)

 デスティには牽制する意味があり、マティアスには駆け引きの余地もあったが、奇しくも2人はその機会を放棄していた。

 

((そんなことよりも――!))


 理由は単純明快。

 そんな小手先の攻防に時間を割くより、真っ先にやりたいことがあった。

 渾身の力を、一切の遠慮も加減も無く相手にぶつける。

 それは、おおよそ戦いの思考ではない。まるで、楽しみを待ちきれない子供のような心境であった。


「かっはははは! また気が合ったか!?」

「みたいですね! 千変万化流――!」


 マティアスもデスティも、大技を撃つため動かない相手を見て、『考える事は同じか』と笑うと。



「全型、黒白乃竜王こくびゃくのりゅうおう!!!」


 マティアスの全身が消え、そして現れる。

 大地と観客を一瞬で踏み潰しながら、黒と白が入り混ざった異形の巨竜が顕現する。


 1つの身体から、4つの翼、2股に分かれた尻尾、そして2つの頭が生えている、右と左で綺麗に白黒に分かれていて、まるで白と黒の別種のドラゴンが、合わさったような見た目をしていた。

 それは、かつての戦争で最も多くの人的被害を出した、竜種を率いる頂点、『黒白竜王』の似姿である。



死体混合錬成フランカル、ヘカトンケイル・千呪せんじゅ巨砲カノンぞう!!!」


 一方のデスティも、引けを取らない。

 真後ろの地面に巨大な魔法陣を展開すると、ゾゾゾゾと大地は迫り上がり、観客たちを篩い落としながら、巨人が現れた。

 それは多腕多足を誇る異形の巨人ヘカトンケイル、その死体に改造を加えたものであった。

 ヘカトンケイルの多腕、その肘から先の全てが、多種多様な魔物の頭部へとツギハギに挿げ替えられている。

 

 火竜、石蛇、雷鳥などなど――魔物の種類はばらばらだが、それらはただ一点、必殺の吐息ブレスを吐けるという共通点があった。

 

 マティアスは竜王となり、デスティは巨人の足元に仁王立ちする。

 サブマッチ開始直後それなりに離れていたマティアスとデスティの距離は、巨竜と巨人として相対することで、超至近距離にまで接近していた。


 手を出せば届く距離、しかし黒白の竜王も異形の巨人も、お互いを一息で消し飛ばすべく大きく息を吸うと。

 

「全力でいきます! 千変万化流、奥義。竜哭無残りゅうこくむざん黒白こくびゃくまじわり!」


「どんな姿だろーがブッ飛ばすッ! 一斉葬射フルバーストッッ!!!」


 次の瞬間。

 黒白の竜王も異形の巨人も、グラウンドゼノ島のサブマッチ会場も、島を取り囲む海も、上空を漂う白雲も。


 ブレスの衝突を中心とする大爆発によって、文字通り何もかもが、消し飛ぶ。

 

 大地に群がっていた観客達は皆残らず吹き飛ばされた。

 空にはぽっかりと大きな雲の穴があき、海水は残らず吹き飛ばされ、一時的だが海底を晒した。

 

 このサブマッチ中、グラウンドゼノ島を何度も襲う事となる破滅、その最初である。



「っふぅーー……」


 衝突の光が消え、あらゆるものが消し飛んだかに見えたグラウンドゼノ島に、二つの大きな呼吸音が響く。

 マティアスが変ずる黒白の竜王だけが、健在のまま立ち尽くしていた。

 相対していたヘカトンケイルは居らず、形すら残らず消し飛んでいる。無論、足元に居たデスティの姿も、どこにも見当たらない。


 巨人と竜王、明暗を分けたのは鉄壁の竜鱗を起因とする、単純な防御力の差であった。


「凄いな、竜王の吐息と張り合えるなんて……」


 マティアスの主意識が宿る竜王の白き頭部が、自分の最大威力の技と拮抗されたことに対し、感嘆とした様子で呟くのだった。


 側から見れば、勝負が決した故の残心に見えるだろう、しかし違う。

 その瞳には期待と確信、そして決して弛まぬ戦いの緊張があった。


(巨人は消し飛ばしたけど……アレでデスティさんを仕留めたとは思えない)


 マティアスの視線は下に向けられている、ブレスで吹き飛ばされたり、踏み潰した観客達が、塵芥が集まるように、元の場所や邪魔にならない場所へ身体が再生している様子が映っていた。


 一度死ねば、ああやって肉体が再生されるのを、マティアスは知っている。

 そしてその中に、デスティの姿が見当たらないということは。


「……まさか、これで終わりじゃないですよね?」

「たりめーよ! これで終わったら興ざめもいいところだ!」

「あ、地面に潜ってたんですね」


 マティアスが呼びかけた直後、ボコリと、地面からデスティが這い出てくる。

 その身体は泥に塗れていること以外は、どこにも怪我は見当たらない、5体満足の肉体であった。


 何もおかしなことはない、地中深くへと潜り込むことで、ブレスの衝突をやり過ごしたのである。

 死霊魔法を使って自分を『土葬』することなど、デスティには容易いことだった。



「そうですか、それじゃあこれ(・・)も、上手く生き残ってください」

「!」


 巨竜となったマティアスはほぼ無傷で、デスティは足元、ならば次に動くのもマティアスである。

 それは、千変万化流の技ですらない。足で大地を強く踏みしめる、震脚という武の基本技術(・・・・)である。

 しかし今のマティアスは超常の体躯を誇る竜王。

 一挙手一投足が、必死の威力を持ちうる。


「踏まれて即死とか格好つかねーなオイ。だがまあ――」


 マティアスが上げた足によって頭上が暗くなる――その前に、デスティは動いた。

 

「省エネでぶっ殺せるほど、オレぁ甘くねーぞ!!!」


 デスティは弾け飛ぶように、大きく跳躍する。

 人間が出せるソレを大きく逸脱した、尋常ならぬ加速と速度で、あっという間に震脚の範囲から離脱する。


 マティアスの震脚は島を揺らし、観客を再び吹き飛ばしたものの、肝心のデスティには躱された。



(速い。多分なにか特殊な歩法術だ。やっぱりデスティさん、魔法だけじゃないな)


 大地を踏み砕き、巻き上げながら、マティアスはデスティの動きを分析する。

 事前にアルマとガーネットから、デスティは魔法以外の、何らかの武術を会得しているとは聞いていた。

 おそらく今の移動は、その武術を応用したものではないかとあたりをつける。


「くっくくくっ、しっかし黒白竜王たぁ、随分と豪勢におっ始めてくれたもんだな」


 一方、デスティは周囲を囲う観客達すら超えるほど、大きく後方へと離脱していた。

 そして未だ地面に足をつけないまま、マティアスの姿を改めて見上げ、ニィと意地悪く笑うと。


「だが、魔物の力(ソレ)はオメーの専売特許じゃねー」


 デスティがそういうと、マティアスの背後に眩い暗緑色の閃光が炸裂する。

 そして、今のマティアスとほぼ同じ大きさの魔力光から――。


「うわっ!?」

「こっちも白黒竜王だ!!!」


 ――2頭目の黒白竜王が、降臨した。

 ただしこちらは、死霊魔法によって生み出された、デスティの意のままに動く死体人形である。


「僕とそっくり同じ……!」

「とはいえ猿真似じゃ芸がねえ! コイツにゃ本物の竜王の動きをインプットした! オメーとどっちが上だろうなぁ!」


 死霊魔法によって錬成された竜王は、マティアスに喰らいつきにいく格好で生み出され、そのまま襲い掛かった。


「そういう事なら――」


 背後を強襲する死体の竜王に、マティアスは。



「千変万化流に」


 振り向きざまに、背中の大翼で一閃。

 背後の竜王、その両碗を切り飛ばし。


「負ける道理、なしです」


 ズン、と踏み込んで拳を2連撃、双頭の顎を打ち砕き。

 最後に抉るように肘打ちを1発打ち込んで、胴体に大穴を空けた。


 致命に至る損傷を受けて、死体の竜王は錬成からものの数秒で塵と消える。


本物程度(・・・・)に負けるなら、初めから姿を模倣する意味はありませんから」


 デスティに背を向けたまま、マティアスは断言する。


 同格であるはずの魔物を、瞬きの間に殺傷せしめる格闘術。

 軍勢を滅ぼす殲滅力。

 攻撃に傷一つつかない、生物としての絶対的硬度。


 マティアスは、これらすべてを体現していた。

 


「っは、瞬殺かよたまんねーな!」


 デスティは見せつけられた光景に背筋をぞくりとさせながらも、どこまでも愉しそうに笑う。


 ――これが、千変万化流。

 ドラゴン、巨人、グリフォン、マンティコア、本来であれば鍛錬を必要としない『生まれながらの強者』の姿で鍛錬を重ね、人間の合理によって武術的動作を執り行うことで、本物以上にその肉体を使いこなしている。


 物質霊体化を使った回避など、もはや、些末な特徴にすぎなかった。

 万能にして絶対強者。

 それが千変万化流伝承者、マティアス・リーヴィングという怪物の本質である。

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